文献詳細
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文献概要
寺田寅彦の数ある随筆のなかに,「病院の夜明けの物音」というのがある。
多分帝大病院のことでもあろう,ともかくも蒸気煖房装置のある大病院でのことである。ある入院患者が冬の明け方,まだ暗いうちに眼ざめてしまい,それからどうしてもねつかれない。シインと静まりかえつた曉の静寂に耳をすましていると,聞えるものは,たゞ自分の頭の中に聞える不思議な雑音や,枕におしつけた耳に響くザツクザツクという律動的な脈管を通る血液の響ばかり——それすらフト忘れてしまうと,たちまちにして又もとの悠久な静寂に帰つてしまう。
多分帝大病院のことでもあろう,ともかくも蒸気煖房装置のある大病院でのことである。ある入院患者が冬の明け方,まだ暗いうちに眼ざめてしまい,それからどうしてもねつかれない。シインと静まりかえつた曉の静寂に耳をすましていると,聞えるものは,たゞ自分の頭の中に聞える不思議な雑音や,枕におしつけた耳に響くザツクザツクという律動的な脈管を通る血液の響ばかり——それすらフト忘れてしまうと,たちまちにして又もとの悠久な静寂に帰つてしまう。
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