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雑誌目次

雑誌文献

病院33巻12号

1974年12月発行

雑誌目次

特集 院内感染管理の新しい課題

院内感染の新しい問題点

著者: 川名林治

ページ範囲:P.22 - P.26

はじめに
 院内感染(hospital infection, hospital acquired in-fection)は古くから知られていたが,近年化学療法の普及に伴い,従来弱毒ないしは常在菌と考えられていた緑膿菌などのグラム陰性桿菌が在来のブドウ球菌などより多くの役割を演ずることとか,ウイルス学の進歩により,ウイルスによる院内感染,とくにHB抗原などが非常に注目されるに従って,院内感染の問題は最近著しい状勢の変化をみた1)−38).従って院内感染管理の方法も,従来とはまったく新しい視点からの配慮と対策が早急にたてられなければならない.
 院内感染は,入院中の患者,新生児などにとって重大な問題であるばかりでなく,勤務者への感染など,医学的にも病院管理上も社会的にも,また人道的にも非常に重要である.今こそ,院内感染の発生要因の分析とその真剣な予防対策が,多くの人々の努力を結集して行なわれなければならない.

病院における消毒剤の利用

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.34 - P.40

 感染を防ぐ手段にもいろいろあるが,消毒剤による方法は重要な一手段である.消毒に関しては古くから多くの書物に書かれており,基本的なことは皆よく知っていることであろう.ところが院内感染の問題が,従来のようにいわゆる伝染病に限って考えていた時代とは異なった概念に基づいて論じられるようになった.一方,病院は建築構造的にも複雑になり,空調,エアシュータ,ダムウェータのような各エリアを循環するものが多く利用され,医療器具についても,複雑な構造を持ち,一部には,患者の呼吸気,体液を機器内に取り込んで循環させる機能を持つものにまでなってきている.これらの要素をふまえた上で,病院における消毒はいま一度考えなおし,新しい考えのもとに構成しなおし,今日問題になっている院内感染に対処していかなくてはならない.

新しい感染症とのとりくみ

術後感染症とグラム陰性桿菌

著者: 小林寛伊 ,   都築正和

ページ範囲:P.27 - P.28

 ペニシリンに始まる種々の抗生物質の出現が,術後感染症による死亡率を減少させてきたことは否定できない.とくにグラム陽性球菌感染症については大いに効果をあげており,ひところ耐性ブドウ球菌が問題となったが,これらに対するすぐれた抗生物質が多数登場し臨床に供されている.
 これに反して,グラム陰性桿菌に対しては,抗菌力の上でグラム陽性球菌に対するほど強力な抗生物質が存在せず,従ってある程度副作用を覚悟して,毒性のあるものまで投与しなければならないのが現状である.このような意味で,グラム陰性桿菌感染症は,院内感染管理の重要な課題であるといえよう.

緑膿菌

著者: 斉藤篤

ページ範囲:P.29 - P.30

はじめに
 院内感染というとブドウ球菌感染が有名であるが,疫学的実態の解明がすすみ,さらには耐性ブドウ球菌用Penicillin剤の登場などによってその管理は以前にくらべて容易になり,今日ではむしろ緑膿菌をはじめとするグラム陰性桿菌による院内感染が注目されてきている.
 ここでは主として内科領域の立場から,緑膿菌による院内感染の実態ならびにその予防対策について述べてみたい.

HB抗原

著者: 市田文弘 ,   上村朝輝

ページ範囲:P.31 - P.33

 日常扱う肝疾患患者中に,外科医,看護婦,検査技師など医療従事者が少なからず存在し,時に劇症肝炎となって死の転帰をとるのを見るにつけ,Hepatitis B (HB)抗原の危険性を身近な問題として感じざるをえない.HB抗原の発見以来種々の知見が集積され,ウイルス肝炎,とくにB型肝炎(HB抗原陽性の肝炎)については感染症としての再認識がなされるようになりつつある.院内感染という立場からも,安全および予防に関する具体策の必要性がたかまっている.ここではHB抗原の感染に関連した種々の問題点,現在での対策などについてふれてみたい.

対談

院内感染防御の実際—職員を感染から守るには

著者: 土屋俊夫 ,   川北祐幸

ページ範囲:P.41 - P.50

HB抗原の発見などと相まって,院内感染対策はいよいよ緊急の度を深めているが,わが国の病院の現状をみると,まだまだずさんの域を脱していない.では危険はどのあたりに潜んでいるのか,個人のレベルで守るべき原則はなにか,また病院組織としては,など,職員の感染防止についてお話しいただいた.

病院と統計 病院の部門別原価計算・12

昭和48年6月実態調査よりみた病院経営概況

著者: 尾口平吉

ページ範囲:P.10 - P.11

 昭和48年6月公私病院連盟で実施した病院経営実態調査の結果によると,一般病院の経営主体別,規模別の赤字,黒字病院数は下の表のとおりである.
 病院の赤字,黒字は総体的には診療報酬の適否に左右される.48年6月は,その意味では診療報酬改訂(47年2月)後1年4か月を経過し,その間,47年,48年春闘によるベア(自治体病院は48年度分を含まない)に伴い給与費が大幅に上昇していること(公務員は47年10.68%,48年15.39%,常用労働者賃金指数47年2月対指数131.0),物価が上昇していること(消費者物価指数47年2月対指数113.7)から,病院経営が悪化していた時点である.しかし,このような時点においても41%程度の病院は一応黒字経営を行なっていた(自治体病院には前述問題点がある).

グラフ

清瀬病院街の移り変わり

ページ範囲:P.13 - P.19

その誕生
 昭和5年,赤松を混えた一面の雑木林の中に,東京府が結核病院の建築を始めた.精神病の松沢病院とならんで結核の清瀬病院というわけである.武蔵野電車清瀬駅下車,雑木林の中を徒歩10分という距離で,人家も見えない林の中であった.結核の病院というのでは地元の反対も強かろうと,工場と偽って建築にかかったそうである.ところが工場にしては煙突が少ないというので,計画が露見,視察に来た衛生課長が,むしろ旗を立てた農民たちに,こやしだめに突き落とされたという伝説が残っている.無医村であった.
 それでもとにかく,東京府立清瀬病院は,昭和6年10月20日開院した.初代院長岡寿郎博士は,その最初の年報に書いている.

「五尺の小身是皆胆」—国立岡山病院 奥田観士院長

著者: 日下連

ページ範囲:P.20 - P.20

 私は後任病院長の推薦条件として次の5項目を密かに決めていた.1)院内より昇格させる,従って年功序列を考慮しなるべく副院長または医長の職にある人.2)人格円満,良識のある人.3)病院の管理経営の能力ありと認められる人.4)かつて教授,助教授または講師を勤めた人.5)指導者,研究者としての業績のある人.
 奥田先生は以上の条項にピッタリの人であるから,躊躇せずに推薦した.

Guest just arrived

転換期に立つ英国の医療—NHSの現状を聞く

著者: マイルスC.バーディ ,   落合勝一郎

ページ範囲:P.52 - P.56

 一昨年の本誌2月号(Vol.31,No.2)で,英国ホスピタルセンター所長M.C.ハーディ氏の講演"英国における病院管理の動向と管理者の養成"を掲載した.この10月ハーディ氏が再度来日されたのを機会に,最近財政難などによって再検討をせまられているNHSの現状をうかがった.

病院のクオレ

第12話 拝啓 知事様,市長様

著者: 原素行

ページ範囲:P.57 - P.57

 近来,各地に公立病院が建られ,医療福祉の展開はまことに喜ばしい現象である.病院がそれぞれ地域医療の進展に寄与し,その価値を認めない人はあるまい,病院は,公私の別なく社会の共同体として重要であることはいうまでもない.また,病院に関するフィロソフィーがようやく変わり,医療が公衆衛生の範畴とされ,病院はしたがって,Center of Healthと考えはじめられてからすでに10数年を閲した.
 病院が地域社会の共同体のひとつとして重視されているとき,すべての住民がこれを利用することができる立場におかれているはずである.一方,社会保険が国策となってその利用者が著しく増加するに至ったが,病院の財政がこれに伴わず,その運営が危ぶまれている.そのため,病院は経営上差額ベッドを増加させる傾向を見のがすことができない.そして社会問題として注目されるに至った.端的にいえば,庶民の入院が阻まれる.私的病院ならばいざ知らず,公立病院の開設者にこの点についてご配慮を願いたい.

病院職員のための医学知識・24

膠原病

著者: 本間光夫

ページ範囲:P.58 - P.59

膠原病という言葉の由来
 膠原病は病理学者であるKlem-pererがその共同研究者Pollack,Baehrとともに1942年にはじめて提唱した言葉です.
 それまで病気は臓器の疾患と考えられていました.したがって診断も基礎となる臓器疾患を確立することにその努力が向けられていたわけです.つまり肺の炎症性疾患だから肺炎,肝臓に病変の主座があり,その病変がせんい化を主体とするから肝硬変症という考え方です.

医療事故と法律・12

複数担当者間の事故責任

著者: 饗庭忠男

ページ範囲:P.60 - P.61

質問
 病院では組織体制のなかでの診療が行なわれているが,月水金・火木土というように曜日で診療担当者が分かれているのが通常である.
 複数の医師が治療にあたった場合,その診療上の判断が若干差異を生ずることもあると思うが,その差異から生じた患者のクレームの問題,手術などの複数の医師の責任はどのように考えるべきだろうか.

請求事務適正化のためのポイント・6

窓口収入もれと未収金回収

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.62 - P.63

 請求事務適正化のためのポイントを5回にわたって述べてきたが,今回はその最終稿となるので,これまでの補足とまとめをしてみたい.

時評

非常事態への備えは万全か

著者: てん

ページ範囲:P.64 - P.64

 北九州の動物園のサル小屋に夜放火をした者がおり,かわいそうに12匹のサルが焼死するニュースが出ていた.罪のない動物が,なんのいわれもなく,わけのわからない犯人によって大量虐殺されたことには,言葉にはあらわせられない心のいらだちが残る思いだ.非情性性格をもった者が,すさんだ世の中の風潮に刺激され,自己満足のためには手段を選ばない結果であろう.

病院建築・70

みどり健康管理センターの設計

著者: 井戸昭七

ページ範囲:P.65 - P.70

はじめに
 新幹線でも,ビルの中のエレベータでも,定期的に精密な検査を受けて整備され,常に安全な状態にあるよう,機械の健康管理を行なっている.これらは強制的に健康管理を受けているのであるが,人間の場合には,機械に比較してまったく放任状態であるといってもよい.健康はたいせつであると,みんなが理解していても,各自の健康管理にどれだけの配慮がなされ,どれだけ健康状態を検査してもらっているかを考えると,まだまだ十分とはいえないだろう.
 人間ドックにおける精密な健康診断は,健康人を対象として,成人病の早期発見や健康の度合いのチェック,ならびに,より健康であるための生活指導などを目的として,かなり親しまれてきている.しかし数日間の入院が必要であり,多忙なビジネスマンにとっては,それだけの時間的余裕をつくりだすことも容易ではない.また,費用の点でもかなり高額であり,その恩恵に浴することができる人数にも限りがある.そこで,受け入れ側の問題として,一般の人がもっと受診しやすい設備やシステムを用意する必要性が生じてきた.すなわち短期間に,外来形式で多人数を対象とした,受診料の安価な,それでいて診断レベルを落とさない人間ドックを設けなければならない.そのためには,人間ドックの性格を,大衆性のあるスクリーニングへと移行していかざるをえない.

今月のニュース

救急医療制度・救急医学教育にも焦点—第2回日本救急医学会

ページ範囲:P.71 - P.71

 昨年,恩地裕・大阪大学教授を会長に神戸の地で嚆矢を放った日本救急医学会は,本年舞台を東京に移し,織畑秀夫・東京女子医大教授を会長とし11月27・28の両日,虎の門の国立教育会館ほかの会場で開かれた.
 全国から外科医,麻酔科医,産婦人科医をはじめ各科の医師,また医師会,消防庁関係者ら多数を集め,連日活発な意見が交換されたが,とりわけ「救急医療制度」「救急医学教育」をめぐって討論がもり上ったのは,現場の医療従事者が日常つねにこの方面に不満を抱いていることがうかがえ,注目に値しよう.

座談会

医療情報システムとプライバシー

著者: 木全心一 ,   饗庭忠男 ,   紀伊国献三

ページ範囲:P.72 - P.81

 司会 医療に対する需要が急速な勢いでふえつつある一方,それに対応する医療資源はどうしても有限なものであることから,効率的な医療提供の仕組みを社会の中でどうしても考えていかなければならないということが,現代の医療問題の最も重要なものと思われます.この効率的な医療提供の仕組みの1つの構成要素として,最近医療情報システムは原生省の中にも研究会が持たれて検討が加えられつつあります.
 さて,医療情報システムということを考えるとき避けて通ることのできない問題として,情報システムができたとき医療を受ける人のプライバシーをどう考えるかという問題がからんできますが,今日はこの重大な問題を主題として取り上げたいと思います.私も,医療情報システム研究会の委員の1人ですが,木全先生にはやはりその委員の1人として,医療情報システムとして現在考えられていることのアウトラインから触れていただけますか.

今日の精神医療・24 インタビュー

医療の中の福祉—島田療育園での経験から

著者: 小林提樹 ,   岩佐金次郎

ページ範囲:P.82 - P.89

‘福祉優先’という声が巷をにぎわしたのは,いったいいつ頃のことであっただろうか.熱しやすくそして冷めやすいというわれわれ日本人の悲しむべき国民性のゆえか,話題はつとに福祉を離れ,物価や不景気へと移り去ってしまった.しかし,かけ声だけの福祉で終わらせてはなるまい.いま一度,われわれの視点を福祉に戻し,福祉の現場から身を退かざるをえなかった小林提樹氏の体験に,真摯に耳を傾けようではないか.

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週休2日制の導入—聖路加国際病院の場合

著者: 白石太郎

ページ範囲:P.90 - P.91

他産業における週休2日制の普及と定着化に伴い,24時間運営を余儀なくされている病院においても,否応なしに検討せざるをえない状況が差し迫ってきた.しかし,人員の面や診療上の問題などから,幾多の困難があることも事実のようだ.
ここで,具体的に導入を目ざし始めた病院に,逐次,その方法や取り組みの経過を説明していただくことにして,まず最初は聖路加国際病院の例から始めよう.

「病院」 第33巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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