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雑誌目次

雑誌文献

病院37巻10号

1978年10月発行

雑誌目次

特集 医療施設間連携の芽生え

医療機関相互の連携の重要性—開業医から病院に望むもの

著者: 村瀬敏郎

ページ範囲:P.802 - P.804

 診療所と病院の結びつきは,それぞれの医療供給の様式,医療技術の水準,医療需給の頻度などに左右されるが,かつて医療規模の小さかった時代には大きな破綻がないまま果されてきた.
 近年に至って人口構造の変化,医療技術の高度化,人間関係の断絶などを背景に医療供給のシステム化が論議される中で,あらためて診療所と病院の機能分化とその連携について見直しの議論が集中している.とくに総医療費の枠内で医療供給を合理化しようとする思考は,爛熟しつつある医療の中に,プライマリーケアなる始原的概念を生み,そこを出発点としたシステム論において診療所と病院を短絡的に結びつけようとする傾向がある.

医療機関相互の連携の重要性—病院の立場から

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.805 - P.808

 わが国には種々の医療機関すなわち大学付属病院,総合病院,単科診療病院,中小個人病院,診療所のほか,慢性疾患療養所,温泉病院,リハビリテーション病院,地域保健所,健康相談センター,養護施設,身障者通園施設,同医療福祉センター,老人福祉施設などおよそ医療に関連した施設がたくさんあり,ある特殊な都市ないし地域にやや偏在の嫌いもあるが,近年ますます増加の一途をたどっているのはまことに結構である.
 しかるにこれらの諸施設が相互に真に有機的連携を保って活用され,疾病対策,健康増進に円滑な機能を果しているかというと,答はむしろ"no"といわざるをえない場合がえてして多い.たとえばある患者が心身の異和を感じた場合にその疾病の診断,治療について直ちに正しい判断がなされ,その経過,予後に応じて,真に一環した妥当な診療・療養・福祉指導が行われているであろうか?本特集の代表機関にみられるごとくそれはごく限られた特殊の場合と考えて差支えない.

医療施設間の連携を阻むもの

著者: 西三郎

ページ範囲:P.819 - P.821

 医療施設間の連携の必要性,重要性は古くより認められ,また実際の診療のなかでは,私的,非制度的ではあったが,個人的な努力により広く実施されている.しかし,最近になり,連携の重要性が再確認され,また,その実態の報告をみると,私的,非制度的ではあっても,地域的,組織的な形での努力の結果が多くみられている.このことは,医療施設間の連携が,私的,個人的な努力から,地域的,組織的な努力に移行し,さらに広く普及していくたあにも,制度のなかに,この連携の仕組が組込まれることの必要があることを示しているものといえる.ここでは,制度面での連携を阻むことを中心としてまとめてみよう.

資料・医療施設間連携の試み

順天堂大学のテレフォン・サービス/医療情報システム開発センターの地域医療情報システム

著者: 編集室

ページ範囲:P.804 - P.804

 他の職種に比べ,医師と出身大学との関係は比較にならぬほど強いといわれる.しかし,大学を離れて開業すると,意外にも母校とのつながりは希薄になり,専門的な情報入手を商業出版物に頼っているものが多いという.このような現状に対し,順天堂大学では昭和50年12月より,同大卒業の病院勤務医および開業医を対象に,電話による診療相談(順天堂大学メディカル・テレフォン・サービス)を行っている.
 短時間で気軽にコミュニケーションできる電話による相談は各分野で広く行われているが,医師向けに専門医が電話を通じて相談に応じるのは,この順天堂大学の試みがはじめてとか.

医療施設間連携の実際

秦野市における病院・診療所の連携

著者: 西田一彦

ページ範囲:P.809 - P.811

 長年の懸案であった夜間救急診療が在宅当番制で,本年7月1日から発足した.
 人口11万余,しかも年々人口が増え続けている地方都市で,第一次医療を受け持つ診療所がわずかに18施設という厳しい実態の中で,あえて夜間救急医療体制確立に踏み切りえた理由は,医療施設相互間の信頼と連携が基盤にあったからにほかならないが,次の三点に要約されると思う.

都立墨東病院と江戸川区開業産婦人科医の連携

著者: 福原公明

ページ範囲:P.811 - P.812

 医事紛争の増加,看護要員の確保困難,医療機器の高度高額化等,われわれ開業医の周辺には厳しい制約がかけられ,そのためにメスを捨て,産科ではお産の取扱いをやめるケースが増えつつある.一方病院の受入態勢の不備,地域的な不便等のため緊急患者の取扱いに第一線の開業医は日夜心を悩ませている現状である.

宮崎県立宮崎病院と開業小児科医の連携

著者: 泉谷武近 ,   梶原昌三

ページ範囲:P.812 - P.814

経過
 "開業小児科医は外来患者の診療に専念し,入院患者をもたない.県立宮崎病院小児科は,要請に応じ,いつ,いかなる時でも入院をお引受けいたします".
 以上のような約束ごとができたのは,昭和40年,本院に124床の小児病棟が完成した時である.当時,市内の開業小児科医は4名(人口約18万)と数少なく,専門医の重要性と必要性が高まるにつれて,外来患者が次第に増加し,その応待に追われ,入院患者を収容する肉体的,精神的余裕がなくなりつつあった時期でもあり,しかも数少ない開業小児科医はほとんどが,本院の前任者か,同門であったため,小児病棟の完成で,ベッドが確保されたのを期に,前記の"開業医は外来を,病院は入院を"の病院側からの申し入れを心よく承諾して下さったわけである.

CTのオープン利用にみる連携の重要性

著者: 平野勉

ページ範囲:P.814 - P.816

 宇宙への夢,エネルギーや資源枯渇へのあせり,国際緊張へのいらだち等の衝動は政治,経済,軍事のバックアップのもと今世紀後半めざましい巨大科学の推進を果してきている.巨大科学に共通する特徴は多くの場合国家計画の性格を持ち,一つの目標を効率良く達成するため必要なあらゆる手段を選ばないという文字通りの総力戦であり,おのずと巨大な費用をついやすものである.
 従来は生物学,化学,それに一部の物理学を碁盤にし,手工業的手技の小幅な進歩をつみかさねてきた医学の分野にワンテンポ遅れながら巨大科学のフォールアウトが,少しずつ活用されつつあることは当然の成り行きである.ただ従来のスケールとは異なったこの種のBigProjectの医学への応用については,学問面,手技面,および社会経済面でもいかんながら準備不足のきらいがないでもない.医学への応用と一口にいっても主に三つの方向づけがある.

人工透析専門病院のネットワーク

著者: 江本俊秀

ページ範囲:P.816 - P.818

 当院が人工透析の専門病院になりえたのは,それだけ透析患者が集まったためで,それらのクランケは自から探して来院したのではなく,他の医療機関から紹介されたもので,この点必然的に他の医療機関との連携によることとなるので,このネットワークの実際を紹介する.
 透析療法のみならず,一つの専門的医療機関になるには,ただ漠然と自然発生的に患者が集まるわけではなく,医師よりの紹介を始め,地域的なニーズなど,その他の種々な要素が重なって専門化してゆくのである.したがって,このようにしたなら,このようになる,という模倣的なことでできるのではないが,私が専門化できた諸理由を解明してみたが,なんらかのご参考になれば幸いである.

グラフ

"へき地中核病院"のモデル—下北医療センター・むつ総合病院

ページ範囲:P.793 - P.798

下北医療センターの発足
 青森県下北地域は,野辺地,小川原湖以北の本州最北端の下北半島の全域にわたり,むつ市,大畑町,川内町,大間町,東通村,脇野沢村,佐井村,風間浦村の1市3町4村からなる(人口は約9万5千人,面積1415km2).冬季は積雪が多く,産業も余り振わず,概して財政的には貧困な地域である.
 この下北地域の各市町村が,地域住民の健康保持・増進を掲げて,行政区域を越えた広域医療圏方策をとるために,地域内の公的医療機関を統合,団結し「一部事務組合下北医療センター」を発足させたのは,1971年(昭46)4月であった.

建築計画学の基盤を築く九州芸術工科大学学長 吉武泰水氏

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.800 - P.800

 心の暖かい方である.人を叱ったりきつい言葉を吐いたりということがかつてない.建築学者としての先生の業績は,このお人柄から出ているといってよい.それは"病院は患者のために,学校は子供たちのために"から始まる.当り前ではないかと思われるかも知れない.しかし,もう少しよく考えてみると,これは意外に難しい課題である.そして,そこにはじめて建築計画学の基盤を築かれた.いまや同じ基盤にたつ後継者は,病院をはじめ集合住宅・学校・図書館・保育所と各分野に多彩である.
 昭和48年,東大教授としての定年を待たずに筑波大学副学長に転出され,新たな学園づくりに意欲的に取り組まれた.棟々の織りなす対立と調和のみごとな学園の建設もようやく完成に近づいたところで,この春招かれて九州芸工大の学長に就任された。芸術と工学の融合を目指す,国立大学の中ではきわめて特異なこの学校をどう育て上げていかれるか,正に打ってつけのポストである.というのも,先生は体質的に緻密な学者でありながら,一方では芸術家の血を濃くひいておられるからである.因みに御父君は国会議事堂の設計者としてデザイン面で高名な吉武東里氏である.

病院の窓

リハビリテーションとその医療

著者: 長谷川恒雄

ページ範囲:P.801 - P.801

 リハビリテーション(以下リハ)という言葉は現代すでに日本語として通用しているが,その本質についてはまだ十分な理解が得られていないように思われる.一般には病後の保養を含め,機能障害に対して機能訓練を行って,できるだけ身心の機能を改善することであると考えられている.しかしそれだけがリハではない.障害者の日常生活,社会活動を考慮するとき,医療問題,福祉問題,経済問題その他さまざまな周辺問題があり,これらの改善もリハに含められる.すなわち障害者自身が対処する問題と社会的援護の問題が合理的に処理されて,全人的立場で幸福の再建が行われるところにリハがある.援助する側には障害者を中心に家族,親戚,友人,職場,医療関係者が直接,足りない部分を補う態勢があり,その周囲に地域社会の援助組織が,さらにその外輪に国の支援体制が存在しなければならない.またそれらが有機的に結合されて適正に運用されてはじめて目的が達成できる.このリハの体系は福祉のそれと共通し,相違がしばしば問題になるが,リハは福祉の一部であって,次の立場をもつと考えられる.障害者が自から社会的有用性の回復を目ざす精神に原点をおき,自発的な行動,行為を遂行することであり,足りざるを他からの援助によって補充し,人間としての尊厳を保った生活を送ることである.したがって主体は障害者自身の自立である.

病院のあゆみ

病院管理学的にみた昭和初期の大学病院(1)

著者: 守屋博

ページ範囲:P.822 - P.825

 明治初期にドイツ医学を範として始まった病院医療は,第二次世界大戦後のアメリカの医学(療)の導入により,現在大きく変転している.では,戦前の病院はどのようであったのだろうか.昭和初期の大学病院を病院管理学的視野に立って点描する.

読者の声

事務長の任務とは

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.825 - P.825

 本誌7月号読者の声,林尚孝氏の「自治体病院の事務長は民間から」は有益な解説であった.5年ごとの評価もまことによく,ついでに院長の評価もそうありたいと思うが,現在の日本では誰が,すなわちどういう委員会が評価するのか,そこが問題となる.結局,林氏の教示は実行されないであろう.そこで私は別に思う.病院内の各種委員会がお互いに連絡をとり,助け合うしかない,と.各委員長は委員会を有意義にするように努力するし,各委員もそれを助ける.そして院長も事務長もこの委員会の結論を実行に移すように努力をするし,各職員も同様に結論の実行に努力する.要は病院全体がうまく話合いのできる体制にあること,一人の事務長にまかせきりにしない道をとることである.そしてそれよりも,院長も事務長も各職員同士のあいだの連絡係をやるべきだと思う.全員を仲良くさせるだけのやり方でよいのではないか.これなら誰でもできる.

検査部の運営

病院検査科の能率化

著者: 鳥海純

ページ範囲:P.826 - P.831

 検査検体数の著しい増加とともに病院での検査部門の位置は,ますます重要になってきている.しかし,現状では,これらの検体がスムーズに処理されているとは言い難い.では,能率的かつ合理的に検査をすすめるには,技術的問題以外でどのように能率化を図るのか.

ホスピタル・メモ 検査

炎光光度計

著者: 吉野二男

ページ範囲:P.831 - P.831

 日本の夏の風物詩として花火がある.小は庭先で手にもつものから,大は清んだ夜空に大きくひろがる打上げ花火,また,河原などに組立てられた大きな仕掛け花火がある.
 これらのもつ美しさは花火のもつ各種の色が大きな役割を占めている.この色は,すでによく知られているように,微量のストロンチウムとかバリウムのような元素が花火の火薬とともにあり,それが高熱になったときに発する色で,元素によって異なるのでその配合によってきれいな花火となる.

地方の病院から

住民と共に歩む健康管理活動を目指して(1)—長野県・長門町国保長門町病院

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.833 - P.833

長門町病院と健康管理センターの概況
 長門町病院は病床数60床,1日の外来数200人の過疎農村の小国保病院である.医師数は分院まで含めると4人で,内科3,外科1である.うち併設の健康管理センター所長は,病院の内科医と兼任である.職員は,看護婦32名を含めて,66名である.パート医師は,信州大学病院,上田市の国立病院などの応援を得ている.長門町住民の75%は当院を受診しており,町民の信頼を得ている.その他,近隣の町村よりの患者も増加しており,午前中に,医師1人あたり90-100人くらいの受診者で活気を呈している.
 健康管理センターは,病院の一室を借りており,センターとは名ばかりの施設である.

院内管理のレベル・アップ 廃棄物処理 病院廃棄物の問題点・4

危険廃棄物の取扱い

著者: 菅沼源二

ページ範囲:P.834 - P.835

 病院という環境をとりまく廃棄物は多様化の一途をたどっている.
 廃棄物とは不要になり捨て去るべきものであるが,財本来の機能を有していようが,また失っていようが所有または使用の機能を有している者が捨て去ると意志決定したすべての財を指しており,それらを適正に処理しなければわれわれの生活環境は汚染され,生活の場として適正を保全することができなくなる.

看護 看護部門のレベルアップのために・4

老人看護のレベルアップを目指して—増大する老人患者に対応するために

著者: 賀集竹子

ページ範囲:P.836 - P.837

高齢化社会の到来と看護
 わが国ほど急ピッチで高齢化社会を迎える国は,西欧諸国にも例を見ないといえよう.このような高齢化社会への超スピード時代に,国の施策(年金・医療・就労・経済・施設体系・地域福祉などの老人対策)が追いついていけないのではないかと危機感さえ持たれているのが現状である.わが国の老人人口が加速度的に増加し,とりわけ老人の中でも高齢者が増えるため,それに伴って病気および病弱な老人や寝たきり老人が著しく増加の傾向にある.
 老人医療費無料化が昭和48年に実施されて以来,その影響もあって,どこの病院でも外来や入院患者の中に,老人の占める割合が多くなってきた.もちろん老人医療費の無料化は老人にとって福音であるが,老人医療供給側の受け入れ体制が十分整っていないところに,老人患者が急増したので病院の機能低下に相まって,看護部門の看護業務や看護管理のうえにもきわめて重大な問題が生じている.では増え続ける老人患者に対して,看護はこれからどのように対応したらよいのだろうか.

人事・庶務 庶務部門の諸問題・10

病院における職員研修のあり方

著者: 内藤均

ページ範囲:P.838 - P.839

はじめに
 どんな小さな企業でも,それが帰属している社会環境と無関係に経営は成り立たない.病院においても同じである.これらの社会環境の変化に対応すべく,経営行動の変容が必要となってくる.そのために,経営者は,そこに働く人々を,環境の変化に対応しうるように育成しておかねばならない.
 一方,病院には,多種多様の医療機器が導入されており,その設備投資も年々高額なものになってきている.この高額な設備を効率的に活用しなければならないが,それを使用するものは職員である.したがって,これらの機器を使用する職員と,その管理制度の優劣によって,機器の効率的活用度も左右される.ここにも職員研修の必要性がある.

医療社会事業(MSW) 病院におけるMSWの役割・6

医療ソーシャルワークの中心機能—2.心身症患者の自立をめぐって

著者: 上野博子

ページ範囲:P.840 - P.841

 ソーシャルワークは,第一に対象者が,自らの問題や困難を克服してゆけるように援助関係を提供するもので,困難や問題を直接的に解決することが一義的ではない.ワーカーと対象者とのかかわりの中から,現実的な対応を可能とするような対象者の主体的な力を引き出すことが,ソーシャルワークの重要な機能である.そのためには,それなりの理論・視点・方法・技術が必要とされることは,前回にも述べたとおりである.今回はもう少し詳しく説明してみたいと思う.

滅菌・消毒 感染管理の理論と実際・4

主な滅菌・消毒剤とその利用法

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.842 - P.843

 滅菌・消毒の条件と方法について,前回では述べたが,病院で実際に行う時には,手術材料その他の衛生器具・材料は,物理的手段が利用され,種々の条件を比較的一定にしやすいので,滅菌・消毒に対する知識を十分に持った人が,定められた順序に正しく操作してゆけば,まず間違いなく滅菌・消毒を行うことができる.
 しかし,病院における滅菌・消毒は,むしろこれ以外のものが多く,そして感染予防にはそれらが最も大切なことである.たとえば患者や職員自身の体,使用したリネン,食器,その他の生活用品,排泄物あるいはベッド,部屋,空気といったように,非常に大型・多量のものにまで及んでくる.そしてこれらは,化学薬品を用いて,滅菌・消毒をするわけである.

最近の判例からみた医療事故・10

人工妊娠中絶後における死亡事故と医師の責任の成否

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.844 - P.845

判例
 婦人が人工妊娠中絶手術を受けたところ,胎児の排出後容態が急変し,その後死亡するに至った事故について,術前の検査,ないし術後の患者監視体制に関して医師の過誤を認めたが,遺体の解剖が遺族(両親)の拒否によって実現せず,したがって右過失と死亡との因果関係を明確にすることができないとしながらも,この間に蓋然性があると認められるときは,患者の期待権を侵害したとして,その慰藉料を請求することができると判断した特異な事例である(福岡地裁昭52・3・29判決,判例時報867号90頁).

今月の本棚

—E.H.アッカークネヒト 著 舘野之男 訳—「パリ病院1794-1848」

著者: 上林茂暢

ページ範囲:P.846 - P.846

パリ学派と病院の医学と
 今日ごく日常化している近代医学の考え方・技術も,それまで支配的だった中世的医学観に対するたえまない挑戦の蓄積のうえに確立されてきた.ヴェサリウス「人体の構造」(16世紀),ハーヴェイの血液大循環の解明(17世紀),モルガーニの器官病理学(18世紀)などルネッサンス以来の近代医学史の結節点となるいくつかの業績を思い浮かべるだけでもこの点は明らかであろう.
 その点では19世紀前半,世界の医学をリードした"パリ学派"の特色は臨床医学を明確に志向した点にあるとされるが,その基盤は病院にあった.本書は,タイトルが示すように,両者の関係を軸に"パリ学派"の業績・変遷があとづけられている.

—長 宏 著—「患者運動」

著者: 守屋美喜雄

ページ範囲:P.847 - P.847

‘人権問題’としての患者運動
 一口に患者運動といっても,その中には,同病の患者や家族が集まって,療養経験を交流しあうといった,いわば親睦会的なものもあれば,その疾病の治療・予防あるいは患者救済といった問題について,政治的・社会的に行動するものもある.そして,後者の中には,公害・薬害・医療事故などの問題をめぐって,時としては医師や医療機関と敵対関係におちいるケースもあるので,おおかたの医療関係者にとっては,患者運動は,いってみればケムタイ存在とみられているように思われる.
 そうした中で,数年来,糖尿病協会や糖尿友の会の運動にかかわりあいをもち,また,ベーチェット病患者を救う医師の会の事務局に参加してきた私にとっては,第一になぜ患者が組織をつくり,運動をしなければものごとが解決しないのか,そんな不幸な運動が,いつまで続けられなければならないのかということと,第二に「よい医療をしたい」という医療側の願いと,「よい医療をうけたい」という患者の願いとは,本来一致すべきものなのに,しばしば両者の間に対立的な情況がつくりだされ,時には告発騒ぎにまで発展してゆくのは一体なぜなのか,という二つの疑問が,いつも頭から離れることがなかったわけである.

院外活動日誌

退院患者を山村にたずねて

著者: 大喜多潤

ページ範囲:P.848 - P.848

 ○月○日兵庫県北部の片麻痺患者宅へ家屋改造追跡調査に出向く.あれほど一所懸命にやっていた歩行訓練や車椅子操作もほとんど忘れてしまったのか,もう少し自分で動き回っても良さそうに思うが,このケースも決まったようにベッド上の生活が大半を占めている.嫁や家族に対する遠慮からだろうか,それならなぜもっと自分自身で積極的に移動しようとしないのか,家長制度の気風の残っている山村,農村では年寄を粗末に扱っているといわれないように--つまりこのことが最終的にわが身に返ってくることを恐れて波風立てずにじっとしているのか.本人自身の意欲が欠ける者へのリハビリテーションは空回りの連続である.どこに真のゴール(目標)を置いて治療計画を立てればよいのか,ありったけのサービスを提供しておいて,後は歩どまりを期待するような無駄はなるべく避けたい.では家族の教育を徹底的にすべきだろうか,それにしても他人の家庭の事情にどこまで入り込めるか疑問が残る.
 ○月○日退院時に調査して,わずかなアドバイスのみで終った重度の四肢障害者の家を訪れた.農家で大々的な改造もせずに悠々と生活しているのにまず驚いた.年老いた母親との二人暮しではさぞ不自由だろうと思っていたが,つい先だって治療のため母親が入院したが,その間も一人でどうにかやっていけたと話す言葉の裏には一人の生活でもやってゆける自信さえ感じられた.

新・病院建築・10

宮城県心臓血管病予防協会附属病院循環器センター

著者: 大角昭 ,   菊田明男

ページ範囲:P.849 - P.853

はじめに
 当協会は,昭和38年に心臓病・高血圧等の循環器疾患の予防,早期発見および指導を行い,公衆衛生および社会福祉の向上に寄与することを目的として設立され,それ以来,集団検診による早期発見に重点をおいてきた.
 本循環器センターの建設は,現在わが国における国民総死亡の40%以上を占めるといわれる循環器系統障害に対する医療対策が強く望まれる中で,早期発見のみならず異常者の確定診断および治療にも力を注ぎ,広義の疾患予防をも行うことを目的とし,その目的を達成すべく計画された.計画に際し,基本的な運営の柱として次の点が掲げられた.

中グラフ

「9・1防災の日」地震実戦訓練—東京都荒川河川敷で行われた医療救護活動

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.854 - P.855

 9月1日は,「防災の日」として,全国各地で大地震の発生を想定して,関係官庁,民間団体共同の広域震災対策訓練が行われたところが多かった.東京都も足立区の荒川河川敷を主会場に総合防災訓練が行われた.
 対象地区の住民11万人のほか,都,警視庁,消防庁,自衛隊,都医師会,その他電々公社,東電など多くの人々が参加し,朝の7時半から,午後2時すぎまで,実戦さながらに,「1日午前7時30分,マグニチュード7.9,震度6の烈震が発生した」という事態を想定して,各種の訓練が行われた.

精神医療の模索・10 座談会

社会福祉と精神医療

著者: 蜂矢英彦 ,   西村晋二 ,   谷口政隆 ,   加藤正明

ページ範囲:P.856 - P.861

精神障害者は,従来,医療の側からのケアが中心であったが,社会復帰に関連して福祉の側からのアプローチも必要となっている.では,今後,福祉と医療はどのような連携が可能なのか.身体障害者の福祉の現場に携わっているお二人からご意見を聞き,精神障害への福祉的接近を考える……

民間病院の新しい試み

最新の治療用バスを誇る肛門病専門病院—横浜市・松島病院

著者: 松島善視 ,   一条勝夫

ページ範囲:P.862 - P.867

 大正15年,先代松島善三氏によって創設された医療法人恵仁会松島病院は,内科・外科・肛門科の診療を行ってきたが,昭和の初め頃より手術療法・薬物療法を併用した肛門病専門病院に転換し,以来50年日本人には特に多いという肛門病の研究治療に専念してきた病院である.
 医療機関の多い東京近郊においても,ジュータンの敷きつめられたゆったりとした雰囲気の中で肛門病を治療できる病院は珍しいが,昭和46年現在の地に150床の新病院建築という構想の時から,ホテルのような病院を目指し,かつ専門病院としては病床数150床に対し,温水洗浄,温風乾燥式トイレを100個所備えるなど設備には注意が払われている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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