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雑誌目次

雑誌文献

病院22巻8号

1963年08月発行

雑誌目次

特集 病院経営の危機

病院危機現象と経営理念

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.17 - P.21

危機事実と危機認識
 病院の存立をおびやかす危機事態の認識は経営主体別にかなり大きな違いがあるようである。客観的事実としての危機要因はあるていど共通性があるけれども,危機感を感ずる側の経営当事者の意識には,開設者の意図,経営理念が関係するのでかなり大きな振幅をもっているのである。
 昨年末,ある病院の事務長さんと経理担当者の訪問をうけた。いろいろ聞いてみると,この病院は市立であるが,早くから地方公営企業会計制度で経理を行なって来た。ところが数年前から採算がくずれ出し,年々赤字が生じたので,その分を市中銀行から一時借入れてやりくりして来たが,借入金がたまりにたまって元金で億を越え,利子だけで千数百万円の巨額に達した。ところで病院としては赤字や負債対策もさることながら,明年の予算編成に当って収支のつじつまを合わせる都合上これに相当する収益源を考えなければならなくなった。いままでは患者数や1人当り収入のふくらましで年々の赤字に引当てて切りぬけて来たが,ついに限界をこえ今までのような方法ではおさまらないので智恵をかりに来たのだという。この病院では企業会計を早くからとっているので年々の赤字の事実は分かっていたはずであるし,それが年々雪だるま式に増加しているので,将来命とりになるであろうということは当事者には明白な事実であったはずである。すなわち危機の事実は早くから存在していたし,当事者も知らないはずはなかったであろう。

病院財政の危機

著者: 尾口平吉

ページ範囲:P.23 - P.30

 厚生省の病院管理懇談会要旨には,病院は,「現在の病院管理学上の通説によれば,次の4つの社会的使命をもつべきものとされている。
 1.患者の診療と収容看護ナービスを提供する。 2.公衆衛生活動に協力する。 3.医師,看護婦その他医療従事者の教育訓練を行なう。 4.医学・医術の研究に寄与する。」 病院がこれ等の使命を果たすためには,その裏付けとなる病院財政の健全化が必要であることは論をまたない。

日赤病院の経営実態—附武蔵野日赤病院の原価計算

著者: 神崎三益

ページ範囲:P.31 - P.35

 病院経営の危機—という言葉はすでにいいふるされたといってよいことだが,政府はじめ世間は案外に無関心だ。
 国民にしても,一朝事ある場合,自分の命を托すところなのだから無関心であっていいわけはないはずだ。

診療機能の危機

著者: 今村栄一

ページ範囲:P.37 - P.42

 病院機能の中心をなすものが診療である。しかし,現在の病院においては,診療機能は不安定の状況におかれており,このまま放置しておいては診療機能の危機は深刻となり,わが国の病院医療の低下を招来することが憂慮されるものである。
 以下,現在の病院における診療機能の問題点を取りあげ,識者の考慮をうながしたい。

農村病院経営の危機

著者: 真山篤美

ページ範囲:P.43 - P.47

はじめに
 「農村病院経営の危機」という標題を,編集者から与えられた。これには「最近の人集め難,人件費の問題を中心に特集テーマとの関連において考察せよ」とのサブタイトルがついている。
 問題はむしろ,医療を受ける,あるいは医療機関を選択する自由をもつ患者という名の国民大衆の立場から,農村においては,都会よりも,受療の機会が少なく,医療施設の選択の自由を欠くこと,受ける医療の内容が甚しく劣ること,などにあろう。

病院スピリットの危機

著者: 野村実

ページ範囲:P.49 - P.52

まえがき
 この表題をくれた編集者は,私に何を言わせたいのであろう。病院スピリットとは,はじめて耳にする新造語である。
個々の病院に特有な風格のようなものは,あるのが自然で,それは,何々病院のスピリットとよばれてよいだろう。しかし,病院なるもののスピリットということになると,そのような概念的なものが,いままであったであろうか,と問いたくなる。しかも,その危機とは,すでに存在した病院スピリットがいまや損われつつあるということを意味するのではないか!

病院の労働問題

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.53 - P.57

まえがき
 私は,今次春闘のなかで,経営者団体の一員として,上位団体間の統一団交や,いくつかの病院の団体交渉に参加し,組合との話し合いの機会を持ち,また病院財務資料の検討を行なってみたが,病院経営がほんとうに危機に直面していることをつぶさに経験した。この点については,労働組合側も政府の医療政策とからみ合わせ,医療の危機を率直に認めていることが明らかになった。
 病院経営の危機については,執筆を担当される諸先生方が,綜合的な見地からの分析が行なわれることと思うので,私は'63年の春闘のなかで経験した主要な労使問題を明らかにし,これに対する私見を述べてみることとする。

グラフ

生れ変わった大学病院—駿河台日本大学病院

ページ範囲:P.9 - P.16

 病院の近代化はどんどん進んでいる。それにともなって構造上老朽化した病院は改築され新築され,新しく生まれかわっていっている。一大学病院もその例外ではない。日本大学では医学部誕生の地である駿河台病院が,機能的でなくなった・というので,今度10億の工費をかけて新病院に衣がえした。
 新病院は私立病院である制約をうけながら,大学病院として診療,教育,研究の3部門が一体となるようにという永沢滋病院長の理想が随所に盛られ設計されている。このため,いろいろ漸新な方式がとられており,大学も近代化するという姿がまざまざと見られる。

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慢性精神病療養者の意見態度調査—慢性精神病患者の社会復帰教育(第2報)

著者: 井上正吾 ,   加藤孝正 ,   斉木佐智子

ページ範囲:P.59 - P.68

 在院患者の中で自由回答しうる精神分裂病者を無選択的に抽出し,項目,年令,性別等の特徴をみた。
1)院内の環境的要因では病院は「良い」「普通」とするものが圧倒的であるが,入院に際しては未知の者がこれまた相当に多い。施設が最もよいとして,次いで治療,職員となっている。治療に対する認識は,服薬,注射,作業療法に集まっている。
 院内の生活では作業,散歩,無為にすごすのが目立ち,医師,看護者と交渉をもつ割合は非常に少ないが,治療者側の態度に原因していないことは全体の60%以上が「良い」「普通」とみていることからもうなずける。
2)作業に関しては,積極的と無為的な者とで二分されているが,これは作業の種類にもよると考えられる。現在実施中の作業と希望している作業とは差異がみられることからもわかる。
 自由回答では男は肯定,批判的,女は肯定的傾向がみられた。
3)実際社会への復帰に対しては,男女とも若干差異があり,男の半数の者が自信がない,わからないとするのに女では38%程度にすぎない。職業の紹介においては30%程度が希望するのに残りは否定,無回答となっている。自由回答では作業関係と同じ傾向がみられる。
4)レクでは現在実施中のものと希望する種目に差がみられ新たに手芸,料理,華道等の教養的なものが含まれてきている。
 1週当りも1〜2回を適当とするものが多い。
5)社会生活上の教養,知識に関しては,それを希望するもの多く半数以上である。

WHOセミナー—公衆衛生分野における病院の役割

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.69 - P.71

1.会議の構成と目的
 このセミナーは,WHOの西太平洋地区事務所のあるマニラで5月13日から20日まで開かれました。わが国からは私と厚生省医務局病院課の神辺嘉秋技官とが出席しました。台湾からはわれわれとはなじみの深い省立基隆医院院長の王金茂先生と衛生処の呉金盤先生,朝鮮からは国立保健院の張庚復先生,琉球からは医務課長の池間啓さんが出席され,これらは皆日本語を話せる仲間でした。このほか,Laos, Malaya, North Borneo, Singapore, Vietnam及び遠くFiji諸島と地元Philippinesの代表を合せて17名が出席しました。更にアジア地域のUNICEF代表Hitch氏,それからCambodia, Saigon,Bangkok, Seoul, Manilaに駐在するAIDの代表がObserverとして出席しました。この内にはわれわれとなじみのPorter氏の顔も見えました。
 各国からの出席者はそれぞれの政府が推薦した者ですが,政府代表ではなく個人の資格でこの会議に参加し自由に発言することになっていました。また会議をうまくすすめるために3人の顧問がまねかれていました。1人はDr, Grschebin (グエシェービン)でIsraelの国立Ra—mbam病院の院長でおなかの大きな布袋様のような人でした。

事務長日記

著者: 檜原謙

ページ範囲:P.87 - P.89

6月1日(土)
 午前9時から全職員を集めて講堂で新院長の挨拶がある。皆がユニホームで整列しているからということで,白衣をつけていただくことにする。ところが,ハウスキーパーが間違えて女性用を持ってきたのを気がつかなかったために,どうしてもボタンがはめられない。前院長の紹介で壇上に立ってからはじめて女性用とわかり,院長も職員達も笑い出してしまった。期せずしてなごやかな雰囲気が生み出されたのはまさに怪我の功名だ。
 新院長は「医師の研究促進の必要性」を説き,こうした近代病院からこそ「臨床医学の輝かしい進歩と成果」が期待される旨を強調して,その卓越せる信念と抱負を約15分にわたり力強く開陳,一同に多大の感銘を与えたが,ただ,一般職員に対する話しかけが若干不足した感は免れなかった。しかし,これは就任早々の院長にそこまで求めるほうが無理で,聰明なる新院長に対しては,そのことで別段何も案ずることはないのであろう。

質疑応答

著者: 一条

ページ範囲:P.99 - P.99

原価償却費
 問 現行の社会保険診療報酬の計算基準のなかに減価償却費は入っていますか(142回病院長研修会)
 答 社会保険診療報酬を決定する根拠として,全国医療機関の1カ月1施設当り必要経営費用の推計を行なっていることはご承知のことと思います。実際にはその基礎となる医業経営実態調査は昭和27年3月のもので,その後本格的な調査がないため,現行のものもその後の物価や生計費,取扱患者数の変動をとり入れて修正したものです。

あとがき

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.100 - P.100

 盛夏に本号をお送りします。本号では「病院経営の危機」をとりあげ特集しました。病院の危機は数年来叫ばれてきましたが,最も大きな財政の危機はいよいよ深刻さを増して来ました。36年度の医療費の一部改定も応急処置の域を脱しませんでした。人件費と物件費の増嵩は止まることなくヒシヒシと持続しています。そして財政的に困窮すればする程,労働問題は深刻となり,一方医療の進歩の停滞または後退は正しい医療への関心を冷却させて来ます。程度の差はあるとはいえ,全国の病院がかかる状態に突入して来ている事実はかくすことはできないでしょう。この際,病院経営関係者は病院の危機について,単に抽象的あるいは感情的に危機を叫ぶことよりも,もっと現実的に客観的に冷静にそれを見つめて対処すべき時期に来ていることを認識しなければならぬでしょう。この特集を試みた意味はここにあります。

病院管理講座 理論編・8

病院の組織(Ⅴ)

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.73 - P.77

 前号では医師の組織について述べたが,本号においては看護の組織について述べよう。

実務編・8

病院給食管理の実際(Ⅱ)—栄養管理

著者: 永田優

ページ範囲:P.79 - P.85

1.栄養管理のポイント
 病院給食を栄養的に見ると,(1)衰えた体力を増強して,治癒機転を促進するために,(2)冒された臓器を庇護し,または,増強するための栄養療法として,(3)栄養療法以外に処置のなくなった患者の治療手段として,特定の栄養素や食品の制限又は増量を行って,しかも,毎食の栄養のバランスをはからなければならな責任をもっている。したがって,栄養管理のポイントは治療目的に合った食事を供することを第一とし,この食事を患者が美味しく気持よく全量を食べてくれるような配慮をいたし,その上に,食中毒や集団伝染病等の事故の発生を見ることのない,安全で信頼される供食をすることにある。しかし,現実には,その対象は千差万別で,20数種類の食事があることから,理論どおりには運ばない。したがって,理想に向ってその努力が関係者に要求されることになる。

Hospital Topics 経営

生理休暇について

著者: 菅谷章

ページ範囲:P.90 - P.91

 病院職員のうち,女子職員の占める割合は極めて大きい。そこで今月は女子に特有な生理休暇の問題について取上げることにする。

看護管理

アメリカの准看護婦—その年令と婚姻状況の准看護婦としての成功との関係を中心に

ページ範囲:P.91 - P.92

 最近の看護婦不足への対策を論ずるにあたって,准看護婦制度が再検討され,実にさまざまの論議がたたかわされている。准看制度を全廃せよとか,准看から正看への昇進を容易にせよとか,一方には看護婦准看護婦がそれぞれの業務の分担を明確にすべきであるとか,いろいろな意見がある。
 アメリカはじめ諸外国には,准看護婦にあたる職種があるのだろうか。そして,彼女たちはどのように扱われているのだろうか。いま「アメリカにおける准看護婦の年令と婚姻状況」というひとつの資料を中心に,准看護婦というものの性格を客観的にとらえてみよう。

給食管理

糖尿病の食餌療法の新しい方向

著者: 宮川哲子

ページ範囲:P.92 - P.94

 糖尿病の食餌は昔のように禁止する食品はなく,何を食べてもよいが,その人に必要な熱量(カロリー)を決めたら,その枠をガッチリとし,栄養のバランスのとれたものとし,長続き出来るように各種食品を交換して食生活に楽しみを持つようにすることです。
 糖尿症の正しい治療はこの病気に対する深い理解がなくては出来ないので,このような目的から最近各地に糖尿病教室が開かれているようです。正しい治療と不断の注意,そして家族の理解と協力がほしいものです。

特殊病院

精神病院の職員宿舎

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.94 - P.95

 精神病院病棟建築は1793年の昔かち論議され,我国でもここ5〜6年前よりモダンな病棟が完成されつつあるが,従業員宿舎について言及されることは少ない。慢性疾患を対象とする療養所は交通不便の場所に建てられることが多く,従業員の大部分は官舎住いを余儀なくさせられる。宿舎は公務を離れて私生活を営むところであるが,官職によっては定められた時間外にも病院業務に従事することがしばしばである。それでなお一層,宿舎には憩いとwell-beingの条件を揃える必要があるが,実際は病院経営主体,外国では自治団体,市や県の地方議会が宿舎の重要性を認めず,建築予算を削り,不満足な1時的なものとなるのは洋の東西ともに同様である。今までも,官舎が病棟のすぐ近くにあったり,病院と官舎が隣接していたり,または宮舎が粗末で,居住設備が悪かったり,宿舎群に乱雑に割当るため居住者間に職場の対立がもち込まれたり,逆であったりして,宿舎のAd-ministrationは相当問題点を含んでいる。
 フランスのVosgeに完成された精神病院の宿舎は最初から県会が深い理解を示したので,広い敷地に相当思い切った設計ができたという。病棟が12もあり,1300床あまりで,病院の敷地だけで長辺2km,短辺1kmもあるという広大さである

霞ガ関だより

麻酔科標榜の許可申請について

著者: 厚生省

ページ範囲:P.96 - P.96

 医療法第70条第1項第3号に規定されている,いわゆる特殊診療科名として,麻酔科が認められて以来すでに約3年が経過し,その間に636名の者が許可を受けている。最近では,外科の手術を行なう大病院ではほとんど例外なしに麻酔科が設置されているのは,医学医術の専門化,高度化,を示す一つの例であろう。
 さて,麻酔科の標榜は別紙(末尾参照)の基準に合致するものに対して,厚生大臣が医道審議会の意見を聞いて許可することとなっているが,実質的な審査は麻酔学会の権威の方々により行なわれている。現在のところ,年に3〜4回程度審査が行なわれており,申請のあったものの多くは1回の審査で許可されるが,なお,毎回20数件が保留となり,調査その他で許可されるまでに多くの日時を要している状況にある。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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