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雑誌目次

雑誌文献

病院34巻2号

1975年02月発行

雑誌目次

特集 病棟閉鎖と入院制限

「窓々に灯は点れり」—病棟閉鎖から復元まで

著者: 大島民郎

ページ範囲:P.32 - P.35

「坂を降りながら,時々,うしろをふり返って,夜空に高く聳えている病院の建物を見ると……窓という窓にはおおかた明りがついているけれども,その明りの強弱が妙にふぞろいで,なかには,今にも消え入りそうな細細とした光の一点を残しているのもあり……」
 これは岸田国士の名作『暖流』の一節であり,映画では佐分利信扮するところの病院主事日疋祐三がガッシリとした肩幅で坂を下りながらふり返るというシーンであるが,このように夜退出のときに病院を見上げるというのは,私たち病院運営に携わる者にとってのひとつの習性といってよいであろうか.

医療と福祉の二重性ゆえに—重症心身障害児施設のベッド閉鎖

著者: 金森仁作

ページ範囲:P.42 - P.45

 経済優先から福祉優先の時代となり,老人や心身障害とりわけ重症心身障害をもつ人びとの福祉にスポットがあてられ,重症心身障害児施設における職員不安や職員の腰痛問題などが,社会的にも政治的にも大きな問題としてとりあげられている.
 重症心身障害児施設の病棟閉鎖については,一般病院と基本的には同じ事象であるが,その理由,経過は若干異にしていると思われる.ここでは,病棟閉鎖の範囲を狭い意味でとらえず,また特定の施設問題として取り扱わず,広く全体の問題として論ずることとしたい.

苦悩する病院管理者たち—アンケート調査で生まの声を収録

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.50 - P.52

69病院から回答
 編集部では,病棟閉鎖と入院制限に関する各病院の実態を生まの声として収録すべく,全国の国公立,日赤,済生会,社保,厚生連などの主だった病院を約120か所選定し,各病院の院長にあててほぼ以下のような内容のアンケート調査を行った.
 1.病棟閉鎖の有無 2.閉鎖病棟の種類と病床数 3.閉鎖時期とその前後のいきさつ 4.閉鎖解消のための対策 5.今後の見通し 6.この問題に関する意見と提言

座談会

ベッド閉鎖克服へ道は遠く

著者: 稲田龍一 ,   黒田幸男 ,   足達さだ子 ,   今井敏子

ページ範囲:P.22 - P.31

お集まりいただいた4人の方がたは,いずれも都市の高機能をもつ病院で管理の一翼を担っているが,残念なことに,ベッドの一部を閉鎖せざるをえない苦悩を負っている.‘最大の原因は看護婦不足’と,早々意見は一致し,その克服への道をめぐり討論は続いた……

ベッド閉鎖をこう考える—神奈川県立こども医療センターの経験

こども医療センター運営の特殊性から

著者: 須川豊

ページ範囲:P.36 - P.37

 小児医療は看護その他のスタッフをとりわけ多く必要とする.したがってベッド閉鎖に追いこまれる度合も高いわけだ.そこで,神奈川県立こども医療センターが現在,深刻に経験しつつある事態を,所長,医師,看護婦,施設管理部のそれぞれの立場から論じていただいた.各々が書いた原稿をいったん持ち寄って討論し,その結果,各人が加筆・修正を施して本稿は完成された.

医師の立場から

著者: 塙嘉之

ページ範囲:P.37 - P.39

医師のジレンマ
 医師であれば,ひとりでも多くの患者を診療し,可能なかぎりの医療をサービスしたいと考えるものである.それが,病棟に空いているベッドが存在しているにもかかわらず入院を制限するとか,極端な場合には病棟を全部閉鎖しなければならない場合がある.
 どこの病院でも病棟には病棟婦長がおり,入院患者の管理について医師と協力して責任を負っている.病院によっては,病棟ごとに医長をその責任者として定めている.ここで,その病棟の管理について,婦長と医長とはどのように責任を分担し,どちらがより高次の責任を負っているか,まだ必らずしも明確でない.

看護の立場から

著者: 田島香代子

ページ範囲:P.39 - P.40

 当センターの病棟開設は私にとって3回目の経験である.
 開設以来5年目,業務の確立,発展に伴い,当センターも他院の例にもれず看護婦不足のため病棟閉鎖や入院制限を余儀なくされている現在,看護管理の立場からこのテーマについて書こうとすると,10年前との比較およびこの10年の看護の移り変りを考えてみざるをえない.

施設管理の立場から

著者: 高木茂次

ページ範囲:P.41 - P.41

国の無政策を憂うる
 当然のことであるが,医療需要に対応できる医療従事者の必要数の確保ができれば,通常病棟閉鎖問題は起こらない.しかし,現在の状況下では,看護婦の質と量を簡単に得ることはきわめて難しい.
 看護婦不足問題は今日や昨日のことでなく十数年来のことで,それがため看護婦の教育制度の改善をはじめ,看護制度全般の改善検討が叫ばれ,各方面からいろいろな意見が出され論議に花が咲くものの,国の実行ある政策はなかなか進展しない.

ベッド閉鎖状況を調査する

自治体

著者: 松野竹雄

ページ範囲:P.46 - P.46

 全国自治体病院協議会では,昭和49年1月31日現在をもって,当協議会加入の全病院を調査の対象として「自治体病院における看護婦の勤務体制並びに待遇状況調査」を実施した.この調査の調査項目のひとつとして,最近問題となっている「病棟閉鎖の状況」が調査され,その結果がこのほどまとめられた.

日赤

著者: 黒坂司

ページ範囲:P.47 - P.48

日赤病院のベッド閉鎖状況
 日赤病院の昭和49年3月1日現在における病棟利用状況は,表1のとおりである.本表における‘利用状況’と標題の‘閉鎖状況’とではニュアンスの点で若干違和感があるが,実態論的には同一に見なしてさしつかえないものであるので,以下この調査をもとに所見を述べることとする.
 表1によれば,許可病床33,654床に対して実働病床数は31,236床となっているので,許可病床数の約7.2%にあたる2,418床が閉鎖されていることとなる.

済生会

著者: 矢壁昭文

ページ範囲:P.48 - P.49

はじめに
 最近,ベッドの一部閉鎖すなわち入院患者の制限という現象がどこでも起こり,済生会の68病院中表のごとく,その数は326床に及んでいる(この数は1病院で20床以上を閉鎖している病院のみを掲記したものである).
 入院患者の制限の起きたのは,かつて大学医学部の紛争事件につぐ大学医局内での種々の改変で,病院に派遣された医師の引揚げがあり,医大のない地方小都市の小病院では,医師不足はもとより,医師数の少ない特殊の診療科では止むなく入院患者を制限せざるをえない事例もあった.

病院と統計 病院労働統計・2

病院の初任給

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.10 - P.11

職種別初任給
 新規学卒者および免許取得者の初任給は,原則的には修学年数を基準として決められてはいるが,そこには市場における労働の需給関係が強く作用して初任給の世間相場が形成されてくる.
 当然のこととして,求人倍率の高い職種の者ほど初任給の上昇率が高い.図1をみてもわかるように,医療技術員の初任給上昇率は23.9-25.1%台であるが,求人倍率の最も高いとされている看護職の場合は28.6%台になっている.

グラフ 新設医大付属病院シリーズ・2

既成医大に在野から挑戦—川崎医科大学と付属病院

ページ範囲:P.13 - P.19

個人的色彩が依然として残る,わが国に稀な医科大学である.一代で診療所を医科大学にまで育てた川崎祐宣理事長は,基盤を固めるまではワンマンコントロールも必要と自ら語る.だからこそ,既成の大学で許されない野心的な試みも可能な場として,全国からスタッフが集い,創設期の熱気がみなぎるのだろう.従来の医大は教授の研究のためにあったようなものだが,ここは学生のためにあるという考え方もそのひとつ.すべてを臨床医学に結びつけていこうとする積極的姿勢は,設備構造上にも明確で,学生個々の研究スペースが,3,4年は大学内に,5,6年は大学と病院との接続部で図書館,研究室,実験室に近いところに置かれ,なるべく早くから臨床の場で自ら勉強させようとする.
来年はいよいよ第1回卆業生を送り出すという.関係者の脳裡を国家試験が離れない昨今だが,川崎医科大学の理想が社会の中にどう根をはり生かされてゆくのか,大学の真の評価が下される日もまた近づきつつあるといえよう.

日本病院会学会の栄えある第1回会長として—関東逓信病院 沢崎博次院長

著者: 小野田敏郎

ページ範囲:P.20 - P.20

 東京の生まれ,府立三中をへて本郷にやって来て,明寮5番の寮室で同じ釜の飯を食った仲間である.この頃より弓道に励み,キャプテンとしてインターハイに臨みその個人賞を獲得した.大学を出て青山外科に入り,胸部外科に志を立てて広島療養所から国立久里浜病院,関東逓信病院において結核外科臨床の令名を高くするとともに,アスペルギルス症の外科ではカナダ,アメリカの国際会議のシンポジウムに発表されるなど学問的に活躍をされた.伊豆逓信病院を関東逓信病院の分院として,結核からリハビリテーションセンターに改編する仕事を完成し,今度は本家の病院の院長として活躍をはじめられた.病院のオートメ化については地を抜いた仕事が進んでいる.静思,的を射て外さず.このたび、病院団体の大同団結のあとの第1回の日本病院会学会の会長として,日本の病院の進歩に寄与される.その成功を祈ってやまない.

座談会

POS導入とその現状

著者: 日野原重明 ,   大岩孝誌 ,   井手由美 ,   岡安大仁

ページ範囲:P.54 - P.62

 日野原博士の努力によってわが国に導入されて1年半,医療改革のためのシステムとまでいわれるPOS (Problem Oriented Sys-tem)とはどんなシステムであろうか.全国に先がけてその活用に踏み切った聖路加国際病院での経験をお話しいただいた.

新しい病院医療の胎動

肝臓病・腎臓病センターを目ざして—衆済会増子病院

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.63 - P.68

 名古屋駅から車で5分.中村区役所と道路をはさんで増子病院がある.肝臓病・腎臓病センターを目ざす4階建ての病院で,現在,62の病床と30の透析ベッドをもっている.標榜科は内科,胃腸科,小児科,放射線科.
 昭和26年,現増子和郎院長の父君六郎氏が,結核を主体とした42床の病院をつくった.昭和47年,和郎氏が後を継いで院長に就任するとともに,古くなった木造の病院を建て替え,アメリカで学んだ肝臓病の専門知識を生かせる新しい形態の病院をつくりたいと考えていた.

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第1回日本病院会学会迫る

ページ範囲:P.68 - P.68

 日本病院協会と全日本病院協会は,昨秋「日本病院会」として団結,統一を果したが,その第1回学会がすでに迫っている.一般演題以外のおもな内容は以下のとおりである.

病院私論・2

卒後医学教育(1)—インターン制再考

著者: 守屋博

ページ範囲:P.69 - P.69

 卒後医学教育が必要なのはもちろんだし,こいつをどうするかについてはさまざまな論議が闘わされてきたし,また具体的に制度として実施されもした.
 インターン制度は昭和21年にできて,例の医学部紛争の過程でフクロだたきにあった結果つぶされたんだが,その歴史をもう一度ふりかえってみようじゃないか.

病院職員のための医学知識・26

副腎皮質ホルモン剤

著者: 村中日出夫

ページ範囲:P.70 - P.71

人体内で分泌される副腎皮質ホルモンはどんな作用をしているのでしょうか
 生体の副腎皮質から分泌されるホルモンは単一ではなく数種類のものがあります.これらはコレステロールをもととして副腎で合成され,ステリンに類似する基本骨格をもっていますのでステロイドといわれます.ステロイドには男女性腺より分泌される性ホルモンステロイドと副腎皮質ステロイド(コルチコステロイドまたはコルチコイド)とがあり,副腎皮質からも微量ながら性ステロイドが分泌されています.
 コルチコイドの主なものは炭素数が21個からなるもので,その作用からみて糖質コルチコイド(ハイドロコーチゾン),鉱質コルチコイド(アルドステロン)と呼ばれる2種類のものがあります.

医療事故と法律・14

人工妊娠中絶

著者: 饗庭忠男

ページ範囲:P.72 - P.73

 人工妊娠中絶の手術に失敗が生じ母親が死亡する,といった傷ましい事件を耳にすることがある.当然,訴訟に持ち込まれる場合も多い.このケースにおいては,争点は多岐にわたり複雑だが,だいたいどんな点に問題は集約できるのであろうか.予防法学的な見地からも重大な問題なので,具体的に要約してみよう.

変貌する外国の医療・2

どうなる,医師の再免許制度

著者: 紀伊国献三

ページ範囲:P.74 - P.75

 医療従事者の免許制度についてはいろいろな角度から捉えなければならないが,米国ではこれについてすでに相当革新的なステップを踏みだしつつある.
 「日経メディカル」にも紹介された実例だが,カリフォルニア州マーシー病院のノーク博士という10年の経験をもった外科医が,実に27の医療過誤訴訟を受けているという.ひとつの訴訟では,患者について少なくとも50の不必要かつまずい処置を行ったということで,370万ドル(約11億円)の賠償金を請求されている.病院が170万ドル,ノーク博士が200万ドルで,これが27あるとすれば,単純計算すると300億円になる.

病院の新しい職種

言語治療士

著者: 綿森淑子

ページ範囲:P.76 - P.76

‘ことば’のリハビリテーション
 私たちにとって,ことばを話すということは,空気を吸って生きているのと同様あまりにもあたりまえのことであり,外国へでも行かない限り,ことばの不自由さを意識することはほとんどないといえよう.
 しかし,この‘ことばを話す’という機能は人類固有の複雑,高次の機能であり,人間相互の情報伝達(コミュニケーション)のもっとも普遍的な手段なのである.したがって,いったんこの機能が障害されれば,心理的・社会的に重大なハンディキャップとなることは明らかである.‘からだ’や‘こころ’のリハビリテーションがあるのと同様,言語障害者にとっては‘ことば’のリハビリテーションが必要なのである.

焦点

それでも病院火災は起こる

著者: 本誌編集委員会

ページ範囲:P.77 - P.77

燃えない病院を作る
 病院の火災は,注意をされながらもくり返すように発生している.病院は耐火構造でなければいけないことはだれでも承知しているし,現在は消防法などで厳しく規制されている.しかし最近,愛知県がんセンターで火事が発生した.今のところ原因ははっきりしないが,防火構造となっている病院でも火事騒ぎが起こるという事実を見せられたわけである.
 国立病院医療センターといえば,わが国ではじめての16階という高層病院である.16階も高いのに火事になったらどう逃げるかが話題となった.病棟の外側にベランダをつけたら,という話もあったという.しかし,ハシゴ車も届かないところからどう避難できるのだろうか.いろいろ議論した末,逃げることよりも火事を発生させないことが前提であるということになった.つまり‘燃えない病院’を作るということである.もちろん,法規に従って熱や煙の探知器やスプリンクラーもつけてある,排煙装置も完備している.しかし,同じように考慮が払われた愛知県がんセンターに火事が起こっているのである.

病院建築・72

市立加西病院の設計

著者: 東坂彰久

ページ範囲:P.79 - P.85

はじめに
 新市民病院建設のコンペティションが行われたのが昭和46年6月,建設委員会が設けられ基本設計に着手したのが昭和47年7月.この間1年9か月,広域医療制度および医師確保の困難性を痛感するとともに,今後の病院像の一端を担うものとして,次の基本目標をめざして計画が立てられ設計が行われた.
(1)激動する社会情勢の推移に対応できるような診断科を設け,近代的な高度な専門的医療が提供できるような内容をもった施設(2)特に交通事故対策と老人病対策面については高度な専門的医療が提供でき,北播地方のセンター的役割を果たす病院

精神医療の課題 座談会

カウンセリングとは何か

著者: 佐治守夫 ,   畑下一男 ,   小林八郎 ,   金子嗣郎

ページ範囲:P.86 - P.95

精神科医療の中で,心理学の分野からのはたらきかけが盛んになり,医療チームの中で果たす彼らの役割も評価され,注目されるようになってきた.しかしそこには,従来,医師のものと考えられていた診断や技術とのかかわりが不明確となり,一部に混乱を生じている現状がある.今回は,双方からのアプローチで,精神科医療におけるカウンセリングを,精神療法との対比の上から考えてみることにしたい.

研究と報告【投稿】

退院措置の適用範囲とその限界—特に違法患者の場合

著者: 臼田正堅

ページ範囲:P.96 - P.99

 病院・療養所等の医療施設に入院(所)している患者を退院させることができるのは,通常一般的に該疾病が治癒または軽快したためその治療の必要性がないと医学的に認められ,診断された場合である.そして,この場合は,患者が入院(所)中遵守しなければならないいわゆる医療上の義務を守っていたために疾病の治療効果があったからである.
 ところが,該患者が遵守すべき医療上の義務に違反したために,その義務違反・違法行為患者を医療施設に留め置くことができず,やむをえず治療なかばにして退院(所)命令の措置をとらざるをえない事情が存在する場合,いかにして適法かつ適正に解決すべきなのか.その違法患者の退院(所)命令措置のとることができる違法要件と基準,退院措置の適用,ならびに適法性,そして基本的人権の関係について,その退院措置の適用範囲とその限界について,医療事故紛争の事件判例をまじえながら以下にその概要を記し,問題の解決処理と防止の一助に寄与する.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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