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雑誌目次

雑誌文献

病院19巻3号

1960年03月発行

雑誌目次

特集 病院と緑化

「病院緑化運動」について

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.153 - P.155

 日本病院協会は,全国に呼びかけて,「病院緑化運動」を開始しようということを,昨秋の臨時全理事会で決定した。そしていよいよ今春から,その運動は全国的に展開することとなつた。
 そこで,この運動の趣旨と実施の方法について,この運動の発案者の1人である私から,読者の御参考になる点について私見を述べて見たい。

病院の環境と造園

著者: 江山正美

ページ範囲:P.157 - P.160

I.はしがき
 造園というと一般には庭造りを考え,和風の建築なら石組や池泉を,洋風の建築なら芝生や花壇を思い出すのが普通である。そして造園のもつ役割については家を飾り宅地を美しく取扱う技術だと考えるのが一般の通念である。近世になつてからは造園の分野も個人庭園から拡大されて工場,病院,学校,などの公共建築を対象としてきたが,それでも造園といえば建物の周囲を美しく取扱うことだというのが一般の考え方である。造園の分野は更に拡大されて公園や緑地,その上に自然風景を基調とする国立公園などのような自然公園にまで広がつているが,それでも造園の基礎理念は土地を美しく取扱う一種の芸術であるという点からは離れていない。造園をLandscape Architectureと考え,ひとつの芸術(Garten—kunst)であるとする考え方は,造園学が学問として形づくられて以来,今日までその基調を貫いている考え方である。この考え方は決して誤りではない。造園の基調が空間の造型であり,その意味で一種の芸術であることにまちがいはない。しかしながら近代の造園は芸術であると同時に,他のひとつの重要な一面をもつのである。重要な一面というのは科学である。ハーバード大学の造園学科では,造園をartであると同時にscienceであると定義づけている。そして科学としての造園を環境の改善に置くのである。

病院庭園の在り方について

著者: 桜井盛二

ページ範囲:P.163 - P.175

I.まえがき
 元来私は,園芸には趣味に近い親しみを感じていた。かつての苦しい戦時中など,好んで畑作りをした。秋晴の日ざしを浴びながら菜園に立つて,自分で蒔いて,自分で育てた,すなおにのびた野菜類など眺める時,そこには生活のみじめさもなければ,労働の過重も感じない。傷ましい周囲の環境から全く離脱して,何とも云わなれい素晴らしい心持ちになるのであつた。然し病院の庭園について,強い関心を持つ様になつたのは,それよりずつと以前のこと,ある新築移転したばかりの病院に赴任した時からであつた。
 病院は砂で埋め立てられた敷地いつぱいに建てられ,玄関先きの猫額の庭には,張られたばかりの芝と,34本の木が,申訳の様に植えられていた。周囲や,裏の空地には,木らしいものは1本も見当らない。雑草さえも,ろくに生えない地面は,全く裸のままで,うちすてられていた。それが鉄筋コンクリート建,味のない巨大な建物と相まって,「何と云う殺風景な病院だろう」と感じたのが,新任の私の第一印象であつた。

思い出の記—病院緑化運動前奏曲として

著者: 原素行

ページ範囲:P.177 - P.178

思い出の径
 昭和29年3月,広尾病院に,「柳は緑,花は紅」の病院庭園美化運動が起つた。発起人の自動車運転士渡辺貞雄君は,病院を愛する情は,全職員に甲乙ある可らずという考え方で,全員に10円均一の募金を開始した。私も,ポケツトから,10円玉1つだけを醵金して,均一制の掟に従つた。
 柳と吉野桜の若木が,構内の諸々方々へ植えられ,全職員の在職記念が終つたとき,渡辺発起人は,私へ,記念植樹のために,名文を書けという。文も下手,歌も下手,漢詩などは言語道断,という私は,七転八倒の思いで,やつとこんな愚作を書いた。愚作である以上,恥を知る私は,署名しなかつた。いつかは,詠み人知らずとなる日を待つている。

座談会

病院と緑化

著者: 吉田幸雄 ,   小川健比子 ,   桜井盛二 ,   石原信吾

ページ範囲:P.179 - P.191

 吉田 お集まりいただきましてありがとうございました。きようは,病院と緑化というテーマでいろいろお話し合いをしてみたいのですが,御承知のように,病院が患者によい環境を与えるということは,絶対に必要な問題であります。特に,病院は患者を収容して,そして,患者に,何と申しますか,生命の息吹とでも申しますか,そういうものを与えなければならない施設でもありますから,特に,この患者の環境ということを重視しなければならないわけであります。ところが,従来の日本の病院は,病院の直接の医療という問題については,非常に努力をして,内容を高めてきたのでありますが,患者の環境という問題については,おろそかにされていた面が相当多いのではないかと思うのであります。
 皆さん御承知のように,外国の病院へ行きますと,病院というものは,公園の中にあるというような感じを受けるのでありますが,日本では,非常に,殺風景な環境の中に,病院がおかれている。患者は家庭では,相当環境のいいところに生活しておるものでさえ,病気になつて入院すると,環境の悪い状態で,療養しなければならない,こういうことで,非常に矛盾した状態にあるのがわが国の病院の現状だろうと思うのです。

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病院医師の年齢構成・勤続年数—病院医師の人事にかんする調査研究(I)

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.193 - P.196

 1°病院医師の大半は,40歳未満の医員と医長とによつて占められている。また,これらの医師は,勤続年数が短かいものが多いということが知られた。
 2°ほかの医療機関従事者と年齢階層別に比較した結果,これらの医師の多くは,高齢になるにつれ,診療所開設に向うものと考えられた。
 3° サンプルの平均年齢は,農協市町村,もしくは郡部所在病院に著しく低く,また平均勤続年数も短かかつた。
 4°診療科別の平均年齢では,医長のばあい大きな科に高齢者が多い。なお,院長にはこれら大きい科(内科,外科,産婦人科)を専門科目とするものが殆んどであつた。

入院事務管理(第2報)

著者: 角田信三

ページ範囲:P.207 - P.210

序言
 私共は先に,中級病院を対象とし,文書規格の改善,事務の流れの改善等,入院事務管理の一端を述べて(病院第18巻第6号),御批判を願つたが,その際入院患者台帳,病棟医事連絡簿,退院患者台帳に一言触れておいた。
 此の3者の帳簿に就いて,更に詳細検討すると,事務上にも1,2の疑問と難点があるのは否定出来ず,新入院から在院,退院,退院後の医事処理,診療録整理保管に亘る一連の事務作業を再検討し,加えて事務簡略を計り得たので御批判を願いたい。

非イオン型洗剤とソープレスソープ型洗剤の汚染食器にたいする洗浄実験

著者: 大島虎之助

ページ範囲:P.212 - P.213

はじめに
 食器の洗剤としては今尚石鹸が使用されているが,最近中性洗剤(合成洗剤)が普及されその効果が注目されつつある。中性洗剤は石鹸に比べて洗浄力の点において,又労力的・経済的の面において格段の違いがある。今回私は中性洗剤のうち,非イオン型洗剤とソープレスソープ型洗剤について,小実験を施行したのでその結果について報告する。

読者の声

著者: H.I.

ページ範囲:P.213 - P.213

 前略。私共の病院ては,御誌を毎号精読いたしており,医局,看護婦事務局でも夫々多大の興味を以つて愛読,当院の改善に資するところ多大にて,編集の御苦心に対し,敬意と謝意を表している次第でございます。
 最近の例では,18巻12号御登載の長野療養所の阿部先生発表の低圧電気湯タンポ,十日町の尾口先生の医事統計等直ちに係員を派遣して取入れ,多大の便を得ています。偏えに御誌の御蔭と感謝しています。編集部の皆様の今後の御活躍を期待いたします。

あとがき

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.230 - P.230

 この3月号は,「病院緑化」の特集としました。御承知のように,1月30日の日本病院協会全理事会で「病院緑化運動要綱」が決定され,病院緑化推進中央協議会が出発しました。各地方でも,地方協議会を結成し,地方の国土緑化推進委員会の活動に参加され,既に「病院緑化」の活動に入られたところもあると存じます。そこで,未だその機運が助成されていないところを合めて,全国の病院の職員に,(1)「病院緑化」はいかなる意味を持つものであり,(2)それはどういう方法でなしうるかの知識を与え,この運動への共鳴を呼び起すことを目的としてこの特集号を編集して見ました。いえば内部PRであります。勿論充分なものではありませんが,病院職員特に幹部諸君に広く読んで戴くようおすすめ願います。

グラフ

病院の庭

ページ範囲:P.199 - P.205

 終戦の明くる年,焦土のうちに焼け残っていた痛々しい病院の姿を指して,私は,こう言った.「殺風景だナー」「だが,日本では病院の殺風景は通り相場だからナー」聞き手は淋しく肯いた.
 日本病院協会10周年記念行事として,この春には,病院緑化運動がはじまる.これに呼応して,「病院」を柳緑に花紅の「病院の庭」をグラフに掲げる.庭のある病院,緑濃き病院,花紅の病院は少ない.カメラマンの苦労は痛々しかったが,彼氏,締切り間際に写真を抱えて朗らかに叫んだ「日本の病院に庭は残っていた」.

病院長プロフイル・72

桜井盛二氏—新潟県立加茂病院長

ページ範囲:P.206 - P.206

 新潟県加茂市は人口四万数千の小都市で,新潟市へは汽車で1時間の距離.一般には家具製産で知られ,年賀ハガキの特賞桐ダンスも此処で作られた.県立加茂病院はベツト数170,県立病院中規模中位の小綜合病院である.
 この病院は元料理家を医療団奨健寮に転用したもので,県移管になるや一般病院となり,従つて昭和24年末から移転新築の計画起り34年度,看護婦宿舎と準看護婦養成所を円型鉄筋三階建に完成する迄この間10年,恰も近代病院管理の黎明期に当り,小病院とはいいながら敷地の選定から完成迄遺憾なく氏の手腕を発揮する事が出来た事は氏の苦心もさる事ながら,現在病院の管理者としての確固たる自信と将来への基盤を植えつけた所以であろう.とは云え数年前迄は,医事,看護業務,洗濯,果ては看護婦宿舎の雨漏りまで自ら陣頭指揮をされて居た様子,職員もその為に苦労した様に見受けられた.一体理論家である院長が陣頭指揮をとられる事は,ややもすればいわゆるワンマン院長であり勝ちであるが,氏の場合は皮層の見方で当らない.氏は陣頭に立つて研究された期で,病院管理が一時の付焼刃的に,2年や3年で身につくものでない事を見透されて居たのである.昨年の病院学会に「病院の庭園」と云うテーマをカラースライドで発表注目されたが,これも実は10年前病院建設時からの方針と研究であつた事は誰も気がつかず,スライド製作も氏の趣味の一つ位に考えて居たが,カラー趣味は研究手段であつたのである.

私の病院の試み

金銭登録機による窓口業務の合理化について

著者: 山下和生

ページ範囲:P.215 - P.217

まえがき
 技術革新の急速な進展につれて病院における新鋭医療機械の導入は最近特に目覚しいものがあります。
 これに伴つて病院の規模はしだいに拡大される傾向にあつて医事業務も益々繁雑多岐となつてまいりましたがその取扱方式は一部の大病院を除き一般的には未だ旧来の大福帳方式より脱し得ないで時代に取残されている感があります。

海外事情

アメリカ滯在1年間(1)

著者: 山村好弘

ページ範囲:P.219 - P.222

 このたび,私は科学技術庁派遣原子力関係留学生として,一昨年日本を出発,アメリカ合衆国ピッツバーグ大学医学部細菌学教室にて,1カ年間アイソトープを使用して結核病学の研究に従事しておりましたが,昨年9月25日空路羽田に帰国いたしました。その間厚生省国立療養所課及び科学技術庁原子力局ならびに私の所属しております国立療養所刀根山病院の方々に一方ならぬお世話になり,厚く御礼申し上げますとともに,私の見聞いたしましたアメリカ台衆国及びカナダにつきまして,拙文ながら御報告申し上げます。
 昭和33年8月31日出発予定の私の乗つた日航機ダグラスDC−7Cは約4時間遅れて9月1日午前2時雨雲をついて羽田を離陸,14時間の洋上飛行ののちハワイに到着しました。途中の太平洋上は日本近海に雨雲があり,出発して間もなく1時間はがぶられ通しでしたが,やがて快晴となり,夜が明けるとコバルト色の太平洋上を快晴にめぐまれて高度5,000米で飛行,ホノルルに着陸しました。時刻はハワイ時刻の午後8時30分,但し私の時計は日本時間の午後3時30分,おまけに1日わかくなつて8月31日です。飛行機から降り立つとさつと花の香をふくんだ微風が頬をかすめ,飛行場のはしには,いたる所に椰子が茂り,美人のスチュアーデスのかけてくれるレイを首に,常春の国に来たという感じがします。ここで税関,検疫,入国検査を済ませ,その夜はハワイで1泊。

固定欄

看護,他

ページ範囲:P.225 - P.229

看護婦にできる病院の緑化
緑の木蔭に三々五々屋根をみせている療養所は日本にも多いですが,病院となるとせいぜい周囲にめぐらした塀の内側に兵隊さんのように立木が一列に並んでいる位。それでも,戦前には,中庭をもつていた病院もあり,築山や池を眺めることの出来る病室だつてあつたことを思いますと,戦後の鉄筋コンクリート建のビル病院が土地のせまさから,又は土一升金一升のせち辛さから,何のゆとりもない,余りにも合理主義すぎる施設になりかけてきていることを残念に思います。歩行訓練の出来るようになつた患者さん達も,散歩を許された患者さん達も,せいぜい屋上にあがつて味気ないコンクリートの上をそぞろ歩き,電線や電車の走るのを見降し,はるかに僅かみえかくれする並木をみる位のたのしみしかないあわれさ,気分の転換も,精神的やすらぎもこれでは注文する方が無理というものです。大きな広い庭がなくても,向う側の家がみえない程の立木が植えてなくても,病院の緑化は考えられるのではないでしようか。ひさしのおしつぶされたように傾いた軒の並んでいる裏街の窓辺にも,又そのゆがんだひさしの上にでも,小さな植木鉢に花がさいていたり,オモトが植つていたり,朝顔の鉢が並んでいたりすることで,花を愛し自然を愛する国民として,日本人は外国にも紹介されているんですのに,その同じ日本人の働く職場には,その思いが通じていないのはどうしたことでしよう?

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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