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雑誌目次

雑誌文献

病院23巻4号

1964年04月発行

雑誌目次

特集 医療社会事業

病院管理上からみた医療社会事業の活用

著者: 桂重鴻

ページ範囲:P.15 - P.19

1.はじめに
 医療社会事業は成り立ちの初期には貧民救済を主な目的としたが,いまでは患者の経済的方面の援助手段を考えてやることのほかに,進んで患者(広くクライエント)の社会的,家庭的,情緒心理的問題の根本をさぐって,患者に対する医師の診断,とくに精神身体症または精神症の診断に資料を与え,また心的の悩みに対する相談相手となって,医療に協力することが大切な役目となっている。しかし一般的には医療社会事業士(Medical Social Worker, MSW)の仕事,とくに心理的方面の労作援助によって,診療に協力する任務がMSWに課せられていることを認識する人は甚だ少ないように思われる。私の任地岩手県は,東北6県のうちでは最も多くの日本医療社会事業協会の会員を有する県であるにもかかわらず,周囲を見わたしてこの認識不足の感を深くさせられるものがある。ここには,1962年外遊のおりに訪問したPresbyterian Hospitalの医療社会事業と岩手県立病院の医療社会事業の状況を比較して,この事業がいかにあることが望ましいかというようなことにつき私見を述べてみたいと思う。

医療管理と医療社会事業

著者: 金久卓也

ページ範囲:P.20 - P.25

 1.
 私は精神身体医学の角度から,内科学を見直してみるといったことをしている者のひとりであるが,本日はその観点からみて医療社会事業というものが,病院の医療管理上必要不可欠の要素であるということについて述べてみたいと思う。
 精神身体医学の角度から病人を眺めてみると,第1図に示す通り,病気を3つのカテゴリーに大別できると思う。第1は,疾病の発生上身体因子が主役を演じている場合で,これがいわゆる身体病(somatic disease)である。この場合も,たとえば心理的ストレスが長くつづいて肺結核症が発生するといったふうに,心理的因子が多少とも病原的に働く場合がしばしばであるが,病気の主因は身体学的な因子であるということになる。一方の端には疾病の発生上心理因子が主役を演じている場合があり,これを身体病に対応させて心理病(psychological disease)と名づけてみるとすれば,その代表的なのが神経症であるといえる。第3にちょうど両者の中間に位置し,身体因子と心理因子がほとんど同じ比重で働いて,疾病の発生あるいは持続を条件づけている場合が考えられる。これがいわゆる精神身体症(psychosomatic disease)であると私は考えている。気管支喘息などその代表的なものである。

入院患者取扱い上におけるサイコ・セラピーの効用

著者: 森脇要

ページ範囲:P.26 - P.29

 長期に亘る入院生活が,患者にいろいろな不満や不安を与えていることは,関係者に十分知られていることである。患者たちの不安や不満はいろいろである。自分の身体でありながら,自分の思うようにならないこと,いろいろな苦痛,回復の希望に対する不安,いろいろな行動あるいは活動の制限,種々の欲望あるいは欲求の制限等に対する不満,家族や病院から十分な配慮が払われていないのではないかという不満,自分や家族の経済状態に対する不安,退院後もとの職場に戻れるかあるいは希望するような適当な職場にもどれるであろうかという不安,こうした不安や不満は人それぞれによってそれぞれ特殊である。こうした情緒の不安定は多くの患者の入院生活における不適応行動を生じ,また病気の回復自身も著しくおくらせているように見える。こうした情緒不安を除くことが出来れば,ある程度医師や看護婦の患者の取扱い方を容易にし,また病院中での適応をよくし,入院患者の管理を円滑にすることが出来るであろうということは昔から考えられており,医師や看護婦達が本来の医学的治療の外に多くの努力を払っていることである。しかし,こうした情緒の不安は,それがはげしい場合には,病院関係者の能力の限界以上であることもまた経験的に理解されている。こうした問題を解決するために,アメリカでは,メディカルケース・ワーカーや,ソーシャルケース・ワーカーを採用することによって,多くの成功を治めている。

事務長の立場からみた医療社会事業

著者: 山浦俊治

ページ範囲:P.30 - P.33

はじめに
病院経営管理改善懇談会懇談要旨によると
 事務長の職務には2つの面がある。1つは事務部門の長として事務業務を統括することであり,他は病院の使命の万全を期するために,院長の補助者として病院経営の全般にわたり院長を補佐することである。と規程されている。
 私は,かかる立場から,医療社会事業について日頃考えていることの一端を述べてみたいと思う。

医療社会事業部設置のために

著者: 中島さつき

ページ範囲:P.39 - P.43

 シドニー大学でミス・オグリビイの医療社会事業の講義に出席したとき,医学の歴史について話しておられた。彼女は医療ソーシャル・ワーカーは,医療チームの中で仕事をしてゆく上に医師と一番関係が深く,これを理解するために生徒に勉強させるのだと言われた。
 私はその折,今までうかつに使っていた「人生は短く,芸術は長し」という言葉が,偉大なる哲学者であり,医学の父ともいわれたヒッポクラテス(Hippokrates, B.C.460〜359)の言ったことだと知ることが出来た。その時ミス・オグリビイからきいた。

結核療養所における医療社会事業

著者: 鈴木幹二

ページ範囲:P.44 - P.47

1
 ここ1,2年来,結核療養所の医療社会事業は,ひとつの曲り角にさしかかってきている,というのが,私の実感である。発足以来,10数年を経過した私たちの仕事が,うまくすれば,ここで一段の飛躍をする好機でもあるし,へたをすると,下降線をたどる転回点にもなりかねない,そういう時期が来ていると思う。
 地方の一国立療養所に勤務する私の狭い視野で,ひろく療養所のこととしてものをいうのはおこがましいが,国立療養所については,私たちも,よい資料を持っている。昭和35年から36年にかけて,当時の国立東京療養所山本武夫氏を中心として,全国の国立療養所ケースワーカーによる共同研究が行なわれた。これは,深津要博士を班長とする国立療養所結核精神衛生研究班の一分科としてなされたもので,ケースワーカーの実態調査からはじまり,取扱っているケースの内容,ケースワークの方法,面接態度の調査から,さらに,ワーカー自身のパーソナリティ・テストにおよぶ,広汎な調査であった。その結果は,5冊の報告書(通算約200頁)にまとめられている。まずこの調査結果をよりどころにしたい。

綜合病院における医療社会事業

著者: 小松志づ

ページ範囲:P.48 - P.52

Ⅰ.はじめに
 一般に綜合病院の規模は大きく,その実情もさまざまであろうが,全領域にわたって診療が行なわれ,特に外来は毎日非常に多数の患者を扱わねばならず,その上入退院もはげしいので,診療部門の複雑さと事務部門の煩雑さによる忙しさは他の療養所や単科病院の比ではないであろう。綜合病院のソーシャル・ワーカーは特に広い医学知識を必要とし,いつでも緊急事態に応じられる態勢を整え,常に外部機関との連絡を密にしておく必要がある。現在,病院にせいぜい2〜3人までという少数のソーシャル・ワーカーしかおかれていない現状では,毎日各外来部門から紹介されるケースの援助に追われている現状であり,将来は少なくも各診療科別に1人づつおかれることが必要と思われる。今ごく普通の綜合病院における医療社会事業の一例として大阪厚生年金病院における医療社会事業部の状況を簡単にご紹介してご参考に供したいと思う。

精神病院における医療社会事業

著者: 森井利夫

ページ範囲:P.53 - P.57

Ⅰ.医療社会事業と精神医学的社会事業
 私に与えられたテーマは「精神病院における医療社会事業」であるが,精神科領域に貢献する社会事業(ソーシャル・ワーク)のことを精神医学的社会事業(Psychia-tric social work)として,いわゆる,医療社会事業(medical social work)と区別されているのが現実である。もとより社会事業(以下ソーシャル・ワークと記す)はゼネリックな理論と技術の体系をもつものであるが,それが実践されるのは,それぞれ異なった領域においてであり,その呼び方も領域の内容と結びつけて表現されるのが普通である。たとえば,児童福祉,身体障害者福祉,医療社会事業,学校社会事業等というように。
 さてそこで,精神医学的社会事業というのも,医療社会事業と並列する独自のソーシャル・ワークの分野である,という立場と,医療社会事業の一部である,という立場とが考えられるのであるが,従来は発展過程の多少のちがいから,前者の考え方が一般に支配的であったようである。

大学病院における医療社会事業

著者: 大島元子

ページ範囲:P.58 - P.62

Ⅰ.はじめに
 最初に社会事業部が設けられたのは,1905年アメリカのマサチューセッツ綜合病院においてであるが,その創設に刺激を与えるとともに,それ自身成果の高かったいくつかの事業の一つに医学生の実際活動があった。
 すなわち,ジョンズ・ホプキンズ大学のH.M.ハード博士は1902年同大学の第4学年の学生を社会事業施設にボランティアとして派遣したが,学生達はそこで身体上の病気と家庭の環境条件との密接な関係を観察することを覚え,真に患者を知り,疾病を正しく理解し,「病める人」をいやすためには彼等が大学で学んだこと以外に多くの要因に考慮をめぐらさねばならないことを知った。そして,それぞれサービスした家庭の問題について討議するために研究会を持つようになった。当時ジョンズ・ホプキンズ大学病院の院長であったオスラー博士は,かねてから医師達が「病める人」として人間全体を対象にして医療を行なわれねばならない。それには身体的側面に家庭的,精神的,社会的側面をもあわせて対象とすることの必要性を痛感していたので,この研究会に深い関心をよせた。マサチューセッツのキャボット博士が,ボルチモアを訪問してこの学生の研究会に興味をもったのは1903年のことであるが,オスラー病院長はこの学生の研究会の経験を学生教育という面から取り上げた。

欧州の病院医療社会事業

著者: 菊地浩

ページ範囲:P.67 - P.72

はじめに
 筆者は1962年度のWHO (世界保健機関)のフェローとして,「欧州各国における住民健康管理の研究」という主題で欧州の国々を見て歩くことができた。主題でお分かりのように,研究の目的は保健所を中心とした衛生行政の組織と機能をみることにあったため,医療社会事業について充分な日時をとることができなかったので,どうしても皮相的な見学に終ってしまったが,医療社会事業が一般社会事業から分化していないユーゴスラビアとチェコスロバキアを除き,スェーデン,オランダ連合王国(イングランド及びウェールズ,スコットランド,北アイルランド),及び西ドイツの4ヵ国では,一応現地の医師やワーカー諸姉と直接お会いし,種々実情をきくことができたので,ここに訪問した順序にその概要を述べ,関係者の御参考に供したいと思う。

第13回日本病院学会 ケース・ワーカー専門集会要約

著者: 吉田ますみ ,   原素行 ,   吉田幸雄 ,   佐川誠一

ページ範囲:P.73 - P.77

 実は本日は厚生省北海道地方医務局長の有末四郎先生がご発表くださるところでございましたけれども,あいにくと先生は長崎にありますところの国立病院ならびに国立療養所の学会の方にお出かけになりましたので,私が代わって報告することになりました。
 座長は厚生省北海道地方医務局長であり,また現在,日本医療社会事業協会北海道支部長をしておられます有末四郎先生でございました。発言者は次のとおりでございます。

グラフ

MSWの働き—治療効果をあげる患者の生活指導

ページ範囲:P.5 - P.12

病気という敵を攻撃の目標にするのが,医師の主なる仕事。患者生活の世話,指導などを行うのが看護。これだけでは,まだ医療は完成しない。患者は,いろいろのメディアムのうちに生活していることを,見落してはならない。社会的,家庭的環境,あるいは,自分の心のうちにも,いろいろの心理的問題がある。これらが,時どき,医療の妨害になる。医療補助業務の一つとして、以上の問題を担当するプロフェッションが重視されている。
Medical Social Serviceは,医療社会事業と翻訳されているためか,時どき所謂社会事業なりと誤認されたこともあって,一部の病院では筋違いの仕事を,MSWにさせていたこともあったという、比較的新しい業務が,生長するまで,月日を要することであるが,何は兎もかく,そこに理解と必要性の感得が大事であると思われる。

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救急患者管理の経験

著者: 根上民夫 ,   総合病院熱海胃腸病院事務員一同

ページ範囲:P.79 - P.81

 池田内閣の所得倍増計画が公約されて,神武景気を一応の頂天として,社会現象ははなやかな一面を呈して来た。熱海自体においてもデラックスホテルが林立し,バスや自家用車で街はうずまり,動きがとれないほどはなやかさを醸し出している。
 しかしその反面複雑な社会機構に押し流され,敗残者化したか,またはしかかっている人々が熱海という特殊環境に引かれて,ふらふらと集まって来る現象もまた現代社会の別の一面として見のがすことのできない点であろうと思う。

あとがき

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.100 - P.100

 陽春4月輝—やかしい太陽に,万物これ生育のときです。幸い低医療費の暗雲もようやく切れ間を見せ,待望の医療費値上げの薄陽がさしはじめることも間近かのようです。新たな勇気をもって今年度も頑張りましょう。

病院管理講座 理論編・16

病院の組織(ⅩⅢ)—管理者論(その4)

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.83 - P.87

 病院管理者のなすべき義務について概説してきたが,この義務は非常に多方面にわたっていることを認めざるをえない。このことは,他の各種の事業と比較にならない位い全く特異である。従って,病院という特殊な要素と問題を持った施設を円滑に管理しなければならない病院管理者は,誰にでもなれるというものでは決してない。それには特別な素質と能力を持っているものでなくてはならないことになる。
 わが国では医療法によって,病院管理者は医師でなければならないとされているが,従来の慣習のように,単なる臨床の大家であるというだけではこの管理者の任務を全うすることはできないだろう。それではどういう資格を持っているものが適当であるだろうか。この病院管理者の資格について述べてみよう。

実務編・14

中央診療記録室の実務

著者: 栗田静枝

ページ範囲:P.88 - P.92

 中央診療記録室の実務の基本的かつ実際的な働きを述べるに当たって,病院(聖ルカ病院)の中央診療記録室とはどんなものか,診療記録がどのように作られているかを簡単に説明する。
 聖ルカ病院では入院中央診療記録室と,外来中央診療記録室と二つに分かれていて,全く離れた場所にそれぞれ異なった組織で独立している。もちろん両室は密接な関係があるので,業務上の連絡も毎日とられているが,整理,保管,の実務はおのおのの便宜と必要性に応じ,特徴を生かした運営が行なわれている。今回は特に,入院中央診療記録室についての基本的な実務の重なものをとりあげてみる。

ニュース

日本病院管理学会の近況

著者: 一条勝美

ページ範囲:P.87 - P.87

 わが国の病院管理学の発展をめざして本学会が結成されたのは38年4月のことでしたが,同年7月に第1回研究発表会を東京の日大駿河台病院で開催し,当日の模様についてはさきにご紹介しました。
 その後,時日を経るにつけ,会員も日ましに増加し,いろいろ催しもありましたので,その経過と今後の予定を紹介して,皆様のこ参同を得たいと思います。

霞ケ関だより

結核予防法と病院

著者: 中沢幸一

ページ範囲:P.97 - P.97

 結核予防法が現在行なわれているような形に制定されたのは昭和26年のことであり,以来13年の間この法律に基づいて,わが国の結核対策が実施されてきたのである。その間結核事情の変遷,結核治療医学の発達,社会的経済的状況の好転などに従って,その時期に適合するように種々の改正が行なわれ,現在は健康診断,予防接種による結核予防施策,登録,指導による患者管理施策,一般患者に対する医療費公費負担および感染源対策としての命令入所制度とこれに伴う医療費公費負担による結核医療が,一貫して実施されるよう結核対策の大系が樹立されているということができる。
 特に昭和38年5月1日には,結核医療の基準が全面的に改正され,医療費の公費負担が行なわれる範囲が,結核性全疾患に拡大されるとともに,化学療法の使用法も大はばに拡大され,結核医療の上に大きな進展が見られたことは周知のとおりである。この点結核医療に対する医療機関の役割は,ますます大きくなりつつある。現在結核予防法に基づく事業を遂行してゆくためには,医療機関が行なう仕事はまことに重要であり,この機会に結核予防法において医療機関が関係している事項を改めてふりかえつてみることは,結核対策の推進のためにも重要であると考えられる。

病院管理研究所だより

病院管理専攻科研修要綱

著者: 病院管理研究所

ページ範囲:P.98 - P.99

1.目的
 病院は医療組織体であり,また経営体でもある施設である。これを管理するには,病院管理に関する相当の知識と経験を要する。
 しかるにわが国の従来の病院管理者は,臨床としての権威が要請されるのみであったが,近時ますます病院の組織は拡大し機能は複雑となり,且つその経営も至難のものとなってきた。かかるすう勢に対処するためには,この管理者に配するに,病院管理の専門的知識を有するものを配せざるを得ない。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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