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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学9巻4号

1958年08月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学研究室の問題

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.245 - P.245

 私は地方の大学の一教室の主任になつて僅かに約3年半になるが,その間,こうあればもう少し立派な教室となり,仕事もうまくできるであろうかと考える希望的条件をかいてみたいと思う。教室を隆盛にし,立派な仕事を生みださせる基礎的条件をかいてみるならば,第1には主任となる人の学問的熱意,才能,批判力,また人間的な魅力や教室運営の才能などがあげられるべきであろうが,これは要するに教授会における教授詮衡の問題であるから,これは自分で自身を批判することにして,今の問題から除外することにする。第2はいろいろな意味で有能な教室員をいかにして集めるかとゆうこと,第3は勿論設備費,研究費の問題であり,第4は研究者の補助的立場にある人を集めて,教室の運営,研究の進展を円滑にしうるかどうかとゆうことである。
 有能な教室員をいかにして集めるかとゆう問題は,現在基礎医学の研究に志す人が減少して基礎医学の貧困を来しはしないかといわれていることとも相通じる。地方の大学においては生理学などとゆう地味な,然も尖端的な学問の研究に打ちこんでやろうとゆう人は医科出身者の中には殊に少いようである。そうかといつて単に学位を取得するだけの目的の人が集つても困ることがある。

綜説

ヘモグロンビンの生合成について—特に蛋白合成の面から

著者: 水上茂樹 ,   米山良昌

ページ範囲:P.246 - P.253

 アヒル・ニワトリなどの有核赤血球やフェニルヒドラジン貧血動物の網赤血球がin vitroでもヘモグロビンを作ることが知られており,ヘム生成の研究に広く用いられている。アヒルの赤血球がin vitroにおいて,N15ヒスチジンをヘモグロンビン中に組み入れることは,すでに1950年にSheminら1)によつて観察されている。しかし,ヘム生成の研究にくらべ,蛋白生成についてはあまり注目されず,研究の数も少ない。
 未熟(有核)赤血球におけるヘモグロンビン生成の研究は,臨床医学の問題として貧血と関連して重要であるだけでなく,すなわちヘモグロビンとしてのみ興味があるだけでなく,一般生化学的な面からも,蛋白合成の研究のためにも有用な系と考えられる。その主な利点は高等動物における蛋白合成を「遊離細胞」においてin vitroで追及できること,および配合群を持つた複合蛋白の生成の一つの重要なモデルに用いられることである。このように複合蛋白生成のモデルとしての利点を特に強調する理由は,生体内のヘムやフラビンを持つた酵素が数多く知られているが,そのような酵素の配合群の生成とアポロ蛋白の生成の関係について今まで何も知られていないからである。

論述

Ommatidial action potentialの性質について

著者: 菊地鐐二

ページ範囲:P.254 - P.264

 日本産カブトガニ(Tachypleus tridentatis)の側眼のommatidiumの単一経胞内に3MKClを満たした微小電極を刺入して光刺激で得られるommatidial action potential(OAP)の性質を調べた。
 2)OAPは稀れに最高約20mVに達するovershootを示したが,これは短時間の中に減少した。
 3)OAPは通常3相に分けることができる。即ち初期の大きく脱分極する部分(dynamicphase),ほゞ一定のより低い脱分極状態(staticphase),off-sign後の複分極過程(off-effect)。
 4)OAPの潜時は照射時間の変化によつて殆んど影響されなかつた。
 5)dynamic phaseの大きさはある範囲で,照射光強度,間隔,膜電位の増加につれて増大した。
 6)弱い照射光,徐々に強度の増加する刺激光によつては明瞭なdynamic phaseは認められなかつた。
 7)下降期の長さ及び経過はdynamic phaseの大きさ,温度に依存した。
 8)照射時間が0.1秒を越えるとdynamicphaseは増大せず,humpに始るstatic phaseのみ延長した。

赤血球の酸素化の速度について

著者: 望月政司

ページ範囲:P.265 - P.272

 赤血球内のヘモグロビン(Hb)がどのような速さで酸素化されるかということは,単に生理学領域の問題に止まらず,臨床医学上大変重要な問題である。というのはそれが,肺の毛細管の中でHbがどの程度の速さで酸素化されるかという問題に関聯しているからである。
 1909年にBohr3)は肺に於ける酸素の拡散速度を決める定数としてdiffusing capacityと呼ばれる拡散定数を呼吸生理に導入した。この定数は簡単に述べれば,一分間の酸素摂取量を肺胞内のO2-分圧と毛細管血のO2-分圧の差の接触時間での時間平均で割つたものである。肺に於いて酸素が赤血球を酸素化する過程には毛細管壁を通しての拡散と結合反応を含めた赤血球内部での拡散が主として,酸素化の速度を決めるものと考えられる。従つてBohrの提唱したdiffusing capacityの中には毛細管壁の因子と赤血球の因子の2つが含まれる。Bohrの理論では後者の因子は問題にされていないが,最近Roughton及びその協同研究者達6)21)はCOを用いてのdiffusing capacityの測定から赤血球の因子の方が酸素化の速度を決める上に効果的であると述べている。Roughton7)21)等も述べているが,肺のdiffusing capacity DLは2つの因子を用いて表現すると,次のようになる。

Na-説は有髄線維にも適用できるか

著者: 佐々木和夫

ページ範囲:P.272 - P.281

 1.Na説について
 Na説の有髄神経線維に対する適用の可否について論ずる前に,先ず「Na説」について簡単に述べる事が必要であろう。
 いま「神経及び筋細胞の活動時にNaイオンの出入が増す──Naイオンに対するそれ等の細胞膜の透過性が一時的に増大する──事が活動電位発生の根本現象である」と言うのがNa説の骨子と考えるならば,既にOvertonの時代にその端を発し1),Bernsteinの膜説も重要な基礎になつたと思われる2)

フグ毒に関する二,三の最近の知見について

著者: 小倉保己

ページ範囲:P.281 - P.287

 フグの毒はcurare類似の骨骼筋麻痺作用をもつという大沢(1884)の極めて興味深い報告に始まり,最近における津田らのフグ毒の化学的研究とくにtetrodotoxinの結晶化に至る,約80年に及ぶフグ毒に関する研究は,フグが猛毒をもちながらも,われわれ日本人によって好んで賞味されているという特殊な事情によるだけでなく,そのフグのもつ毒自身の中毒学的,薬理学的作用に興味深いものがあり,またその食品衛生学的な観点からみた重要性によることをも物語っている。フグ毒に関する研究は,ほぼ第2次世界大戦以前にすでに可成りの程度に明らかにされていた。この点に関しては,すでに福田1)によって綜説されているし,私共もかってフグ毒に関する最近の進展をも含めて,フグ毒に関する未解決な諸点について綜説2)を試みたことがあるので,ここでは重複をさけて,私共の研究部において今迄に得られた諸成績,とくにフグ毒の作用機序を論ずる上に重要と思われる新しい事実と,それに基づくフグ毒の新しい定量法を中心に,二,三の関連ある事柄について私見を述べてみたいと考える。
 フグ毒の研究を行うにあたつて,私共がまず考えたことは,フグ毒の生体反応を明らかにして行く上に必要な毒力の定量法を見出すことにあつた。

報告

超緩速度掃引可能の直線性のよい陰極線oscillographの時間軸掃引装置

著者: 畠山一平

ページ範囲:P.287 - P.290

 直線性が極めてよく小容量の蓄電器でも超緩速度の掃引可能の掃引回路について記した。
 終に本装置製作上協力を得た本研究室の高橋正氏に感謝する。

寄書

人間の眼についての光学的考察(続)

著者: 伊藤礼子

ページ範囲:P.291 - P.292

 前書
 前回に実験8,9で,水晶体の色収差のことを少し書いたが,現在それについては,まだ認められていないということなので,詳しい実験の報告と,実験6についての式をつけ加えたい。尚今迄の私の実験が,ある人には,そうは見えないといわれるかも知れない。それは非常に熟練を要する観察で,落ついてしなければ見逃してしまう。実際私も月がいくつも見えることに気がついたのは,20年程前のことであるが,その頃実験2のパターンや色収差等もそう思つて見れば,みとめられたにちがいないと思うが気がつかなかつた。従つて観察の個人差が著しいと思うので,任意の眼について,これらの実験が誰にでも確認出来る方法を見つけ出す必要があると思われる。色々御意見,御指導を頂きたく思う。

学会記

第35回 日本生理学会総会記

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.293 - P.293

 本年度の生理学会総会は5月3,4,5日の3日間,金沢大学医学部において行われた。演題数が400の多数に汎る為A(条件反射,脳,脊髄,筋),B(神経筋接合部,筋化学,興奮の機序,末梢及び自律神経),C(口腔,呼吸,体温,汗,体力,酵素,代謝),D(内分泌,消化,循環),E(細胞,血液,感覚)の5会場に分れて行われたが,限られた日数で400題もの多数の演題を消化することは止むをえないことと考えられる。研究者が増して一般に自然科学が進歩し精細化するに伴い演題の数が増加し,学問がより細かく分科することは致し方のないことであつて,自分の專門外の演題を聴くことはだんだん少くなる傾向にあると思われるが,これは総会以外の機会をまたねばならないであろう。此の学会の新しい試みとして一つの演題の講演時間を10分質疑応答の時間を5分にとり,正確な時間表で学会を運営したが,これは当然試みるべきことが行われたという外はない。しかし,或る演者によつては15分の時間をフルに用いるため質疑応答の時間がなく,あとであまつた時間をそれにあてるとしても何となしに気分抜けがして質問が活溌に行われぬということがあつたようであつて,将来再び同様な企画で学会を行う場合当然考えねばならないことである。第2の試みとして昨年に引きつづき,少壮の教授,助教授に座長を依頼する傾向にあるようであるが,この試みも再考してみるべきであろう。

研究室から

群馬大学医学部第二生理学教室

著者: 高木

ページ範囲:P.294 - P.295

 わたしたちの研究室は昭和29年9月に誕生しました。当時私はシカゴのDr.Gerardの研究室に留学中でありましたので,留守中は第一生理の松本政雄教授が主任となられ,同じく東大生理より赴任した平尾武久助教授が講義を行つていました。
 昨年3月,2年余りの米欧の研究視察を終えて帰国して以来第二生理学教室の実際の建設が始まつた訳であります。Ecclesは研究室の建設はまず工作室の整備からと言つていますが,本学には幸いにも中央工作室があつて多くの必要な器械を作ることができ,大変好都合であります。私達の念願とする所は筋神経機能を電気的のみならず生化学的にも追求できる研究室の建設でありますが,まず電気生理学部門の整備にかかりました。爾来1年有余,金沢の学会も終えて研究室は一応の器械器具を備え漸く研究を始めることができるようになりました。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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