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雑誌目次

雑誌文献

病院37巻11号

1978年11月発行

雑誌目次

特集 医療チームとしての栄養部門

今日の病院医療における栄養部門の意義

著者: 清水盈行

ページ範囲:P.886 - P.889

 現在の医学は予防医学の時代といっても過言ではない.戦後の一時期における食糧難の時代を過ぎ,高度経済成長政策とともに食生活も多種多様となり,国民の栄養状態も向上し,低栄養時代から高栄養時代へと変遷をみた.そのために,食生活が誘因と思われる疾病も数多く見受けられ,糖尿病や高血圧および動脈硬化症等の成人病と食生活との関連が論じられている.成人病の増加は高齢者人口の増加とともに,その予防対策が強く望まれるところであり(図1),食生活指導の重要性がますます大きな比重を占めることは間違いない.したがって,各医療機関の果たす役割は非常に大きいものといわなければならない.
 病院における給食の歴史は大正7年,故佐伯矩博士が国立栄養研究所の付属施設において栄養療法の研究を始めたのがそもそもの始まりといってよい,その著書『栄養』のなかで栄養病理について,次の項目をあげて論じている.食物の摂取量が身体の要求量に対し不足か,あるいは過大な場合,不完全食の問題,食品の薬理学的作用,栄養が関与する臓器の失調等々である.それ以後,各方面で病人食の研究がなされたが,とくに慶応病院における付属食養研究所はその代表的なものといってよい.現在の病人食の食事基準はこの食養研究所から生まれたといってよいであろう.

栄養部門の役割と期待—栄養指導を要する疾患の急増に対応して

著者: 東島利夫 ,   塩川優一

ページ範囲:P.890 - P.894

 わが国における臨床栄養に対する認識は,欧米先進国に比べ遅れていると言わざるをえない.後進国や100年前あるいは第二次大戦中および終戦直後の日本では,食物が得難く,そのためにしばしば飢餓に陥り,時には死亡することさえあり,慢性的な栄養素の欠乏症に悩まされてきた.したがって,わが国の栄養活動の主体は栄養素欠乏症の解消であり,臨床栄養も栄養素欠乏症の治療が課題であった.しかし,経済の高度成長とともに,日本人の食生活も改善され,栄養不足による疾病がほとんどみられなくなると,栄養の問題は顧みられなくなり,栄養に関する施策も,栄養学についての研究および教育も軽視されているのが現状である.
 確かに栄養の改善はその他の多くの疾病の減少をもたらし,国民の平均寿命の延長の主な原動力となっている.また栄養の充足により従来貧弱であった国民の体位の改善,すなわち身長,体重の増加をもたらし,日本人の国際的ハンディキャップを克服しつつある.

栄養士,調理師の病院における専門性の確立

著者: 最勝寺重芳

ページ範囲:P.895 - P.899

 ごくあたりまえの知識として,病院の食事は薬と同様に大切なものと考えられている.そして一般に,それぞれの患者の病状に適応した食事という配慮がされていると期待されていることも事実である.しかし,その食事内容が,患者の思惑とずれを生じたとき,そこになんらかの評価が下される.そして良い場合より,悪い場合が多い.これは病院内の医療サービスのうちで,食事だけはだれにでも評価できると思われているからにほかならない.このように,病院給食は毎日毎回これを担当する部門の仕事の評価として,病院中の注目の的になっているということができる.いつの食事でも,何百人という人々が,その部門の腕前に直接的・間接的に評価を下しているのである.そして,これらの評価が病院全体の評価にも影響していくことは恐らくまちがいない.つまり,病院給食は他のどのような部門と比較しても,これほどにも病院中に広く関係しているものなのである.したがって,たとえ管理者でも,患者や職員に絶えずこれほど親密な影響を与えることはできないのではないだろうか.
 しかしながら,このことがどのくらい病院機能として配慮されているかを考えると,現実にはあまりにも多過ぎるほどの課題をかかえているのである.

西独の病院給食施設を視察して

著者: 宮川宗明

ページ範囲:P.917 - P.921

 アメリカにおけるフードサービス業界が,食事提供の原点であるホスピタリティを重視しながら,運営の合理化のために高度なマネジメント手法を開発して,今日の科学的な運営技術を確立したことは周知の通りである.その意味から,私は日本の著しい後進性に着目し,毎年のようにアメリカの施設の視察,あるいは米国コンサルタントとの交流を通じて国内の改善に意欲を燃やしてきた.
 しかしながら最近は,西独を中心とする西欧における著しい機器の開発と徹底した機械的システム化の展開に関心をもち,マネジメント教育が未熟な日本においては,より有力な参考指標となりうるのではという期待を持ち始めていた.たまたま在独留学中の娘夫妻の要請と本誌の寄稿依頼を機会に,去る7月下旬から8月上旬の夏季休暇を利用して渡独,7か所の病院を初め,大学および会社の集団給食施設のほか,有力な厨房機器メーカーの工場など,実りある巡回の旅を楽しむことができた.

代表疾患にみる栄養指導の意義

糖尿病

著者: 鈴木和枝

ページ範囲:P.900 - P.901

 糖尿病の臨床において,栄養指導が欠かせないことは周知の事実である.ここでは,指導により効果を認めた症例の紹介を中心に,糖尿病治療における栄養指導の役割について述べる.

肥満

著者: 中村丁次

ページ範囲:P.901 - P.902

 肥満者は正常体重者に比べ,糖尿病,高血圧,胆石,痛風,心疾患などの罹患率や各種疾患による死亡率が高く,また,減量が成人病の予防や治療に有効であることも多くの調査や実験により明らかにされている.
 ところが,現在,日常の外来診療において肥満治療の適切な指導を行っている所は非常に少なく,その原因には,医師の食事療法への関心が薄いこともさることながら,時間的な制約,指導料の問題,指導者教育の不完全さなどが考えられる.

腎疾患

著者: 山下光雄 ,   渡部昭

ページ範囲:P.902 - P.903

 症例は35歳の男性で,土木建築会社の設計者である.昭和47年夏全身倦怠,疲労感を自覚し,東京近郊のT共済病院で受診,検尿の結果,蛋白尿指摘,下腿浮腫もやや見られ,慢性腎炎の診断を受け,3か月間入院,以後同院で外来治療を受けていた.
 東京転勤により,昭和48年6月から,当院内科で受診し,以後通院していたが,心窩部の重苦しさ,嘔気を認めるようになったので,慢性腎不全の急性増悪期の診断で入院した.入院後,安静と食事療法により,全身状態が改善され,約2週間で退院する.入院中の検査所見は,検尿蛋白(++)-(+++),硝子顆粒円柱(+),血清BUN37-40mg/dl,クレアチニン3.7-4.2mg/dlであった.

肝疾患

著者: 大政翆

ページ範囲:P.903 - P.904

 急性肝炎の食事療法については,高蛋白,高エネルギー食を投与し好成績を得たという外国での報告があるが,わが国ではまだほとんど検討されていない.そこで,急性ウイルス性肝炎の食事療法を1972年以降,内科・栄養部共同研究の課題とし,発病初期から高蛋白,高エネルギーの研究食を摂取し得るよう食品構成,食品選択,調理法,栄養指導の面から,肝炎の治癒促進,遷延慢性化の防止,効果について検討した.
 我々が研究課題に取り組み,成果を挙げられたのは,肝炎の研究と臨床にすぐれた実績を持つ内科肝臓病研究グループと栄養部がチームワークを組めたことによるものである.

貧血

著者: 落合敏

ページ範囲:P.904 - P.905

 症例M.I.男46歳身長163cm体重50kg.
〔診断〕胃潰瘍(多発性)

脚気

著者: 立川倶子

ページ範囲:P.905 - P.906

 最近若い人たちに再発生した脚気について,当初からこれに取り組んできた当院第三内科井形昭弘教授との共同研究の一環として,私たちは,鹿児島県下高校生の食生活調査を行ってきたが,その成績をもとに脚気再発生の栄養学的背景を考察し,院内における栄養指導の事例を通じてその意義について述べてみたい.

胃の術後

著者: 小林英

ページ範囲:P.906 - P.907

 医療分野の細分化・高度化に伴い,専門的知識や技術が要求される今日,栄養指導の専門職としての役割もますます大きなものがある.栄養管理の立場から消化器外科の最大特質をあげると,内科疾患と異なって,食物摂取経路の臓器が一部切除され,創傷治癒で一番栄養の必要な時期に切除部位保護のため絶食,この間は静脈栄養補給という特殊性を課せられていることである.これらに対処する外科医療チームの一員として,患者の理解と協力を得るために栄養指導が果たす役割とその効果について,症例を通して述べてみたい.

高血圧症・動脈硬化症

著者: 福島摂子

ページ範囲:P.907 - P.908

 最近,成人病と呼ばれる疾病が年々増加傾向を示しています.ここに述べる高血圧症・動脈硬化症もその中の1つですが,すべての成人病に対する治療の基礎として考えられるのが日常の三度三度の食事ではないでしょうか.この食生活に関して,もう一度,個々に検討しながら,日常生活の中で食事療法の管理を簡単に行うことができるように,栄養士は常に指導をしていかなければならないと思います.
 成人病の治療や予防のための食事療法は,型にはまった厳しい制限の食事を実施するのでは長続きせず,短期間になることが多くみられます.食事による治療は,薬物療法とは異なり,短期間に速い効果を期待することは不可能なことといえるでしょう.個々に合った食事療法を生涯継続できるよう努力していかなければなりません.それには好きなものだけをたくさん食べて良いということではなく,食品の特徴を考えて,身体に必要なものを,その人に必要な量だけ,いろいろな種類を上手に組み合わせて食べることが大切なのです.

座談会

実り多き病院食のために

著者: 内藤周幸 ,   西村薫 ,   内田卿子 ,   川北祐幸

ページ範囲:P.909 - P.915

 川北医療チームとしての栄養部門ということで,これからお話を伺っていきたいと思います.
 いまさら人間の食事を取り上げるのもおかしな話ですが,よく考えてみますと,食事はエネルギー源というだけではなく,好みなどいろいろな要素が含まれています.また病気の場合は,治療の方法がずいぶん変わってきておりますので,それに伴って,食事もまた別の観点からもういっぺん考え直していい時期にきていると思います.そのようなことで,今日は,病人を中心にして,食事をどのように考えていけばよいか,お話しいただきたいと思います.

グラフ

最新の装備を誇る浜松医大病院

ページ範囲:P.877 - P.882

 浜松医科大学は昭和49年の開学であるからすでに4年を経過している.国立の医科大学としては旭川医大(48年),滋賀医大(50年),宮崎医大(49年)とほぼ同時期にあたる.学生の定員は毎年100名であるが,第1回の入試には3,600名が受験したという.現在の学生数は1−5年までで490名,うちほぼ2割が静岡県出身者である.この4月には教育関連病院である県西部浜松医療センターでの臨床実習なども始まっている.教育計画としては基礎医学と臨床医学を結びつけたいわゆる「器官系統別カリキュラム」による統合授業方式がとられていることで有名である.
 本欄で紹介する付属病院の方は,開学から3年遅れて昭和52年11月にオープン,一部外来診療を開始したものであるが,病院が完成し,本格的な診療は今年の2月から始まっている.

救療済生の道一途に36年—済生会宇都宮病院院長 高橋 昇氏

著者: 宮崎柏

ページ範囲:P.884 - P.884

 高橋先生は,昭和10年慶大医学部を卒業,母校の内科助手を経て,17年乞われて済生会宇都宮病院院長に就任され,今日までの36年間「施薬救療以て済生の道を弘めんとす」の主旨を体して,現在432床の総合病院の院長,管理者として,また乳児院院長,特別養護老人ホーム所長,付属看護専門学校校長として地域医療,社会福祉に取り組まれている.またへき地医療対策として,43年に栗山村に「へき地診療所」を開設し,へき地医療対策に取り組まれ,村民から非常に感謝を受けている.
 地域においては,医師会関係の役職,県行政における衛生および社会福祉関係の役職,済生会病院長会長の再度にわたる歴任など,まさに「東奔西走席の温まるところを知らず」とは先生の活動に当てはまる言葉であろう.

病院の窓

医療費高騰と平均在院日数

著者: 三宅史郎

ページ範囲:P.885 - P.885

 昭和52年度の国民医療費が十兆円を超すと推計されている.過去20年間の対前年増加率は平均16.7%であり,昭和49年度の対前年増加率は36.2%で,昭和50年度のそれは20.4%,昭和51年度も18.4%と増加を続けてきた.石原信吾氏の予測(本誌36巻9号23頁)によれば増加率を15%にしても,5年ごとに2倍となり,昭和60年には24兆円と予測される.
 医療費の高騰は何もわが国に限ったことではなく,アメリカでも1960年から1975年の間に4.4倍に増え,フランス2.8倍,イギリスは最近の10年間で3.1倍の増加が認められている.また同期間の対前年平均増加率もアメリカで10%,フランスで13%,イギリスで1970年以降で13%であるという.西ドイツ,ソ連,ポーランドでもほぼ同時期にそれぞれ3.7倍,2.2倍,2.6倍に増加しているという.このような医療費の増嵩は各国の制度の問題や,人口構造,疾病構造によるところもあるであろうが,医学の進歩や医療技術の革新によることは否めない.

民間病院の新しい試み

マトリックス組織—東大阪病院の試み

著者: 田中治

ページ範囲:P.922 - P.924

業務遂行組織
 病院に限らず業務遂行の組織が,運営されるためには次の二つが必要である.すなわち,①上意下達業務は,各自の気ままでは仕事できない.命令が下部に徹底され,それが上司の意図する通りに実施されなければならない.
 ②下意上達上司が正しい判断のもとに命令を出すためには,下部からの正しい情報がくみ上げられなければならない.それは,自分の都合で取捨選択されるものであってはならない.むしろ,自己の責任問題になるような悪い情報ほど早く上長に上げるべきである.

地方の病院から

住民と共に歩む健康管理活動を目指して(2)—長野県・長門町国保長門町病院

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.925 - P.925

健康管理のための具体的活動
 検診活動は,第一次と精密検査に分かれる.各部落の公民館へ出かけて行うが,35歳以上の成人4,500人に対して,年間70回に分け実施している.要検者は病院へきてもらい行う.受診率は一次検診が70%弱で,精検率は80%弱である.
 兼業農家が多いためウィークディには人の集まりが悪いので日曜日にも行う.とくに冬期間に行い,このために受診率は10数%アップする.検査内容は,問診,心電図,検尿,肝機能,貧血,眼底カメラ,打聴診などである.

院内管理のレベル・アップ 労務 労務管理の考え方・7

近代的労務管理論

著者: 宮嶋久義

ページ範囲:P.926 - P.927

はじめに
 日本赤十字社医療センターは遠く明治19年に創設され,越えて明治24年にドイツハイデルベルヒ大学病院を模し,東洋一を誇る病院を開設したが,当時はわずかに保有病床111床に過ぎなかった.時代の変遷と社会のニードによって規模を拡大し,この間日清,日露,第一次世界大戦に際しては,軍の後方病院の役割なども果たしてきたが,今や一般の総合病院と大差ない存在として,許可病床数1,011床,実際の稼働病床数899床,外来患者1日平均1,500人程度の規模となっている.赤十字社は現在93の病院を有し,いわゆる大病院も多数あるが,歴史の古いものはほとんど100床未満から発足し今日の大を成している.国立病院も古いものは大体同じような経過を辿っていると思われる.明治,大正時代および昭和初期において労務管理などという仕事が病院にあったとは思われない.しかしこの時代でもすでに大きな工場や鉱山では,労務管理は重要な仕事の一つであった.
 中小企業の中には今でも家族的な雰囲気の中で親父さんと従業員が一心同体となって生産に従事し,奥さんが外交兼会計兼皆の世話役を務めて立派にやっているものもある.しかし,この会社経営が成功して規模を拡大してくると旧態を維持することは困難になってくる.

ものの管理 ものの管理の方法・5

備品の効率的な使用管理

著者: 池田勇

ページ範囲:P.928 - P.929

 最近,医療の近代化,高度化が進み,病院で使用する備品はますます多様化し,旧来の備品の管理方法ではその移動,返還,転用などの実態を完全には把握できない.またこれがひいては備品の使用管理上にも種々の問題をもたらしている.これを改善するためには現在の備品管理方式を検討し,その向上を図る必要がある.
 それにはまず,備品の取得から用途廃棄までの過程を効率的に把握できる備品登録制度を確立し,使用および保全管理を適切に行うことが必要である.

看護 看護部門のレベルアップのために・5

ICU看護のあり方—ICU看護教育の現状と問題点

著者: 山尾雅子

ページ範囲:P.930 - P.931

 ICU看護のあり方といえば,その根底を流れるものは看護教育をおいてほかはないので,以下,当院新館ICUの看護教育の現状と問題点を述べてみたい.

手術 安全,確実な手術のために・7

手術室管理からみた救急症例—救命救急センターにおける過去1年間のNCUの運営について

著者: 三宅新太郎

ページ範囲:P.932 - P.933

 脳卒中,心筋梗塞等一刻を争う重篤な疾患は,専門的な技術と組織力をもってこれに対処しなければ救命し難いものである.厚生省は昭和51年,これらの高度の医療を要する第3次救急疾患を扱う施設,すなわち救命救急センターを500床以上の病院に付設する方針をきめ,その第一陣として全国で4施設を指定した.
 当院はその一つとして優先指定をうけ,52年7月に発足したのであるが,開設前最も危惧されたことは,センターの開設によって急増するであろう救急手術を中央手術室で消化していくに当り,手術室の割り振り,手術場看護婦の数の面で外科系他科と摩擦なく円滑に運営できるかどうかであった.手術台,手術器具等については,ほぼ十分と思われる準備をして開設に臨んだので,おおむね手術室全体の運営に大きな支障をきたすことなく消化することができたが,施設面で現在なお不備な点もあり改良中であるので,これらの将来構想を含めて本年6月末までの1年間の救急手術例をまず疾患別,時間帯別,所要時間別について検討し,現在当院で行われている救急手術に対する体制を報告する.

滅菌・消毒 感染管理の理論と実際・5

滅菌・消毒の実際(1)

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.934 - P.935

一般病棟における滅菌・消毒
 一般病棟といっても,構造的なことはもちろんのこと,入室患者の種類や,重軽症度によってまちまちであるが,特殊な感染症を扱っていない病棟という意味で述べることにする.
 したがって,一般病棟で,主として問題になる菌種は,黄色ブドウ球菌,白色ブドウ球菌,緑膿菌,クレブジエラ,大腸菌,カンジダ,アスペルギルスのほか,水痘,風疹,HB肝炎ウイルス類である.細菌類は常在菌に近いもので,健康人に対してはほとんど病原性を示さないものであるが,一般状態の弱っている患者に対しては,菌量が多いと問題になる.ウイルス類は,小児病棟で感染の拡がりを起すことがあるが,入院時に注意をする方法が最もよい.最初の患者が発見されたときは,感染病棟がない場合には,ただちに大人の病棟に分散隔離し,以後入院させる患者について,既往者のみに限定する.流行している間は,未感染者は潜伏期にあると考え,急性症以外は,入院を延期する.

最近の判例からみた医療事故・11

クロロキン網膜症と医師の過失

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.936 - P.937

判例
 医師が薬剤を投与するに際しては,その副作用に留意し,医療の水準上,最も効果的な方法をその限度で実施することが,その義務として要求されている.本件は,腎炎の治療として,小野薬品製造にかかるキドラ(クロロキンを主成分とする内服薬)を1日6錠宛長期間にわたり服用した患者が,クロロキン網膜症となり,重篤な眼障害を受けた場合について,その投与開始後一定時期において,副作用の予見が可能であるとし,適切な時期に右投与を中止しなかった医師の過失等が肯定された事案である(東京地裁昭53.9.7未登載).製造物責任とも関連するが(小野薬品との間ですでに和解がなされている),本件ではとくに,能書きの記載等を含めた医療水準の認定の仕方が参考となろう.

今月の本棚

—西尾 雅七・坂寄 俊雄 編—「人びとの健康と社会保障」

著者: 吉澤国雄

ページ範囲:P.938 - P.938

医療改革の方向を示唆
編集者および執筆者の立場について
 本書は選書「現代の生活と社会保障」全10冊の一部で,15名により分担執筆されている.
 その序で西尾はヒューマニズムに立脚して近代的医療のあり方を追究すべきときであると述べたが,次々に論述される各執筆者の立場は単なるヒューマニズムではなく,多くの働く人々の立場,とくに労農階級の立場に立って現行医療保障制度を批判し,改革の方向を示している.しかも執筆者らは単に机上の研究家ではなく,熱心な長期の実践とその経験あるいは統計的事実などによって論旨を展開し,行間にはなみなみならぬ情熱と,ときには激しい怒りをさえ感じさせる.保守の書ではなく革新の書であり,とくにまじめな日本の医療関係者にとって多くの示唆が得られる必読の良書である.

院外活動日誌

精神科ソーシャルワーカーの会話の中で

著者: 都立松沢病院リハビリ医療科 ,   高橋一

ページ範囲:P.940 - P.940

 精神病院を退院し社会生活をとり戻すことは並大抵のことではない.ここに紹介するのは,そうした過程にある患者さんと訪問したPSWとの会話である.それぞれの会話の中に,入院中には体験できない街の風が吹き抜けてゆくのを見るのは,私たちだけだろうか.

新・病院建築・11

寿泉堂松南病院開放病棟—共用ゾーンに特色をもたせた治療・生活空間

著者: 阿部忠夫 ,   河口豊 ,   宇野哲生

ページ範囲:P.941 - P.946

小規模精神病院と開放病棟
 当院は,昭和43年8月,須賀川市北部の約2万6千m2の松林に,104床の精神病院として発足した.自然環境を生かし,また災害時の安全を考えて分棟式とし,最終規模250床前後の小じんまりとした,精神病院を目指した.急膨張の時代は過ぎ,質の向上が求められる時期になっていた.
 第一期工事(設計:田中西野設計事務所)は,敷地の約半分を使い管理棟・サービス棟・病棟の3棟を建てた.この病棟(2階建,男54・女50)は,機能上は閉鎖管理による治療棟であるが,開放棟に準ずる構造と雰囲気をもつよう工夫した.すなわち,中2階に100名収容の食堂を張り出し,多目的に兼用できる男女共用の場とし,食堂と浴室には窓格子をつけず,出入口の扉と窓の一部は強化ガラスを使い,内装は木部を多くするなど明るさとやわらかさに留意した.

精神医療の模索・11

外来診療所と病院

著者: 多賀谷譲

ページ範囲:P.947 - P.951

はじめに
 現実の社会の第一線の医療を担っている精神科診療所の存在とその意義とは,一般にも漸く理解されはじめたようである.いわば医療社会の中で,いつの間にかはっきりと市民権を得てきたといえようし,むしろその役割は精神医療の中で,今後ますます重くかつ大きくなりつつあるのが現状である.
 そこで在来の精神病院を中心とした医療体制と並んで,あるいはそれを補足し補強する形で,生活の場の中で治療する精神科診療所医療の系列が加わってきたといえるわけである.

研究と報告【投稿】

病院における賃貸借・委託外注の実態—類型別規模別分析(1)

著者: 車田松三郎

ページ範囲:P.952 - P.955

 病院の経営合理化は一夜にしてできるものではない.まず,何よりも合理化しやすい部分から手がけるべきであろう.病院での外注はこのような発想が基礎にあると考えられる.多くの病院の頭痛の種は,人件費の上昇であり,管理者はその対策に苦慮している.われわれはこれに対しても外注の利用による効果を期待している.人手不足の解消とともに人員の適正配置とその合理的運用に役立つと思うからである.つまり常規的な仕事で,たとえば院内の清掃などは必ずしも病院の職員でなくともできる部分である(請負).また日進月歩する医療機械も1,2年くらいで陳旧化するものもある.これを年契約による外注で考えると,多額の費用を一時に投下せずに,いつも最新式の医療機械を運用できるという利点がある(賃貸借).また病院の広いスペースの一角を売店や,理容室に用立てるなどをして,患者のサービスに役立てることもできる(委託).このような合理的運用こそ,今日,病院の近代化,合理化に欠かせないものとなってきているのではなかろうか.それにしても,やはり病院が外注を利用しやすいところに立地しているかどうかが問題となる.立地条件のよい病院はどんどん外注の考え方を導入して,経営を合理化することができるが,もし,立地条件が悪ければ,逆に,病院を中心として地域にサービスを強いられることにもなろう.この例は北海道の一部の病院にみられる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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