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雑誌目次

雑誌文献

病院26巻9号

1967年09月発行

雑誌目次

特集 病院経済の現状

わが国の病院経営の展望

著者: 森福省一

ページ範囲:P.15 - P.23

医療,その量と質の変化
 厚生省が毎年実施している患者調査の結果を見ると,病院および診療所が取扱った患者数は,昭和40年7月14日において,約581万人であった。その数は,10年前,すなわち,昭和30年7月13日においては,約295万人であり,10年間に約2倍になっている。人口は昭和30年には8928万人,昭和40年には9827万人であるから,約1割の増加である。したがって病院や診療所を訪ずれる患者がいちじるしく増加したことは誰でも理解できる。
 おなじく患者調査によって,昭和30年と昭和40年の傷病を比較すると,傷病の内容が大きく変っていることがわかる。すなわち,伝染病および寄生虫病は減少しているが,その他は増加している。先天奇形や新生児の主要疾患などは患者数が比較的少ないので,一応別とするならば,骨および運動器の疾患,循環器の疾患,精神病,神経病および人格異常,血液および造血器の疾患などの増加が目立っている。

病院の部門別原価と採算状況

著者: 尾口平吉

ページ範囲:P.24 - P.34

部門別原価と料金
 病院は組織医療を行なう場であり,医学の進歩に伴い病院機能の向上が必要となるために,ますます病院業務の分業化と各部門の規模の拡大化とが進んできている。このことは経済的にみると,病院事業を行なうための部門の分化と独立性が強められてきていることとなるのである。
 したがって,病院事業の料金算定が,部門別原価補償方式をとらず,ドンブリ勘定的病院収支のバランスを基準としている現状においては,従来の診療報酬決定の経緯からみて,部門別の経済的独立性が維持できなくなり,常に赤字を宿命づけられている部門,なんらの経営的努力なしに黒字が自動的に生ずる部門とが生ずることは当然である。このようなアンバランスは,第1に,需要者である患者にとっては,きわめて不公正な料金制度となる。

経営費としての賃金と病院職員の待遇

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.35 - P.39

経営費と賃金の関係
 資本主義経済のもとにおける企業は,「営利を目的とする生産組織体」としての性格を持っているが,診療所などのように所得が医療施設の所有者に帰属する場合は別として,病院企業は少なくとも,営利を追求する一般企業とは,経営経済上異なった企業体と言える。しかしながら,病院が非営利企業であっても,資本主義経済構造のなかに存立し,経済活動を行なっているのであるから,経営の立場から考えると,企業活動の面で,合理性と経済性の原理が要請されることは,けだし当然と言わなければならない。
 合理性または経済性といわれるものは,「企業の合理化」すなわち「最少の犠牲による最大の効果」ということに現わされる。この原則に立って賃金(人件費)を考えてみると,医療活動を実現するための,他の物的な建物・医療機械設備などの減価償却費や,医療材料費・医療経費と同様に原価を構成する主要な要素の一つとしてみることができる。

病院薬品費の現状

著者: 𠮷崎芳雄

ページ範囲:P.40 - P.43

薬品費の分析方法
 病院の経営費は,経営主体によって若干の差はあるが,大ざっぱにみて給与費が45〜50%,薬品費が25〜30%,その他の材料費が5〜8%,経費が8〜10%,減価償却費および支払利子が5〜8%となっている。なかでも医療費中に占める薬品費は,昭和35年度当時からみると2〜2.5倍にはね上っており,病院経営上,重要なウエイトを占めている。
 すなわち,表1の「年度別,経営主体別,医療収益対薬品費率」にみるごとく,昭和35年当時は各経営主体とも医療消耗品費を除くと20%前後であったものが,昭和40年度では約26%となり,さらに全国公私病院連盟が昭和41年6月に実施した病院経営実態調査によると,表2の「1病院当り医療収益対薬品費率」にみるごとく,一般病院では甲表28.2%,乙表27.6%と上昇をしめしている。

病院設備投資の実情

著者: 長谷川勲

ページ範囲:P.44 - P.48

 最近のわが国の病院病床は,逐年約4万床増加しており,このほか既設の木造老朽化病院の近代化も進んでいる。したがって,この陰には建物,設備,医療機械などに巨額の費用が支出されているものと思われる。
 かりに,新設,増床について1床当り6坪の建築が行なわれ,坪当り15万円を要したものとすれば,360億円が投下されていることとなり,このほかに,医療機械器具,看護用・厨房用・洗濯用などの機器をはじめ,医師住宅,看護婦宿舎などの付属施設の整備事業費があり,さらに国立,地方公共団体立,その他の改築が大巾に行なわれている現実を考えると,42年度には1000億円以上の経費が投入されるものと考えられる。

病院の生産性と採算性

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.49 - P.55

 生産性という言葉は,医療経営ではまだなじみの薄いものの一つである。その原因の一つには,正しい意味がよく理解されていないこともあろう。
 ILOの定義によると,「産出物は設備,資源,エネルギー,労働,技術,経営といった重要な多数の諸要素が結合されたものの投入の結果として得られたものである。これらの諸要素は,労働,資本,土地および組織などの主要な項目別に分類できる。産出物とこれら投入された諸要素の一つの割合は,一般に当該要素の生産性として知られている」。

座談会

病院経済の実態

著者: 一条勝夫 ,   神崎三益 ,   石原信吾 ,   吉崎芳雄 ,   宮沢源治 ,   坂田期雄

ページ範囲:P.56 - P.67

 全国公私病院連盟が行なった病院の実態調査から分析した,目下の病院経済の真の姿——毎年100の病院がつぶれ,生き残った病院もまた赤字に苦しむ。支出と収入のアンバランス,この経済のヒズミは,どんな形で押しよせ,あらわれているのだろうか。国民医療の危機として,問題を煮つめてみる必要がありはしないだろうか。

グラビア

互恵相愛の精神のもとに—60年の歴史に輝く—大阪回生病院

ページ範囲:P.5 - P.8

大阪回生病院は,1900年(明治33年)に北区絹笠町に創設された。木造3階建,40床の病院は,偉容を呈していたという。それより明治,大正,昭和の3代にわたり,大阪における唯一の私立総合病院として発展してきたが,60周年を記念して,新御堂筋に面した新しい土地に,地下2階,地上8階の新建築を完成した。(大阪市大淀区豊崎東通り2丁目70)

私的病院シリーズ・5

街のまんなかの精神病院—南晴病院

ページ範囲:P.9 - P.12

 精神病院というと大病院を思い出すが,南晴病院は80床の病院である。医師夫婦が診療所から築きあげた汗と努力の結果である。昭和41年に診療所から5階建の病院へと発展した。屋上から見ると,小さい家がぎっしりと建てこんだ東京の蒲田地区に,個人の精神病院があるのは異色である。それだけに個人病院としての意義があるのかもしれない。建築が終われば運営と,苦労はいっこうに減らないようである。(東京都大田区南蒲田1丁目5の15)。

病院の広場

診療記録(Medical record)中央化の意義

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.13 - P.13

 日本の病院の建物が過去20年位の間にどんどんよくなって行き,診断や治療上の施設や装置がいちじるしく改良されてきたにもかかわらず,日本の病院がまだまだ整った姿となってこない理由の一つは,多くの大学病院や一般病院で診療記録(または病歴)の中央化がなされていないことであろう。
 アメリカでは,インターンやレジデント,さらに各科の専門医の教育病院と指定されるための条件の中には,当然,この診療記録が中央化され,整った管理室をもつことがあげられているし,日本でも,日本内科学会の内科専門医審議会の規定による教育病院の資格の中には,診療記録管理室をもつことが強く要望されている。

病院図書館

—パーリングほか著 姉崎正平ほか訳—「病院,その複雑な人間関係—病院組織の社会学的研究—」

著者: 青柳精一

ページ範囲:P.43 - P.43

経験・実態的に把握
"患者中心主義"の病院組織を描く
 本書は,副題にもあるように,病院という社会集団内の人間関係を,アメリカ・コーネル大学のテンプル・バーリング教授らが,社会科学的立場から観察と面接とによって調査したユニークなレポートである。だが,レポートとはいえ"きわめて興味ある読み物"となっているのは,その調査が通りいっぺんでなく,一つの病院での調査に数週間から一年にわたる時間を費やし,経験的実態的に把握しようとした努力があったからだろう。
 調査の対象は,ニューヨーク州を中心とする六つの総合病院だが調査にあたっては,医療や病院に対する先入観や偏見を避けるため,研究グループはバーリング教授(精神科医)は別として一人の医療・病院関係者の参加を排除したという。それだけに,複雑な人間関係のありのままの姿を見事にとらえ,それぞれの関係者の不満や苦衷をうまく導き出すことに成功している。

第17回 日本病院学会パネルディスカッション

病院給食のあり方(その1)—とくに基準給食を中心として

著者: 小山三郎 ,   松浦公二 ,   美馬陽 ,   日西義之 ,   安永幸生 ,   東浦トヨ子

ページ範囲:P.70 - P.75

 司会昨年の第1回臨床栄養研究会で基準給食と特別加算と題するシンポジウムが行なわれ,主として栄養士の立場からいろいろと討議されて,はたして病人に2400カロリーの栄養量が心要なのだろうか,また給食費の60%を材料費に当てるだけでは満足な内容の給食はできない。栄養指導料を設けるべきだとか,あるいは特別加算の枠を拡大すべきである等々の発言があったようです。そのとき基準給食の指導,調査に当られる方からこういった意見は病院の最高責任者である病院長の声として出されるのが望ましいといったようなご発言があったようであります。これらの問題について病院管理者においても決して無関心であったわけでなく,すでにたびたび論議され,昨年の12月15日の全国公私立病院連盟主催の全国病院大会において,給食費を34.3%すなわち1日97円30銭のアップを本年1月から緊急是正すべきであるといった要望が決議されたことは,周知のとおりでごありますけれども,遺憾ながらいまだに是正の運びにいたっておりません。こういったときに本問題を日本病院学会が取りあげて,皆様の忌憚のないご意見をうけたまわるということは,まことに意義深いことと存じます。
 さっそくパネラーの講師の先生方をご紹介いたしますが,第1席は厚生省の保険局医療課の村浦公二先生でございます。

研究と報告【投稿】

病院検査室の実地医家への開放—開設後3年間の利用状況

著者: 安岡英武 ,   武田勇 ,   川上義太郎

ページ範囲:P.77 - P.81

 医療の発展に伴い,疾病の診断に必要な情報を提供する臨床検査はますます重要なものとなりつつある。病院においては,その検査設備は日に日に充実されつつある。一方実地開業の医師においても,その必要性が痛感され,医師会直営の臨床検査センターが各地に相次いで開設されつつある1)。しかし,これにしてもかなりの費用と設備を要し,またさらに困難なことは,質のよい熟練した検査技師を集めることである。そこで考えられることは,十分な検査設備を有し,優秀な検査技師を揃えている病院検査室を実地開業の医師へ開放することである。そこで,このような考え方から,島根県立中央病院は,昭和39年6月より病院検査室を地元医師会である出雲医師会に開放し,臨床検査センターの委託業務を始めた。その経過の概要はすでに発表しているので2)3),今回はその後の経過について報告する。

ホスピタル・レイアウトの改善

著者: 原田幸彦

ページ範囲:P.83 - P.87

 一般にレイアウトを問題にする場合は,その規模において3つに分けられる。ある一定の敷地内に新しく建物(病院,工場など)を建てるときの立地条件に対する問題,建物内の各部門間の位置に対する問題,そして,部門内の諸設備に対するレイアウトの問題である。このいずれの段階においても,レイアウトの目標はただ一つ,その施設のはたすべき機能を十分に効率よく発揮できるように配列することであろう。ところが,第1の立地条件に対しては,社会条件によってかなり制約されることがあろうし,第2,第3の場合では,技術の進歩,需要の変動といった諸要因が,施設内の諸計画および管理に影響をおよぼし,それがレイアウトの変更を余儀なくすることにもなりかねない。それゆえ,特に融通性の富んだレイアウトが必要とされるのである。それぞれの規模面で,当初,現想的なシステムで活動しはじめたとしても,現場では恒久的に理想のかたちでサービスを施すことは,まず不可能と考えられるからである。というのは,機械がひとつ変化したことによっても,それまでの作業工程や作業者行程に変化を起こすからである。これは,レイアウト面だけの問題ではなく,作業システム面の改善の必要性をも示している。このように,以前は理想的な姿で出発しても,常に状況を把握し,どこに問題があるかを知る必要がある。

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編集主幹ノート

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.90 - P.90

 去る7月27日から44日間,日本病院管理学会の世界病院管理専門調査団のccordinatorとして欧米の視察旅行に行ってまいりました。この旅行は短時日でありますが,大旅行ということができるでしょう。Moscowからはじまって調査の必要と思われる7カ国36箇所の訪問をおえることができ,しかもいずこからも多くの収穫を与えられました。
 この大成果がえられたことは,まず私の企画に各方面から絶大なご賛同とご協力をいただいて,十分な計画と適任の人々による視察団を構成することができたことであると信じます。団員は26名でいずれメンバーをご紹介しますが,いずれも病院各分野のそうそうたる方々で,これだけの人々が同行することは,今後も不可能と思われます。この視察期間に,国際病院会議の出席,政府機関,研究機関および病院の訪問と,33箇所をよくも廻ってこられたと自分ながら驚いていますが団員の能力と努力はもちろんですが,訪問先の用意周到な準備と歓迎に鼓舞されたことも忘れることはできません。この困難な事業が成功したことはこのように彼我の好意と気合が合致したことにあったというべきでしょう。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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