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雑誌目次

雑誌文献

病院34巻12号

1975年12月発行

雑誌目次

特集 経営能率からみた病院

大規模総合病院

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.22 - P.27

はじめに
 現在,大規模総合病院ほど経営危機に陥っているところはない.1昨年以来の狂乱物価は,本年度に入り一応平常化したようにみえるが,病院の経営は未だ安定の域に達していない.昭和49年度における大幅ベアの影響は大きく,いずれの病院においても,その存立をかけた試練の年であった.特にその影響を最も激しくうけたのは,人手を多く擁し,高度な機能を持つわれわれのような大規模総合病院であった.
 大規模総合病院の経営が他の病院と比べて特に困難になっている理由は,非常に経費のかかる診療体制を維持しているためであるが,この診療体制は,人の面,設備の面,また収容患者の面などあらゆる面において,経営効率が悪くなるようになっているのである.それは,そこで行われている医療の実態に見合うだけの診療報酬額が定められていないのが,最大の原因であることはいうまでもない.これまでに,われわれはあらゆる手段を尽して,この最大の危機を乗り切るための努力を重ねてきたが,現在,そしてこれから先の病院経営のことを考えると,もうどうしようもない極限の状態に追い込まれたという感を持たざるをえない.

農村病院

著者: 吉崎芳雄

ページ範囲:P.39 - P.42

立地条件による経営上の問題点
 農村病院としては,市町村立病院など,地方自治体が経営する病院も数多く存在する.1つの経営組織体としては,農業団体の経営する厚生連系統の118病院があるが,その大半は人口5万人未満の市町村に位置し,立地条件的に,経営上極めて不利な立場におかれている.
 まずその第1の問題点は,やはり医師の充足難と,その定着性に乏しいということである.

組織化された医療法人

著者: 森久雄

ページ範囲:P.44 - P.46

医療法人の経営形態
 医療法人は,その組織形態から社団と財団の2形態に分かれている.
 社団は社員の人的結合を中心として,民主的運営が可能である半面,社員の退社による財産の返還などによる事業の安定性,継続性に問題がある.また財団は,設立者の寄付行為による財産を中心として,財産面からの安定性はあるが,民主的運営は制度的に著しく制約されるという問題がある.

個人病院

著者: 高橋重雄

ページ範囲:P.47 - P.50

病院と能率
 病院は,医療法第一条に定められているとおり,「傷病者が,科学的で且つ適正な診療を受けることができる便宜を主たる目的として組織され,運営されるものでなければならない」ことは言うまでもないことである.
 私は昭和38年から3年間,産業能率短期大学において能率科学専攻の勉強をやり,能率の概念を次のようにつかんだ.能率はもともと機械工学で使われていたもので,入力に対する出力の差をさしたものだが,1853年ごろアメリカのハリントン,エマスンによって,機械から人間の行動に転用されるようになった.日本にも大正年間に入ってきたが,現在でも「能率とは何か?」と質問すると,正しく答えられる人はごくわずかしかいないのではなかろうか.

専門病院・1

がんセンター

著者: 今永一

ページ範囲:P.28 - P.32

 私は雑誌「病院」の編集者より,左記の題目で,(1)今日までの診療活動と将来の動向に対しての問題点,(2)医療要員の確保と人事管理の問題点,(3)経営財政の健全性,能率性,の3項目について執筆の依頼を受けたが,日本の現時点においては,理想と現実との間のギャップがあまりに大きく,これについて赤裸々に意見を述べることは,ただ混乱を生ずるのみで何も益する所はない.したがって事実の羅列になり,意に添えないことと思うが致し方のないことで,お許しをいただきたい.

専門病院・2

小児病院

著者: 尾村偉久

ページ範囲:P.33 - P.38

はじめに
 小児を専門とする病院,すなわち小児病院といっても,(A)診療科のあり方により1)単科の小児病院(小児科病院,小児精神病院,小児外科病院,小児整形外科病院など)2)2診療科以上の複数の科をもつ小児病院(たとえば小児科と小児精神科の併有病院など)3)成人の場合の5科以上,100床以上を有する総合病院に匹敵する,いわゆる小児総合病院(小児専門病院)があり,また(B)対象患者の病期により1)急性小児病院2)慢性小児病院があり,さらに(C)併有する機能により1)公衆衛生機能を併せもつもの2)リハビリテーション機能を併せもつもの3)学校教育機能を併せもつもの4)児童福祉施設としての機能を併せもつものなどがあり,これらがまた組み合わさって,それぞれの小児病院の性格が定まるものである.
 ここでは高度の専門性を備えた,いわゆる急性小児総合病院(小児専門病院)を主とした小児病院を取り上げ,論じることにしたい.

病院と統計 病院労働統計・12

医療労働組合

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.10 - P.11

労働組合組織の動向
 医療関係労働組合の組織の動きをみると,昭和49年6月末における労働省の「労働組合基本調査」では,医療関係の労働組合数は1,641組合,労働組合員数は18万6,368人で,前年に比べ労働組合数で56組合(3.5%)の増加,労働組合員数では約1万2,440人(7.2%)増加し,昭和37年の8.5%についで高い組織率となっている(図1,2).労働組合数の増加は,既存組合の組合員数が増加する場合と,新たに組合が結成された場合が考えられるが,昭和49年度の場合は組合結成による増加が大勢を占めている.なお,昭和49年度の組合結成では,精神病院関係の組合結成がめだっている.

グラフ

大阪南部のニュータウンを背景にオープン—近畿大学医学部付属病院

ページ範囲:P.13 - P.19

地域住民との密着を考慮
 大阪の南30kmのところに金剛山がある.その山麓に狭山ニュータウン,泉北(せんぷく)ニュータウンと,大阪の南のベッドタウンとして急速に発展しつつある地域がある.昭和50年5月1日,近畿大学医学部付属病院がこの地に開院した.大阪府内の医科大学は,いずれも大阪府の北部に存在しており,南部では唯一の医科大学病院として,しかもニュータウンを背景として,11階建のくるみ色の外装をもった病院が忽然と姿を表わしたのである.
 近畿大学の医学部は,十数年前から計画されたものと言われているが,新しい医科大学にふさわしい,新しい酒を入れる革袋としての病院として,いくつかの工夫がなされている.近畿大学総長で医師でもある世耕総長は,海抜1000mほどの山の上に病院を作りたい,葛城山か金剛山の項上ではどうかという気宇壮大なねらいがあったそうであるが,なだらかな丘の上に幾つかの池を回りにもつ.ごみごみした中にある大学病院を見なれた眼には極めてすぐれた環境にある病院である.

多彩な行政経験をバックに活躍する 医療金融公庫理事・若松 栄一氏

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.20 - P.20

 「苦悩するアメリカの医療」(牧野出版社)を読むとき,読者は,著者の若松先生がいかにすぐれた分析能力を備えた学者であるかと思う.しかしまた,ただの学者ではないとも思う.なまなましいアメリカ社会をダイナミックにとらえた論理の展開には,机上の空論ではない現実の医療政策家,行政家としての先生の面目が躍如としてみられるのだから.先生は,HMOやPSROなど混沌とした今日のアメリカ医療の姿を,資本上義社会における貴重な社会実験として凝視されているが,一方では,またそのままわが国の医療の現在と将来の姿に相対しておられる.
 発表された数多い意見によっても,最近では「老人ホーム等における医療供給体制のあり方に関する研究報告書」をみても,学問的でかつ実務的な先生の姿勢は一貫しており,しかもわが国の医療に対する情熱のほどがうかがえるというものだ.

座談会

医療技術者の志向するもの—医療技術者団体連絡協議会の課題

著者: 鈴木正彦 ,   山本辰芳 ,   小林種一 ,   中村実

ページ範囲:P.52 - P.60

 昨年10月,日本看護協会,衛生検査技師会など9つの医療技術者の職能団体が「日本医療技術者団体連絡協議会」を発足させた.医療の高度化と技術の専門分化が進む中で,未だに封建的色彩の残る病院組織の中で下積みの仕事を担うだけでは,医療の向上はありえないとして,身分法や教育制度の確立,さらに専門職としての独立を目指して,その一歩を踏み出した.現場に残る問題と,その目指すところをお話しいただいた.

病院私論・12(最終回)

病院の独立採算

著者: 守屋博

ページ範囲:P.61 - P.61

 現在,病院関係者を最も震撼させているのは,何といっても,激増する赤字のことだろう.私的病院は,これは赤字即倒産だから,赤字は何としても出せない宿命にある.危機だ,危機だと青い顔をしているのは,もっぱら公的病院の人だけれども,公的病院はもうちょっと経営努力をしたらどうだと冷ややかな向きもある.まあ,赤字の問題を話すときりはないが,今月は,病院の会計制度と赤字について話してみよう.

病院職員のための医学知識・36

法医学

著者: 石山昱夫

ページ範囲:P.62 - P.63

法医学は医学の一領域といっても,他の臨床医学などとは全く性格が違うと思うのですが,その第一の特色はなんでしょうか.
 現在の医学では,法医学は社会医学の一専門分野に分類されているし,その社会医学でも,ややおもむきを異にしているという印象が強いようです.一般に法医学といえば警察医学とか,犯罪医学といった特殊な医学領域と考えている人が多いようですが,このような考え方は全く誤っていると思います.では,法医学は医学において,どんな位置づけができるでしょうか.それには,法医学がどのようにして発達したかを分析すれば,容易に了解できるでしょう.

労務担当15年の記録から・6

「今回限り」は禁物—重みもつ「労働慣行」

著者: 藤田栄隆

ページ範囲:P.64 - P.65

 こんなことを言うと,「そんな馬鹿な話があるものか.お前,少し組合にイカれとるんじゃないか」と言われるかも知れないが,一旦できてしまった「労働慣行」という奴は,とてつもなく強い力をもつものだということを,ここに改めて申し上げたいのである.
 ところで,いまどきどこの病院でも,就業規則のひとつも制定されていないような病院は,まずないだろうし,ちょっと気の利いた病院では,ちゃんと労働協約まで結んでおられる.

柏原病院からのレポート・3

ストとは無縁の県立病院

著者: 冨田重良

ページ範囲:P.66 - P.67

骨惜しみをしない職員
 前報で報告したように,柏原病院の外来は,能率化と逆行する形をあえてとっている.この影響は検査室において特に深刻である.検尿,検血のみならず,検痰,血糖,PSPなど即日測定可能の諸検査は,首を長くして待っている患者のために,できるだけ早く1件ずつその結果を出さねばならない.かといって,そのために余分な人員が認められているわけでもない.わずかの検査技師たちが,お互いにカバーし合い,まるでこまねずみのように忙しく立ち働いていたのには,びっくりした.
 このような驚きは,その後もいろいろな所で味わった.

病院の新しい職種

内視鏡検査士

著者: 小川高伴 ,   小谷宣夫

ページ範囲:P.68 - P.68

 今日,消化器疾患の臨床において,内視鏡検査はX線検査とともに,欠かすことができないものとなり,それは全消化管のみならず,膵管,胆管系まで及んでいる.したがって,これらの検査に使用する内視鏡器械の種類も極めて多く,検査法も複雑多岐にわたっている.
 したがって,内視鏡検査助手にもかなり高度の専門的知識と技術が要求されるようになっている.しかし,未だに多くの施設では,臨床検査技師や検査助手,あるいは看護婦やX線技師らが兼務している.ところが検査件数の増加と業務内容の高度化により,このような片手間の仕事では,実地臨床の要求に答えられなくなってきた.このような状況から,内視鏡検査士という専門の職能が要求されるようになり,多くの専門病院では,長年にわたる多数の症例の経験を通じて,熟練した助手が養成されている.

病院建築・79

神奈川県立芹香院の設計

著者: 和田亮太

ページ範囲:P.69 - P.73

昭和4年に開院
 社会思想の激しい変貌下にあって,精神衛生の問題は,国家社会の責任と人道主義の上に立ち,患者の社会復帰に寄与せねばならないことは言をまたない.神奈川県立芹香院は,昭和4年3月定床150床をもって,「芹は水草にして芳香を放つ」と,時の神奈川県知事池田代が句を寄せられて開院されて以来,40数年の歴史とともに精神医学と社会に頁献してきた.
 昭和8年収容定員234名となり,その後数次にわたり増改築が行われたが,いずれも木造であった.昭和35年に,はじめて鉄筋コンクリート2階建1,988.42m2130人収容の病棟,さらに昭和36年には,鉄筋コンクリート造2階建595.02m242人収容の病棟が新築され,現敷地約131,000m2に本館,治療棟8病棟,および付属建物52棟で,約12,600m2の建物となり,定床400床の規模となっている.年を追って継ぎ足された典型的な分棟式で,病棟単位ごとに独特な一種の雰囲気が醸成され,患者の作業によって作られた池などがあり,精神病院の特殊性から,むしろ捨て難い点も少なくなかった.

今月のニュース

テーマは「全国津々浦々に望ましき医療を」—宮崎で,第14回全国自治体病院学会

著者: 徳岡三郎

ページ範囲:P.74 - P.75

第14回全国自治体病院学会が,10月23,24日の両日,泉谷武近・県立宮崎病院長を会長として,宮崎市のサンホテル・フェニックスで開催された.学会は関係者の努力により成功裡に終わったというが,隣県である大分県の県立病院長・徳岡三郎氏は,その印象を以下のように寄せてきた.

一頁評論

地域医療と「病院人」

著者: 弓倉藤楠

ページ範囲:P.76 - P.76

 現在,地域医療という言葉はどこでも誰にも使われているが,その意味づけや実践の方法についての理解が,必ずしも共通していない.したがって地域医療展開の状況をみると,「地域のニーズに応じて」と表現されていながらも,地域分析が十分なされていなかったり,方法論も画一的あるいは散発的であることが多い.また医療の一貫継続性に欠けており,地域医療展開後の評価も十分行われていない.
 たとえば,病院の建物や設備が巨大になると「わが病院は地域の中核病院である」と自称しているが,そこで行われる医療は病院内だけのテクノロジー志向型の医療であり,機能そのものは古い時代の延長線上にあるケースが多い.すなわち,患者について地域の中の人間としての捉え方をしていない.患者中心という言葉をよく耳にするが,院内だけの患者中心では,真の地域住民の福祉とはつながらない.地域における人間中心という言葉に置き換えられる必要があろう.

精神医療の課題 インタビュー

地道に,質の向上をめざして—高橋・日精協会長にきく

著者: 高橋清彦 ,   岩佐金次郎

ページ範囲:P.79 - P.86

依然として全精神病床の85%を占める私立病院は,5年前に噴き出した精神病院告発の矢面に立たされていた.嵐が過ぎ去り興奮がさめ,静かな自省の時を得て,改革への模索が始められた.こうした私立病院を中心に組織される日本精神病院協会(「日精協」)は,当然この運動を積極的に進めなければならない.水錬で鍛えた体で全国を精力的に駆け回る高橋日精協会長は,あくまでも現場で着実に改善しようと訴える.

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McMaster大学における医師と看護婦のチーム医療

著者: S. Barrows ,   紀伊国献三

ページ範囲:P.88 - P.95

 このところ,医療のあらゆる分野でチーム医療の声は高まる一方であるが,とかく論議だけに終わりがちで,未だにその一歩を踏み出しかねているのが,わが国の現状であろう.その点,ライフ・プランニング・センターの招きで来日されたBarrows博士が語るカナダのMcMaster大学の医師と看護婦のチームワークは,綿密な計画性と具体性に貫かれた一つのモデルということができそうである.
(本稿は7月28日病院管理研究所において行われた研究会における講演と質疑の全文である.)

「病院」 第34巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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