icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院12巻3号

1955年03月発行

雑誌目次

--------------------

ある入院患者の記

著者: 久松栄一郞

ページ範囲:P.2 - P.6

 昨年の10月末から12月末まで,約2ヵ月間国立東京第一病院に入院した感想記である。病気は十二指腸潰瘍の軽いものであつたが,第1回の手術後大網膜の癒著によつて,通過障害をおこし再手術をうけなければならぬ始末になり,2ヵ月間も入院しなければならないことになつた。その間入院当初の1週間は検査の時期であり,病的苦痛もなく全く健康状態で,一寸旅行に行つてホテルにでも泊つたと云つた按排で,その時の感想は軽症の患者の感じるぜいたくなものの一種と云つてもよいものであつた。開腹,胃切除,胃腸アナストモーゼの手術後の1週間は痛みと苦悶の期間で重症疾患者の感想とも云うべきである。胃腸通過障害の1ヵ月間は半ば病的苦痛と精神的苦悩の時期で,精神的障害を伴う時期であつた。退院前1週間の恢復期は明るい希望の時であることは申すまでもない。私の入院期間2ヵ月間は大体以上の様に区別することが出来ると思われるのであるがその間に感じたこと又各々別々であつた。筆を執つている現在なお再手術後2週間目で,体力もフラフラであり,頭も定かでない自信のない次第であるが,印象のできるだけ明かな時と思つて勇をふるつた次第である。

経営体としての病院の特質

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.7 - P.11

 交換経済機構の中に於て,一定の計画性のもとに,一定の目的追求の営みをなしつつある夫々の自主的経済単位を経営体と呼ぶとすれば,病院は勿論一つの経営体である。この場合,これを最も広く解すれば,消費活動を主たる運営的努力の内容とする家政や財政も当然経営と称され得る。所が一般にはもつと狭く,経営の本質は価値の造出乃至生産にあるものと解され,経営と家政及び財政とは区別して考えられるのが普通である。病院は本来医療サービスの造出供給を目的として運営がなされている組織体であるから,この後の意味から言つても矢張り明かに経営体と考えられる。或は,このようなことは余りにも自明の事実であつて,殊更にことわる程のこともないと言われるかも知れない。だが,この自明のことが現実には一向に自明のこととして取扱われていない所に問題がある。即ち,我が国に於ては,官公立の病院は勿論,民間の病院でもその大多数が,消費会計である官庁会計方式をとり,官庁予算方式によつて運営されているのが実情である。我が国の病院の経営管理面での著しい後進性は,こうした事態に集中的にあらわれているわけであるが,近時ようやくこの遅れが自覚され,病院を一つの生産経営体として認識し,そのようなものとして取扱つて行こうとする動きが徐々に動きはじめているというのが現在の段階だと言えると思う。

病棟の考え方と成り立ち

著者: 今村栄一

ページ範囲:P.13 - P.18

 病棟は病院活動の中心である。給食,ハウス・キーピング,検査,中央材料室,医療事務その他病院の活動として挙げられるものは,すべて病棟における業務の土台であり補助である。従つて病院の管理を合理化し進歩せしめるにはまず病棟をどう扱うかという態度の決定から踏み出されるべきである。検査を中央化し,入退院業務を中央化しようと企てても,病棟が古い形態のまま壁を高くしておさまつていたのでは,動きがとれないことになる。そこで病棟のあり方を出発点からもう一度見直してみようと思う。

昭和28年度の国立病院経営の実績—特に院病経営のための費用について

著者: 高木圭二郎

ページ範囲:P.21 - P.28

I.まえがき
 本誌第11巻第1号(昭和29年7月)に,昭和28年4月から12月までの9ヵ月間の国立病院経営の実績について,患者の状況,病床利用状況,診療状況をはじめ,給食,歳入,歳出,職員の状況等,全般的な概況をとりまとめて記載した。
 最近昭和28年度年間の国立病院経営実績が整理集計されて,発表されたので,本稿では主として,昭和28年度中に,国立病院を経営するために要した費用費消額と診療収入とを中心として記載し,御参考に供したいと思う。

アメリカの病院

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.47 - P.56

 昨年9月16日,羽田を飛び立つて以来12月中旬まで約3ヵ月,米国を旅行して参りました。主として都会地の病院視察と米国病院協会主催の二つの特別講座の聴講(ニユーヨーク,ロスアンヂエルス),又シカゴではマツク先生の門下に入つて勉強する機会を得たこと,唯忙にがしく,あわただしい飛脚旅行でありましたが一生懸命アメリカを見様と努めて来た事だけは確かであります。医師でない病院勤務者が多少ビズネスマン的センスを以てのぞいたアメリカの病院分野は,いささか角度が違つて居ると思います。角度が違い過ぎてピンボケの点がありましたら御寛恕願います。

病院史概説(12)

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.59 - P.62

VIII.サラセン帝国の病院
1)アラビアの病院
 スペインにおいてモアー人の病院が古くから存在していたことや,中世医学がアラビア医学の影響を受けてルネツサンス時代に生気を取戻したことを既に述べたので,我々はここで再び中世に溯つてサラセン帝国の病院を眺めてみよう。マホメツトがメツカ市からメデイナに逃亡したのは622年で,その後まもなく彼は宗教と武力で全アラビア半島を統一し彼の死後,その後継者はカリフと称しコーランと剣を手にして征服の軍を進め東はペルシアから,インドに及び西はアフリカ北部を大西洋に達しマホメツトの死後100年にして大陸にまたがる大帝国となり,中世期界に於てキリスト教世界に対する一大勢力となつた。
 この帝国はギリシア医学の伝統とエヂプト,シリア,メソポタミア,ペルシア,更にインドに及ぶ古代東方要素を受け継ぐ地理上の好条件をそなえていた。特に428年コンスタンチノープルの司教となつたネストリウス(Nestorius)はメソポタミアのエデサ(Edessa)の地をその支配下に治めていたが,そこに在つた2つの病院とその附属学校を拡大して優れた教育施設とした。所が彼とその仲間ネストリアン派の人々は正統派の司教Cyrusによつて489年註1)に異端者として追放されペルシアにのがれ,その結果ペルシアの南西Jundi-Shapur (Gondisapor, Sah-Abad)に医学校を創設していた。

Doctors' Taperecord

ページ範囲:P.63 - P.64

インターン
 毎年のことながら今年も亦卒業シーズンがやつて来た。何十万という学生が学窓を巣立つて社会へ出て行く。今年はデフレや貿易不振といつた事情で就職戦線はなかなか深刻らしい。卒業を目前に控えて就職運動にかけずり廻つている連中からみると,医学生は別世界の人間の如くみえて羨望に堪えないかも知れない。戦前はインターンも国家試験もなかつたから医学生と雖ども学校から社会へ直結し就職という問題が学生間の話のタネにもなつたものだ。無論当時においても医学生には就職を問題とせず引続き教室に残る者が少くはなく,これらの連中は超然と構えて就職などどこ吹く風であつた。所が今日では大学を出ても少くとも1年たたないと医師として就職ということは不可能となつたのであるから問題になりようがない。同じく問題にしないのでも事情が大いに異る。せち辛い今日の経済事情の下では羨しがられるどころか他学部学生の就職運動を横目でにらんでもう一年親父の脛をかぢる決心を余儀なくされている。思えば医師になる,ということは大変な苦労である。併し今日世界の大勢からみて日本医学が一定の水準を確保していくためにはインターン制度を止める訳にはいかない,というのが識者の一致した意見である様だ。それならばせめてこの1年間のインターンという期間を十分意義あらしめるべく考えねばなるまい。

研修所だより

著者: 岩佐

ページ範囲:P.65 - P.66

 年が明けて研修所も7年目を迎えたわけですが,1月25日から第12期研修科がはじまりました。出席者は半数が自衛隊関係で,
陸上幕僚監部衛生課飯島医官,陸上自衞隊衞生学校肱岡教官,同池上教官,陸上自衞隊都城部隊嶋田医官,同針尾地区病院滝井医官,同札幌地区病院福原医官それ以外では,板橋田本大学病院久代副院長,社会福祉法人衣笠病院古賀副院長,日本赤十字本社黒坂主事,医療法人積仁会旭ヶ丘療養所犬竹事務長,大宮赤十字病院土居事務長,大阪回生病院日西庶務主任以上12名でありました。
 自衞隊の衞生監西野氏の報ずる所では1953年に出来た米海軍の医療センターには病院,医学校,歯科学校及び病院管理学校が結合しているとのことで,病院管理学が如何に重視されているかが判るのですが,我が自衞隊においても次第に病院施設を拡充する時に当つて病院管理学に深い関心を示していることは大変結構な事です。自衞隊病院には自衞隊としての独自の色々な問題があることではありましようが考え方によつては近代的な管理学の主原理を実現する上に最も好都合な条件を持つている様にも思われます。今回の長期研修科は幾分自衞隊クラスと言つた感じもして,その他の受講者は迷惑な点もあつたかと思いますが,これから出来てくる自衞隊の病院がすべて近代的な管理学のセンスで設計建築され管理運営されるとすれば,それは独り自衞隊のみならず我が国全体の病院発展の上に大きく貢献すると思われます。

文献紹介

著者: 岩佐

ページ範囲:P.67 - P.67

(B)医療制度
16)わが国における医療制度の主要な問題点とその考察公衆衛生17巻1号医療制度とその盲点特集 橋本麦三男
 専門医制度,私的医療機関と公的医療機関の関係,医療報酬の合理化,文部省と厚生省との関係医務局内の一般行政と国立施設管理行政との比重等々を問題点として提出している。

グラフ

人間ドツクサービス—病院の予防医学的活動

ページ範囲:P.31 - P.46

 病院の活動に2種類ある。1つは,既にかかつた病気に対する診断治療であり,他は,将来かかるかもわからぬ病気に対する予防である。後者の内の大部分は保健所で行われるものであるが,その内のあるものは,病院の入院設備と,強力な診断能力を必要とするものである。
 近来,結核病に対する医学は急速に進歩した為に,国民病としての関心は,癌,心臓病,高血圧症,糖尿病,肝臓病等の高齢,慢性病に移行してきている。これ等のあるものは,早期発見によつて完全に予防する事が出来るのである。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?