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雑誌目次

雑誌文献

病院34巻3号

1975年03月発行

雑誌目次

特集 救急医療

救急医療のあるべき姿

著者: 松浦健一

ページ範囲:P.22 - P.26

はじめに
 近年,わが国の救急医療に対する国民の要望は強く,その救急需要の増加とともに救急医療体制への関心は急激に高まってきている.
 一方,その現状をかえりみると幾多の諸問題があって,解決の複雑さ,困難性から,十分な体制とは決して言い難い.しかし,社会の近代化とともに現状のままでは許されないので,合理的な救急医療の体制確立への努力をしなければならない.

東大病院における救急医療の状況

著者: 三井香児 ,   都築正和

ページ範囲:P.27 - P.30

はじめに
 医学・医療における大学病院の位置は,大学病院本来の性格からして必然的に定まっているべきであるが,救急医学・医療においては様子が異なるようである.それは救急医学が単に外傷や一般疾患の急性期という観点でのみとらえられ,救急医療が地域医療的色彩を持つという具合に認識されているからであろう.現に救急医療を日常業務として行っている大学病院はきわめて少なく,救急医学の研究と教育は,関連する各科の片手間に行われているのである.
 しかし急性重症疾患は,いまだその病態が未解明なものも多く,したがって治療法の研究も今後の発展に依存するところが大きい.一例をあげると,重症頭部外傷は,脳神経外科の進歩により,頭蓋内血腫を除去すれば救命しうるものも確かに増加したが,特に最近問題となっているのは脳損傷や血腫の圧迫による急性脳腫脹である.これは,たとえ救命されたとしても,往々にして植物状態となり,社会問題ともなっている.このようなことを考えるならば,大学病院が救急医学・医療に果たすべき役割は大きく,責任は重いといえよう.

アメリカで見た最新の救急医療

著者: 岡村正明

ページ範囲:P.42 - P.50

救急医療の総合的検討始まる
 救急医療については,その根本的な問題点はアメリカも日本も全く変わりあるはずはない.
 1960年の後半から70年の初めにかけ,アメリカにおいても救急医療サービスに対する需要が増大した.その結果,それまでの制度やサービスの欠陥が多くさらけ出され,たんに医療の部門だけでなく,大きく社会問題として無視しえないことになった.

地域の救急医療—開業医の発言

著者: 阿部一郎

ページ範囲:P.51 - P.53

ある開業医
 終戦の年の暮,復員と同時にすでに家族が疎開していた人口4万余りのこの地方小都市(群馬県伊勢崎市)に,借家のまま開業.
 数か月後には,外来患者1日300名,往診60-70軒という殺人的スケジュールの中にたたき込まれた.

インタビュー

首都救急医療の一翼を担う—東京消防庁・本田行世救急部長にきく

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.31 - P.36

 1,000万首都東京は,また多くの歪みを併せ持つが,救急医療の立ち遅れもそのひとつといってよい.患者タライ回しなどが‘東京サバク’の好例として語られるゆえんであるが,救急患者の搬送を受持つ東京消防庁は,現にどんな問題をかかえ,どこに行こうとしているのか.本田行世救急部長を永田町の執務室にお訪ねした.

救急医学教育

救急医学教育のあり方

著者: 織畑秀夫

ページ範囲:P.54 - P.56

救急医療の充実をはかるための重要な要素として,救急医学教育の確立・普及があるのは,いうまでもないであろう.ここでは‘救急医学教育’のテーマのもとに,教育する立場として織畑氏,小児救急医療に造詣の深い西村氏,教育を受ける立場から高山氏,そしてアメリカで実際に救急医学研修を積んだ尾比久氏に,それぞれ論じていただいた.

小児の救急医療とその教育

著者: 西村昂三

ページ範囲:P.56 - P.58

 筆者が大学を卒業した頃の日本の小児医学には,救急医療の概念はあっても,そのシステマティックな実施をしている施設はなかった.疫痢,熱性痙攣,てんかん,などの症例はしばしばみられたが,各施設で適当に処理されていたにすぎない.私は母学の付属病院で1年間のインターンと2年間の小児科医局生活を経て,昭和30年に渡米,テネシー大学病院で小児科レジデントとして勤務しはじめた.当時,米国の小児医学の教育をみて,最も深い感銘をうけたのは,臨床教育にそそがれるエネルギーの大きさと救急最優先の観念の徹底であった.私は,それまでに自分が日本で受けた医学教育が,いかに非実用的で効率が悪かったかを痛感したが,20年後の現在,小児の救急医療に限定していえば,その当時の米国の水準には残念ながら追いついてはいない.
 そこで本稿では,小児の救急医療の問題点につき,私が日頃から思っていること,感じていることを述べ,私に与えられた責を果たしたいと思う.

教育を受けるものとして

著者: 高山宏

ページ範囲:P.59 - P.61

はじめに◇
 災害や急病は時と場所を選ばず発生し,しばしば重症となり患者の死に至ることも少なくない.したがって,患者発生と同時にこれらの患者を診療するシステムの完備は文明社会の義務であるが,現在の救急医療制度はそれには程遠く,従来より患者の側や医者の側からそれぞれの問題点がくり返し提起されているにもかかわらず,いまだに制度化すらされておらず,今や救急医療の貧困さは,‘医の倫理’で抗しきれない巨大な怪物になってきている.このような時期に救急医学会が設立され,その学会の場で救急医学教育問題をも含めた救急医療について真剣に討議されるようになってきたことは,まことに時宜を得たことであると考えられる.
 救急医学教育—卒前,卒後教育—は救急医療の充実化にとって欠くべからざるものであるが,現在の救急医学教育は,教育と呼ぶにはあまりにも貧弱である.この貧困さの原因の一端は,今まで救急医学教育を無視してきたに等しい大学にあるものと思われる.

アメリカの救急医療制度と卒後研修

著者: 屋比久武

ページ範囲:P.61 - P.63

 最近日本においても,救急医療のあり方について真剣な取組みがなされるようになり,種々の学会やジャーナルの一部を賑わせるようになってきたことは,真の臨床医療の向上を目指すわれわれにとって,はなはだ喜ばしいことである.
 過去4年間,米国で産婦人科臨床研修を受けた経験に基づいて,米国の救急医療体制とその特色を述べ,日本のそれとの相違点を明らかにし,今後の救急医療のあり方について私見をまとめてみたいと思う.

病院と統計 病院労働統計・3

賞与一時金

著者: 宮沢源治

ページ範囲:P.10 - P.11

賞与一時金の推移
 賞与一時金の年次推移をみると,対前年同期比は,図1のように夏季の場合,昭和45年18.0%,46年15.2%,47年19.4%,48年21.4%,49年41.2%と毎年上昇傾向をたどっている.46年までは春のベースアップ率を若干下回っていたが,47年以降はベースアップ率を上回る傾向を示している.特に49年賞与一時金は,ベースアップ率32.9%に対し,夏季は41.2%,年末は36.4%と大幅にこれを上回っている.もともと賞与一時金は,物価と企業の支払能力を敏感に反映する性格をもっている.
 賞与一時金の性格については,慣習的賞与説,功績報償説,収益分配説,賃金後払い説等の定義が行われているが,賞与一時金が医業収益に対し8-11%も占めており,労働者所得の4分の1にもあたる所得源であることから見ると,賞与一時金は,経営にとっては人件費としての経常的な原価要素であり,労働者にとっては生計費を補う臨時給与として重要な収入源となっている.いずれにしろ賞与一時金は,賃金としての性格を強める傾向を示している.

グラフ

住民とともに育てあげた病院—医療法人加納岩総合病院

ページ範囲:P.13 - P.19

 新宿から急行で2時間弱,大菩薩や富士,南アルプスの峰々を遠望する静かな果樹地帯山梨市.駅からほど近い笛吹川のほとりに,昨年8月新築なった加納岩総合病院がある.
 昭和20年中沢忠雄・現理事長が開業,27年に20床の病院を開いて以来,精神科の山梨日下部病院,リハビリテーションの山梨温泉病院も併設して,現在およそ600床を擁する.この30年にわたる歩みをたどるとき,そこにわれわれは,地域医療を住民が育て,病院がそれにしっかり応えるという,まさに地域に根ざした私的病院の典型を見ることができる.

老いを知らぬ国際人 獨協医科大学名誉学長 石橋長英先生

著者: 本間道

ページ範囲:P.20 - P.20

 日本国際医学協会理事長・独協医科大学名誉学長石橋長英先生を一言で表現すれば偉人ということになる.それは,やがて出版されるであろう日本国際医学協会40年誌をお読みいただければわかると思うが,ケンペルやシーボルト,ベルツなどの偉人に多くの点で匹敵する方であるからである.医学,薬学を通じての日独文化の交流に尽されておられることは万人の認めるところで,文字通り両国間にSteinbrücke (石橋)を強固におかけになった.内外からの表彰や叙勲の数も多く列記するだけでも予定の紙数を超えるが,こういう方にこそ勲等一やノーベル賞を差し上げたいような気がする.
 先生は三田門下の俊才で博覧強記,臨床や基礎医学のみならず万般の事柄に精通され,ご交友も広く,ドイツ人よりもよくドイツ人を理解し知っておられる.西独フライブルク大学名誉評議員,ビーティヒハイム市名誉市民,シュタインブリュッケン名誉町民であり,ベルリン自由大学には石橋奨学資金が設けられたことなどその国際性の規模において先生の右に出づる日本人は現今あまりおられない.また獨協医科大学は先生が中心となって作られたものである.

ホスピタル・マンパワー

学術写真のプロフェッショナル—武市農君を讃える

著者: 影山圭三

ページ範囲:P.64 - P.64

 医学の領域で,写真技師の果たす役割ははなはだ大きい,視聴覚を用いる教育,あるいは研究発表の中心となるからである.

病院私論・3

卒後医学教育(2)—病院を主体にした医学教育

著者: 守屋博

ページ範囲:P.65 - P.65

専門医と一般医学
 医学が専門化してくれば,若い医師の多くは専門医を目ざすようになるだろう.専門医の評価をどんな方法でやるか議論の尽きないところだが,それはともかくとして,私の言いたいのは,たとえ専門医として立つにせよ,若い時代に幅広い医学の勉強が,ある程度は必要だ,ということだ.
 患者の生命をあずかる臨床医は,専門の微視的視野でなく,全体を巨視的に判断しなければならぬ.

病院職員のための医学知識・27

交通外傷患者

著者: 平井秀幸

ページ範囲:P.66 - P.67

ここ数年間の交通外傷患者の数,質的推移などについてお話しください
 私どもの神奈川県交通救急センターが発足した昭和40年から昭和45年にかけて,交通外傷患者は全国的に増加の傾向が著しくみられましたが,最近の数年間はやや減少の方向にあります.これは,交通戦争時代といわれた,当時のめざましい都市開発,自動車激増の状態が一段落したことと石油問題,不況傾向の現われであると考えられます.また交通安全に対する各個人の安全思想の普及,行政の拡充も交通事故患者減少という好結果の一因であることはもちろんです.
 われわれの施設は,済生会病院という一般総合病院に交通救急センターが併設されており,日常,実際に取扱っている患者は,交通外傷のみでなく労働災害,過失,傷害などによる外傷もふくまれています.また交通外傷患者についても,救急処置を要する新鮮例から,受傷から数年を経た後遺症患者まで多彩であるため年々の詳細な統計を出すことはきわめて困難です.

医療事故と法律・15

診療録の公開基準

著者: 饗庭忠男

ページ範囲:P.68 - P.69

 医療紛争,医療事故において,診療録は患者や医師,病院のそれぞれの立場からきわめて重要な意味を持つ.医療行為の説明,報告は法により義務づけられていると考えられるが,診療録の特殊な性格により,また将来予想される医療情報システムにおけるプライバシー問題もからんで複雑な様相を呈する.こうしたなかで,患者から事故の問題にからんで,カルテの提示および公開を求められたとき,どう考えていくべきなのか.

変貌する外国の医療・3

保険と福祉がみごとに結合—フィンランドの医療事情

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.70 - P.71

 欧州の極北に位置するフィンランドは,戦争のたびに外国に領土を奪われるという不幸な歴史を繰返してきた国であるが,それだけに国民の団結心は非常に強く,人口460万のこの国の医療制度にも,この特色が色濃くにじみ出ている.
 寒さ,悪天候,激しい労働,食事内容の貧しさといったこの国特有の環境因子のせいであろう,循環器疾患,呼吸器疾患,がんなどが多く,さらに自殺,事故,幼児の死亡率もきわめて高い.したがって,この国の公衆衛生活動も非常に徹底していて,伝染病対策,環境衛生はもとより,家庭の衛生から,食料品の生産・配給に至るまで,監視の目が行きとどいている.

病院の新しい職種

視能訓練士

著者: 最上齊子

ページ範囲:P.72 - P.72

 視能訓練士(Orthoptist, ORT)の業務内容は,主として眼科の中で,弱視や斜視に関する検査,視力増強訓練,両眼視機能回復訓練などのほか,視力,視野,色覚,暗順応,眼底カメラ,ERG等の諸検査を専門的に医師の指示の下に行うことである.
 現在の視能訓練士は大部分が女性であり,男性は1割弱である.その理由は,仕事の性質が非常に地道なものであること,対象患者は小児が多いことなどによると思われる.しかし,これからは,男性視能訓練士の増加による発展も考えられる.

焦点

歯科医療の混乱

著者: 本誌編集委員会

ページ範囲:P.73 - P.73

病院医療とも関連深い問題を提起
 差額徴収,脱保険秘密文書など歯科医療についての論議が,このところジャーナリズムをにぎわせている.その原因は複雑であり,しかもそれが日本歯科医師会の内紛とからんでいるため,解明は特に局外者では伺うことのできない面を持っているようである.
 しかし,差額徴収の問題,保険を廃止する問題は,歯科医療にのみ限られたことではない.歯科医療以外の病院医療にも,関係するところは大変大きいからである.

今月のニュース

混乱をみた医学会総会(4月5-7日,京都)/日本病院会初代会長に阿久津慎氏に決まる

ページ範囲:P.74 - P.76

 さる4月5日から7日までの3日間,京都で催された第19回日本医学会総会は,開会式の冒頭から医療を告発する会の各医療被害者団体,若手医師らによる会場乗込みによって大揺れに揺れた.
 日本医学会総会の歴史を省みると明治35年に第1回が開かれて以来,4年ごとに開かれてきた.文字どおり医学の全領域を網羅する最も大規模な学会であるが,開会式中止という事態はこの学会が始まって以来,初めてのことである.元来,医学会総会は医学の各分野の進歩を総合的に集約し,将来の調和的発展を図るというのが主旨である.確かに本年の総会のテーマをみても,肝疾患,腎疾患,がん,高血圧,心臓病,免疫,炎症などに関する基礎から臨床にわたっての最新の知見が網羅され,参加者の大きな関心を集めていたが,一方,取りあげるテーマや主催側に対する批判の声もかってないほど大きかったことも,時代の動きとして見逃すことができない.

病院建築・73

加納岩総合病院の建築

著者: 高野重文 ,   野口聖司

ページ範囲:P.77 - P.81

 49年8月に竣工した加納岩総合病院の,建築をとおしてみた特徴は次の2点にある.
(1)同一法人(特定医療法人加納岩病院)で運営している精神病院(日下部病院),およびリハビリテーション病院(山梨温泉病院)と関連して移転・新築されたacute general hospitalであること.

精神医療の課題 座談会

どうやって自殺を防ぐか

著者: 守屋裕文 ,   山本紘世 ,   一瀬邦弘 ,   栗田正文 ,   金子嗣郎

ページ範囲:P.82 - P.92

精神病院における「自殺」——患者は治療者の手をすりぬけ永遠の闇に消えてゆく.対象を失った治療者は,そのぬけがらの重さによろめきながら,数々の悔いに心しめつけられる.その苦い思いをかみしめつつ,不幸をくり返すまいとの誓いから,川崎市,栗田病院に集う若い医師たちが,自殺可能性の高い患者のチェックリストをつくりあげた.松尾病院に対する福岡地裁の有罪判決が病院関係者に大きな波紋を投げかけている今日,このリストを素材に自殺防止策を考える必要性は少なくないが,そのことは同時に,精神医療における治療とは何かをも問い直すことではなかったろうか.

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「精神病院の患者自殺事件」判決をどうみるか

著者: 饗庭忠男

ページ範囲:P.90 - P.91

本座談会でも言及されているように,昨秋,九州の一精神病院の患者自殺事件に対する病院側有罪の一審判決は,その影響きわめて大である.そこで,当裁判の弁護人として二審への準備に忙しい饗庭氏に,一審判決を読み込んでいただいた.

萩原義雄先生を悼む

著者: 森日出男

ページ範囲:P.93 - P.93

 萩原先生,ごらん下さい.先生ご自慢のこの講堂に集ったこのいっぱいの人達を.東北から,九州から,あれだけ先生に雷をおとされながらも駆けつけて来ているんです.先生の雷はすごかったですからね.まがったこと,あいまいなことの大嫌いな先生でした.ただ病院の発展を思い,正しい医療を願う心だけの先生でした.それだけに雷は雨を伴い,地を肥やし,こうして多くの芽を育ててきたのでした.
 いま改めて先生の偉大さを思い,師としていただきえた幸せと誇りを思います.病院前庭の退職記念碑に,ただ一字お書きになった‘道’の文字は,永久に病院とともにあって,多くの人びとに反省と思索の心を与え続けることでしょう.医の‘道’,人間の‘道’,師弟の‘道’,そして歩み続ける一筋の‘道’,その厳しさに生きられた先生でした.

研究と報告【投稿】

診療録の記録法

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.94 - P.95

 図は,ある患者の入院病歴の退院時の要約である.これが
(1)日本語で書かれていること(2)タイプライタで記録されていることの2つの点が私が注文する注目点である,つまりこの図はサンプルとして,実際の病歴をカナ文に直し,タイプライタで打ったものである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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