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雑誌目次

雑誌文献

病院26巻6号

1967年06月発行

雑誌目次

特集 病院の倫理

病院の精神—倫理以前のものとして

著者: 橋本寿三男

ページ範囲:P.15 - P.18

はじめに
 病院の倫理という言葉は常識的に大変わかりやすい言葉のようであって,よく考えると,何か理解しがたいものをもっているように思われる。倫理という概念からは当然人間が対象となるように思われるにもかかわらず病院は人間だけではないからである。しかし,外国にもこれに類する表現はあるように思われるので,これは病院というものをある種の人間集団とみて考えられた言葉ではないかと思われる。
 経営学の立場からすれば,病院も一つの経営組織である。しかし,経営組織へのアプローチにもいろいろあって,組織を一つの人間集団という見地からアプローチする方法もある。

病院の倫理—使命感と良心をもって

著者: 神崎三益

ページ範囲:P.19 - P.22

倫理とは
 編集部から「病院の倫理」という題を与えられた動機は,私が昨年パリの医道徳国際会議に出席したときの話を「病院」の新春座談会でしゃべったからだろう。
 私は,そのパリの会議で医道徳は医の良心に基づくもので,その良心は神に根底をおいたものでなければならないという言葉に心を打たれたが,いま一度,この言葉をかみしめてみよう。

病院と倫理

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.23 - P.28

 人間は社会的人間であって,社会の中で生存するかぎり,互の生命と人格の尊厳を認めあう倫理性が要求されることはいうまでもない。しかし各人が持つ倫理性あるいは価値観は,時代や社会や個人によって,その性質や深さに違いがあり,具体的な道徳的行為についても趣きが違うことがありうる。しかし個人が集団を作った場合には,その集団の社会的行動に対し,関係する社会はその集団に対して共通の倫理性を要求し,またその集団は集団の組織に対して共通の倫理性を要求することとなる。この集団の一つである病院事業体には,世界的に共通の特殊な倫理性が存在すると見ることができる。すなわち本題の病院の倫理とはこの問題であると解する。したがって病院の倫理という命題は,(1)病院を組成する組織の人々はいかなる倫理性を持たねばならないかという問題と,(2)病院経営体が社会に対していかなる倫理性を持たねばならないか,という問題に一応分けて取り扱うことが便利であろう。
 以下述べるものは,わが国の現時点における病院共通の倫理問題についての私見であり,当然私個人の倫理観に立って論述されるものであるから,読者によっては違った観念のものもあるかもしれない。

病院の経営倫理に関する基本的考察

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.29 - P.32

はじめに
 われわれが人間存在というものに深く思いを至すとき,そこにどうしても倫理の問題に当面せざるをえない。病院経営についても同じである。人間も病院もともに社会的存在体であるところにその理由があるものと思われる。和辻哲郎博士によれば,倫理とは「人々の間柄の道であり秩序であって,それあるが故に間柄そのものが可能にせられる」ものであるという。つまり,倫理は人間個人にせよ個々の病院にせよ,それぞれの存在体が具体的によって立つところの社会共同体の可能根柢であるというのである。
 しかし,そうした根柢的思惟は,われわれの日常行動の中では,ふつうとかく忘れられがちであることも否定できない。そこに倫理よりの逸脱が生れる。逸脱とは一種の欠如態である。そうした欠如態において,まさにかくあるべしという当為の命題がはじめて意味をもって登場してくる。

看護の倫理

著者: 石本茂

ページ範囲:P.33 - P.36

看護とは
 看護の仕事は人々の健康管理に任ずるものであって,臨床の看護に従事する看護者は,医師とともに,病める人々を援け健康の回復をはかる重要な役割をもっていることは,識者の誰もが承知しているところである。
 私は医療メンバーの一員として,あえて次の諸点にふれ,看護の真の性格を強調しておきたいと思う。

座談会

病院の倫理

著者: 守屋博 ,   桂重鴻 ,   砂原茂一 ,   津田豊和 ,   栗原やま

ページ範囲:P.38 - P.47

 人と人との関係には一定の道徳性,倫理性がなければならない。病める人と救う人という特殊な人間関係の場においては,特に救う人の側にそれが要求されてくる。
 今月はその要請に応えるべく,病院は,その倫理をどのように考え,実践していくべきか,具体的に話しあっていただいた。

グラビア

救急医療の焦点—神奈川県交通救急センター

ページ範囲:P.5 - P.8

 近年交通災害の発生は急増の一途をたどっているが,交通外傷に対する救急医療体制はきわめて不十分である。
 交通外傷の救急医療は,専門的・総合的に行なわれなければならない。そのために総合病院との連携あるいは併設のもとに実施されるのがよい。神奈川県交通救急センターも済生会神奈川県病院に併設されたものである。

私的病院シリーズ・2

小病院における病院管理の実現—麻田病院

ページ範囲:P.9 - P.12

 個人病院は医院から発足して病院へと発展する道をたどるものである。しかし,その道は苦難の道である。そして病院となったことによって,新しい試練に直面しなければならない。
 麻田病院も20年の歳月を経て,新しく病院を増設するに至った。その設計は,病院建築の專門家の小川健比子氏によるもので,新しいアイディアが盛りこまれている。しかもこのうつわにふさわしいように,職員を病院管理研究所の講習に次々に参加させている院長の熱意も高く評価されるべきであろう。

病院の広場

S病院小児科の日曜当直の悩み

著者: 木下正一

ページ範囲:P.13 - P.13

 日曜,祭日のわが病院の小児科では,その日に出番に当った医師のだれもかれもが,みんな口をそろえて「これではたまらない」と悲鳴をあげる忙しさである。医師がそうなのだから,看護婦たちもそうに違いない。
 わが病院は,東京都内で地域的にいうと,いわゆる小児人口が割に多い区内にある。したがって地域内には,たとえ小児科専門ならずとも,小児診療をやっておられる先生方は,平日には決して少なくない。しかし,これはあくまでも平日の話で,日曜,祭日となれば話が変る。なんといっても今日このごろの時勢であるから日曜とか祭日になると,多くの先生方は,ほんのわずかの例外はあるとしても,みんなことごとく「本日休診」の札をかける。その結果として,いわゆる小児急患が,いつものかかりつけの門がかたく閉されているからと称して,近所の大病院の門を叩くことと相なるわけである。

病院図書館

—服部一郎 他著—「図説・脳卒中のリハビリテーション」

著者: 杉山尚

ページ範囲:P.18 - P.18

多年の経験に基づく独自の実地書
 畏友服部一郎君が,最近医学書院から細川忠義氏とともに「図説脳卒中のリハビリテーション」を出版された。
 同君がわが国の数少ないリハ医学の先覚者,開拓者の一人であることは周知のことであるが,特に多年の経験に基づく独自のリハ理論と手技を展開されていることが特筆される。これは欧米リハの知識を吸収し,これを消化し終った者が自ら打ち立てたリハ体系ということができる。この意味で,本書は最近数多くみられる翻訳書の域を脱したわが国独自のリハ実地書第一号ともいえよう。

—菅谷 章著—「看護労働の諸問題」

著者: 佐口卓

ページ範囲:P.37 - P.37

実態の分析から問題を摘出
 看護婦が,その高い職業理論をもたねばならず,またもつことが要請されても,今日の社会にあっては基本的には婦人労働者である。この職業倫理と労働者とを対立的にとらえることから多くの問題が発生しているとみてよいであろう。そして多くのばあいに,この対立が管理者と従事者のそれとなって現われてくるところに困難な事態があったとみられる。だが,職業倫理の要請は適正な経済的条件の裏づけによって可能となるし,まずもってこの対立的関係をとぎほぐしていくことからはじめられねばならない。
 いま看護婦をめぐる諸問題をとりあげるときに,以上のような視角をもつことによって,いうなれば社会科学的な問題のとりあげ方によって,今日の意義を明らかにすることが可能であると思われる。この点では従来は一部の評論家などによって断片的にとりあげられたにすぎなかったが,今回は菅谷氏によって全く専門的領域にふみこんだ著書をまとめられたのであって,関心をもつものにとってまことに喜ばしいことである。

—船川幡夫 他編—「予防接種」

著者: 長尾貞一

ページ範囲:P.80 - P.80

きわめて実際的な参考書
 戦後予防接種の種類が増え,大量に行なわれるようになったので,ふだんあまり診療科に関係のない医師まで相当動員されていると思われる。実際に予防接種をやっている医師は,大部分私達と同様に,素人ではないが疫学や細菌学の専門家でもない人達であろう。
 ことに最近のように新しい種目が加わったり頻々と変る接種方式など理解するには,今一度どうしても背景の学問までさかのぼる必要があるが,実地家としては必ずしも専門家の領域まで入る必要はない。実地に必要で十分でありさえすれば,できるだけ簡単な指導書のほしいところである。一般大衆の関心が高まってきた昨今ではその限界がなかなか微妙である。

第17回日本病院学会専門集会

病院における帳票統制(その1)

著者: 石原信吾 ,   落合勝一郎 ,   高橋元吉 ,   尾口平吉 ,   紀伊国献三

ページ範囲:P.50 - P.62

 石原(司会)われわれ専門集会ということで,ここに「病院における帳票統制」というテーマを与えられたわけですが,今回の学会ではこの専門集会のほかにパネルディスカッションとか,あるいはシンポジウムというようないろいろな討論形式がとられております。従来もだいたい同じような3つの形がとらてきたように覚えていますが,しかし実際上はそういう3つの討論形式がはたしてどう違うのかということになると,どうもはっきりしませんで,実際やってみた結果では,どれもちっとも違わないじゃないかというご批判のあったことも事実です。そこで始めに当たりまして,専門集会というのは聞き慣れない言葉でもありますので,それのやり方についてちょっとご説明申し上げたいと思います。専門集会と申しますのは,たしか第12回の東京学会で始められたように記憶しております。初めのころは学会の前日に,学会とは別の会場であらかじめ用意されましたテーマについて,それに興味や関心を持つ人たちが集まって,だいたい1題に3時間くらいの時間をかけてじっくり専門的に討議し,そして学会ではその結論を報告するというような形をとっていたわけであります。しかしその当時は5つも6つものテーマが取り上げられて,それを同じ時刻に2会場あるいは3会場で行なうというようなことがありましたために,同じ時刻に聞きたいテーマが重なると,どちらかが聞けないという不満がありました。

各国の病院学会・1

第4回ドイツ病院大会の点描

著者: 菅谷章

ページ範囲:P.63 - P.68

はじめに
 第4回ドイツ病院大会1)(=Krankenhaustag2))はドイツ病院協会の主催で1966年5月13日から15日までの3日間,Stuttgartで開催されたが,この大会には,ドイツ国内の病院関係者(あらゆる職種の病院人)の参加はもとより,海外からも参加者があり,また世間一般からもかなりの関心が寄せられ,大会は年々隆盛にむかいつつある。
 この西独の病院大会では,病院に関連ある講演や各種の研究集会や展示などの多彩な行事が催され,ちょうどわが国の病院学会と類似した性格の行事が行なわれているものと推測される。

研究と報告【投稿】

地方小都市における総合病院精神科の実態

著者: 吉田登

ページ範囲:P.69 - P.72

はじめに
 精神科治療の進歩にともなって,精神障害者を隔離的に扱うことを避け,一般の疾病に対すると同じように,地域内で治療することが可能になり,早期治療・早期退院・後保護という医療体系が要求されるようになった。
 比較的交通便利な所にあることが多く,総合病院という名称のため受診しやすく,臨床各科を有することにより総合診療に便利である点から,総合病院精神科が地域精神医療の第一線機関として重視されるようになり,精神科を併設する総合病院が増加している。増加そのものは喜ばしいが,地域精神医療,総合診療のためという管理哲学もなく併設する病院も少なくないように思われる。すでに鈴木は次のように警告している。「管理哲学のない病院の併設精神科は陳旧欠陥固定患者のたまり場となり,勤務者は動揺し,悩み,やがて紛糾の遠因となる」。

病院におけるディスポーザブル化について—主として用度課の立場から

著者: 神門昇三

ページ範囲:P.73 - P.77

はじめに
 最近は一般工業界においての目ざましい技術革新の進展,生産性の向上による各種原材料の大量生産,加工方法の開発などによって日々新製品が新しい市場を求めており,われわれ病院もその未開拓の分野として絶好の目標となり,各種の製品の売りこみがさかんになってきている。
 一方病院側においても各種技術者はもちろん一般職員,特に労務的業務に従事する人は病院の置かれている経済的環境からしても逐次得がたくなり内部的にも労働力の再配置を考慮せざるをえない状態となっている。

全自動流パラ包埋乾燥機について

著者: 庄司春江

ページ範囲:P.78 - P.80

はじめに
 看護婦不足は全国的であり当病院もその例外ではない。日進月歩,医学に高度な教養を望まれつつある。それに順応する教育と技術を要求される今日,日々の多忙に追われ,看護面に力を注ぐこともできない現状である。一般的に使用される手作業は,ほとんど機械化されている現在,看護用具はすべて手作業であり,まして手術後の器械は手作業で洗浄・煮沸・乾燥・流パラ手拭き・収納の5段階に分かれていて,手数のかかる作業であった。これを器械としてもよいのではないかと考え,ある器械屋と提携のもとにできあがったのが全自動流パラ包埋乾燥機(以下乾燥とよぶ),その第一号機が完成したので,その構造・使用方法・結果について報告する。

事務長その生活と意見

身近な問題から

著者: 寺本亀義

ページ範囲:P.82 - P.84

 面会時間の制限,受付の不親切--病院ほど苦情を多く聞くところはない。このような身近な問題への一つ一つの対策を考えるときに思うのは,事務長としての自分自身の切磋琢磨であり,「清虚」を心とした人間にならなければ,ということである……。

ホスピタルトピックス 特殊病院

Administrative Therapy (その三)

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.85 - P.85

 治療行為が検査からはじまるように,Administrative Therapyは病院内外の分析評価に基礎をおいている。病院内の設備と機能,組織と活動,職員の能力と訓練度,患者の特性と背景など……病院外では医療行政,上部統制機構からの制約,地域社会の動向など……これらの因子群を分析し,おのおのの不動性と可変性について評価する。
 とくに大切なのは病院のもつ社会文化的特長である。それは職員と患者との間のインフォーマルな人間関係によって左右される。非公的グループのむすびつき,活動をみきわめて,病院"伝統"への影響を調べる。多くの病院では,古参の主任看護婦と無資格監護人,ときには雑役婦や作業患者が主役を演じている。

霞ガ関だより

がん予防対策—特に子宮がん集団検診について

著者: 林弘

ページ範囲:P.86 - P.87

 公衆衛生の進展とともに,かつて国民死因の上位を占めていた肺炎,胃腸炎,結核などの感染性疾病が大幅に減少し,それにかわって脳卒中,がん,心臓病などの成人病が国民衛生の大問題にのしあがってきた。脳卒中は昭和26年以来第1位,がんは28年以来第2位,心臓病は33年以来第3位となり,今後当分の間不動の順位を占めるものと予測されている。
 成人病の特色は,40歳前後からの働き盛りの年齢層を多く侵すので,社会に深刻な影響をおよぼすこと。本態について究明されていない点が多く,しかも徐々に無自覚のうちに進行する場合が多く,ある程度進めば完全治癒が困難であること。早期診断,早期治療には高度の技術と多額の設備を必要とすることなど。したがって,成人病の予防は困難である。

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編集主幹ノート

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.88 - P.88

 非常な旱魃もようやく止み,都会でさえも待望の雨期を迎えてホットした今日この頃である。このような旱魃が,もしも戦前に起こったなら,その被害は悲惨であったに違いない。この程度の被害で済んだことは,戦後の強力な整備のおかげである。しかしこのように整備されたにかかわらず,今回のように稀な旱魃にもなお耐えることが要望されている。われわれの病院事業からみるとうらやましい。人間の生命を直接救助するための病院の整備については,今なお国家的援助が少ない。そして病院の犠牲において現実が処理されている。そのためにたとえば,救命用にあるべき器機も,使用頻度が低ければ不経済だといって整備しておくことができない。ダムと比較してかこちたくなる。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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