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雑誌目次

雑誌文献

病院21巻8号

1962年08月発行

雑誌目次

特集 人間関係

病院における人間関係の研究について

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.19 - P.22

病院の人間関係はいかにしてとり上げられて来たか
 わが国の病院管理の領域に,人間関係humanrelationsという概念がはじめて紹介されたのは,島内武文教授著「病院管理学」1)(1957)においてであり,さらに今村栄一博士は氏の著「病院管理の実際」2)(1958)において,人間関係的管理の一般的紹介から,さらに病院における人間関係管理の方法について附言している。特に前述の島内教授の著書は日本における病院管理学書の嚆失であるばかりでなく,病院という医療の組織の特殊な管理を解明するために,社会組織の氏の発展理論を背景として医療組織のあり方を説いたユニークのものであって,該書の大半である管理論は主として社会学的立場から考察が加えられたものということができるものであり,人間関係については調整機能の一課題としてのみとり上げているに過ぎないが,氏の病院管理の理念そのものが,総じて人間関係論的であることは注目されるべきであろう。
 さて,この人間関係が実際に,病院経営者の立場から明かな態度でとり上げられたのは,1960年春になって厚生省医務局国立療養所課主催で,主として国立療養所の幹部を対象とした「人間関係を重視した業務管理」3)研究会の開催であり,産業社会学者,産業心理学者,病院管理学者を加えて病院の人間関係管理の訓練的意味を含めた研究会が持たれ,経営における人間関係の知識と技法が多くの病院人に認識を高める機会を提供した。

モラール・サーヴェイから見た人間関係

著者: 早坂泰次郎

ページ範囲:P.63 - P.67

1.はじめに
 保健や看護の領域におけるモラール・サーヴェイの実施については,一,二その例を聞いている。それらはいずれも現場の管理者たちが,現実の要求に迫られて実施したもののようである。こうした試みはまことに貴重であり,努力は高く評価されるべきである。社会学者や心理学者たちはこれまで,産業内の人間関係やモラール・サーヴェイに惜しげなく探究的関心を向けてきたが,医療や看護の領域に関しては,ほとんど何の関心も向けていなかった。私はたまたま昨年秋に,200名あまりの看護婦につき,3回にわたって,モラール・ナーヴェイを実施する機会を得た**ので,ここではそれをめぐって思いつくままに記してみたい。

人間関係とコミュニケーション

著者: 斉藤美津子

ページ範囲:P.69 - P.72

I.コミュニケーションとは何か
1.従来の日本的コミュニケーション
 コミュニケーションということばは,辞書には「伝達」と訳されているのに,今日では英語をそのまま片仮名で書いて,一般に使用しています。これは戦後,民主主義の時代になってから使われている「コミュニケーション」ということばが,いわゆる「伝達」と訳されたものとは違った意味に使われており,また,その違った意味が従来の日本語になかったことを物語っているものといえましょう。それで新しいコミュニケーションとは,どのような内容のものでしょうか。
 数か月ほどまえ,臨床看護講習会に行ったときのことです。講演のあとで食事をともにしながら,看護婦さんからこんな話を耳にしました。「戦後,医療と看護はそれぞれ独立した分野になったにもかかわらず,まだお医者さんの中には,看護婦に命令的な口のききかたをする人がいて不愉快です」と。そうしたお医者さんにかぎらず戦前に教育を受けてきた人びとは,一部の例外をのぞいてほとんどがこの「命令的な話しかた」をして,相手を不愉快にし,相手を封鎖してしまう傾向をもっているようです。

研究 病院における人間関係

病院における人間関係の研究

著者: 吉田幸雄 ,   岩佐潔 ,   津田豊和 ,   塚本蝶子 ,   一条勝夫 ,   紀伊国献三 ,   杉政孝 ,   横山定雄 ,   岩中芳国 ,   小林肇 ,   波多野梗子 ,   臼田美智子 ,   平村たみ

ページ範囲:P.23 - P.28

1.研究のはじまり
 病院資本の増大化と建築設備の近代化は今日の病院の一特色となっているのであるが,しかしそこで働いている人の問題が管理上の焦点になっているということもまた事実である。すなわち病院組織を一つの人間集団と考え,その活動能力を最高に発揮しようとする試みが人間関係を主とした管理方式の重視となって現われている。この人間関係の重視という傾向はなにも病院にかぎったことではなく,今日では各種の組織体の管理運営についてみられるものであるが,次の3つの理由において病院においてはこの点が特に重視される必要があるように思われる。すなわち,(1)病院組織という人間集団においては患者というサービスの対象がその中にはいりこんでいて,それが医療のチームの一員でもあるというような関係になっている。(2)病院においては専門職種が非常に多く,その大部分は特殊な免許資格を要するものであるから,病院組織内で職種間を移動することが出来ない。したがって多数の閉鎖的な専門グループに分かれていて,相互の人間関係を非常にむつかしいものにしている。(3)病院活動の中心となっている医師は管理的責任者であると同時に第一線の作業員である。しかも医師の本質と思われている自由性と組織の持つ諸性格とを調和させる必要があるが,これらの点に割り切れない困難さがひそんでいる。したがって医師を中心とした人間関係に非常に複雑な問題が現われてくる。

院長

著者: 横山定雄

ページ範囲:P.29 - P.34

1.病院組織における院長
 病院という組織体は,従業員数からいえば決して大企業とはいえない。だが,そこに見られる人間関係構造は,次に述べるように普通の企業体に比べて,非常に複雑であり,管理者である院長の機能や役割(人間と組織の管理を中心に考えて)は,まことに複雑でむつかしいものがある。わたくしはこの数年間,幾つかの病院や療養所の人間関係の調査や研究に手をつけて,つくづくとそれ(病院の人間関係と管理者のあり方の複雑さとむつかしさ)を考えさせられている。
 ところで,最近になって病院管理の中で「人間関係」を重視する必要性が主張されるようになってきた。これは,最近の病院ストライキや看護婦問題がきっかけになっているとしても,それ以上に,病院関係者も,そこに参加し労働する「人間」の存在にやっと気がついたということであろう。それでは,現実に実際に,院長はどのような人間関係の中にあり,院長はそれをどのように受けとめているか,院長の管理者ぶりはどのようなものであるかなどについて,最近われわれの研究グループ(厚生科学研究による—班長吉田幸雄)が,「質問紙法」によって調査(36年度に病院管理研究所へ研修に参加した各種研修生を対象とする)した資料から,その一端を探り出してみようと思う。(なおこの研究班ではこの調査資料のほかに,某国立病院における「従業員面接研究」もあるが,これは後日に発表することになっている。)

事務長

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.35 - P.40

 調査対象の内訳は第1表のとおりである。
 調査対象には現在事務長の地位にいない次長,課長,係長など,事務部の中間監督者を含んでいるが,調査票としては区別しなかったので,結果において「事務長」としての回答と,「非事務長」としての立場からの事務長に対する批判,意見とがあらわれることになった。しかしながら「非事務長」は事務部に属し,事務長に近い立場にあるので,質問の大部分においてはかなり両者の答が接近しており,特に明らかな差異をみとめないほうが多かった。それゆえ,以下の叙述にあたっては,両者をとくに区別してとりあげる必要がない場合は,一括した結果を用いることにし,区別した意味で用いるときは「事務長」「非事務長」として表現することにした。

総婦長

著者: 杉政孝

ページ範囲:P.41 - P.45

1.公的な地位体系と総婦長
 組織における人間関係は原則としてそこにおける公的な職務および地位の体系との密接な相互関係において成り立つ。とくに,いわゆる人間関係論で重視される非公式な人間関係は,公的な職務や地位の組織の線にそって,あるいはその間隙を縫って,形成されることが多い。したがって,組織における人間関係を理解するためにはまずそこに形成され機能している公的な職務と地位の体系をみておくことが必要となる。まして,公的な組織が整備されていない場合にはそこにおける非公式な人間関係は組織の合理的能率的な運営に対してむしろマイナスの役割を果たす場合が多いことを考えれば,その必要性はいっそう大きい。
 さて,総婦長は病院における公的な職務・地位の体系をどのように認識しているであろうか。この点について,今回の調査に含まれている総婦長と他の部局の管理者との関係を示唆する諸問題の結果を綜合的に判断すると,各部局の職務関係とそれぞれの部局の管理者の間の人間関係とが必ずしも合理的な平行関係になく,したがって総婦長,医長,事務長という三管理者の間の地位序列や職務関係も混乱している場合が少くない。たとえば,総婦長のなかで,医師に関する苦情をその医師本人かあるいは直接の管理者である医長に訴える者が46%にすぎず,50%は院長に,また4%の少数ではあるが管轄の異なる事務長に訴えている。

医長および医師

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.45 - P.51

はじめに
 ここでは医長の調査票結果を中心にし,院長事務長,総婦長の調査票中の結果を一部使用して,医長および医師を中心とした病院内の問題点を解析してみた。したがって他の執筆者の報告と一部重複するところもあるかもしれない。ことに院長は医師であるので,院長に対する質問項目と医長のそれとが対比できるものについてはかなり多くの部分を使用した。また医長からみた看護婦や事務員に対する事項については紙面の都合で多くの部分を省略した。

座談会

病院における人間関係

著者: 橋本寛敏 ,   木下正一 ,   砂原茂一 ,   杉政孝 ,   吉田幸雄

ページ範囲:P.52 - P.62

 司会(吉田)きょうは病院における人間関係を中心にお話合い願いたいと思いまして,お忙しいところをお集まりいただきました。実は昨年の本誌の7月号で,同じテーマで座談会を開きました。その時には,主として病院内の各部の代表者にお集まりいただきました。病院の人間関係をどういうふうに病院では理解し,病院の運営に活用するか,院長先生のお立場でいろいろお話合いを願いたいと思っているわけでございます。そこで専門家として立教大学の杉教授にもお出を願って,いろいろな知識なり,お知恵を頂くことにしましたが,教授は昨年来病院の人間関係という調査を実際に病院管理研究所の人たちと一緒に進めていただいておりまして,この問題を今後掘り下げることについて,いろいろな疑問や興味を持っておられるので,杉教授とまた各院長先生がたと両方の関係で,ひとつこの問題を進めて頂きたいというふうに思っているわけでございます。最初に杉先生から人間関係の常識をお話いただきます。なお昨年来病院へお入りになって,病院の人間関係を調査した時にお感じになったことなどもあわせてお述べ下さい。

グラフ

院内巡視—INSPECTION

ページ範囲:P.9 - P.14

 院長は,事務長・看護婦長・営繕課長・院内整備課主任(ハウスキーパー)のほか,看護短大主事を加えてチームを編成し,毎週火曜日の午前中約3時間,雨の日も風の日も中止することなく万障繰り合わせて院内をくまなく巡視する。診療部門,診療補助部門,事務部門から汽缶,洗濯,給食,裁縫などの現業部門の活動状況を視て,そこの担当者と直接話をする。仕事の話のほかに,特に現業部門では個人的な話もでれば家庭の話もでることがある。視たり,聴いたりするうちに,仕事が順調に運んでいるかとうかもわかり,職場の希望なども理解できる。毎日一つの職場を守って働いている人々の言葉には傾聴すべき点が多い。反面,狭い範囲の仕事に専念するから時に視野の狭い偏った意見も出るが,これを善導するのが管理者の仕事でもある。設備の増改廃についての請求もあれば,小さな創意工夫の提案もある。人員についての苦情もある。話の内容はまちまちであるが,即決できるものは即決する。宿題として解決をのばす問題もある。
 日常ほとんど接する機会のない現業のおじさん,おばさんらと個人的接触ができて,彼らの家庭問題の悩みの親切な相談相手となることもある。その他デット・ストック,過剰在庫品,不用設備などを発見する時もある。

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質疑応答

著者: 岩佐 ,   K.K

ページ範囲:P.76 - P.77

副院長の役割り
 問 副院長のあり方はどのように考えたらよいでしょうか。(院長講習会)
 答 普通わが国でも外国でも副院長は院長に事故があり不在の場合にこれに代わって全権を持つことになっており,この点については問題がありません。しかし常時副院長がどの程度またどのような形で管理に参画するかはいろいろです。古参医長に与えられる単なる名前であって何ら管理的仕事を受持たない場合と,逆にほとんど管理的な仕事に専念する場合を両極としてその間にいろいろな段階があります。そこで一つの考え方は院長と副院長とを一つのカップルとして考慮し,院長の補完的役割を副院長に期待することが必要となります。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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