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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学9巻6号

1958年12月発行

雑誌目次

巻頭言

医学と生物学

著者: 熊谷洋

ページ範囲:P.349 - P.349

 医学部の基礎医学と呼ばれている部門は,臨床医学の基礎的知識を与え又は研究することを目的として出発したものとされている。本来の目的はすべて人体に関したものであつたが,実状としては殆ど大部分の基礎医学の研究は動物(時には植物)について行われている。つまり基礎医学者は,生物学者である。この事は人体を対象とする研究には方法論的にも限界があつてどうしても動物によらねば実施出来ないためでもあるが,現代の生物学を含めて一般自然科学の飛躍的な発展による処が多い。動物に於ける研究のすすめ方も,無傷動物,剔出器官,細胞単位更には細胞機成成分についての分子水準に於ける研究といつた具合に,逐次分析的な方向に及んだ事は当然であろう。殊に無傷動物に於ける諸反応は定量性の低いことが多く,一見漠然としており時にはたよりなくさえ感ずる。ここには然し物指しにひつかからない生き生きとした生命現象がかくされていてけい眼の人にとつては非常な啓発となり,又魅惑的でもあるが,その反面生物反応を強張しすぎると生物反応と云う言葉の上にあぐらをかくという危険性も内臓されている。けれども真の生物反応をつかまえようとすれば勢い一度は分析的な方法にたよらざるを得なくなる。生物をより単純な系に還元して,より正確な資料と情報を得たくなるのが当然であろう。殊に分子水準で解明乃至論議出来る事は長所であり且つ魅力的でもある。

綜説

心筋のアデノシンヌクレオチドについて(とくに"Herznucleotid"について)

著者: 宮本侃治

ページ範囲:P.350 - P.353

 1.まえがき
 すでに骨骼筋ではA-5'-MP1),ATP2)-3),ADP4)が見出されて,脊椎動物以外でも甲殼類,軟体動物にもその存在が知られている3)。これらヌクレオチドはクレアチン燐酸などと共にATP-クレアチンtransphosphorylase,ATP-ase,Adenylate kinaseなどの酵素の関与のもとで複雑な筋収縮の機能を果していることば周知の事実である。又最近ではまだ生物学的役割の明らかでないアデノシン・テトラ燐酸5)〜6),アデノシン・ペンタ燐酸7)も骨酪筋での存在が認められている。
 これらの発見の途上,心筋から特別なヌクレオチド"Herznucleotid"が分離されたと報告された時期がある。最初Embden16)が"Herznucleotid"と名づけて以来Ostern8)-9)など多くの人たちによつてATPとADPの結合したと考えられるジアデノシン・ペンタ燐酸として取扱われてきた。

遺伝学に応用された組織培養法についての検討

著者: 堀川正克

ページ範囲:P.354 - P.364

 §1.序言
 生物体から生きた組織器官ないしは細胞を取り出して生体外で適当な栄養物を与えながら硝子器の中で生存増殖せしめる手段が組織培養法であつてこれらについては数多くの研究が多数の人々によつて行われて来た。
 このような組織培養法は単に自然状態に於て生物体内で行なわれる組織器官の分化や増殖或いは細胞分裂の機構を解明する手段としてのみならず種々の培養条件に対する組織や細胞の反応性を調べて生物体内の物質代謝の一面を知り,ひいては生命現象の謎を解く最も有効な手段の一つとしても生物学者や医学者にとつて最も魅力的な研究方法であると言えよう。例えば諸種の生活現象が複雑に交錯している生体内に於ては一つの因子の変化が連鎖的に他の多くの因子の変化を惹起する事はむしろ通常の事であつて正確な観察を行う上にしばしば困難をきたす事がある。この点最近の組織培養法の進歩によつてこれらの点は或る程度に規制され,単に操作が便であるというのみならず実験化学に取つて最大の目標たる定性定量分析と言う見地からも利点を有するのである。

論述

肝臓の電気生理学的研究—微小電極法による生体内肝臓の肝細胞電位

著者: 問田直幹 ,   玉井忠 ,   武田寬

ページ範囲:P.365 - P.377

 I.いとぐち
 消化腺とくに大消化腺と名づけられるものの電気生理学的研究を歴史的に展望せんとする場合,唾液腺に関する報告が他の何ものよりも大きな比重を占めていることは否定出来ない。したがつて,他の消化腺の電気現象を観察するに際して,先ず唾液腺のそれに関する研究の発展の概略を知ることは必要であると思われる。
 唾液腺については,すでに多くの報告がその冒頭に掲げているようにBayliss & Bradford(18854))が顎下腺の電気現象について記載したものが嚆矢とされている。すなわち,彼等は腺表面とhilusに電極を当てて誘導した場合,神経刺激ならびに薬物の注射により顎下腺に特有の電気的な変化が生ずることを観察しさらにこれらの分析を試みた(Bayliss & Bradford,18865);Bradford18876))。

報告

脈波基線動搖と精神身体状態との相関について

著者: 井原昭和 ,   栄寿太郎

ページ範囲:P.378 - P.381

 A.緒言
 「プレチスモグラフ」が末梢循環動態の研究に用いられているが,逆に末梢血管の状態から中枢性のNervo_hemodynamicsを研究する方法も,近来採用されている。正常人安静時に見られる基線の自然動揺に就ては,心臓性,呼吸性変動の他に,Burch1)4)等の言うα波,β波,γ波の存在が知られているが,後三者の発生機転及びその生理学的意義は明らかでない。数学的3),機械的処理法が試みられているが,複雑な波形パターンの成り立ちを説明するに充分でないと思われる。我々は正常人に見られる周期的自然動揺のパターンと,被験者の置かれた身体的,精神的状態との相関から,その発生中枢レベルを明らかにしようとした。

多用途の一新型積分裝置

著者: 佐川喜一

ページ範囲:P.382 - P.386

 最近各種の電気的計算器,制御器類の一要素として電気的積分器が重要な役割を果していることは周知の事実であるが,生物学・医学の領域においても適当な電気的積分器があれば随分便利なはずである。いま生理学の分野から一,二の例をあげるならばまず流量の積算測定がある。従来呼吸気量や血流量を測定するには,電気的方法により一旦気流または血流速度曲線を記録し直線性を補正した後にこれをplanimeterで積分する方法がとられているが,この積分操作を即座に電気的に遂行してゆけば甚だ手数が省けるばかりでなく,その積分値を一要素への入力とするservo mechanismによつてなにか他の実験操作量を制御するというような高次の実験も可能になろう。第2にあげられるのは筋電図学的用途である。従来の研究1)2)により筋収縮時の発生張力または短縮度と筋電図の積分値との相関々係が判つているから,積分装置があればこういう知見を利用して生体内での筋収縮の模様を手軽に推量できる。その他一般に刻々と動揺する実験観測量の単位時間内平均値を連続記録したい場合にも,その単位時間を周期とする繰返し積分を行えば簡単に解答がえられるであろう。
 このように多方面での効用があるにもかかわらず,著者の知る限り在来の積分装置は必らずしも常に完全な積分操作をせず,または特殊な目的に限定使用されている3)4)現状で,上記の様な一般的応用にむく装置は報告されていない**

白血球膜の水分及び塩分輸送に関する研究—第2報:白血球膜のNa,Kの輸送について

著者: 浦上芳達

ページ範囲:P.387 - P.396

 緒言
 白血球膜に於ける水分の輸送は塩分輸送に密接な関係を有している事は第1報に於いて述べて来たので,本報に於いてはかかる細胞膜に於けるイオン殊に(Na及びK)の輸送現象が如何なる機構によつて行われているかに就て論じたい。元来細胞内には一般にKや燐酸塩が多く,細胞外液中にはNaやC1が多い事は衆知の事実である。この様なイオンの濃度差は細胞膜の特異的な透過性によつて保持せられているものであるが,嘗つては細胞膜がこれらのイオンに対して不透性なるがためにこの様な現象がおこると考えられた。併し最近アイソトープの応用によつて,各イオンは細胞膜をよく透過し得る事が明らかになつた。この様な透過性イオンが一つの膜を介して異つた濃度にて平衡を保つている理由に就ては,そのイオンが細胞膜を外より内の方向へ移動する率Influx rateと内より外へ移動する率Outflux rateとが異るためであると説明せられている。但しここにFluxとは単位面積の細胞膜(又は単位容積の細胞)を単位時間に通過するイオン量を指し,Influxとは移動の方向が外より内に向うもの,Outfluxとは内より外に向うものを言う。又移動率Flux rateとはこのFluxを夫々の溶液(移動を始める溶液)の濃度によつて除して求めた単位濃度当りのFluxを言う。

研究室から

ノーベル医学研究所—生化学部を中心に

著者: 勝沼信彦

ページ範囲:P.397 - P.398

 私は日本・スエーデン協会のスカラーシツプにより,スエーデンで研究を初めてより半年になります。前庭にノーベルの像を持つ世界有数の当研究所の内容を紹介する事は,日本の研究進展に多くの参考になる事と考えます。ノーベル医学研究所はストツクホルム市北部に位置し,ストツクホルム大学のカロリン病院,カロリン研究所と隣り合つて居ります。入口には日本の桜にかこまれてノーベルの胸像が立つて居ります。当所の生化学部はHugo Theorell教授の為に1937年1月1日に開所され,現在の建物は1948年5月19日に生化学,細胞化学及び神経生理の各部の為に新築されたもので,Crown princeのHis Royal Highnessの手で当時落成式がおこなわれたものです。この構成は地上3階,地下1階の建物の左半がH.Theorell教授を主任とする生化学部で右半はT.Caspersson教授を主任とする細胞化学で蛋白合成と核酸の関係を指示した一門として日本の研究者にも良く知られて居ります。当部は遺伝研究所を附属して居ります。時計台を持つ右に独立した建物はR.Granit教授を主任とする神経生理部で,私を除いて唯一の日本人医学者である千葉医大の本間さんが研究して居ります。その後,生化学,細胞化学部の裏に癌研究部とノーベル賞受賞者で今年1月来日したフオン・オイラー教授の生理化学部があります。

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生体の科学 第9巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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