icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学8巻3号

1957年06月発行

雑誌目次

巻頭言

文化への生理的条件

著者: 赤堀四郎

ページ範囲:P.97 - P.97

 電車が停つて,降りる人がまだ残つているのに,若いサラリーマンや学生が,老人や子供を押し退けても,吾先きにと乗り込もうとする。
 こんなあさましい光景を,郊外から都心へ通勤しているものが毎日見なければならないのは全くやりきれない。ところで,この様なことを分別振つた知識人は次の様に批判する。「これこそ日本人の教養の低さと,公徳心の少いことを示すもので,外国の観光客などがこれを見たら,日本人は何と云う野蛮な国民だろう。と云うに違いない。もつと日本人の徳性を高めなければならない」と。

綜説

生体膜透過性の研究の最近の進歩—(特にイオン能働輸送の研究について)

著者: 吉村寿人

ページ範囲:P.98 - P.109

 1.まえがき(生体膜透過性の特徴)
 細胞膜の透過性の問題は随分久しい前から生理学者のトピツクであつて,細胞の示す静止電位や動作電位等も結局はイオンの細胞膜透過性に関したものである。又生体の物質代謝機構の2大要素である所の腸管からの養素の吸収と腎臓に於ける代謝産物の排泄にしても又組織細胞夫々における物質代謝機構にしても結局は細胞膜透過性の問題である。それが為に古来多数の生理学者によつて研究が行われ,或者は無生物膜の透過現象と膜電位差の関係より出発して細胞膜透過性の研究に進まんとし(Höber,Michaelis,Beutner,Teorell,Sollner,勝),或者は条件の簡単な単細胞動物や植物細胞,血球等について細胞膜透過性を研究し(Osterhout,Jacobs,Ponder,丹野等),更に生物電気現象とイオンの膜透過性との関係を追求せんとするもの(Hodgkin,Nachmansohn其他)等色々の研究が行われた。この様な多くの人々の努力の結果として生物膜の透過性は単純な物理化学的理論によつては解決出来ない問題を含み,細胞の生命現象にむすびついた不思議な特性を具えている事が判つた。それは例えば簡単な赤血球にしても細胞内のイオン組成とその外囲のイオン組成が全く違つている。即ち内部にはKが多くてNaが少ないに拘らず,外囲の血漿はNaが多くてKが少ない。

神経繊維の超微構造に関する最近の知見

著者: 本陣良平

ページ範囲:P.110 - P.121

 いとぐち
 神経繊維の微細構造については,19世紀末から今世紀に渉つて,論争の焦点となつた多数の問題がある。今その主なものを挙げれば,所謂神経原繊維(neurofibril)の存否,軸索膜(axolemma membrane)の存否,髄鞘の微細構造とその発生,Schwann氏細胞と神経鞘(neurilemma sheath)の異同,神経膠細胞と神経繊維との関係,所謂synapsisの存否,等がある。これらの諸問題は,多数の研究者によつて,夫々新らしい効果ある研究法により,多彩な所見と結論に導かれ,これに関する知見は著しい進歩を示したが,数々の論争が存し,且つその多くが解決を見るに到らなかつた最大の原因は,従来の可視光顕微鏡(以下「光顕」と略記する)による検索は,その理想的な使用時に於てすら,その分解能である0.2μの限界を超える所謂超微構造を覗うことが許されず,神経繊維を構成する種々の要素の間に存する僅少な密度の差を示すには余りに鈍感であり,超微的構造に関する諸説は推論の域を脱し得なかつたが為である。一部の困難性は,紫外線顕微鏡・暗視野顕微鏡・偏光顕微鏡・位相差顕微鏡の出現によつて解決されたが,大幅な解決は電子顕微鏡(以下「電顕」と略記する)の出現を待たねばならなかつた。即ち電顕の示す高解像力と密度に対する鋭敏性は,上記諸問題を更に解決に近からしめつつあると考えられる。

論述

アイソトープを用いる抗原抗体及びγ-グロブリンの代謝に関する研究

著者: 緒方規矩雄 ,   緒方正名

ページ範囲:P.122 - P.132

 抗体の代謝の研究は殊に抗体生成の問題と関聯して免疫学上でも最も重要な研究分野であると考えられる。一方抗体とγ-グロブリン(以下γ-Gと略)とはTiselius1)が電気泳動法を用いて易動度が等しいことを指摘して以来,その分子量2),アミノ酸組成3),末端基4),抗原性5)等が多くの場合にほぼ一致することが認められるに至つており,この点からも抗体代謝はγ-G代謝と切り離しては考えられない。又γ-G代謝の研究は正常血球蛋白質代謝の研究の一環としても重要であることはここに指摘するまでもないであろう。更にこれ等の単一蛋白質の動物組織における生成機作の研究は生化学的な代謝の面からも動物組織における蛋白合成の問題を理解するために重要な手懸をあたえると考えられる。そして此等の研究に於てもアイソトープの利用が重要な武器を提供することは一般の蛋白代謝の場合と同様であろう。
 アイソトープを用いる抗体の代謝の研究についてはSchoenheimer等6)が1942年N15で標識したアミノ酸(以下N15-アミノ酸と略)を用いてin vivoで輝しい成果を上げて以来,生化学者や免疫学者により取上げられているが,その手技の複雑さや条件の複雑性等のために他の組織蛋白のそれに比較すればその研究も少く,まだ未開な分野が多く,将来更に免疫学,生化学の両面からの研究に待つ所が多いと考えられる。

報告

神経筋伝達の筋伸長による促通

著者: 竹内昭

ページ範囲:P.133 - P.139

 カエルの神経筋標本において筋を伸長すると,間接刺激による筋活動電位が増大することは古くから知られていたが,この成因に就いては種々の解釈がなされていた(Forbes,Ray & Hopkins,1923:Fulton,1925)。最近Ralston & Libet(1953)が活動電位の増大は活動する筋線維の数の増加であることを証明したが,又一方において筋伸長によつて同時に終板電位が増大することも見られた(Kuffler,1952:Libet & Wright,1952)。筋伸長によつてこのように終板電位が増大することは甚だ興味のある事実であり,本実験はその機序を解明する目的で行つたものである。

研究室から

私たちの研究室—阪大理学部赤堀研究室の紹介

著者: 大川

ページ範囲:P.140 - P.140

 今回順天堂医科大学生化学教室の倉富氏から阪大赤堀研究室の紙上紹介を頼まれ,研究室の一員として非常に光栄な事だと思つている。赤堀研究室は赤堀教授,森本講師以下助手3名の構成で全研究室員の数は約30名を越す大世帯である。このグループが先生を中心に一団となつて和気靄々裡に蛋白質化学中特に有機化学的な部門の研究を行つている。今回は紙面の都合もあり各グループごとにその仕事のあらましを紹介することに依つて御役目を果したいと考える。

——

第2回燐酸代謝班研究協議会報告

著者: 奥貫一男 ,   高橋泰常 ,   関根隆光 ,   真野嘉長 ,   田中亮 ,   中尾真 ,   中村道徳 ,   中脩三 ,   塚田裕三 ,   野原広美 ,   斎藤洋一

ページ範囲:P.141 - P.144

 1.ATPの酵素的定量法についての検討
 酵母hexokinaseを用いてATPを定量するとき,天然物の測定試料中に混在する物質によつて,定量値が乱される可能性があり,この検討のために純品のATP標品が必要となつた。
 I ATPの純化
(1)家兎筋より0.5N過塩素酸を用いて抽出液を得,BaCl2を添加してBa2ATPの粗標品を得る。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?