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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学9巻1号

1958年02月発行

雑誌目次

巻頭言

学会運営のための1試案

著者: 板東丈夫

ページ範囲:P.1 - P.1

 学会が業績発表と討論とのための大切な一つの場であることは申すまでもないが,それがなかなかそうはゆかないところに論点がある。多数の分科会があつて,驚異に値するような大量の演題が年々発表せられることについても喜んでばかりいてよいかどうか,心ある人々は疑念をもつわけである。この現状を是正して理想的な形態に持つてゆく努力はいろいろとなされていることとは思われるが,近い将来に演題数の激減することはとても望み得ないし,なかなか困難な問題である。
 1908年Heidelbergでの国際生理学会の席上一産科医の麦角成分に関する報告があつたが,これを聴いていたSir Henry Daleがひどくこれに心を惹かれ,Londonに帰るなり早速この問題をとりあげた。その結果はかの有名なDale等の一連のHistamine研究となつたという。まことに羨しい話で,われわれもこうした余裕のある学会をもちたいものである。

綜説

メラノフオーレンホルモンの作用機転

著者: 高橋善彌太

ページ範囲:P.2 - P.10

 MSH
 古くより動物の体色変化は,動物学者のみならず基礎医学者の興味の対象となつていたが,近年ACTHの製剤が多量に臨床的に使用されて,そのための皮膚のメラニン沈着が観察される様になつてからは臨床医学者の問題ともなつてきた。更に又内分泌学の進歩によりアヂソン氏病患者も長く生存することが出来るようになり,一方多数の両副腎剔出患者が出来るようになつたが,それらの場合持続する皮膚のメラニン沈着の問題は,内分泌学専門医が解決したいと考えている所でもある。実際ハーバード大学のソーン教授の所にはその様な患者が多数訪れ,臨床的にも自覚的にも支障ない様に副腎皮質ホルモンでコントロールされている患者が,皮膚のメラニン沈着を治したいと訴えているとの事である。
 現在メラニン細胞に直接作用するホルモンとしては,脳下垂体中葉,性腺,甲状腺,松果腺のホルモンが知られている。これらの内下垂体中葉から分泌されるホルモンはIntermedin,Melanophoren Hormon,Melanocyte StimulatingHormone(MSH)等種々の名称があるが,MSHと云う名称が簡単なので米国に於てはこの名称が広く用いられる様になりつゝある。MSHは最も研究の進んでいるメラニン関係のホルモンで,ACTH同様ポリペプチドであるが,最近はα-,β-と二種類が発見され共にアミノ酸結合順序まで明かにされている。

論述

細胞内電極による脊髄神経節細胞の電気的活動の研究につい

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.12 - P.20

 筆者は1955年より1957年にかけて,蟇の脊髄神経節細胞の活動性に関する研究を行つて来たので,ここにとりまとめて結果を報告する。実験はすべて,熊本大学医学部第二生理学教室に於て行われ,1956年秋よりは同教室の斎賀正信君との協同研究によつた。その際,微小電極を神経細胞に対して用いる記録及び刺激回路に若干の工夫を加えたので,今回は主にこれについて述べ,主要な実験結果については次の機会に譲りたい。

報告

細胞電位より見たる心筋の低温耐性

著者: 松田幸次郞 ,   星猛 ,   亀山重徳 ,   草刈兵一郎 ,   桜井潔

ページ範囲:P.21 - P.27

 まえがき
 近時低体温下の心臓手術が実施せられるようになつて,低体温状態に於ける生体,殊に心臓生理が一般の関心を惹くに到つたが,その際特に重要なことは低体温に一応耐えた心臓が再び正常体温に戻された場合に正常にその機能を恢復するか否かの点であろう。どの程度に又どれ丈長く低体温に耐えて再び生返り得るかについてはBieglow等(1950,a,b)は犬で直腸温20℃迄(心臓温もこれに近い),Hegnauer等(1951)は16.2℃迄,Juvenelle等(1952)は体温12〜16℃に3時間,本邦でも渡辺等(1956)は12〜13℃に2時間40分,Gollan(1954)は心臓温4℃(体温最低0℃)1時間に迄到らしめ,再加温により何れも個体を正常に復帰せしめることが出来たと報告している。
 超低体温後全身の機能恢復には心臓のみならず中枢神経その他の冷温耐性も重要な因子であるが,対象を心臓に限局しても尚心臓細胞そのものの耐性の外に自働中枢たる歩調取り,刺戟伝導系の恢復等も要因となる。所で全心臓に関するこれら各種要因をまとめて検討する外に,循環の力源たる純粋の心筋細胞そのものの低温耐性限界が果してどうであるかを知ることは頗る重要であり又興味少なしとしない。

高電圧濾紙泳動法によるアミノ酸定量法の基礎的検討

著者: 赤井貞彦 ,   若佐理 ,   植木光衞 ,   栗山健二 ,   菅野浩 ,   渡辺イク

ページ範囲:P.27 - P.33

 緒言
 従来の濾紙泳動法は主として高分子化合物即ち,医学領域では体液蛋白質を対称とし,電圧は5〜20v/cmの低電圧を用うるものであつたが,1951年Michl1)2)は50v/cmの高電圧を使用する事によりアミノ酸の如き低分子化合物を短時間に,しかも鋭敏に分画し得ると発表した。1954年Sanger3)は本法を用いてinsulin分子を構成するpeptide鎖のアミノ酸配列順序を明らかにし,同年Heilmyer,佐野4)12)等は更に高電圧(60〜120v/cm)を用いて血清,尿等の残余窒素の分析に応用した。又,Kraus & Rehn5)(1957)は外科的疾患における血液及び臓器のアミノ酸の変動の把握に本法が有力な手段である事を指摘した。
 現在臨牀的にアミノ酸混合系を迅速簡単に,しかも綜合的に把握し得る適当な分析法がないためにこの高圧濾紙泳動法には大きな期待が寄せられるが,上述の諸報告には本法は何れも定性分析或はせいぜい半定量分析として用いられている。著者等は本法の臨牀的応用を計画するにあたり2,3の基礎的問題について検討した結果之を従来の濾紙泳動法と同様定量法として使用出来る事が明らかとなつたので,その詳細は後報に譲ることとし,概略をここに報告する。

単一有髄神経線維の活動電位の新しい導出法について

著者: 島田久八郎

ページ範囲:P.34 - P.36

 I はしがき
 有髄神経線維の活動電位の測定には従来次のような三つの方法がとられてきた。(1)単一神経線維の活動電流を低抵抗の短絡を通して測定し,短絡抵抗と神経線維の抵抗より活動電位を推定する。(2)Huxley and Stämpfli1)は活動電位を打消すに必要な矩形波の電圧より測定している。しかし以上二つの方法は誤差が多い。活動電位の絶対値の測定とともに真の形を記録しながら種々の実験を行うことはより望ましい。それで,(3)現在色々の組織で行はれている超微少電極による細胞内誘導が,Woodbury2),Tasaki3)及びCoraboeuf4)等により,有髄線維に応用されている。しかしこの方法では数分にして電極による傷害が現れ活動電位の形が変化してきて,時間のかかる実験には適さない。
 Tasaki and Frank5)はさらに新しい方法で活動電位を測定している。その原理を第1図で示す。Bのラ氏絞輪N1で興奮がおこると活動電流はN1より,軸索,N2,髄鞘部の外側を通つてN1に帰る。Aでこれの等価回路をしめしたが髄鞘部の外側の抵抗R0で生ずる電圧降下分を増幅記録する。ここで髄鞘部が空気中で充分乾燥し,R0が軸索の抵抗Riに比していくらでも大きくなれば,それだけ記録される電位はN1の活動電位の絶対値にいくらでも近ずく。

新しい実用型微小電極用前置増幅器の試作とその応用

著者: 松尾正之 ,   内薗耕二

ページ範囲:P.37 - P.40

 いとぐち
 超微小電極法の導入以来,各種の増幅器がその目的のために試作され,多大の成果をあげてきている。細胞内電極としては20〜50MΩの抵抗が限度とされ,これ以上の抵抗をもつものでは正しい結果は得られないと考えられている。而るに細胞によつては更に一層細い電極を必要とし,従つて電極抵抗も必然的に大きくなつてくる。この目的に沿うべく100MΩの抵抗の使用に堪えうる増幅器を試作したので報告する。前回発表したものよりも簡単で補償特性がよく且つ使用して便利な点が特長であり,実際の使用に供したところ,予期以上の成果をあげることが出来た。

寄書

On the Effect of a Muscle Relaxing Compound, Succinylcholine

著者:

ページ範囲:P.41 - P.42

 Succinyl-bis-choline (Subch) is now used in therapy as a short-acting curare-like muscle relaxant. Succinylmono-choline (Sumch) has a similar effect to Subch but is far less effective, i. e.,about one-tenth of Subch. The short time effect of Subch is ordinarily explained as a result of its rapid splitting by cholinesterase (2, 3).
 The splitting of Subch in vitro, however, is not so rapid as would be expected from the in vivo effect (4-6). 0.5 ml serum, which could split 1 mg ACh within 15 minutes, split only 10 to 20 per cent of 1 mg Subch in 6 hours, and even after 24 hours there remained a significant amount of the drug.

人間の眼についての光学的考察

著者: 伊藤礼子

ページ範囲:P.43 - P.47

 緒言
 人間の眼は写真機と同じ様な構造を持つているといわれ,水晶体,水様液,硝子体等が一つのレンズ系の作用をして,特に水晶体の厚さはある程度調節可能で,いつも網膜の上に像を結ぶというのである。
 近視で遠景は網膜より前方に像を結ぶので,それを凹レンズによつて網膜上に像を結ぶ様にするといわれ,遠視,乱視についても同様な考え方で説明されている。

研究室から

腦の研究と白雪姫

著者: 万年甫

ページ範囲:P.48 - P.48

 最近では子供ならずともウオルト・デイズニーの「白雪姫」や「バンビ」を知らぬ人はなかろう。この「白雪姫」「バンビ」と脳の研究とをならべると,一体何の組合せかと首をかしげる人も少くあるまい。日本ではこれらを漫画映画と称しているが,フランスでは"dessinanimé"という。
 すなわち生きた画の意であり,むしろこの方がよく体を現わしているように思う。1時間位の映写時間のものでも,そのぼう大な数の下絵を描くには数カ月,数年を要することもあることもあるときく,製作に手間のかかること到底劇映画の比ではない。動きが早く一見派手に見えるところは絵の枚数は少くてすみ,ゆつたりとまどるつこくすら感ぜられる場面は,かえつて沢山の絵を要する苦心と辛棒のこらしどころたることはすこしく考えれば分ることである。我々が小学校の頃読本のヘリに馬のはしる姿などを描いて本をぱらぱらめくり,その動くのを見て大いによろこんだのを思いだす。誰でも一ぺんや二へんは経験があろう。

学会記

第1回国際神経科学会—国際脳波及び臨床神経生理学会シンポジアムに出席して

著者: 吉井直三郞

ページ範囲:P.49 - P.51

 1957年7月ブラツセルで開かれました第1回国際神経科学会は6つの国際学会の合同したもので,これ迄にはなかつた新しい試みでありました。この学会一般については先きに別に報告しました(日本医事新報,1748号,昭和32年10月26日発行)。その報告では学会のシンポジアムの内容については並べませんでしたので,ここでシンポジアムを中心にして報告いたします。
 6学会合同のシンポジアムは「錐体外路系の病理」(仏Garcin教授司会)と,「意識の諸状態と神経系」(英Jefferson教授司会)の2つで,これ等については近く論文抄録が日本語訳で出版される模様ですから,ここでは触れません。私の專門の生理学の方面でなされたシンポジアムは次の5つでありますので,それ等を簡単に紹介いたします。その前に一言説明しておかねばならぬことは,これ等のシンポジアムは約1年半以前に報告者と討論者が各委員会で決められており,その報告内容は半年前に委員の手許にまで提出され,印刷されているのでありました。又表面的には自由討論が許されておりますが,時間の都合で個人的発言は割愛され,演題申込みの時に提出した内容抄録からシンポジアムの司会者が簡単にその内容を総括的に報告するのでありまして,極めて形式的でありました。(この中には内容抄録のみ送つてある欠席者の分も入つています。)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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