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雑誌目次

雑誌文献

病院17巻3号

1958年03月発行

雑誌目次

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診療圏に関する分析

著者: 島内武文 ,   前田信雄

ページ範囲:P.163 - P.167

 われわれはある診療機関について,これを利用する人々の空間的分布の状態をいゝあらわす必要がしばしばあるので,こゝに診療圏という言葉がつかわれて来たものと思われる。
 これはある時点に在院または外来している人についてもいえるが,通常はある期間に診療機関を利用した人についていうか,あるいはこの様な利用の長期間の平均的な像を示すことが望ましい。又この分布を示すのには,その診療機関を原点とした各利用者への距離が問題となるが,距離には空間的な距離と時間的な距離とがあつて,後者はその距離を歩行ないし交通機関を利用して利用者が移動するに要する時間でこれをあらわす。なお距離には利用者が実際にたどるところの移動距離の他に直線的な距離がある。即ち{空間的距離{直線距離移動距離時間的距離(直線距離)移動距離となる。

入院患者の診療圏を規定する法則について

著者: 三宅正雄

ページ範囲:P.169 - P.174

 診療圏の大きさは一般に医療施設からの,患者の居住地への遠近によつて示される。しかしこの遠近という言葉には種々の社会経済的な要素が含まれ,単に施設と患者の居住地との間の距離のみを示すものではない。直線距離は近くても二点間に山や川などの大きな障害物があれば遠いし,逆に交通機関が発達している場合には,遠距離でも実質的には近い場合もあり得る。又距離は同一であつても,交通機関を最高度に利用し得る富める患者には近く,利用し得ない貧者にとつては遠い場合も起り得る。
 医療施設の内容も遠近を左右する要素である。例えば保険患者は保険診療を行わない施設が如何に近くにあつてもあまり利用せず,真に火急の場合に駆け込むに過ぎない。

医療機関の地域的利用について

著者: 額田粲 ,   三宅正雄

ページ範囲:P.175 - P.179

 著者らは医療機関を利用する患者の居住地より医療機関までの距離は,地理的距離についても時間的距離についても対数正規型の分布を示し,多くの場合医療機関より遠く離れれば離れる程,患者の医療機関の利用率が低下することを見出した。我が国の医療機関は一般に比較的人口稠密の地域を選んで設立されているので,機関より近距離の地域は人口密度が大きく,機関より遠ざかれば遠ざかる程人口密度が低下するのが普通である。その結果,上記のように来院患者のみについての距離的分布より地域的利用率を推測すると,必然的に誤りをおかすことになる。即ち近距離の患者の利用は過大視され易く,遠距離の患者の利用は過小視される傾向があると思われる。
 著者等は京都府立医科大学附属病院を対象とし,その来院患者について医療機関の地域利用率の調査を行い,その結果に基いて人口密度の補正をした場合の地域利用の理論的考察を加えたのでここに報告する。

医療機関の地域利用についての調査

著者: 吉武泰水 ,   浦良一

ページ範囲:P.181 - P.191

はじめに
医療機関には一般診療所,歯科診療所,病院,助産所,施術所があるがここには一般診療所,病院をとりあげることにする。(註)
 これら医療機関は職場附属の特定対象を取扱うものと広く地域に分布していて不特定の対象を取扱うものとにわけられるが(以下前者を職場医療機関,後者を地域医療機関と呼ぶことにする),主に地域医療機関について述べることにする。

診療圏限定基準に関する一考察

著者: 喜多村治雄

ページ範囲:P.193 - P.198

はじめに
 この小稿は昨年11月医療体系研究会(仮称)において私が報告したものの記述である。研究報告後の討議で私は出席の諸先生方から,厳しい批判や有益な指導を戴いたのであるが,それを完全に咀しやくし,自分の考え方の中でまとめるだけの十分な時間を持たないままにこの記述をしたので,この小稿の基本は当日の報告と大差はない。なお研究会では主として診療圏の限定尺度に対する考え方を述べたが,この小稿では「考え方」は概要程度にとどめ当日十分に触れえなかつた統計数字をそれにフオローさせていくことの方にむしろ重点をおきたいと思う。

結核療養所の診療圏

著者: 御園生圭輔

ページ範囲:P.209 - P.216

 日本においては,結核患者を収容するための療養所は明治23年(1890)に鶴崎平三郎氏によつて須磨の浦につくられたものが最初であり,明治32年には南湖院,恵風園,養生園などが民間人の手によつて建設された。
 大正時代に入つて始めて国家による療養所建設がとりあげられるようになり,大正6年に大阪に刀根山病院が最初の公立療養所として発足した。その後,次第に全国各地に官公立および民間人による療養所が建設されたが,当時の目標はせめて結核死亡者数と同数の結核病床数を整備したいものとされていた。昭和5年(1930)末には病床数はようやく4412となり全病床数の3.8%に達したような状態であつたが,昭和10年末には療養所数は106,病床数8090,全病床数に対する割合は5.1%にまで増加するにいたつた。

レントゲン写真の中央管理

著者: 杉岡直登

ページ範囲:P.219 - P.222

I.はじめに
 病院管理の近代化に重要な役割をもつものに,中央制度化がある。そして新設の病院は勿論,既設の病院も,歩一歩,中央化に進みつつある現状であるが,中央制度必しも10が10まで利点があるわけではなく,分散制度にも或る程度の利点があるところに,中央化に転換するさいの困難があり,抵抗がある。カルテの中央制度化なり,レントゲン写真の中央管理化なりを計画するとき,最も危懼の念をもち,反対の意向を表明するのは医師であつて,その最大の理由は,欲しいフイルムなり,カルテなりが,すぐ手に入らないと,ゆうところにあるのであつて,この点を解決すればその制度の中央化は,大半成功である。次には中央制度につきものの,伝票等の記入事項の煩雑さを最少限度に止めることができれば,非難されないで重宝がられるのである。私達の病院では,開院当初からレ線写真の中央管理制度を敷いて概むね順当に運営されていると考えるので,御紹介し皆さんの御批判を得たいと思う。

ソヴエト,チエコ見聞記

著者: 鈴木良平

ページ範囲:P.223 - P.227

 所謂共産圏の医療,衛生施設,医学教育については今迄あまり紹介されていない。何といつてもこれらの国々を訪れる医師が極めて少いということ,文献の入手が十分でないこと,又たとえ文献を入手できてもロシヤ語やその他のスラヴ系統の語学に対する知識の不十分さというものが,相互の文化交流の大きなさまたげとなつていることは否定できない事実である。
 私は1957年夏にはからずもソヴエト及びチエコスロバキアを訪問する機会を持つた。しかし突然の決定であり,準備期間が1カ月にも足りなかつたので十分な効果を挙げることができなかつた。しかし実際に見るこれらの国々の状況は,日本で予想していたものとはかなりのへだたりがあり,その社会制度の特殊性や風俗,習慣の相違とあいまつて,我々にはかなり興味のあるものであつた。

研修所だより

著者: 石原

ページ範囲:P.239 - P.239

 節分,立春,初午と過ぎて,そうした暦の足取りとともに,東京でも其処此処の庭前に白い梅の花が見られるようになりました。研修所も,今,本年度最後の研修会である長期研修会を開催中で,やがてこれが終れば又新たに体制をととのえて,4月からの新年度を迎えるわけです。
 今年に入つてからは,前号でもお知らせしましたように,先ず,1月21日から28日まで小規模病院の事務長を対象とした研修会が開かれました。主として秋期研修会の参加に洩れた方のみを対照としたことと,年度初めであつたことが関係したためか,参加者約20数名という短期研修会としては本年度最小のクラスとなりましたが,小病院には小病院なりの共通したいろいろな悩みがあるわけで,終始熱心な雰囲気に満ち,人数の割に活気のある研修会でした。われわれとしては,そのように特に小規模病院ばかりを対象とした研修会は始めてですから,果してそうした病院の現実の要望にマツチした講義内容を盛ることが出来るかどうかに若干不安をもつていたわけですが,感想録を拝見しますと,大体皆さん満足して下さつているので,まあ一応成功だつたのだろうと考えております。

あとがき

ページ範囲:P.240 - P.240

 本号は「診療圏」の特集と致しました。診療圏の研究の機運は数年前から起り始めましたが,これは主として医療機関整備上の問題からその必要を感ぜられたものでした。厚生省は,37年3月に,特定の三県について,広汎に各医療機関の調査を行つたが,本号に特集致しました各論文は,従前からこの問題に関心を寄せられていた東北大島内教室,東大吉武研究室,京都府立医大額田教室において,厚生省の調査資料並びに独自の調査から研究された成績を通じて得られた成果の発表であつて,統計調査部の喜多村氏及び保生園の御園生園長の知見をあわせて掲載することが出来ました。
 これらの論文から,いろいろの事が解つて参りました。恐らく各読者の病院の診療園に当てはめて考えられるならば,その法則或は傾向を自覚されることでしょう。即ち,施設の規模或は能力によつてもその診療圏の性能は定まつても来ますが,立地条件が又大きく影響し特に感じることは,大病院であつても,患者の大部分はそう遠くから来るものではないようです。そうなると,一定の地理的限界内に病院が影響するとすれば,病院はその限界を自覚して対策を考えるべきでしよう。即ち,その診療圏内の住民に対して,更に如何なるserviceを提供すべきかということが,その病院の使命として考える問題になるのではないでしようか。

グラフ

病院の予防医学活動

ページ範囲:P.199 - P.205

 病院の予防医学活動が時流の波に乗りはじめた.それは,先進国のことだけではないと,カメラは日本の現況を捉えた.写真は済生会中央病院及び母子愛育会病院.保健婦活動の一葉は聖路加国際病院に取材した.

病院長プロフイル・53

大阪赤十字病院院長 菊池武彦氏

ページ範囲:P.208 - P.208

全日赤病院のホープ
 10年と云う歳月は,やはり物事を一新する力があるようだ。大阪日赤が,方円坂の旧兵舎で,みじめな毎日を送つていたのも,今ではどうやら昔の語り草になりかかつている。
 日赤の大先輩前田松苗博士が,一生の仕事として心血をそそいで完成した筆ケ崎の大病院を,終戦直後,進駐軍に占領されて足かけ10年,昭和29年に漸く解除にはなつたが,それは余りにも住み荒されたみすぼらしい姿と変り果ててしまつていたのには,病院当事者も驚いて手を拱いたのだつた。それをこつこつと自力で修理して1年有余,31年5月に復元式を行つた時は,これはと見ちがえる程美しく復興していて,内外の招待客をして心から讃嘆の声を発せしめた。我が菊池院長はそうした仕事の影に悠然と存在を現わしたのであつた。

固定欄

診療,他

著者:

ページ範囲:P.228 - P.238

循環器センター
 結核症の減少或いは伝染性疾患の激減にともない,人間は癌その他の悪性腫瘍で死亡しなければ大部分の者は心臓血管疾患で死亡することになりそうである。それ程中枢神経系の血管損傷及び心臓性疾患は国民の死亡原因として他の疾患を遙かにしのぐ高率を占めるに至つている。
 現在各地の病院或いは府県の衛生部が中心となつて"高血圧センター""循環器センター""心臓センター"が存在している。大体においてその目標としているところは同じであるが,その内容については詳細には知らないが千差万別といつてよかろう。即ち各種の検査内容をどの程度やつているか,またそれ等の組合せの方法或いは栄養相談等の患者及び患者家族の指導方法等については,それぞれ特殊な方針を打ち出しているところもある。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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