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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学8巻2号

1957年04月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎と臨床

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.49 - P.49

 大学の医学部は御存知のように基礎と臨床との講座と2つに分れている。これは医学の教育のために必要なことであり,また研究面においても,基礎では医学あるいは臨床の基礎的な部分を,臨床ではその臨床的の部分を行うのが建前であろう。
 事実このことは欧米においてはかなり忠実に行なわれており,私の專門である麻酔学をその例にとつても,アメリカの麻酔学会でもカナダの麻酔学会でも麻酔医の発表の大部分は臨床的のものである。ドイツの麻酔学会でも,臨床家が動物実験だとの発表をすると野次がとぶそうである。これは少々大げさかも知れないが,臨床家はあくまで臨床的な仕事をし,その基礎の部分は基礎の人にまかせるか,基礎の人と共同で研究するというのが常識のようである。

綜説

膜の透過性の一断面—Hodgkinの仕事を中心として

著者: 山本三三三

ページ範囲:P.50 - P.59

 1.はじめに
 生物物理学というロマンチツクな,魅惑的な学問が人の話題に上るようになつたのはまだ最近の事である。今迄無生物界の現象に閉ぢこもつていた物理屋が生物に目をつけた理由はいくらもあるであろうが,生命現象をも含む,広い自然の"原理"を見出そとういう野望がその第一のものであろう。そして,不可逆現象などの一般論はさておいて,物質に直接結びついた物性論の立場から,先づ自分達に通合のよい現象を含む一つの問題として筋肉を取上げたのであつた。
 しかし,高分子物理学の基礎の上に立ち,人工筋肉等の資料に恵まれ,真しな研究欲に推進されながらも,一寸でもその機構の中に立入ろうとするとたちまち生命の神秘の壁につき当つて動きが取れない状態である。

血小板の生化学

著者: 浅田敏雄 ,   日野厚 ,   五十嵐千代子

ページ範囲:P.60 - P.74

 研究者にとつて,研究の動機その目標その経過を含めた系譜はある意味でデーター以上に大切なものである。特に著者等の場合自分の予期しない分野に,偶然足を踏み入れてしまつたという次第で血小板についてわれわれの辿つて来た経過を顧みておくことは無駄なことではないと思われる。
 1951年頃,森田久男教授(東邦大内科)はかねて問題とされていた出血性素因の毛細管壁と血小板との関係1)を解決する一つの手段として,組織学的に利用出来る血小板固有の物質を追求しようとして血小板の純粋大量分離を企てられた。この分離の問題は,著者の一人日野の努力によつてほゞ解決2)を見,更に日野は血小板のアミノ酸を他の血液有形成分とP.C.によつて比較し,血小板に遊離のTaurineが著明である事実3)を見出したのである。1953年春,当時全く別な研究に従事していた浅田は偶々この血小板分劃が明にO2消費をすることに気付き,この材料によつて生化学的研究の可能性のある事を知つたのである。以来森田内科と生化学研究室との間で"人血小板の生化学"に関する密接な協同研究が始められた。

尿素の生合成

著者: 上代淑人

ページ範囲:P.75 - P.82

 1.古典的学説
 19世紀初頭までは,生物体の構成物質及至その代謝産物は,化学的に合成されず,ただ生物体によつてのみ生成されるという意味から,所謂有機物質という名称のもとに包括されていた。この思想の誤謬が最初に実験的事実によつて指摘されたのは,1828年F. Wöhlerがシアン酸アンモンの水溶液を加熱した際にこれが同分変化して尿素が生成することを発見したことに始まる。つづいてH. Kolbeによる二硫化炭素から酢酸の合成(1845)M. Berthelotによる脂肪の合成(1853)等があり,従来の有機化合物という概念が完全に改められ,当時の磧学A. Kekulé(1829〜1896)をして有機化合物という名称に代えて新たに炭素化合物の化学(Chemie der Kohlenstoffverbindungen,1863)という名称を提案せしめるに至つた経緯は化学史上有名な事実である。
 生体内で,窒素代謝の終未産物である尿素が如何なる過程によつて生ずるかという問題に関しての研究は,後述の1932年Krebs等によるオルニチン回路の提唱以前には,主として臆説の域を出ないのであるが,19世紀頃に認められている説としては次の二つがある。

報告

Monoiodo-L-tyrosine, Diiodo-L-tyrosine及びL-thyroxineの中間代謝について—第1報 Monoiodo-L-tyrosine及びDiiodo-L-tyrosineの代謝物質について

著者: 中野稔 ,   杉絢子

ページ範囲:P.83 - P.86

 甲状腺内の沃度化合物はthyroglolulin及びfreeiodine compoundsの二種に大別され1)2),前者は生体の甲状腺中に存在すると考えられている。蛋白分解酵素の働きで,徐々に分解されfree iodine compoundを生ずる3)。Free iodine compoundsはthyroglohlin構成沃素化アミノ酸と同様,thyroxine(Tx),triiodothyronine(Tri),diiodotyrosine(DiT),及びmonoiodotyrosine(MiT)等から構成されており1)2),これ等の物質は甲状腺より血中に放出されるものと考えられる。しかし特殊な甲状腺機能異常,放射性元素による甲状腺の破壊等の外,血中にDiT及びMiTは証明されず4)5)6)7),Roche等の試験管内で甲状腺切片にI131labeled DiT,MiT,Txを作用させ,前二者が速かに脱沃素される事を報告している3)。一方,Tong等は同様な方法でlabeled DiTを用いて,甲状腺,肝及び腎切片で研究し,肝,腎では甲状腺と異り,一般のアミノ酸と同様脱アミノにより代謝される事を明かにしている8)。しかし脱アミノ後に起る脱沃素が如何なる機序によるか,脱アミノの前に脱沃素が行われるか否か,又生ずる中間代謝物質がはたして代謝の正道にある物質か否か等の諸点について明かにしていない。

寄書

静止電位と細胞内電極

著者: 名取礼二

ページ範囲:P.87 - P.87

 細胞内電極法による生物電気現象の観測は一応大きな成果を挙げたもので,活動電流を観測対象とする限り,その効用性に疑をはさむ必要はなさそうである。
 しかし,生物電気発生の機序を窺う立場では,細胞内電極によつて得た所謂静止電位の数値がそのまゝ形質膜部に既存する膜電位を示すという考えは本当らしくない。

神経線維の電気的刺激に関する坂本の理論の解説

著者: 上田五雨

ページ範囲:P.88 - P.90

 Nernstの電気刺激理論では,通電によつて半透過性の境界膜と原形質との間に分極が生じ,その限界層におけるイオン又は塩類の濃度の変化がある一定値に達した時,興奮が起るということを仮定している。その際,分極起電力即ち電流と反対の方向の起電力は極めて小さくそれによつて刺激電流の形は変らないとみなしている。所が刺激電流を便宜上(1)刺激効果をひき起す電流及び(2)刺激効果に直接関係しない電流にわけて考えるとき,前者においては分極起電力を顧慮せねばならぬことが分る。模式的にこの関係を示せば第1図のようになる。
 第1図でvは2点A,B間にある一定の電位差,Jは枝分れしない部分Rを流れる刺激電流の強さ,i及びγ1は刺激効果をひき起す電流の強さ及びその部分の抵抗,v′は神経線維の刺激部位に起る分極起電力,γ2は刺激効果に直接関係しない短絡となる部分の抵抗であつて,残余流(Reststrom)もその部分を流れるとみなす。

海外通信

放射性ジギトキシンとジヨージ・オキタ氏/The use of "self-radiation" labelled tritium digitoxin in biological experimentation

著者: 田辺恒義 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.91 - P.91

 シカゴ大学薬理学教室ではC14ジギトキシンを作つて種々の実験を行つている事はあまりにも有名である。そこの主任はガイリング教授であるが,実際にはその分野を担当していた中心人物はジヨージ・オキタ君である。彼はシアトル生れの日本人二世で,30歳代の極めてピチピチした張切り屋である。彼は日本には興味を持つて,一度日本へ行きたがつている。併し日本語を知らないので,日本へ行つて困るだろうと頻に心配しているが,今から習おうにも時間が無いとこぼしている。
 彼は今薬理学教室とアーゴンヌ癌研究病院とを兼任し,特に後者の研究部門の最も重要な幹部の1人である。今年に入り化学部門のウイルツバツクとブラウンがジギトキシンにトリチウムで放射能を附与する事に成功した。閉鎖硝子器内でジギトキシンにトリチウムを1週間反応させると,分子内の水素が一部トリチウムと置換されるというのである。之を精製して彼は放射能の極めて大きいトリチウム・ジギトキシンを得ている。

研究室から

私たちの研究室—信州大学医学部薬理学教室

著者: 大鳥居

ページ範囲:P.92 - P.92

 山に憧れる者なら誰でも一度は訪れ,あるいは訪れたいと思う信州の中心都市松本,駅から浅間温泉迄のバスに乗つて約10分,信州大学医学部薬理学教室はそんな環境にあります。晴れた日には教室の窓々から,西に北アルプスの乗鞍,槍,穂高の雄峰,東に美ヶ原の優美な姿を望みます。
 昭和19年4月松本医学專門学校が誕生し,初代校長には東大より竹内松治郎教授を迎えて戦時の困難のうちに揺らん期を過ごしましたが,戦後の学制の改革とともに昭和22年医科大学(旧制)に昇格し,さらには現在の新制信州大学の医学部となるまで大学の発展とともに本教室も成長して12歳になりました。この間には附属病院の焼失などの不幸な災難もありましたが,復興整備も順調に進んで,正門を入ると,正面に長野県一を誇る7階建鉄筋コンクリートの近代的病院の外形もととのいました。

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第5回「筋肉収縮の化学」班研究協議会

著者: 牧之瀨望 ,   名取礼二 ,   江橋節郎 ,   永井寅男 ,   丸山工作 ,   関根隆光 ,   松宮弘幸 ,   林浩平 ,   岡本彰祐 ,   宮崎英策 ,   上住南八男 ,   菅原努 ,   朝倉昌 ,   今井宣久 ,   大沢文夫 ,   酒井敏夫

ページ範囲:P.93 - P.96

 文部省科研費による「筋肉収縮機序の化学的」研究協議会は,12月1,2日(1956)の両日に亘つて東大薬理文庫で開かれた。参加者は20数名。今回からは協議会の日数を2日とし,時間に拘束される事なく,徹底的に議論を書すこととした。前後20時間に亘る強行軍にも拘わらず,最後まで,盛んな討論を続行し,多大の収獲を得て,熊谷班長を始め班員一同,満ち足りた思いで散会した次第であつた。
 牧之瀨
 ATPがグリセリン筋の性質をどの様に変化させるかという問題を,より具体的な形で把握するという試みの一つとして,別図の様な粘弾性模型を規定し,ATP及びピロ燐酸が,その定数をいかに変化させるかを検討した。
 その結果,E1,E2はATP及びピロ燐酸いずれの場合にも著しく減少し,ηはピロ燐酸では著明に減少するが,ATPでは余り変化がない。但し,この場合のATPの作用は,ATPによる収縮が略々最高に達した後の測定値である。またすべての測定は,Mg 10−3M含有の0.1MKCl中で行つた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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