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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学9巻3号

1958年06月発行

雑誌目次

巻頭言

綜合研究について

著者: 平沢興

ページ範囲:P.193 - P.193

 近来綜合研究が次第に盛んになりつつあることは,学界のために慶賀にたえない。しかし,いわゆる綜合研究が内容的に真に綜合的になつているか否かを考えると,手離しで喜んでだけはおれぬ。日本での現段階における綜合研究は,実は真に質的に綜合的であるというよりは,似たような方面に興味を有するものが,雑然と自分の好きな問題を持ちよつて,勝手に自分の好きな角度から研究しているだけのことである。時には綜合研究は,ただ研究費を得る方便のことさえあるようである。
 しかし,それでも私はただPriorityだけを問題として先陣争に血眼になり過ぎた傾向の多かつた昔に較べれば,大きな進歩だと思う。そこには世界の流れにおける時の力があり,我々の力だけによる進歩ではないが,たとえ受け身にせよ,それはそれなりに意味を持つことである。

綜説

脳グリコーゲンの組織化学

著者: 清水信夫

ページ範囲:P.194 - P.201

 脳組織は,その代謝及び機能を正常に維持する為に含水炭素に依存することが他の組織に比較して特に大である。即脳はその力源を主として糖より得ているのであつて,この事は脳の呼吸商が殆ど1に近く,又インシユリン注射に依り血糖を急激に減少せしめると脳機能が強く障害されグルコース注射に依り急速に回復される点などから明らかである。糖代謝に於いてはグリコーゲン(以下Gと略記する)又はグルコースは嫌気的状態下Embden-Meyerhofの模式に従つて乳酸となり,後者は好気的代謝即Krebs' TCAcycleを経てCO2とH2Oとに分解される。脳に於いても原則的に(Warburg-Dickensの模式による代謝路も考えられる)この様な代謝が行われ,得られた高エネルギー燐酸化合物は各種の神経作用に利用されると考えられる(Himwich37),Williams97),3. Colloquium14),McIlwain55),等),(第1図,第2図参照)。
 私共は脳組織に於ける糖代謝を組織化学的方法で追及し脳各部に於ける代謝の局在を詳細ならしめんと努力している。本論説ではGを中心とする私共の成績を紹介し更に関係ある研究者の業績にも触れ2,3の考察を試みた。

最近の網膜生理学

著者: 及川俊彦

ページ範囲:P.202 - P.214

 はじめに──網膜生理学の概観と問題点 脊椎動物の網膜を生理学的に見る場合,我々にとつて確かであると思われる事実は大凡次のようなことである。(1)網膜には3個のneuroneの連鎖関係がある。即ち,視細胞(錐体及び桿体),両極細胞,神経節細胞,この最後の神経節細胞の軸索突起が視神経に当る。(2)視細胞中には種々の選択的吸収能を持ついくつかの感光色素がある。この感光色素は光によつて特殊の光化学変化を起し,分解の後再生が起る。(3)神経節細胞そしてその軸索である視神経線維は,光刺激に対して一定の関係のあるスパイク電位を以つて反応する。(4)網膜は光刺激に対し緩電位slow potential(網膜電流,ERG)を示す。これはmassresponseであり,その起原は分らない。
 これらの諸事実は,網膜そのものの,又網膜における出来事のdetailの1つではあろうが,その全てではなく,而も各々の事実の間を結び付ける何ものもない。在るものは対応だけである。例えば,視細胞,両極細胞,神経節細胞,これら3個のneuroneの系列,こういつたCajalのneurone説,加うるにPolyak1)2)の業績による網膜のこの組織像は,光刺激の感受とこれを視神経を通して視覚中枢に伝える迄の興奮伝達の連鎖関係に直接対応できると,信じられている。然しこのように網膜の組織像が機能と結び付けられると,これは最早や概念的な推測と言つて過言でない。

螢光標識抗体による組織化学的研究法—組織切片上に於ける抗原抗体反応

著者: 田中信男

ページ範囲:P.215 - P.225

 抗原に対する結合力を損はない様に工夫して,抗体に螢光物質をlabelし,之を用いて組織切片上で抗原抗体反応を行わせ,螢光顕微鏡下で観察する方法がCoons等1-3)によつて試みられた。
 その結果,抗原抗体反応のもつ高い特異性が組織化学の領域に於いて生物学的活性を有する高分子化合物(例えば蛋白質,細菌多糖体,ホルモン,酵素,ウィールス等)の存在を同定する場合の有力な手段となつて来た。抗体又は抗原にlabelする標識としてはAzo色素や131Iを始めとするRadioactive isotopeが考えられるが,色素は多くの場合顕微鏡下で観察するには余りにも弱く,大量の色素を抗原又は抗体にlabelするとその結合力を損ねる。又Radioactive isotopeをlabelした場合のAutoradiographyは組織学的検索には大きな欠点をもつている4)

論述

衝撃発生の原則と電気刺激

著者: 山極一三

ページ範囲:P.226 - P.234

 Ⅰ.問題
 神経線維の或る一個所の興奮は次の一個所を興奮させる。此の過程の場所的進行が興奮伝導であり,伝導が実現されたとき衝撃が発生したという。伝導は現象を,衝撃はその実質を指すが,拘わる所は同一である。
 従来正常な神経では,興奮と伝導とは常に相伴うものと見做された。刺激理論が局所の興奮を対象とし乍ら,その検証に衝撃が利用された所以である。併し之には充分な証拠がない上に,近代生理学は伝導しない「局所興奮」の存在を立証した。其の本体に就ては専ら閾下興奮説が通用して居るが,異論もあり1a),又他の説を否定する根拠は充分でない。但し本論は其の論議と拘わりなく,興奮として悉無律的興奮丈を考え,それが占める空間的広さ丈を問題とする。

報告

上喉頭神経の自発性知覚衝撃について

著者: 角忠明

ページ範囲:P.235 - P.240

 1936年,Aldaya2)は家兎の上喉頭神経幹における知覚性衝撃をはじめて誘導記録した。そして,この衝撃の放電頻度が動物の呼吸運動のrhythmに同調して変動することから,曾てAdrian1),Knowlton & Larrabee9)或はWiddicombe14)等が実証主張した,呼吸運動の神経性調節に関して肺迷走神経の求心性衝撃群が演ずるような役割と意義を,上述の上喉頭神経の知覚衝撃群ももつていると考えた。その後Petitpierre10)及びAndrew4)6)によつて,そのような呼吸性変動を示す衝撃群の発生機序が漸次明らかにされてきた。ことにAndrewは神経の構成要素である単一神経線維の活動を標示とすることにより,上述の衝撃発生が喉頭諸筋の呼吸運動にともなつて伸縮するepiglottic jointの中のproprioceptorに由来することを実証すると同時に,大動脈壁の所謂baroceptorからの衝撃が上喉頭神経中の一群の線維を通つて伝達されるという興味ある事実も報告している。氏の詳細な研究によつて,上喉頭神経の知覚衝撃に関する諸問題は一見,解決しつくされたかの感がある。しかし,これらの諸結果を仔細に検討してみると,未だ不充分な点も意外に多いことに気付くのである。いま,その二,三を列挙してみても,1)該神経の自発性知覚衝撃の放電型式にはどのようなものがあるか。

簡易な超微小電極用抵抗計について

著者: 待山昭二 ,   田中一郎 ,   登坂恒夫

ページ範囲:P.241 - P.243

 1.緒言
 超微小電極法がLing及びGerard1)等によつて初めて成功してから数年になるが,この間本法の重要性は広く認められ我が国においても近年多くの研究者によつてこの方法が採用されている現状である。
 しかし,ここで用いられる超微小電極は3mol-KClを充した尖端直径0.5μ以下のガラス製微小ピペツトであり,その尖端直径は光学顕微鏡の分解能以下である事から尖端の径を顕微鏡で確認することができない。そこで電極の良否の最終的な選択は専ら電極の電気抵抗の測定によらねばならないわけである。抵抗の測定には実験用の増幅回路とブラウン管オツシロスコープを用いても可能ではあるが,電極は多量に製作する必要があるので実験装置とは別に随時使用出来る簡便な専用の抵抗計がある方が好都合である。これには現在真空管電圧計の形をとるものが多く用いられ,すでに2〜3の報告2)3)がなされているが,著者等は交流を用いたホイートストーン橋(Wheatstonebridge)による零点指示法を用い,真空管の電源にも交流を直接用いる事により同期検波と同様の結果を齎らす抵抗計を製作し3年間以上使用して好結果を得ているのでここに報告する次第である。

研究室から

生化学者の側からも

著者: 上代皓三

ページ範囲:P.243 - P.244

 参考のために,ニユーヨークのコロンビア大学医学部の生化学講義の1958年度スケジユールをあげてみる。講義の編成というものはそれぞれの考え方で多少の相異はあつても,多くの場合大体似たものである。ことにあげたものも,別にわれわれのやつている編成と大差のあるものではない。しかし,それぞれの項目を分担する講師陣を見ると,これはとてもわが国では望めない贅沢なものである。45回の講義を16名の講師で分担し,講師の大多数はそれぞれの分担項目においては一流の人材を配置している。勿論アメリカでも,どの大学生がこのような華麗なスケジユールを組むことができるというのではない。
 考え方としては勿論このようなスケジユールには,なお全く議論の余地のないものではない。しかし,現在のわれわれの周辺の事情も,また少し極端のように思われる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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