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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学8巻4号

1957年08月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学のこれから10年

著者: 浦口健二

ページ範囲:P.145 - P.145

 終戦10年,もはや戦後ではない、といわれこの頃,基礎医学志望の若い研究者を得ることが最近むずかしくなつた、という訴えが関係者の間に高まり,基礎医学振興の必要性が本気で論議されはじめた。論点はいろいろあるが,このまゝでは10年さきの我国の医学が思いやられる,というのである。
 世界の基礎科学の日進月歩の動向に敏感なのは若い真面目な研究者達であり,それだけに,研究の面で,意図するところと現実との喰い違いに何かと悩まされることが多い。この不安は,研究設備が老朽不備であれば一層強く,研究費がつまつてくるとなお深刻で,個人生活が不安定であればますます切実となる。一生をこの道にゆだねたものかどうか,岐路に立つて思い惑う時期を何時とハツキリいえないが,心的物的の不安は大学研究活動の中核,助手の時代には頂点に達する。今,研究機関そのものがどの程度の安定度をもつているかを判定する一助として,仮りに助手以下の研究全員を有給者(助手・奨学生)と無給者とに大別してみる。

綜説

災症とSialoprotein—Sialic acidの現在と将来

著者: 斉藤義治 ,   高橋静子

ページ範囲:P.146 - P.161

 はじめに
 現在Sialic acidと云われるものを始めて報告したのは,Blix1)である。当時は,暫定的にKohlenhydrat Ⅰと称された。
 これは定性試験で極めで著明な特長を持つているので,そのことだけを指標として,いろいろな生体材料にこの酸が存在するかどうかと云うことは,比較的簡単に論議されて来た。

論述

電気刺激分析装置Electrostimuloanalyzerについて

著者: 鈴木正夫 ,   本間三郎

ページ範囲:P.162 - P.174

 前置き
 電気刺激法は生物実験上欠くことのできない大切な手段であるが,単に生体を刺激するというだけでなく,刺激というものに生理学的意義なり価値を持たせる方法を採ることが研究にとつて重要なことである。電気刺激を生体に対する刺激の代表とし,その興奮を来たさしめる作用を刺激作用と呼ぶならば,刺激作用に有意なる要素を見出すことができる。要素には刺激の強さ,刺激の与えられている時間,刺激の強まりの傾きがあつて,これらは強さ,時間,傾き要素と呼ばれている1)。従来電気生理学研究ではこれら刺激作用を研究することが,その主体をなしておつたが,電子管技術の進歩は生体の発電現象の研究に集中され,ともすればこの方面の研究は等閑に付された憾みがあつた。即ち脳,心,筋電図において,研究は生体内発電を記録することであつて,臨床応用にまで及んでいる。それら各電図において発電興奮の根源である刺激は生体内に所謂自発性のものであつて,外界より人為的に加えられた刺激によつて起された興奮ではないのである。
 生物の電気現象の研究にては発電現象の記録解析と共に,そのとき加える電気刺激を適当に加変案配し両者相伴つて行われる必要を痛感するものである。電気刺激も生体内におけると同じ状態に与え得るならば,且つその刺激の要素を同時に測定し得るならばこの面の研究進歩に貢献するであろうと考えられるのである。

報告

超微小電極内に液を直接充填する一簡便法

著者: 星猛

ページ範囲:P.175 - P.176

 超微小電極内にKCl等の電解液を充墳するのには満たすべき液の中で煮沸する方法が最も簡単であるが,この方法は電極の先端部にかなり強い機械的或は化学的な破壊侵蝕を与える欠点がある。この事は多くの研究者によつて指摘されており,又同時に種々の改良法が報告されている。例えば煮沸時間を出来る丈短くし,温度もあまり上げない様にする為に減圧を併用する方法1)2),アルコール中で減圧し,それを満たしたのち蒸溜水,KClの順で置換する方法3),蒸溜水中で煮沸したのちKCl中につけておく方法2)4),或は予めKClを満たした硝子管を引き,のちKCl中につけておく方法5)等が試みられている。然しこれらの方法でも結果は必ずしも満足でなかつたり,或は時間と資材を多く要する不便があつて何れも最良と断じ得ない。
 電解液の充填には本来上記の様に煮沸や他の液を介する事なく直接満たし得れば,先端の破損も最も少く,接触電位も安定で且抵抗値も直ちに信頼出来る様な電極を得ることが出来,充填法としては最も理想的と考えられる。この事はNastuk6)も強調しており,その趣旨の一方法を記載している。その他古川等1)も直接充填法を報告しているが,これらの方法は何れも時間がかかるか又は可成り手技の習熟を要するもので日常の実験に誰でも手軽に応用できる程便利でない。

皮膚電気反射に及ぼす気温の影響

著者: 高橋利夫

ページ範囲:P.177 - P.182

 緒言
 皮膚電気反射galvanic skin responce(以下GSRと略す)は汗腺を効果器とする交感神経性の反射で1),心理学的には情緒の示標として用いられ,臨床医学的にも交感神経機能検査法の一つとしてその意義が認められている2)。なおGSRの測定法としては周知のように回路に電流を通ずる通電法と,電流を通ぜずに皮膚の電位変動をみる電位法とがあり,後者の特長が藤森教授3)によつて論じられている。
 さてGSRと密接な関係のある精神性発汗ないし温熱性発汗と気温の関係については,久野教授4)の詳細なる業績があり,またGSRと密接不可分の関係にある皮膚電気抵抗についても,身体の加温や冷却により,それが特異な変化を示すことがRichter等5)によつて明らかにされているが,直接GSRと気温の関係については,一般に気温が高いとGSRが現われ易いという程度のことが知られているに過ぎない。もつとも通電法によるGSRと局所皮膚温の関係についてはGildemeister1),渡部等6)の報告があるが,電位法については充分明らかでない。私は電位法によるGSRに及ぼす気温の影響について,身体部位差,局所皮膚温の問題をも考慮に入れながら検討を加えた。

無髄神経線維に対する麻酔薬の効果,並びにStrychnine及びSodium citrateによる反復興奮に就いて

著者: 大谷達雄 ,   和田周志 ,   渡辺敏雄

ページ範囲:P.182 - P.185

 緒論
 有髄神経線維に於いて,神経衝撃は絞輪部に於いてのみ生じ,且この部に臨界濃度以上の麻酔薬を作用させると,それと同時に,その部に生ずべき働作流の消失する事が知られている(田崎1))。
 無髄神経線維が有髄線維の絞輪部と同様な怪質をもつた形質膜の連続せる如きものとすれば,麻酔薬を作用させると直ちに作用部位の働作流は消失する筈であるが,実験結果は之に反して,働作流は除々に小となり,麻酔薬が除々に作用する如き結果が得られた。

滯独所感

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.186 - P.188

 言葉
 外遊のやり方にはいろいろあるだろうが,まず文部省で定めているようなA,Bの二通りが考えられる。Aはある一つの研究所で自分の関係したテーマについて,1年以上,数年間研究をして,とにかく業績をまとめて来ようというものであつて,このとき,自分の尊敬する学者の指導を受ける人もあろうが,またただ,その施設を利用し,経済的の支持を受けられさえすればよいという行き方もある。すでにある程度の経験と研究歴のある人は,どちらかと云うと後者を選びたいのであろう。また誰かと共同研究が出来れば一番愉快でもあろう。業績を作る必要はない。たゞいろいろなことをして見たいという人もあるであろう。たゞ実験設備を見たり聞いたりしたのでは本当のことが判らないから,ある大きい研究所の中で出来るだけ多くの設備やテーマととり組んでみたいというような。
 Bは本当の視察,或は自己または日本の業績の紹介のめに,多くの研究所を数日間ずつ廻つて来る方法である。

第34回日本生理学会総会印象記—ドライで能率的,新機軸出した神戸医大

著者: K.U.

ページ範囲:P.189 - P.189

 惶しい3月,4月のシーズンを避けてゆつくり学会を開いてはという新提案が採択されて,生理学会総会が5月下旬に行われるようになつてからもう数年を経過したように思われる。50に垂んとするおびただしい学会が一時に開花する春の季節を避け,卒業,入試,入学等の雑用から一応解放される5月下旬の初夏が生理学会の季節として選ばれたことは幸福なことであつた。今年第34回の日本生理学会は神戸医大の正路倫之助,古沢一夫,須田勇三博士のお世話で5月25,26,27の3日間に亘り開催された。
 プログラムの配布が意外におそく会員の中にはいろいろ気をもむ人も多かつたようであつたが蓋を開けて見たら学会の進行は実に手廻しよく鮮かであつた。少くとも今回の学会には3つの新規軸が打出されていたことは特筆に値しよう。その第一は国際生理学会のあり方に倣い凡ての学会の行事が時間的に極めて正確に行われたということであろう。口演時間が一律に15分に制限せられ,而もその始まりと終りの時刻がプログラムの印刷通りにpunctuallyに行われた。

研究室より

Physiologyを盛んにするための2,3の提案

著者: 関根隆光

ページ範囲:P.190 - P.191

 筆者は曽て学生時代に小川鼎三先生から組織実習の御指導を受け,一寸した質問が契機となつて脳研で脳組織の標本をみせて頂いてから,脳神経に興味をもつようになつた。一時は神経科にお世話になつたが,生化学の技術を習いに生化学教室に出かけたか病みつきとなつて現在に至つている。当時神経科でお世話になつた方々には大変申訳けなく思つているが,しかじそれだけに興味の中心はいわゆる"興奮組織"を離れない。
 この数年来,カエルの縫工筋を用いて収縮と代謝の問題を調べているが,実に難かしい。テーマの関係から生理や薬理などのいわゆる"生理科学"の基礎知識がないために,思わぬ失敗をしたり,生化学の中で孤独を味わつたり,道は平坦ではない。勿論将来の大さな困難も予想される。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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