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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学9巻5号

1958年10月発行

雑誌目次

巻頭言

苦言

著者: 小山良修

ページ範囲:P.297 - P.297

 重箱の右の隅をほじつた外人(他人といつた方が穏当であろうが)の仕事に対し左の隅をいじつてホコリが少し多いの少ないのといつて,その外人と同じ水準の学者になつたような顔をする。そもそもその重箱はその外入が見つけたのではなかつたか。
 学会などでも電気や化学の知識は深く又,興味もあるらしいが,こと動物の事になると純系(こんな言葉は実験動物にはおかしいのであるが)ならどんな飼育管理でもよい,生きていればいいだろう位の軽視の仕方が多い。こんな風潮は微により大の全体を知るためであろうが,学会の演題でも電気や化学のテクニックものになると聴衆も多くなり(そうしたテクニックの研究会でない会合においてのことであるが),さて討論となると,例えば,その所で幾%,幾mgをどうしたか,ということであつて聴衆全体にとつてよりも個人的に話合つてもよさそうなことをやり出す。更におかしいのは何何氏法の変法とか改良法をやつたといとも軽くいうものがある。何何氏がその方法にゆきつくまでにはずいぶん苦労したのであろうと思われるのにあつさり変法する。そうならば,それだけの理由をのべてほしい。まして改"良"法にいたつてはなお更のことである。序ながら何何をやりましたかと質問する人があるが,演者はやつていないからいわぬのであるから演者の渋い顔になる時は気の毒である。

綜説

赤血球の酵素

著者: 黒田嘉一郎

ページ範囲:P.298 - P.308

 まえがき
 哺乳類の成熟赤血球は核を失つて生命の単位としての細胞の条件を欠いているため,はたして生きているのか疑われて来た。赤血球の主要生理作用は酸素,炭酸ガスの運搬であるから生きた細胞というよりもヘモグロビンを入れておく単なる袋と考えられていた。
 ところが,臨床医学において輸血のための保存血の研究が盛んとなり,クエン酸加血にブドウ糖を加えると安定になつて長期間にわたつて保存できることが明かになつた。しかも,この際,赤血球がブドウ糖を代謝して乳酸にすることを再認して以来,俄然,赤血球は生きた細胞として確認されるようになり,その動的物質代謝の研究が盛んになり,またそれにあずかる酵素の研究が行われるようになつて,この方面の立派な単行本および綜説1)〜5)が公にされている。

生化学の研究領域におけるO18の応用

著者: 阿南功一

ページ範囲:P.309 - P.313

 酸素O16の同位元素たるO17とO18はアイソトープとしてはかなり早くから知られたもので(Giauque & Johnson,1929)ある。これら酸素の同位元素の発見がその後の重水素その他の安定な同位元素発見の端緒をなしたとも云えるものである。O18含量は質量分析装置によつて測定出来るのでO原子のトレーサーとして従来から用いられて来た。O17も最近の研究によりその核磁気能率を以て含量を測定することが出来るようになつた1)。酸素の同位元素(O14,O15,O16,O17,O18,O19)の性質を第1表に掲げる。

第8回綜合医学賞入選論文

内臓の求心性多重神経支配について

著者: 新島旭

ページ範囲:P.314 - P.327

 はじめに
 内臓の求心性神経支配については古くは,Lan-gley1)以来多くの解剖学的,組織学的研究及び内臓からの反射,或いは痛覚等を指標にした神経の切断実験,等が行われている。その二,三について述べて見ると,
 Davis,Pollok and Stone2)は動物の胆嚢を膨らすと疼みを訴えるが,予め内臓神経を切断しておくとそのようなことは起らない,と報告している。

報告

赤血球の燐酸代謝(第2報)

著者: 吉川春寿 ,   中尾真 ,   宮本侃治 ,   柳沢勇 ,   水上茂樹

ページ範囲:P.328 - P.332

 成熟人赤血球は,核を失つて居り,呼吸も殆んどせず蛋白合成,多糖類合成はもとより,構成蛋白質は,ヘモグロビンと同様,アミノ酸のturn-overさえしないとされている。しかし,単に多量のヘモグロビンを含む袋というわけではない。多くはないけれども確実に解糖作用は存在している。そしてメトヘモグロビンをヘモグロビンに還元して機能を正常ならしめる作用や,特殊な活性透過性等は,解糖作用によるエネルギー代謝と共軛している。これらの事は広く知られた事実である1)−4)
 赤血球の機能を正常に維持する要件を明らかにすることは,医学的に重要な一つの課題である。従つて,赤血球の燐酸代謝を明らかにする事は,単にエネルギー代謝全体に対する重要な見通しをあたえると云うにとどまらず,医学的な見地から特に重要な事になつてくる。その為古くからこの問題は興味をもたれてきたが,方法の不備の故に,系統的な観察は少なかつた。

白血球膜の水分及び塩分輸送に関する研究—第1報:白血球膜の水分輸送について

著者: 浦上芳達

ページ範囲:P.333 - P.342

 緒言
 細胞内外の水分交流機構に関しては古くより研究せられて来たが,近年J. R. Robinson1)2)3)Opie, E. L.4)5)6)H. H. Ussing7)等の研究や又同位元素の広範な医学的応用により,細胞膜を介する細胞内外の水分平衡は単純な物理化学的な平衡としては理解し難い事が判つた。
 例えばJ. R. Robinson1)(1950)は等張食塩水中に浮遊せしめた鼠のliving kidney sliceに1/200M/L KCNを与えて組織呼吸を阻止すると細胞内水分量が増加する事を認め,又Opie, E. L.4)(1950)は鼠の組織膨化を防ぐためには等張溶液の2倍程度の高張性溶液を必要とする事を報告している。これらの事実は細胞内外め水分交流が単なる滲透圧平衝によつて行われるとの考えでは説明困難であるから,J. R. Robinson2)はこれを次の如く説明した。細胞内は細胞外に比べて常に高張性であつて,細胞外の水分は自由に細胞内に入り得る為に,水分は常に細胞外より内へ侵入して,これを膨化せしめんとする。併し細胞膜には水ポンプとも称すべきエネルギーを消費して水分子を輸送する機構が備つていて,これにより細胞外へ水を汲み出し,細胞の形態を保つている。然るにこの水ポンプに何等かの支障を来す時には水の侵入の方が汲み出しよりも大きくなつて細胞の膨化が起るのであろう。CNを用いた時の膨化は正しくその結果であろう。

核酸の骨髄体外組織培養に及ぼす影響

著者: 山崎良平 ,   高田超爾 ,   菅野卓 ,   山本恵子

ページ範囲:P.343 - P.346

 I.緒言
 1869年MischerはNucleinなる略々純粋な核物質を発見し,Altmannはその酸性成分に核酸なる名称を与えた。そして核酸に関して特に研究され注目されたのは,1940年,第二次大戦中で欧米に於いて色々の分野にかつて見られなかつた程めざましい進展を示し,蛋白,脂肪,含水炭素と並んで生体に取つて重要な物質としての地位を確保した。さきにCasperssonは細胞質に於けるRibo核酸(RNA)は蛋白合成の機能と関係がある事を指摘している。各種細胞に於いてRNAの多いところでは蛋白の合成が盛んであると云う事実から,最近の新しい研究によるとRNAの生体内での役割は蛋白合成の際に何か鋳型(Template)様の作用をつかさどつているのであろうと云われている。翻つて造血機能に及ぼす核酸の作用は,すでにKimm,Spies,Thompson,等が白血球減少症の治療に有効である事を指摘している。そこで私は直接核酸を骨髄組織に添加することにより,その影響を検討したので茲に報告する。

学会記

第31回日本生化学会印象記

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.347 - P.347

 7月14日より16日までの三日間北海道大学において同大学教授安田守雄氏を会長として盛大に挙行された。
 近年各学会が札幌で開かれることが多くなつたが,生化学関係では昭和29年にビタミン学会が開かれて以来始めてでもあり,また本年は北海道大博覧会も開催され,いろいろ事情が好転したためもあろうか,予想以上に盛会であつた。

研究室から

癌研究の生化学的立場

著者: 小野哲生

ページ範囲:P.348 - P.348

 日本でも結核との戦に峠を越し,癌が死因の二位にのしあがつているが,癌に対する一般の関心がたかまつて来た。それにつれ近来癌の生化学的研究の陣容もかなりはなばなしくなつているのは喜ばしい。筆者が癌の生化学に志してからまだ日が浅いが,次第に癌の生化学的研究の困難さをひしひしと感じさせられている。
 簡単に考えると癌は正常組織とかけはなれた特異的な性格を有するものであるから,生化学的に何を取りあげてもその特異性がうかがえるものと思われる。即ちWarburgが癌組織は好気的条件下でも著しい解糖を営むことを示して以来,生化学の進歩につれ各種の酵素系は癌細胞,組織についても検討され,新しく確認された酵素やその助酵素はときをうつさず,癌についてもその活性,含有量が測定され正常と比較されて来た。しかし今までのところ,Warburgの解糖に関する知見に匹敵する程の癌に普遍的な特性を主張出来るものはその後表われていない。時に癌の化学療法を追求している人々から,「癌の生化学をやつている連中はけしからん,はじめから癌と正常組織とは差がないものとして研究しているのではないか」と言つた意味のおしかりをいただいたりする。化学療法をやつている人々の仕事によると同じ肝癌でも各Strainで薬の効果がひどく違うし,まして各種の癌になるとある薬が効いたり,無効だつたり余りにも変化に富んでいる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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