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雑誌目次

雑誌文献

病院33巻11号

1974年11月発行

雑誌目次

特集 保険経済と病院の赤字

病院の赤字の発生原因からみた保険診療

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.22 - P.27

まえがき
 国民皆保険を建前とするわが国においては,現実の問題として,診療は保険診療とならざるをえない.医療機関は,医療と社会保障のクロスするところで,その働きを遂行しているといえる.
 どのような制度にせよ,あらゆる点において完璧な制度というものはありえない.制度自体に内在する欠陥も当然あり,関係者間の利害の矛盾や,環境条件の変化への適応の遅れ等もあって,そこに各種の問題点が指摘されるということは,何ら異とするに足りない.そこから改善の問題の重要性も出てくる.とくに,社会的に影響するところの大きな制度については,そうした問題点はできるかぎり除去,改善される必要がある.わが国の現行の医療保険制度などはまさにそのよい例といえる.

病院経営費と保険収入

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.28 - P.31

保険経済
 昭和36年,国民皆保険が達成されて以来,国民のほとんどが保険診療をうけているわけである.47年の全国推計患者数では全額自費というのが2.2%にすぎない.
 あるものは一部負担とか公費扶助を受けているかもしれないが,わが国の医療はまず保険診療が建前でもあり,圧倒的にほとんどを支配しているわけである.

病院の原価上昇と保険経済

著者: 村上正敏

ページ範囲:P.32 - P.36

 厚生省が発表した,昭和47年度の国民医療費推計は33,994億となり,前年度に比べて,24.7%という急激な増加を示している.
 この額は国民総生産対比で3.56%となっており,国民1人あたり医療費では31,672円,国民所得の4.46%を占めている.

現医療費下における病院の赤字—公的20病院の経営分析資料を中心として

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.37 - P.41

はじめに
 狂乱物価に象徴される現在の経済社会において,病院の経済危機はますます深刻化しつつある.昭和42年以後の社会保険診療報酬是正の遅延は,病院の経営成績ならびに財政状態を悪化せしめた大きな要因であったが1),同時に,最近の医療の発達は病院の設備投資の増嵩を不可欠ならしめ,病院経済の悪化をますます増悪させる結果をもたらした.今日,病院の維持はきわめて困難な課題となっている.
 平均的立地条件で平均的機能をもつ公的一般病院はもとより,僻地等不採算地域の病院や高度不採算医療,先駆的医療を試みる病院の赤字はとくに巨額となり赤字が病院機能に及ぼす影響は少なくない.病棟閉鎖をはじめ各種投下設備に生じる遊休状態,収益の外来依存および薬品収益依存等がこれである.赤字の巨額化に伴い,職員や設備のみならず患者数さえも,その供給いかんにかかわらず縮小せざるをえない病院も考えられるところである.公的な大規模一般病院でこれらの職員を十分に配置した施設では,病床100床あたりの赤字額が,医業収支の段階ですでに1億円に達する施設も稀ではない.赤字発生の原因は,今日の社会保険診療報酬が前記のごとき特殊機能,もしくは一般に高度の機能に対して十分な補償を与えていないことと,経常的な人件費の上昇,ことに昭和48年度においては前年比25-30%に達する上昇が作用したことはいうまでもない.

インタビュー

医療の貧困に保険制度が拍車をかけた—塩月正雄氏にきく

ページ範囲:P.42 - P.47

医療に関する制度は世界各国にさまざまな色合いを見せているのだが,それはいうまでもなく各国民のいわばヘルスケア・スピリットの反映によるものだろう.ところが,わが日本医療の情況を切り拓いてゆこうとすれば,むしろそんなスピリットは全然ない,という認識から出発しなければならないように思える.何より先に‘精神の貧困’を語らねばならぬ不幸をいったいどうしたらよいのか.

病院と統計 病院の部門別原価計算・11

48年6月調査を基準とした49年6月の部門別原価・収益推計

著者: 尾口平吉

ページ範囲:P.10 - P.11

 部門別原価計算の目的は,経営合理化のための基礎資料をうるとともに診療報酬の適正化をはかるためであることは前に述べたとおりである.そこで,48年6月の調査を基礎に49年6月現在の原価・収益を推計してみる.

グラフ

造船の町にしゃれた病院ができた—玉野市民病院

ページ範囲:P.13 - P.17

玉野市は人口約8万.岡山から電車で40分ほどの宇野駅近辺がその中心である.海岸のすぐ近くまでゆるやかな丘陵地帯が迫り,気候は温暖,なかなか住みやすそうな町にみえる.古くから内海航路の要衝として発展したが,「宇高連絡船」を人々はすぐ想い浮べるだろう.本州と四国に橋が架ったとき,その名が記憶の底に埋もれてしまうかどうか……
 だが,玉野は,こうした‘観光’都市とはちがった顔ももつ.大正初期に建てられた三井造船所などの工業が,じつはその経済を支えているといってよい.このことは‘病院’とも大いに関係がある.

今月のニュース

多彩なテーマを展開—第13回全国自治体病院学会/都市における医療機関相互の役割を検討—第7回日本都市医学会総会

ページ範囲:P.18 - P.19

 13回めを迎えた全国自治体病院学会は10月24・25の両日,千葉県銚子市で開催された(学会長=諸橋芳夫・国保旭中央病院院長).
 一般演題はすべてシンポジウムの形式をとり,‘週休2日制’‘救急医療’‘放射線防護’など10の現在的なテーマで討議された.

医療環境整備に邁進 大分県立病院 徳岡三郎院長

著者: 小野田敏郎

ページ範囲:P.20 - P.20

 大学のじぶん,わがクラスにシャルマン・クラブというものあり,ダンスなどをこととして勉強には精を出さず,榊原仟,羽田野茂,それに徳岡三郎などといった面々がその主力メンバーであった.このことは卒後の勉強こそ第一義ということの一例である.卒後わが徳岡君とともに見習士官として近衛の連隊にはいりともに鍛えられる.彼は陸軍軍医学校において研鑚し,その後学校の整形外科の教官として学生の教育にたずさわる.戦運非なるとき,彼はマニラ陸軍病院の傷兵をルソンの山中にまもる.
 いまから5年まえ,日本病院協会Study Tourで大分を訪れたとき,彼はこの鎮西の地に專門の領域に患者の信を得,さらに県立病院長としてその人がらは県官民の信頼を博して,このとし完成されたがんセンターを合して610床の大病院を完成しておられた.これに接した看護学院はまたわれわれの模範となった.

時評

医師は医学の不完全さを背負っている

著者: えど

ページ範囲:P.48 - P.48

医学への妄信
 ‘医師は医学の不完全さを背負って努力している’——このような意味のせりふをNHKのテレビドラマの中で聞いたことがある.一般の人は聞き流したであろうが,医療に関係する者の心には残った.作者がどれくらいの意図のもとで書いたかはわからないが,患者に知ってもらいたいことばである.
 医学はほんとうにすばらしいものなのだろうか.ロケットを月に到達させたと同じような力をもっていると,一般の人は誤解しているのではなかろうか.若い医師の中にも同じような錯覚をもち,前の医師がしたことを誤ちとし,われこそ患者を守るのだと叫ぶ者がいる.しかし何もしないということは医学の不完全さを背負う使命感を忘れているのではなかろうか.

シリーズ・4

検査室からの廃棄物を追跡すると……

著者: 白戸四郎

ページ範囲:P.49 - P.52

形のある廃棄物
 一般に"ごみ"といわれるものがこの大部分を占めるが,その他血餅のような半流動的なものや動物の死体,臓器の破片,あるいは病理のパラフィン,肺機能検査のソーダライムなどきわめて多様である.これらの‘ごみ問題’については,従来も病理のごみ問題の一部としてかなり指摘されてきているが3)−6),9)−10),検査室中心に再検討してみることにする.まず項目をあげて概観し,次いで対策に触れてみたい.

病院のクオレ

第11話 患者安全(2)

著者: 原素行

ページ範囲:P.53 - P.53

 患者安全の本質は病院安全よりも幅が広い.もちろん建物との関係が少なくないが,多くのファクターを含み,複雑である.職員の現任訓練がたいせつであるが,病院の態勢が不良の場合は複雑怪奇に陥るおそれがないとはいえない.基本は,病院のクオレであろう.しかし,これを心の問題だけではなく,科学性を欠くときは幾多の隙間が生ずる.

病院職員のための医学知識・23

薬物ショック

著者: 渡部美種

ページ範囲:P.54 - P.55

 ご質問にお答えする前に,薬物ショックという言葉について,私見を述べさせていただきます.薬物を投与したところが異常な反応を起こし,ショックに陥ったものを薬物ショックと考えておりましたが,どうもこの言葉はわが国だけで使っているようで,文献を調べてみますと,私の知る範囲では,薬物ショックという言葉にあたるものはなく,薬剤の異常反応として,アレルギー性反応(アナフィラキシーを含む),過敏,過量がいわゆる薬物ショックに相当するもののようであります.
 薬剤によるアレルギー反応としては,血清病,咽喉頭浮腫,薬疹,薬剤アナフィラキシーなどがあり,この薬剤アナフィラキシーがいわゆる薬物ショックに相当するものであります.

医療事故と法律・11

医療行為における因果関係

著者: 饗庭忠男

ページ範囲:P.56 - P.57

質問
 医療行為になんらかの過失はあると認められても,その後発生した後遺障害について医学的に説明のつかない場合にでも,その前の過失があれば責任は負わざるをえないのか,この点について説明をうけたい.

請求事務適正化のためのポイント・5

大きな請求もれとその対策

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.58 - P.59

 4回にわたって適正な診療費確保について述べてきたが,今回はこれまでに触れていない請求もれ問題を中心にとりあげることにした.ここでとりあげる問題は,医事システム全般にわたる問題でもあるが,個々人の事務処理に関する事務精度に関連する問題にもなってくるのでおろそかにすることができない.

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院長日誌

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.60 - P.60

医療制度の問題
 <某月某日>5月からこの病院にきたが,ここは職域病院ということで,地域病院とはやや趣きを異にしている.その違うところは,職域における健康管理,すなわち人間ドックから精密検診までを行なう点である.しかし,そのほかの点ではなんら地域病院と異なるところはない.すなわち高度専門医療を旗印にかかげなければならないわけだ.
 昨年,毎日新聞紙上で,松岡英夫氏との対談,「病院の赤字」を連載したことがあるが,そのときには都立豊島病院長をしていたので,自治体病院の使命をはじめとして,公的病院の不採算診療などについて語った.そのときの考え方は今でも少しも変わっていない.わが国における公的病院が独立採算でやろうと考えること自体が誤りで,高度専門医療化がすすめばすすむほど赤字がでるのは当然である.この根源は保険制度の欠陥にある.すなわち医療技術を軽視しているわけだ.

病院建築・69

玉野市民病院とそのサインボード

著者: 辻野純徳

ページ範囲:P.61 - P.65

玉野市民病院
 玉野は造船の町「玉」と,中国と四国を結ぶ連絡船の町「宇野」が一体化した人口8万の都市で,瀬戸内海でも陽光に輝き,南欧的雰囲気さえある.玉野市民病院は市の中心部に立地し,市庁舎,市立総合文化センターなどに近接する.6階建,延面積10,656m2(看護婦寮を含む),205床の規模で48年10月開院した.
 市民病院が,かつての療養所的存在であった辺鄙な場所から現在地に移されるにあたり井上市長,上田院長,市厚生委員会はこぞって,総花的な近代風病院ではなく,本当の意味の地域に密着した‘市民病院へ行けばいつでも診療が受けられる体制’をめざし,市民に密接した診断と治療を重視する地域病院に徹し,特殊な,より高度な技術・設備を要するものは,隣接する岡山大学付属病院・倉敷中央病院などの基幹病院に依存することとした.病院のデザインに対しての市長の唯一の注文は‘ギャラリー風の病院’で,私どもの志す‘病院臭くない病院’と一致し,ほぼご満足いただけたようである.加えて病院に,病を治す場だけでなく,社会復帰をめざす場としての願いもこめて,病院の通念では強烈かもしれない朱系統から白までの色彩でやや華やかな雰囲気になったが患者には快く受け入れられたようである.

病院図書館

—日本病院協会ハウスキーピング部会編—「病院ハウスキーピング」

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.66 - P.66

環境管理へ広がるハウスキーピングの役割
 ナイチンゲールのNote on Nurs—ingによると,看護婦のなすべき業務として16の項目が並べられている.そのうちの5項目はハウスキーピング業務である.すなわち,ベンチレーションと暖房,建物の衛生管理,騒音対策,光の管理,病室および壁面の清潔を保つこと等だ.ハウスキーピングの基調は明らかに看護業務から分化したものである.
 マッケカーン先生の有名な病院組織図をみると,病院管理を診療,治療,看護,栄養,診療記録等の専門職群と,ビジネス・マネジメント群とに大別して,ビジネス・マネジメントの機能のなかに,洗濯部門,ハウスキーピングとリネン・サプライ部門,および,建物の保守管理,光熱動力・水道等を担当するエンジニアリング部門などがみられる.そしてハウスキーピングとリネン・サプライの担当主任者をハウスキーパーと呼び,その部下にポーター,メイド,およびリネンルーム係員をもつようなしくみである.

—河野 博臣 著—「死の臨床—死にゆく人々への援助」

著者: 池見酉次郎

ページ範囲:P.87 - P.87

医師に課せられた実存的使命を洞察
 シカゴ大学で,死の病にかかっている患者の心理を,深く研究した心理学者として知られている,キュブラー・ロスの「死ぬ瞬間」という著書に,‘医学は,人道的で尊敬される学問でありつづけることができるのか,それとも,人間の苦しみを和らげるよりも,生命を延ばすことに役立つ,新しい非人間的な科学であるべきか.われわれはこう自問しなければならない’としるされている.
 これまでの医療では,死は治療者の敗北であると見なし,死の否定と生命の延長にばかり,重点がおかれていたようである.このような医療のあり方の中では,もはや回復の見込みのたたない患者に対したとき,医師は,言いようのない,心理的なフラストレーションと葛藤を味わうものである.このような苦い体験をくり返すうちに,医師たちは,死の問題に対して,しだいに無神経になるか,その問題にかかわることを逃避するといった,心理的な防衛を身につけることが多い.このようにして,人間にとって最も深刻な問題に対して,これに一番身近な治療者が,一番痴呆状態になるといった,何ともわりきれぬ結果を招きやすい.

私的病院からのレポート29

—兵庫県西宮市・香雪記念病院—400人の会員をもつオープンシステム病院—小沢凱夫院長にきく

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.67 - P.73

 さまざまな事情からわが国にはオープンシステムの病院が育ちにくいといわれる.このような情況の中で,アメリカを手本に本格的なオープンシステムを実施している病院が香雪記念病院である.小沢凱夫院長にその実情をうかがってみよう.

今日の精神医療 23

精神科医療へのボランティア活動の導入

著者: 増田陸郎

ページ範囲:P.74 - P.79

まえがき
 文化が進めば進むほど,人間の社会生活を法律によって統制する分野が狭められ,人間の自由意志判断によって行動する範囲が広げられていく.考えてみると,われわれが毎日支障なく平和に暮していけることは,大部分が法律によるよりは,他人の自由意志による支えがあるからである.したがってわれわれが気づかないが,コミュニティとはボランティアすることで成り立っている.そのような行動を少し整理して,自意識にのせ,ある具体的な目的に向かって行動する場合,とくにボランティアと表現している.
 さて,ボランティアは一般にどのような意義をもっているかというと,それぞれの国の文化水準によって異なるが,たんなる行政の補完行為の段階から進んで,行政では絶対に満たしえない精神的部分を満たすためにコミュニティの一員として自発的に行動することである.したがって本来の理念からいって医学や福祉の分野ではボランティア活動がなければ完成しない部分があるはずである.ただ残念なことにボランティア活動をチャリティ(慈善)としてとらえた過去の考え方のゆえに,善意の強制,富める者が富まざる者に,強き者が弱き者に,健康者が病者に,ある行為を恵み与えたり,同情したり,時に軽べつするというニュアンスが真のボランティア活動の発展を妨げてきた.

研究と報告【投稿】

大診療室における臨床実習のため新しく製作した材料戸棚

著者: 佐久間ヨシ

ページ範囲:P.80 - P.81

はじめに
 東京医科歯科大学歯学部付属病院の1第保存・補綴科診療室は,通常大治療室と呼ばれており,ここは毎年,約80名の学生が約1か年間にわたって教官の厳密な指導の下で臨床教育を受ける場所である.そこには総数約100台の治療用ユニットが,南北の窓際にそれぞれ2列横隊で配置されている.
 一方,日常の診療で用いられる各種の材料や薬品類は,従来から他の診療科と同様な戸棚に収容して供せられていた.しかし,この戸棚は本診療室の形態的特性にマッチしたものではなく,その機能も決して満足できるものではなかったため,利用者に多くの不満があった.このような事実から,業務処理能力の向上と実習学生サービス向上を目標にして更新の計画をたてた.しかし既製品ではそれらを満してくれるものはなく,新たな構想の下に新型戸棚を設計し,それを2台診療室に設置することになった.

Utilization Committee (病床管理委員会)について

著者: 淀川キリスト教病院・病床管理委員会 ,   高階経和

ページ範囲:P.82 - P.86

はじめに
 現在,日本の病院が直面している共通の問題点は,老人医療や慢性疾患患者に対する診療や看護の面におけるむずかしさであり,また病院の管理のうえにおける経済的な負担や社会医学的な問題の複雑さであると考えられる.現在の健康保険制度の最大の利点は,患者の立場からすれば,自分が選んだ病院が内容的に設備や医師や看護婦,ケースワーカーやその他のパラメディカルの人たちが協力して働いている優れた病院であれば,それだけ彼らは,よりよい医療を受けることができる.
 しかし,保険医療という制度の気安さがいつの間にか病院に対し,医師や看護婦に対して依存性を作り出し,不必要な治療や与薬を行なわせている.そして入院患者の場合には,慢性疾患患者や老人患者などの入院日数の長期化という現象を生み,これらの患者の病床占有率が非常に高くなってきているのが現状である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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