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雑誌目次

雑誌文献

病院27巻9号

1968年09月発行

雑誌目次

特集 病院職員の需給関係

病院の人的構成の発達とその需給

著者: 島内武文

ページ範囲:P.19 - P.23

はじめに
 医療というものはわれわれの生命に関することであるだけに,その源は古く原始時代にもさかのぼることができるのであるが,その医療の場としての病院もかなり古いことが考えられる。しかし医療の場といっても,医療が単なる伝統的な段階においては,それは魔術医や僧尼の祈祷の場であり,あるいは身寄りのない老病者の収容の場であって,患者各自の住居や神殿・修道院などがそれにあてられていた。したがってそれは組織としてもまだ独立したものとはいえず,寺院や修道院の多面的な活動の一部をなしていたにすぎない。
 それが近代において医学が目ざましい進歩をとげ看護に新しい合理性が取り入れられて,今日の科学的医療の時代になってくると,従来は単なる身寄りのない者のための収容施設であった寺院・修道院から,社会一般の人々のための科学的医療の場としての病院が独立して,今や最も文化的で,最も複雑高価に発達した医療施設としてわれわれの前にあらわれてきたのである。

病院職員の需給の現状について

著者: 長谷川慧重

ページ範囲:P.25 - P.33

 病院勤務者の不足が最近とみに訴えられている。そのことは特に医師・看護婦についてはなはだしい。医師は病気の説明を十分してくれない,病床はあるが患者を入院させることができない,患者の取り扱いが機械的で不親切である等々,主として勤務者の量的不足に原因すると思われる訴えが多い。
 すなわち過去10年間においては国民皆保険体制の確立,給付率の引き上げ,公費医療の給付改善,保健意識の向上などが医療の需要に大きな影響をおよぼしていて,その量を急激に増加させてきた。今後はまた,医学医術の進歩に伴って,医学の分野はますます専門分化してきており,さらに人口構造の変化--人口の老齢化,都市集中化--社会経済の発展に伴う新しい疾病--いわゆる老人病,いわゆる公害病,交通災害後遺症など--の増加という質的変化も加わった医療需要が増大してくると考えられる。

病院医師の不足の現状

著者: 青柳精一

ページ範囲:P.35 - P.42

「寒い朝である。寒波の襲来とかで今朝の冷たさは相当なものである。私はさき程から母校の婦人科の教室の2階の廊下で教授の登学を待っている」
 「…白衣を着た医局員が廊下を颯爽と往来するが,私などに一瞥を投げる人もいない。この人たちと私との間には20年の距りがある。想えば教室の医局時代は華であり,医者の天国でもあった。院長とは--あえて3等に限らず時に2等級ですらも--卑屈にも似たわびしさで遙かなる後輩を,皇太子様でも養子に迎えるほどのインギンさで貰いに来なければならないものとは考えてもみなかった。

日本の医師数の将来計画

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.43 - P.49

はじめに
 今日,多くの病院で医師の不足が痛感されている。ことに若い助手的医師とか,眼科・耳鼻科などのいわゆるクライン・ファッファといわれる科の医師,それに麻酔医・放射線医・臨床病理医,さらには脳外科医など,最近その重要性が増してきている専門医が得られないで困っている病院は少なくない。
 私は,昭和43年2月に全国病院から約15%を任意抽出して医師不足状況を調査してみた。これに対して415病院(回答率40%)から得た回答を整理して示すと,表1のようになる。すなわち,現在医師が"十分に足りている"と感ぜられているのは大学付属病院で,1/3ある以外はごく例外的で,経営主体によって多少の差はあるが,大部分の病院では,現在,医師がおおいに不足していると感ぜられている。

病院職員の需給の実際・1

看護部門

著者: 永野貞

ページ範囲:P.51 - P.57

 病院の看護職員の需要を左右するものには,入院患者ならびに外来患者の数など量的増減のほかに,入院患者の疾病の種類による必要性や医療技術水準などの質的な面がある。一方,供給の面からすれば,看護婦・准看護婦学校養成所の施設と定員の増加数,応募者数および学生生徒定員に対する入学者の充足率,また就業看護職員の離職数などがあげられる。
 病院職員の中の看護職員の需給関係について,その現状および問題点を述べるにあたって,まずその周辺のこと,たとえば,今日に至るまでに需給に特に影響をおよぼしたと考えられる事柄,あるいはその対策として実施された事柄などについて触れておきたい。なお,ここでいう看護職員とは,資格を有する看護婦・准看護婦らを意味し,看護補助者など無資格者を含めて表現するときは,看護要員という言葉を用いることにする。

病院職員の需給の実際・2

放射線部門

著者: 神田幸助

ページ範囲:P.58 - P.60

診療エックス線技師養成の現況
 現在わが国では,診療エックス(X)線技師養成については,国立大学医学部付設診療X線技師学校9校,公立2校,私立6校により養成が行なわている。年間卒業人員は約950名である。また,今年から新たに制定された診療放射線技師の養成については,国立医療短期大学1校,国立大学医学部付設診療X線技師学校専攻科9校,公立1校であり,その養成人員は130名である。

病院職員の需給の実際・3

検査部門

著者: 新井蔵吉

ページ範囲:P.61 - P.63

はじめに
 臨床検査室(中央検査所)が病院内において占める地位は,診断,治療,予後の判定に至るまでの重要なる診断部門の一部となっている。
 現在各大学病院から中・小病院に至るまで中央検査所の設置・増設が行なわれ,これに伴い,検査部門の職員の需給関係はその運営と密接なる関連をもつこととなる。一般病院においては,ベッド数の10-15%の技術職員を必要としている。

病院職員の需給の実際・4

薬局部門

著者: 古川正

ページ範囲:P.64 - P.66

中堅幹部要員の不足
 薬剤師が調剤を行なっている病院では,患者に対し法的責任を負わされている者は,医師と薬剤師といえよう。医師は検査・治療・処置などを各技術者に分担させているが,その患者に対する責任は主治医のものといわれている。薬剤師は医師の発行した処方箋により調剤したものについて,薬剤師法により氏名を薬袋に明記し,その責任を明確にしており,薬物を患者に渡してあるため,誤薬は明確に立証される。その場合は調剤者が責任を負わされる。
 また,薬局における薬剤師の業務内容は,医師が医学を習得した知識をもって診断・治療の方針を立てるように,薬学を習得した知識により,医師の発行した処方箋内容の分量の適否,混合の適否の判断をすること,患者に対し薬剤給付時の疑義解説など無形の業務と,調合・分割・計数など実調剤行為の有型な業務とがある。

病院職員の需給の実際・5

事務・現場職員

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.67 - P.70

はじめに
 需給すなわち需要と供給の関係は,全く相対的な関係である。まず需要があってそれに対して供給があるというのがふつうに考えられる形であろうが,それなら需要のほうは需要者側の事情だけで決まるものであるかといえば,そうではない。供給状況いかんによっては,需要自体を変えていかなければならない場合も当然ある。したがって,供給の側が変われば,需要の側も変わらざるをえず,また需要が変われば供給も当然変わる。需要と供給は,まさにそういう相対的な関係にたつものである。
 相対的関係にたつものであると同時に,需要と供給の関係はまた前後の関係にたつものでもある。まず需要があって,それに対する供給が行なわれ,それでその過程は一応終わる。もちろん,それが連続的に行なわれる場合には,前の供給に対して次の需要が起こるということもあるし,また需要を見越した供給というものもいくらもある。しかし,そうした場合にも,最終の形は必ず需要に対する供給という形で終わるはずである。

座談会

病院職員の人手不足と対策

著者: 室賀不二男 ,   橋本寿三男 ,   吉田浪子 ,   榊原美子 ,   鈴木伸 ,   落合勝一郎

ページ範囲:P.72 - P.82

 病院ほど,職員数のわりにいろいろの職種をかかえているところはあるまい。医師・看護婦からハウスキーパーまで,どの職種をとってみても病院の運営には欠くことができず,どの職種をとってみても入手不足で四苦八苦の状態である。
しかし,頭数をそろえたからといって,病院の使命が全うできるともかぎらず,どうしても質に裏づけられた員数ということで問題になるが……

グラビア

病院を壊す新しい建設のために—国立東京第一病院

ページ範囲:P.5 - P.12

 戦後すでに20余年。病院の数は激増し,また増築も行なわれてきた。最近は,このうえに病院の巨大化傾向がみられてきた。それは経営的理由によるものでなく,病院機能の拡大にもとづくものである。国立東京第一病院の建物は,昭和4年に陸軍の中央病院として建設されたもので,当時は最新の病院として百科事典にも紹介されたものである。しかし40年の星霜は水漏れをおこし,窓わくを腐らせたばかりでなく,近代的医療を受容するには不完全なものとしてしまった。そこで国立医療センターの構想のもとに,昭和43年より3年計画で16階建ての新病院建築が着手された。
 ここで注目をひくことは,建物を半分残して医療を継続しながら,鉄筋コンクリート5階建ての建物を倒壊する作業である。かつて東京湾からの艦砲射撃にも耐えられるようにと建てられた堅固な建物が,どのように壊されていくかを追いかけてみよう。

病院の広場

医学教育とひとつの方向

著者: 吉田尚美

ページ範囲:P.17 - P.17

 風爽かな今日この頃である。窓の外いっぱいにひろがった鮮かな緑,その上に点々と映える赤いつるバラの輝き,新鮮な大気と豊かな土壌に恵まれての景観ということができるであろう。
 自然はたしかに美しい。しかし一度人間の社会にふみこんでみると,まことに難しいやっかいなことばかりである。ことに現在の病院の社会には,いろいろ問題が多い。私も15年間病院管理にあたってつぶさに辛酸をなめてきた。大きい障壁にぶつかるごとに,"世の中というものは,そう悪くゆがんでいくものではない。そのうちにはきっと正常な姿に戻ってくるものだ"という淡い希望にささえられて,ひたすらにつきすすんできたのが私どもの今日までの姿といえるであろう。なるほど経営が苦しくなってきたと思う時には,多少診療点数の値上げが行なわれる。設備が老朽化してどうにもならんと思う時には改築のメドも出てくる。従業員が不足してきたと思っていると何時の間にか間に合ってくるという具合に,たしかに世の中のことは極端にはゆがんでこない。しかし,物的資源や人間の不足といった問題はまだしもであるが,こと人間の資質といった問題になると容易に改変できないものだけに,ことによっては病院に大きい影をなげかけていく危惧がないとはいえないであろう。

欧米病院偏見旅行記・9

アメリカ病院の神話—アメリカにて(その1)

ページ範囲:P.83 - P.83

 コペンハーゲンから大西洋を越えて,いよいよわれわれの旅の最後の目的地アメリカまでは,ジェット機で8時間ほどの旅である。大圏コースというのであろうが,アイスランドやグリーンランドをかすめるほど北を飛ぶとは思わなかった。
 コロンブスの航海を考えると,わずか8時間で…と地球の狭くなった実感がわくが,それでも8時間すわりっぱなしはいささか難行である。それにむやみに食事がでてくる。歩き回ることもできない飛行機の中,外を見ても雲と海ばかり,唯一のサービスは食べさせることとばかりにもってくる。

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滅菌の原理と実際(9)

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.84 - P.84

VI.オートクレーブの操作
 オートクレーブにも構造の簡単なものから複雑なものまで種々あるが,ここではサーモスタットを利用した,いわゆる重力型のものについて操作の基本だけを述べておく。
 まず給気弁を開くと水蒸気は圧調整器を通ってSteam Jacket (外缶)に入る。初めは滅菌器の缶体(内缶)との間の交通は閉ざされて外缶だけを予熱し,その圧が1-1.5kg/cm2になるのをまつ。つぎに内缶に滅菌材料を正しい配置でいれ扉をしっかりしめる。ついでハンドルを滅菌(Ste—rilize, STR)のほうに回して弁を開くと,外缶の水蒸気は内缶に流入する(インジェクターや真空ポンプ付きのものはこれを動作させて内缶圧を最低圧に下げてから内缶に水蒸気を導入することになる)。温度計が121C°を示してから滅菌時間の計測が始まる。

編集主幹ノート

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.98 - P.98

 秋冷を迎えました。しかし消費者米価の値上げが決定し,諸物価値上げムードになりそうです。またまた病院財政は苦しくなります。診療報酬の改訂がなされねばならぬでしょう。
 さて本号は,「病院職員の需給」を特集ました。物価値上げの前門の虎に対する後門の狼という問題です。この問題もわが国病院のともいうべきものでありますが,この数年充足の困難さが増してきました。

病院を考える・2

診療のAuditing

著者: 小野田敏郎

ページ範囲:P.85 - P.88

inspectionによって病院の実情をつかめ
 病院のはたらきの第一義は"診療"である。わが国の病院管理者が医師であるべきことが法的に定められている。第一義が診療であるから,これを管理するものが医学の素人(しろうと)であっては理にかなわないのである。
 病院の組織図をみると,多くの病院は,診療機能を病院長の直轄としている。そのことは,病院長は病院の診療機能の全般を管理する,ということである。

研究と報告【投稿】

診療録作成の機械化とその管理

著者: 神原進

ページ範囲:P.90 - P.93

はじめに
 最近,世界各地より"心臓移植手術の成功"という歴史的なニュースが伝えられているが,これはまさに近代医学の勝利である。われわれの健康と生命をあずかる医学が,この心臓移植の面ばかりでなく,多くの面で画期的な数々の成果をあげていることは,喜こばしい。
 今日,われわれが,診療のために病院へ一歩足を踏み入れるならば,そこにあたかも近代工場を思わせるような各種の新しい診療機械が整然と並んでいる光景に,まず眼を奪われるであろう。これらの機械を使用し専門職程群を駆使して行なわれる診療は,まさに病院こそが近代医学の適用の中心として患者に力強い安堵感を与えるものである。

霞ガ関だより

臨床研修実施の内容と研修病院の発表

ページ範囲:P.96 - P.97

 7月11日に,医師法一部改正に伴う「臨床研修の運用の内容」と,臨床研修を行なう場としての研修病院の名前とが厚生省より発表された。このことによって,数年来続けられてきたインターン紛争がある程度終結に向かうのか,それともなお新しい制度のボイコットが続き泥沼紛争が果てしなく続くのか,にわかに予断を許さないが,いずれにせよ関係者注目の中に,いよいよ医師法改正も実施の新段階を迎えるに至ったわけである。
 そこで,5月10日に医師法改正案が国会を通過した後の経過を以下にふり返ってみよう。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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