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雑誌目次

雑誌文献

病院30巻7号

1971年07月発行

雑誌目次

特集 勤務時間を点検する

病院業務と労働時間

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.23 - P.30

労働時間の意味
 ‘労働時間’ということばは,必ずしも明確に理解されているとはかぎらない.
 経済学らしき定義をすれば,‘労働時間とは,資本主義社会において,労働者が使用者に労働力を売り渡し,使用者の命令に服従し,労働を提供する時間である’ということであろう.要するに,雇用契約において,就業することを約束した時間の長さにほかならない.

労働法規上からみた病院の勤務時間

著者: 石田勝雄

ページ範囲:P.31 - P.34

 病院における労働基準法の遵守状況は,労働省が実施した昭和44年の‘病院の監督実施状況’からみても,対象病院数2564施設のうち,なんらかの違反をしている施設は2382施設に及び,違反率は92.9%となっている.
 このうち違反率の高いおもなる項目としては,勤務時間(女子66.7%,男子53.4%),割増賃金36.3%,就業規則32.1%などであって,勤務時間は最も高い違反率となっている.もちろん勤務時間にしても,たとえば病院のうち1人の職員でも違反していれば,その病院の勤務時間は違反として取り扱われ,また病院としての特殊性はあるにしても,他産業に比して決して低くない違反率である.

病院の勤務時間と給与

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.35 - P.44

労働時間と賃金の関係
 労働者が使用者に雇用される場合は,まず労働時間は1日8時間,1か月25日勤務,給与は1日2000円,月額5万円というふうに労働契約の形で決められる.
 労働者は,この労働契約のもとで働く時間中は,自分で自由に行動することができない.すなわち,使用者の明示または黙示の形で指示された労働に服務する義務が課せられ,通常の場合その職場で決められている就業規則などで一定時間拘束されることになる.

病棟看護婦の勤務時間

著者: 吉武香代子

ページ範囲:P.45 - P.47

 看護婦の勤務時間に関する論議は,主として労働条件の問題としてとらえられ,3交替制の是否も論じられてすでに久しい.歴史的に3交替勤務以前の勤務形態を知らず,また8時間労働の時代にしか勤務経験を持たない私には,3交替勤務が一番よい方法と思われてならないが,ここでは一応すべてを白紙にもどしたうえで,労働条件としてのみでなく,患者によりよい看護を与えるために最もよい勤務時間として考えてみたい.
 私は小児の専門看護婦であり,なかでも未熟児や乳児を好んで看護してきた.このような病棟では,看護業務に昼夜の差はきわめて少なく,24時間にわたって密度の高い,濃厚な看護が要求される.緊張が連続し,しかも業務量の多い職場において,人間が8時間を越えて働くことは,生理的に限界ではないだろうか.そして,未熟児室・ICUを筆頭に,急性期の重症患者を扱う病棟で,8時間3交替以外に,いったいどんな勤務方法があるだろう.

給食業務と勤務時間

著者: 宮川哲子

ページ範囲:P.49 - P.51

 患者給食は一般家庭の食事時間に比べて朝食がおそく,夕食が早いものとされている.これは勤務時間内に3食をしたくし,後かたづけをしてしまうという労務者を主体とした勤務体型のためである.他の部門から考えると,給食業務は調理して出しさえすればよいのだ,だいたいの給食人員を踏んで食品を仕入れ,給食人員が増加しても減少しても,それに応ずべきであると割合に業務の細かさを知られずに安易に考えられがちである.
 しかし食数の把握から発注・調理・盛付・配膳・食器洗浄という一連の流れは一分のスキもあってはならないものである.食物のうらみは何とやら……作る側の苦労も考えてみよう.

医師の勤務時間

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.53 - P.57

‘医師というものは扱いにくいものだという言葉は,第三者が医師を批判する場合にも用いられるし,医師同士がかえりみて首う場合もある.たとえ,特権意識を非難するというほどではなくとも,まとまりは悪いし,個個別々の方向を向くし,自分の都合を主張するし,といった批判は珍しくはない.多くの場合,批判は非難となりやすいが,こうした批判の中に,医師,あるいは医業の本質というものが,隠れているのではなかろうか’
 これは,今村の"病院管理の実際"(医学書院,1958)の中の,医師と自由性の節(97ページ)の書き出しの文である.私自身,医師として,全くこのとおりと思う.医師の職業的特質が医師という職業人をつくり上げる.そこで,医師同士が最も親しみやすく,縁組みなどもその中で行なわれる.ここに医師の社会的孤立性があり,それは,他からみれば特権性ともみえるであろう.

病院と統計

患者数と受療率

著者: 前田行雄

ページ範囲:P.10 - P.11

 国民の傷病量を把握する統計には,病院・診療所など医療施設の面から観察するものと,世帯の面から観察するものとがある.患者調査は,昭和28年以来毎年7月中旬の1日(退院患者については6月1か月間)を調査日として行なわれてきた施設面からの傷病調査であって,全国から層化無作為抽出法により選ばれた約1/10の病院,約1/100の一般診療所および歯科診療所で当日受療した外来患者,この日に在院していた,または新たに入院した患者および6月中に退院(病院のみ)した患者について調査が行なわれる.
 病院報告では,入院・外来別の患者数などしか知ることができなかったが,この調査では,患者の性・年齢・傷病名,治療費の支払い方法,在院期間の分布なども知ることができる.

グラフ

交通救急医療センターを推進させよう—神奈川県立厚木病院交通救急センター

ページ範囲:P.13 - P.17

救急医療は人員や設備などの体制を完備すれば赤字は明らかてある.しかし交通事故は増加の一途をたどっている.神奈川県は赤字を覚悟のうえで救急医療に立ち向かった.昭和40年に済生会神奈川病院に交通救急センターを開設したが.第2陣として昭和44年に厚木病院に交通救急センターを設け.さらに第3次の計画も立てている

神奈川県の交通救急対策

著者: 小西宏

ページ範囲:P.65 - P.68

神奈川県の道路交通事情と交通傷害の状況
 神奈川県はわが国産業経済の大動脈ともいうべき東西交通の要衝を扼し,京浜工業地帯の心臓部を擁しているので,交通事情は年々激化の一途をたどっている.物の輸送ばかりでなく,最近はレジャー流行の影響も含め,人の輸送の主役となる乗用車の普及がめざましく,したがって車対人よりは車両相互の事故が増加し、事故1件あたりの死傷は増加の傾向にある.
 昭和45年の実績によれば,神奈川県は事故件数においても死亡者数においても傷者数においても全国第6位の多発県とされている.県交通安全対策室のまとめた交通事故と死傷の状況は表1のとおりであろ.

鳩公害

ページ範囲:P.78 - P.81

 約1年くらい前から,私どもの病院の教会堂の屋根に鳩の姿が見えだしたころは,職員のだれもが,‘病院と教会と鳩’というごく自然の姿に,ほほえんだものだった.

再会—台湾大学医学部病院副院長 江萬煊氏

著者: 守屋博

ページ範囲:P.18 - P.18

 今から26-27年前,大東亜戦も末期に近づいたころ,連日の空襲で麹町辺がすっかり焦土になった中で,東京逓信病院の医局は,相つぐ応召,戦死で,残り10名前後になったが,全員連日当直した仲間に私も江萬煊君もいたのであった.江君は昭和19年東大卒業,泌尿科医局から派遣されていたのである.
 戦後台北に帰られ,台湾大学の再建に尽力されたのであるが,泌尿科教授と同時に院長秘書に任命されたのである.院長秘書とは,病院管理責任者のことであるらしい.私は1950年,シカゴのノースウエスタン大学のマッケクレン博士の所で病院管理を勉強したのであるが,彼もまた1951年に,同じ大学の病院管理学を卒業してマスターをとられた.その帰途東京に寄られて,本誌13巻1号の座談会に出席,台湾の病院事情について語られた.その後,1965年に私は台湾大学を見学する機会があったが,その時は彼は副院長として,いろいろの改革に手をつけておられた.一番感心したのは病歴の中央化,OT・PTの強化および大規模の救急センターである.

病院の広場

リハビリテーションセンター開設の苦心

著者: 沢崎博次

ページ範囲:P.21 - P.21

 衰微しつつある結核病院の方向転換には,いろいろと困難な諸問題がつきまとう.伊豆逓信病院(200床)もごたぶんにもれず数年の間,この問題に悩んだすえ,日本電信電話公社のリハビリテーションセンターとして再出発することになった.
 これにはまずニード調査が必要であった.その調査結果としては全国従業員18万人とその家族のうちに,リハビリテーション訓練の対象となるものが約2000人あるという推計学的な数が出てきた.疾病の主なものは脳卒中を中心とする神経疾患で,これにリウマチ,外傷などの整形外科的な疾患が若干加わっている.

精神医療と精神病院・7

新しい精神病院

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.59 - P.64

はじめに
 A 本日は,新しい精神病院のあり方はどうあるべきか,話しを聞きたいのですが…….
 B 新しい精神病院というそのテーマで思い出したんだけど,もう12年前にやはりそのテーマで江副さんにたのまれて書いたことがあるんですよ.それは江副さんの名前で発表されてますけどね(江副勉:新しい精神病院公衆衛生,23巻,675-680,1959年).

管理者訪問・40

秋田県厚生農業協同組合連合会 平鹿総合病院長 立身政一先生

著者: 車田松三郎

ページ範囲:P.69 - P.69

 横手市は東北の詩情あふれる‘山と川のある町’として,また雪祭り,‘かまくら’などで知られている.
 今回はこの横手市にある平鹿総合病院長,立身政一先生を訪問した.先生は,東北大学医学部を昭和14年にご卒業になり,ただちに副手として外科学教室に籍をおき,17年に助手,18年に軍医として応召,東南アジアをかけめぐり,21年に東北大学医学部講師,24年同大学を退職し,平鹿総合病院の院長に就任し,現在に至る,院長歴22年というベテランである.

ミズーラだより 7

Health Maintenance Organization

著者: 紀伊国献三

ページ範囲:P.70 - P.71

 ニクソン医療教書 1971年2月18日のニクソン大統領の医療に関する特別教書は,この揺れ動くアメリカの医療のこれから進んでいく方向に重大な影響を与えるものでした.ナショナル・ヘルス・ポリシイの重要性がアメリカでは強く論議されていますが,どこの国でも,ここ当分の医療方針はこの方針でいくのだとの,国としての方針の作成とその明示は,責任ある行政府の当然の責任といえるでしょう.
 さてそのニクソンの医療教書の一節には,次のような提案があります.

麻酔科医日誌・7

ICUとその意味

著者: 山下九三夫

ページ範囲:P.72 - P.73

 ICUの源流 重症患者を1つの病棟に集めることは,1800年英国のNew Castleで始められている.現在のようなICU (Intensive Care Unit)集中(強化)治療部(棟)の源流は3つある.
 1つは1956年ごろよりLockwardらが提唱したManchester Memorial HospitalのPPC(ProgressivePatient Care)という概念から端を発し,このうち最も重点的に患者ケアを行なわんとするSpecial CareUnitを,更に病院単位で1か所で集中的に患者を治療看護しようとするものである.

新管理技術講座・7

PERT/TIME

著者:

ページ範囲:P.74 - P.75

 熱狂的関心 最近はプロジェクトの大規模化と複雑化がますます進んでいる.技術革新が巨大目標の達成を可能にしたことがプロジェクトの大規模化をもたらし,技術の専門分化が分業化を促進していることが,それの複雑化を生んでいる大きな原因と思われる.
 プロジェクトが大規模化すると,それに要する費用も高額化する.そうなると,それを生産力化する懐妊期間はできるだけ短縮する必要がある.また,プロジェクトが複雑化すると,それを推進して行くうえでの技術的困難性はいっそう増大するから,それを克服するための手だてを講じなければならない.そこに,できるだけ有効なプロジェクト管理技術の出現が要請されることになる.そうした要請にこたえるために考案された新技術が,今回とりあげたPERTである.

病院の職員教育 駿河台日本大学病院職員教育資料より・19

病院の保安防災について—前号つづき

著者: 田中栄一

ページ範囲:P.76 - P.76

4.初期消火
 1)出火場所の近くにいた者は消火班が到着するまで,もよりの消火器と消火栓(消防署のマークのついてないもの)によって,危険でないかぎり近距離から消火する.
 2) 消火器の種類
 泡消火器——一般火災・油火災 強化液消火器——一般火災・油火   災・電気火災 粉末消火器——油火災・電気火災 粉末ABC消火器——一般火災・   油火災・電気火災 ポケット簡易消化器——一般火   災・油火災・電気火災

今月のニュース

保険医総辞退日本医師会7月1日より突入,他

ページ範囲:P.82 - P.83

 日本医師会(武見太郎会長・会員8万7000人)は,政府の医療行政を不満として7月1日から‘保険医総辞退’に突入した.医師会は今回の総辞退の理由としで,昭和36年に政府が約束した医療保険の抜本改正が実現されていないこと,政府の低医療費政策,関係審議会の無能力などをあげている.
 一方,政府は7月の内閣改造で斎藤昇氏を新厚相にたて精力的に事態の収拾に努めているが,7月13,20,27日の斎藤・武見会談と,28日の佐藤首相・斎藤厚相・武見会長の三者会談で事態の収拾策がまとまり,保険医総辞退問題は解決した.今後は中医協の場などで日本の医療ビジョンの具体策が審譲され,国民の合意が求められることになる.

病院建築・31

オランダの病院(2)

著者: 小滝一正

ページ範囲:P.85 - P.90

はじめに
 前稿でオランダの病院事情について簡単に述べたが,本稿では見学した病院のうちの幾つかをご紹介したい.
 2週間の期間中に筆者が見学したのは,大学病院2,一般病院4,精神病院4,ナーシングホーム4,精薄施設1の計15施設であった.ここでは紙面の都合もあるので一般病院を3つ,ナーシングホームを2つ紹介するにとどめる.

病院図書館

—木島 昂 著—地域医療ルポ「船を動かすより島を動かせ」

著者: 水野肇

ページ範囲:P.91 - P.91

ほんとうの「名医」の姿が浮きぼりに
 日本医師会が,いま最も力をいれているものに地域保健活動がある.世界の公衆衛生の最先端が,疾病の治療から健康を対象にした医学に転換しようとしているのに対応して‘1億総健康’を目ざしたものとして,どのように実際に展開されるかが,きわめて注目されているわけである.
 著者は小児科医だが,日本医師会の広報委員で,医師会の出版物が,ここ1,2年光彩を放つようになったのも,著者の功績が大きいといわれているぐらいの気鋭のドクターで,あちこちに書いている文章も‘医者放れ’しているといわれている.ここ3年間ぐらい,著者が自分で歩いたものをまとめたのが本書だが,視点が,ドクターであると同時に,ルポ・ライターの視点ももっていて,これが,立体的に綾をなすように書かれていて,全体にリズムをもっている.

招待席

アメリカが提供している医療

著者: 荻島秀男 ,   砂原茂一

ページ範囲:P.92 - P.100

 今回招待席にお呼びした荻島氏は,日本でただひとりの米国リハビリテーション専門医の上級試験合格者である.
一昨年,アメリカでの恵まれたポストを投げうって,日本のリハビリテーション医療推進のために帰国された.青年時代の大部分を合理精神と実力主義のアメリカで過ごし,それをきっちりと身につけてのお帰りであるが,アメリカの医療を語っていただくとともに,氏の目に映った日本の医療についても,忌憚のないご意見をうかがってみたい,(砂原)

第20回日本病院学会シンポジウム

患者への心づかい

著者: 日野原重明 ,   深津要 ,   鈴木幹二 ,   江本愛子

ページ範囲:P.101 - P.110

 司会(日野原) ただいまから‘患者への心づかい’のシンポジウムを始めたいと思います.
 今日は医師・看護婦ならびにメディカル・ソーシャル・ワーカー,3つの違った立場から,どういうふうに患者を把握し,取り扱っているか,また取り扱わなくちゃならないかというふうなことについてお話を願います.

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看護白書を読んで—日本看護協会に質す

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.111 - P.113

 看護の現状と問題点と銘うった看護白書が本年5月,日本看護協会から発表された.この種のものとしては初めての試みとしてすでにいろいろ讃辞も呈されているとのことであるので,ほめるほうはそれらに譲り,私はいくぶんきびしい目でこれを通覧し,若干の私見を述べるとともに,1,2の事項について看護協会の考えを尋ねてみたいと思う.いうまでもないが,私は含むところがあって看護協会に文句をつけたり,あら捜しをしようとするものではない.それどころかわが国における看護がよりよくなることを熱望し,看護協会の活動に微力ながら協力し,あいともによりよい国民の健康と福祉を求めて,そのたあの研究をしている者のひとりなのである.
 正直にいえば雑誌の編集者からこれをきびしい目で通読し大いに批判をしてくれと依頼されて,あまり気が進んだわけでもなかったが,よい機会だと思い直して始めから終わりまで一通り目を通してみた.その結果いくぶん感じたことを書くことにした.もっとも‘資料の不備,分析の不十分,裏付けを欠いた主張’など,すべての欠点を十分に認識したうえで,なおかつあえてこの白書を作ったということであるから,讃辞以外を書くことは不当な言であるとの謗に価するかもしれない.

霞ガ関だより

人工腎臓と腎不全対策

著者: E.N.

ページ範囲:P.114 - P.115

その背景
 従来,慢性腎不全に対する治療は食事療法や降圧療法,安静など,保存的療法に頼っていたが,人工腎臓装置による長期透析が実際に応用されはじめて約10年を経過し,更にここ5年ほどの間に,多くの知見や経験の積み重ねにより,透析療法に伴う医学的な問題や副作用についての問題の多くが解決され,今や長期透析療法は慢性腎不全患者に対する有力な治療法としてその地歩を確立するに至り,患者の延命効果を期待するのみでなく,社会復帰の可能性もきわめて大となってきた.
 また,昭和42年10月以降,健康保険の治療として採用されたことも影響して,ここ数年の間に,大学などの研究機関のみならず,一般の病院にも人工腎臓装置が設置されるようになってきた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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