icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院13巻5号

1955年11月発行

雑誌目次

--------------------

精神病院の非常事態に備えて

著者: 関根眞一

ページ範囲:P.2 - P.5

 故堅田五郞博士の書かれた「日本に於ける精神病学の日乗」のなかから,明治,大正から昭和4年に亘る間の精神病院の災禍だけをひろつて見ても,精神病院の少かつたその当時でも14件も数えられ,大体5年毎に病院が火災に見舞われていたことになるが,近年精神病院の増加と共にその火災の率が殖えたことは寒心に堪えないのである。樫田博士の調査の内で最も悲惨なのは,明治35年4月の京都船岡情神病院の火災で,60名の収容患者の内17名の焼死者を出したことは,今日までの犠牲者の率から見れば最高とも云えるのである。失火の原因の内で患者の放火によるものが2件ある。中でも大正10年1月函館区立精神病院で2日前に入院した患者が,隠し持つたマツチで放火して逃走を企てたが,その患者を阻止しようとした看護人の小指を噛み切つて逃走した珍らしい事件もある。その後昭和5年以降は確実な調査資料が得られないが,私の記憶だけでも相当数に昇つている。そのうち焼死者を出したものもかなりの件数である。
 かように精神病院の火災は危険が伴うことが多いので,ややもすると人命の犠牲者を出すことになるが,かかる惨事は絶対にあつてはならぬのである。

Closed Systemと医師の勤務体制(2)—病院人事管理のうち

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.7 - P.13

 テイラー(Taylor)を先達とする所謂科学的管理法が「正当なる作業量に対する正当なる賃金」(fair day's pay for fair day's task)の決定ということから出発したことは周知の通りである。賃金乃至俸給が,提供された労働力に対する反対給付である以上,この兩者の正当な等価関係を樹立することは,経営の合理化という点で第一の先決問題であることは言うまでもい。テイラーはその為に先ずtaskの標準化を科学的に検討することから始めたのである。
 所で,病院に於ては,特に勤務医師の勤務に関して,このtaskの標準化及びtaskとpayとの正当なる等価的結び付きは完全に実現しているであろうか。医師に言わせれば,自分達は働きの割合に俸給が少いと主張するであろうし,病院側に言わせれば,医師は出来るだけ仕事を少くすることばかり考えていると主張するかも知れない。其処から窺われることは,現在わが国の病院では,医師のtaskとpayとは必ずしも等式関係にはなつていないということである。仕事は仕事俸給は俸給ということであれば,働かせる側では出来るだけ多くの働きを望むし,働く側では出来るだけ仕事の少いことを願うのは,当然であろう。とすれば,其処では医師の働きを刺戟するものは,少くとも俸給ではない。では何が刺戟となるか。場合によりそれは「医は仁術」という仕事に対する使命観だと言われる。

病院管理のやり方の一指針(2)

著者: 厚生省国立病院課

ページ範囲:P.15 - P.23

会護及び委員会
 院長は本省の方針に従い,その範囲内で管理の全責任を負つてゆくのであるが,その際,院長個人の意見のみで運営してゆくと時により独裁,独善になり易く,又職員の創意工夫を阻み,職員の積極的な協力を得られないこととなるから,病院においては,会議及び委員会をおき,運営の適正化,明朗化をはかることが必要である。
 以下,会議及び委員会(以下会議という)についての若干の心得と注意とを記述し,会議を有効に実施するうえの参考に供したい。

病院の病歴室

著者: 田口和枝

ページ範囲:P.25 - P.34

 病院の一つの大きな任務として,そこで取り扱つた患者の明確な病症記録の作製や保管が重要である事は申す迄もありませんが,近年,我が国の病院でもこの方面の関心がたかまりつつあるのは喜ばしい現象だと思います。東一病院では,病歴が正確且つ完全に書かれる様に,よりたやすく,便利に利用出来る様に,という目的を持つて,昭和27年7月から,図書室の一部に病歴室を設け,病歴係を置いて,入院患者の病歴(病症記録)の保管整備を始めた事は,既に御存知の方も多いと思います。
 近頃「私の所でも始めたいから」という見学の方も大分来られますので,ここに,私どもの現状及び体験を述べ,御参考に供したいと思います。私どもとしましても,これが完全なものであるとはもとより考えておりませんが,国立病院として,未だこうした仕事の分野が正式に認められてないために,定員や予算の裏附けが得られないという恵まれない条件の下に於ける,一つの試みとして御覧願いたいと思います。

病院外来部組織とサービスの改善(2)

著者: 金子敏輔

ページ範囲:P.36 - P.42

患者受付と診療分類
外来に於てはじめ患者の受付けRegistrationをまず行い,いろいろ必要事項をきいて診療券を発行するが,それからさき患者を外来診療部にどう分類して届けるかは外来のあり方の大きな問題である。いまこの患者が診療部各科に廻る過程を分けると,
1.患者自ら診療科名を決め,その科に廻る場合
2.自ら診療科名を選ぶほか,特に担当医師を指名する場合3.受付事務員に相談するか,事務員が診療科を指定して廻す場合4.外来勤務看護婦または婦長等に相談して指定專門科に案内される場合5.受付事務室接近の受入室Admitting officeに於てOPD担当医,即ちAdmitting physicianが予選診察Preliminary examinationをしてそれによつて予備分類medical classificationをして適切なる診療科に廻す方法
 以上は新,旧患,救急患等によつてそれぞれ取扱いが違うが,もし分類が不明であれば一応ある科に廻して診断を確定してから診療科を決めることもあろう。この場合条件つきで受入担当医予備検査の際メモを附記することになろう。しかしアメリカの如く,こんな場合の綜合診断部があれば理想である。すなわちmedical diagnostic de-partmentである。この場合内科に附属させる行き方と分離して行う場合が考えられる。

女流建築家のみた欧洲の病院

著者: 船越輝子

ページ範囲:P.43 - P.45

 今年の3月,若い建築家の団体,建築研究団体連絡会から派遣されてベルリンで開催された国際建築資材木材労働者会議に出席,その後ルーマニヤ,ソ聯,中国を経由して5月29日に帰国いたしました。
 各国一個所宛位の割合で病院を見学して参りましたが,これを読んで下さるかも知れないお医者様や病院経営者の方から見ると,まるで大事な所は見落して来ている見聞記で,さぞ焦つたい思いをなさる事で御座いましよう。そうかと云つて建築的な方面から見てピタリツと焦点が合つているかと云えばそうでもないので,どうも困つた代物で御座います。

診察室の壁畫

著者: 関川弘道

ページ範囲:P.47 - P.53

国立嬉野病院の壁画
 国立嬉野病院(佐賀県藤津郡嬉野町)に於ける壁画は,小生各病院を廻つた中で最も感激したものである。この壁画は昭和26年に現在長崎大学の小兒科の助教授里見正義氏の作品である(当時国立嬉野病院小兒科医長)。この壁画の製作は夏実施せられ,当時当病院庶務課長中島盛一氏(現在国立別府病院庶務課長)の決裁により施行せられたものである。
 中島氏の話によると当時院長であつた古屋野博士(現長崎大学学長)が欧州からの帰路露国の旅館に於て壁画のある部屋に泊り,旅愁を慰めてくれた壁画が忘れ得ず,患者の心理療法の一助になる事を思い立ち里見氏と相談しこれが施行に当つたものという。

病院史概説(19)

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.55 - P.61

XX.20世紀のアメリカ病院
1)病院統計とリストの歴史
 19世紀の後半に到り病院の性格は一変した。それは既に述べた様に近代医学の確立,諸技術の進歩,社会構造の変革等色々な要素に原因されていた。かくして今日我々が近代病院として認識する様な,内容について言えば科学的であり経営面より見れば合理的である病院が外面的には堂々たる高層建築として出現して来たのが20世紀の病院である。しかも,この様な高度の大規模病院が雨後の茸の様に続々として建造されているという点に今世紀の特長がある。これまで我々が各世紀の大病院として,特にその名を列挙して来た病院よりも遙に大きく遙に優れている病院を今や各地に無数に持つている。従つて我々は個々の病院について多くを語ることは出来ない。寧ろ統計的に病院増加の推移を観察する方が適切であろう。アメリカにおける病院リストの最初のものは教育庁の役人M. Tonerが編纂して1873年にアメリカ医師会から発表されたものである。
 これによると1872年現在収容施設を有する病院は178でその年間入院患者総数は146,472人となつている。地区別病院数は第1表の如くで又設立年次別に見れば第2表の如く加速度的にその増加率が上昇している。経営主体による分類は第3表の様になされているがこれ等径営主体の内容については説明がない。

Doctors' Taperecord

ページ範囲:P.63 - P.64

見知らぬ人でなく
 表題の映画の試写をみた。これはDr. MortonThompsonのベストセラー小説"Not as a stranger"の映画化であつて,このアメリカ映画が我が国の一般大衆にどの程度アツピールするか分らないが,医療関係者にとつては多くの興味ある話題を提供してくれる内容をもつている。2時間半に垂んとする長時間を殆んど飽かせないのは,アメリカ映画のテンポの早さだけではなさそうだ。勿論フイクシヨンであるからには或程度の誇張といつたものは免れないが,アメリカの医学生や医師の生態をかなりよく描写している。ここに描かれた医学生生活は我が国の実態からみると多分に現実ばなれした感じがなくはないが,これはむしろかなり正直な描写といつてよいであろう。教授が学生に呼びかける「ジエントルマン!」ということばが示している様に,アメリカでは医学課程はポストグラジユエイトであるから,医学生は既に一人前の紳士,即ち社会人として取扱われ,その様な生活態度が許されてもいる。医学生と看護婦との関係もそうした現実の上に理解さるべきであろう。この映画は究極に於て,医学のヒユーマニズムの昂揚を謳つているのであるが,一方今日のアメリカ医学のあり方,医師のあり方に対する痛烈な諷刺も含んでいる。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら