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病院管理の諸問題
著者: 尾村偉久1
所属機関: 1厚生省國立療養所
ページ範囲:P.7 - P.8
文献購入ページに移動6 診療業務の良否
病院で診療業務が良く運営されているかどうかは病院経営の根本的な問題である。診療がうまく行って能率があがっているということを常識的に判断すれば第一に患者が多数あることであり,第2にその患者がよく治療されていることであり,第3にその結果正しい意味で病院の収入が擧がるということであろう。病院の位置が最初から撰択を誤っていてその地区に於ける必要度が低く又交通が不便で利用の仕様がないという様な場合には,どんなに努力をしてもどうにも仕方がないからこれは論外として,良い診療業績をもたらす要因としては,第1が信用であろう。病院自体が長い間の信用の歴史を有している場合もあるが何といっても病院の診療に当る医師,ことに院長或は外科についてはその医長の信用がものを言うのである。この場合信用というものを構成している内容を考えると,結局その人が人格的に立派であって,親切であり技術的に他に優れていて,その地区における適正な診断者であり治療者であるということであろう。従って病院の診療業務が良いという為には,その診療スタッフにかかる人を得ることが最も必要なことである。第2には,診療部面の全従事者が心から患者に親切であり,従って診療内容に於て適切であるということであろう。具休的には,患者と医師との関係は,人と人との生命を託する信頼の問題であるから,結局相互に直接接触する機会が多いことが前提条件であろう。この意味でまず院長或は医長が定期に,或は更に必要な時には臨時に患者を回診し,見舞う機会が多くなければならないし,又各担任医師が定時,更に必要な時には随時に患者に接する様になっておらねばならない。尚医師だけでなく,看護婦長或は主任看護婦が毎日患者に接する機会を持つ必要があり,この外医療社会係或は病室の色色な係の責任者が,患者の希望等を察知する機会を多く有つ様になっていることが必要である。この為には診療管理の上から,これらの責任ある人が,病室を訪れて,患者に接することを規定した内規の様なものがあって,それを遵守してゆく仕組がよいと思う。尤も多忙な院長等の責任者が毎日万遍なく詳しく実行することは,身体が幾つあっても足らないであろうから,これら長の位置にある人の場合には見る(see)訪れる(visit)詳しく診る(examine)の三種類の方法を適当に定めて使いわける必要はある。このことは院長,事務長が診療業務に限らず全般の病院管理の面から院内の現場に臨む場合にも適用され得ることである。以上の第1,第2の要因について,現在の我国病院の現状を眺めると,病院の施設,設備はまことに優れて立派であるに拘わらず診療面であまり評判がよくなく,業績も擧がらないという様な病院を見受けることが屡々ある。ところがその地区の古い木造建の設備もそれほど立派でないと思われる病院が非常に繁盛して,業績も擧っているところがある。よく覩察して見ると,前者に於ては入院はしたが院長,医長の顏もまだよく判らぬという様な工合であり,医局員や看護主任の仕事振りもお役目的であって,いつ診てもらうかまことに気儘で心細いと言う様なことがあり,後者に於ては院長以下定時によく回診して呉れて,患者とよく信頼感が交通し,又従って病院管理も上から下までよく行きとゞいていて,設備は粗末であつても,清潔,整頓されていて,その最高の效率を発揮しているということを発見する。たゞこの場合,徒らに必要の度をこして患者の御機嫌をうかがつたり,或は必要外の注射その他の診療を顛繋に行つて徒らに患者に苦痛を与えたり,負担をかけるのがよいというわけではなく,勿論それは適正治療を行うというのが根本であることは間違いのないところである。上逑のことに関連して,最近病院の格付けの問題で議論が闘わされているが,それは現在進行中の病院分類の採点基準は—應1)管理2)人員3)設備構造の3条件についてA,B,Cの格付けが行われるのであるが,これでは上記に逑べた様な病院の構造,設備は若干貧弱であるが,そこの人的構成,ことにその素質が優れていて,民衆の真の診療的信頼を博し,診療業績を舉げてているという機能的な格付が表面に現われず患者から見て真に診療を托し得る綜合的診療価値判断にぴつたりしないという問題である。この点の解決は,今後実施してみての検討にまたねばならないが,別に,嘗て国民医療法当時規定されていた專門医制度を医療法に復活して,病院の格付に添加表示し得る様にすることも大いに考慮すべき方法と思う。このことは同時に誤れる民衆の学位盲信の弊を是正することにもなるわけである。
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