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雑誌目次

雑誌文献

病院24巻8号

1965年08月発行

雑誌目次

特集 総合病院における精神医療

精神医療のうごき

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.15 - P.21

大きな流れ
 哲学,社会学,心理学などの精神医学隣接諸科学は,今世紀になって,ようやく"人間存在"を追究し始め,それまで世間の片隅にうち捨てられていた,いわゆる狂人にも"人間理解"の眼が注がれるようになった。その結果,鉄格子のかなたにおしこめられていた精神病院入院者の処遇や,退院後の復帰能力がしろうとの識者の話題にのぼった。
 2回にわたる大戦は,国内や国家間の新旧勢力の交替,住民所得の平均化を招き,生活テンポの高速化と生活様式の変化は,情緒の不安定や心的緊張の高揚をひきおこし,社会の複雑多岐化は適応をますます困難にしている。これらの影響で,潜在精神障害者の顕化,行動異常者の増加,社会不適応者のひん出となり,健康者も生活基盤のもろさから,より確実なwell-beingをのぞみ,精神科学に人々は多きを求め,精神分析は流行し,精神衛生は日常語となった。

総合病院の精神神経科のあり方—とくにコンサルテーション・ワークの実態

著者: 富永一 ,   石田元男 ,   折橋洋一郎

ページ範囲:P.22 - P.26

まえがきと精神科設置の必要性
 たしか30年ほど前に,精神神経学会から政府当局へ,総合病院に精神神経科をおくように,要望書が出されたと記憶している。内村東大名誉教授や関根国立武蔵療養所長などの方がたも,はやくから総合病院に精神科を付属させる必要性をのべていられた。それでもわが国の医療行政には,この要請がいまだ十分にいれられずに今日に至っている。全国に80あまりある国立病院についてみても,その3分の1にもみたぬ約20の病院に精神科がおかれているにすぎない。それ以外の公私立病院でもほぼ同様で,名前は総合病院でも,精神科をもたぬ病院がその大半をしめている現況である。
 私どもの病院では,今次大戦後,陸軍病院から国立病院になったとき,故坂口初代病院長と内村東大教授のはからいで,神経科が加えられ,現市川病院長になって,昭和38年末からは,それが精神科となり今日に至った。陸軍病院の頃には,国府台陸軍病院に移されるまでの短期間,患者を収容する監置病棟が1棟あったにすぎなかった。東一に精神科がおかれてから,外来,入院患者で精神神経疾患を併発したばあい,ただちに適切な診療がうけられるので都合がよいと,故坂口先生ものべていられた。

内科と精神神経科

著者: 千葉保之 ,   春原千秋

ページ範囲:P.27 - P.31

はじめに
 わが国においては,戦前には大学病院以外で精神神経科(神経科または精神科)が設けられていた総合病院は,2,3の国立病院をのぞくとほとんどみられなかった。その理由はいろいろあろうが何よりもまず第1に,一般の人々の精神医学に対する理解と認識の低さがあげられよう。すなわち精神神経科といえば,精神病患者,つまり狂人をとりあつかう特殊な診療科目であるという思想である。したがって,医学教育の機関である大学病院では必要上やむをえないとしても,それ以外の一般病院にとっては,まったく無縁の診療科目と考えられていたわけである。
 しかしながら,精神医学が特殊な学科として好奇的な眼をもってみられた時代はもう過ぎ去った。とくにこの十数年間における数々の向精神薬の出現は,精神疾患に対するとりあつかいや治療にいちじるしい進歩を示すとともに,他方,戦後のアメリカ精神医学の導入にともなう精神身体医学の提唱などの影響もあり,精神医学と臨床各科との関連性の深さについて,正しい理解と認識がなされるようになった。そしていまや,全国の総合病院では,その必要性を認め,つぎつぎと精神神経科が併設される気運となりつつある。

総合病院の精神神経科の運営の実際

著者: 中島克三 ,   加藤誠

ページ範囲:P.32 - P.36

はじめに
 公立学校共済組合関東中央病院は,公立学校教職員と,その家族の診療を目的とし,昭和28年8月1日に開設されたが,当初は結核療養に重点がおかれていた。その後,昭和31年12月,実質的に総合病院となり,また一般社会保健の診療も開始している。ただ精神神経科の診療を開始したのはそれより遅く,外来は昭和35年4月から,入院は昭和36年2月からであった。われわれの病院に神経科が開設されたのは次の理由による。第1に,医学は身体的疾病の治療を目的として発達してきたが,精神にもさまざまな疾病があり,この身体および精神の両方に十分配慮してこそ満足できる治療が行なえること。第2に,一般患者の疾病の治療という面だけでなく,当院には公立学校職員の健康の向上増進を目的とする積極的な面がある。しかも,教師の精神的健康は,直接にその下にある生徒の精神的健康に重大影響を及ぼすので,その精神的健康の保持増進には特に意を用いねばならないこと。第3に,結核病床の必要度が減少しはじめ,収容余力が出てきたこと,などである。さて,開設以来約4年を経過したが,以下その運営について具体的に述べ,同時にその問題点について考えてみたいと思う。

総合病院における精神科看護

著者: 栄田つや

ページ範囲:P.37 - P.41

まえがき
 精神科病棟に勤務交代してきて2年10か月,最近やっと,総合病院における精神科の特殊性や役割がいくぶん理解できるようになったが,まだ他の精神科病院で現在どんな治療や看護が行なわれているのかよく知らないので,私どものところで実際に行なっている看護を中心に話を進めて,みなさま方の御批判を仰ぐことにする。

座談会

総合病院における精神医療

著者: 鈴木淳 ,   吉田ますみ ,   小野田敏郎 ,   土居健郎 ,   野上芳美 ,   泉正代

ページ範囲:P.42 - P.53

精神科を併設しようとする一般総合病院がしだいに増えてきつつありますそこで現状の問題と将来の展望を語ってもらうと……

グラビア

瀬戸内海をめぐる検診船—《済生丸》

ページ範囲:P.5 - P.8

 風光明美といわれる瀬戸内海には,風光をつくる美しい島が点在している、しかしそこに住む人にとっては,生活や医療の乏しさが問題である。岡山済生会総合病院(岡山市上伊福160の58)では,この島という無医地区に対し,「済生丸」という検診船を巡回させている。
 昭和37年から始まったこの仕事は,潮風の中にいろいろの困難にぶつかったが,病院を本拠として広く公衆衛生活動の実績を重ねてきている(本文参照)。

偉容を整える病院—《住友病院》

ページ範囲:P.9 - P.12

 大正10年7月11日開設という古い伝統をもつ住友病院(大阪市北区中之島5丁目15番地)は,戦災・水害という被害をのりこえ,昭和35年2月1日に新しい病院を竣工するにいたった。
 地下1階地上4階の本館は,外来各科(800名),5病棟(250床)のほか,各部内に近代的設備を整えた。

病院の広場

医学者と医師

著者: 東陽一

ページ範囲:P.13 - P.13

 医学者と医師とは,どこが違うかというと,医学者は病気のことを考え,医師は病人のことを思うというような言いまわしで,一応はかたづくようであるが,それでは,大学病院で臨床の方を引き受けている教授や,大病院の部長さんたちはもちろんのこと,忙しい開業医の先生でも,よく勉強する人たちは平素医学書をひもとき,学会などでも活躍しているのであるから,1人の医師という人間で,その頭の中には,医師と医学者との心が同居し,時には衝突しているというのが現実の状態であろう。
 つまり,意識のはっきりしている患者を診察したり,治療や養生について説明するような,人間関係の濃厚な時点においては,あくまでも,暖かい心をもった医師的態度でなければならないが,他方,病状を観察したり,検査をしたり,手術をするようなときは,まったく冷静というか,時には冷酷にふるまうことが必要なのである。

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瀬戸内海の診療活動—検診船「済生丸」について

著者: 大和人士

ページ範囲:P.60 - P.67

瀬戸内海について
 瀬戸内海というと,誰でも風光明媚な内海だということは知っている。豪華な客船による旅行のたのしさについて,雑誌に,週刊誌に紹介記事が出ているのが目につく。
 最近,新産業都市とか工業開発計画地域とか,経済成長政策にもとづいた一連の政治のあらわれが注目され出した。"夢のかけ橋"の競争もひどいようである。でも,観光とか,工業開発の陰に「3ナイ」といわれる離島,あるいは僻地といわれる島が,千数百にたっすることを知っている人は少ないのではなかろうか。電気,水,医者の3つのない所である。島の人口は実際よりずっと少ない。若い男女が出かせぎに出ているためである。これらの島をたずねておどろくことは,年寄りや子どもの多いことである。

精神病院における個室について—守山荘病院個室病棟の管理および看護の現状と今後の方向

著者: 黒葛原道子 ,   辻順子 ,   岩瀬正次

ページ範囲:P.71 - P.79

 古い精神病院は,保護収容隔離的な施設であって,だだっ広い家具一つない大部屋に,多数の患者がなすところなく呆然とうずくまっているような光景が各所にみられた。これに反し,新しい精神病院の方向は,治療を中心として運営される,開放的な治療社会としての活発な雰囲気をもった病棟管理が要求されている。精神病院における治療単位としての病棟は,昔の病院にみられたごとき10人,20人もの多数を収容する病室は治療上不適当であり,大部屋といえども4〜6人が限度である。また,個室は全体の20%以下ではいけないとされている(1)(2)。かかる傾向は,精神病院における病室の収容人数が多人数から少人数へ,また,大部屋から小部屋,さらに個室へと向かっていることを示すものである。
 われわれの守山荘病院においても,最近数年間の傾向として,患者の大多数が入院の場として個室を希望している。このことは,必ずしも上記のごとき精神病院の新しい方向が患者に反映したわけではなく,患者自身の人間的な,いわば本能的な希望に基づいている。この患者側における個室への欲求を無視して,完全な精神医学的な治療は困難であろう。精神病患者に対する治療として,最近の傾向は,作業,レクリエーション,あるいはリハビリテーション療法の集団療法が重要視されている。

精神科病棟におけるB.G.M.の効果

著者: 十河実 ,   宮井陽子

ページ範囲:P.81 - P.85

はじめに
 近年,社会的緊張がたかまりつつあり,そのため,各種のストレス疾患が問題になっている。こうした緊張緩和の方法として,工場やオフィスなどには,人々が気持よく働けるような環境をつくるために,照明,騒音,色彩管理,換気,温度調節などに配慮するとともに,最近ではBackground Music (略してB.G.M.)が取り入れられてきた。
 B.G.M.は背景音楽の名前のごとく,音楽を背景的に流すことにより,なごやかな雰囲気と快適な気分をかもしだそうとするものであり,娯楽とか鑑賞を目的としたものではない。したがって,意識する音楽ではなく,無意識のうちに聞いているといったものである。

外来中央注射室の運営経験

著者: 蓬田正二 ,   漆畑トスエ

ページ範囲:P.87 - P.91

 病院の仕事を能率的に,かつ合理的に行なうために,同じ仕事を集めて中央化することが行なわれる。当院でもその一つとして,昨年から中央注射室を設け,外来患者の注射をまとめて行なっている。仕事を始めてから約1か年経過したが,その間の経験について概略をまとめて報告する。

編集主幹ノート

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.102 - P.102

 6月ストックホルムで開かれた第14回国際病院会議で,わが国は,フィリッピンに代わって国際病院連盟の理事国となり,日本病院協会長橋本寛敏先生が理事に就任された。いよいよわが国の病院人も,国際的活動に責任を担うようになった。
 戦後永い間,近代病院の管理運営について,米国などの先進国から知識技術の導入に努めてきたが,これからは,後開発国のために,少しでもお役に立つようにしなければならぬだろう。2年後にシカゴで開かれる第15回国際病院会議には,単に傍聴するだけではすまなくなると思わねばならない。明年には豪州,ニュージーランドが音頭をとって,西太平洋地域の会議がもたれる話もあるようだが,わが国の東南アジアにおける政治的地位とも関連して,改めて,わが国の国際活動について,国内の論議がかわされねばならない時代にはいってきた。

論壇

病院ハウスキーピングの諸問題

著者: 副島寿子

ページ範囲:P.68 - P.69

縁の下の力持ち
 子規の訴える病床6尺,そのせまい世界に呻吟する患者,たとえ快復期の人たちとして限られた中で朝夕生活することの味気なさ……。
 ドクターの診療,ナースの看護,栄養面からの治療に加えて,精神的に環境の面から治療の補助をするのが,病院ハウスキーパーの仕事である。

私の一週間

丸めて破いて屑カゴへ

著者: 関武矩

ページ範囲:P.92 - P.93

 弘報課員はいわば病院内の"記者"である。ナース・ステーションの囁きを,ボイラーマンの不満を,せっせと取材してまわるのが仕事のひとつ。……それほど苦心して発行した院内報だが……。

ホスピタルトピックス 事務

事務管理部会と医事研究会

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.94 - P.95

1.事務管理部会
 この集まりは,日病の組織のなかで,診療管理部会とならんで,事務管理全般にわたる研究部門として昭和39年初頭から発足したものである。従来,この種の集まりは,東京病院協会のなかに,同じ事務管理部会の名称で,最近まで集会が継続的に数年間にわたってつづいたが,今は自然解消している。こういう基盤があったことも大きな力となり,加うるに,近年いちじるしい事務管理関係者の研究意欲にアッピールして,発足以来,毎日行なわれる研究会は予期以上の多数の参加者を得て,発言も活発,内容もすこぶる豊富である。開催場所は,加盟病院で順次引き受けていただいて,見学をしたあとで勉強会にはいるしくみである。
 参加病院も,東京を中心としてしだいに範囲を拡め,現在では千葉,埼玉,茨城,群馬,神奈川に及び,毎回参加病院は40を越え,出席者も平均50名を前後している。世話役は,落合勝一郎(聖路加),井上昌彦(日大駿河台),森直一(武蔵野日赤),石原信吾(虎の門),白頼五郎(がん研),中田重吉(日赤中央),寺本亀義(警察),河村静逸(同愛),佐藤甲子郎(東京医大)の9名で,例会は毎月第2金曜日に行なわれている。

建築設備

病院建築の高層化

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.95 - P.96

 東京市立江古田療養所以来の長い歴史を歩んできた国立中野療養所の本格的な改築工事が,いよいよ始まった。これで,なうての老朽施設も耐震耐火構造の近代的な病院に生まれかわることになる。しかも,高さ制限の緩和を含む最近の建築基準法改正の動きを反映して,地下1階,地上10階という壮大な規模である。多分,実現するものとしては,現在のところ最高の病院であろう。そのできばえを期待したい。しかも,このような高層化の傾向は,今後ますます強まっていくに違いない。この2倍ぐらいの高さのものを計画している病院もあると聞く。
 ところで,この傾向に関連して気になることがある。そのひとつは建設費のことである。高層にしながらも,建築的にある水準を確保しようとすれば,当然,従来の3〜4階程度の場合と同じ坪単価ではおさまるはずがない。たとえば,窓ひとつとりあげてみても,3階と10階もしくは20階とでは,風圧が全然ちがう。したがって,気密性のより高い窓サッシュを使わなければ,すきま風の問題などで支障は目にみえている。この点,従来の大部分の病院が採用しているサッシュは,都心のオフィスビルなどに比べて,格段に性能の低いものであった。慣例的に認められてきた乏しい坪単価ではいたしかたのないことであったし,またそれほど高い病院もなかったから,事実さほど問題が起こらなかった。

霞ガ関だより

入院動機と入院経路

著者:

ページ範囲:P.98 - P.99

 厚生省が,昭和38年10月1日に実施した医療圏調査の結果によれば患者の入院動機と入院経路は次のようになっており,まことに興味深いものがある。
 なお,この医療圏調査は,全国の国,公的および社会保険団体の開設する一般病院(精神,結核,らい,伝染を除く)のなかから,地域の人口階層別,一般病床規模別に層化し無作為抽出法により1/10の抽出率で抽出した207病院,およびそれに入院していた一般患者19,575人について調査したものである。

病院図書館

—今村栄一・小張一峰編—「急性感染症の臨床」/—高木俊一郎著—「小児精神医学の実際」

著者: 安藤幸夫

ページ範囲:P.100 - P.101

感染症のダイジェスト
 戦後,医学の進歩はめざましいものがあるが,これは今さらいうまでもなく,臨床検査とならんで抗生物質,ステロイド,その他の化学療法剤の進歩によるものである。特に伝染性疾患といわれる感染症においては,ペニシリンに続きストレプトマイシンが一般に普及し,さらに広範囲な抗生物質の発見,新しい化学療法剤の出現に伴い,その疾病の様相も一変してきた。現在,感染症はウイルス性疾患を除く他の大部分のものは,比較的容易に治療せられるようになってきた。序にも述べられているとおり,昔は急性の伝染性疾患といえば法定伝染病が主であったが,化学療法剤および公衆衛生面の発達により伝染病の疫学は大きくかわり,今日は伝染病というより広く感染症として考えられるようになった。感染症は医学の各分野にわたるもので,感染(急性)症としてまとめられたことは誠に機を得たものである。
 本書は第一線で活躍しておられる経験豊富な各方面の専門家の分担執筆によるものである。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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