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雑誌目次

雑誌文献

病院37巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

特集 老人医療の課題—退院後のケア

老人医療ソーシャルケア体系

著者: 田中多聞

ページ範囲:P.106 - P.109

 老人による一般病院病床の占有が問題となっているが,「はい,退院ですよ」と老人達を送り出して問題が解決するのではなく,その時点から真の老人医療の問題が始まる.老人のケアのあり方を老人専門施設,一般病院の試みなどから探ってみた.

医療と福祉の接点と矛盾—特別養護老人ホーム,老人病院の実態

著者: 小笠原祐次

ページ範囲:P.110 - P.114

 それはまだ生々しい記憶として残っている.昭和52年10月31日の各紙が「老母の入水"手伝う".バイクに乗せ川へ.娘も同時心中未遂.看病に疲れ……」と報じた事件であった.きわめて悲惨な「現代の楢山節考」として世情を賑わした.老母の病気(ガン),寝たきり,長男知恵遅れ,事業の失敗など重なる生活困難の中で発生した事件である.扶養意識や扶養耐性の問題はあるにしても,寝たきり老母や長男に対する在宅サービスや施設サービスが安心して利用できるように近くに配置されていたら,防ぐことができたかもしれない悲劇である.
 社会と家族の急激な変化の中で,扶養機能が衰えてきている.しかも親族・地域援助網の乏しい独立した家族--それは孤立した家族と言ってもいい家族が増加している.扶養を必要とする老人,とりわけ寝たきり老人を抱えた家族や老齢夫婦,ひとりぐらし老人の場合は,こうした家族,社会状況のもとで,扶養,その最も原初的な扶養としての世話をめぐってさえ,きわめて大きな困難にとりまかれ,老人は生への絶望・死への願いに,家族は疲労,経済的負担,家庭生活の制約等からのあきらめ,家族関係の亀裂へと追いこまれている.

老人退院後のケアの現状とあるべき姿

著者: 大友英一

ページ範囲:P.115 - P.117

 老年者の退院後のケアは少なからずの疾患において壮年者,若年者のそれと大きく異なるところはない.しかし,中枢神経系疾患,特に,脳血管障害など運動障害の著明な例,痴呆例のケアについては特殊な問題があり,他の年齢層と大きな相違がある.本項ではこの大きな相違のある脳血管性障害など中枢神経系の疾患を中心に退院後のケアの一般論および浴風園における実状を述べる.
 脳卒中後遺症などある程度以上の運動障害があり,退院後通院の不可能な例では家庭に帰って以後は近隣の医師の診療を受けることになるが,病院におけるごとく随時来診を受けることは必ずしも容易でない例も存在する.自己を弁じ得ない運動障害のある症例では退院後家庭に帰るか,医療設備のある施設に入るかにより,いろいろな差が出てき,前者の場合は問題が少なからず存在する.退院後家庭に帰った場合,家庭にいるという気安さから安易な方向に進み,運動麻痺,筋萎縮などが進行し易くなることは明らかであり,一方自己を弁じ得ない場合,家族の負担は極めて大きいものであり,他の家族の生活は大きく乱される.したがって退院とアフターケアとの間に明確な線を引くことが困難なことが多い.

板橋ナーシングホームの運営と問題点

著者: 大久保武

ページ範囲:P.118 - P.119

ナーシングホームの現況
1)運営方針
 板橋ナーシングホームは,東京都が寝たきり老人のための施策の一つとして計画し,昭和51年8月に開設した施設である.それまでは,既存の特別養護老人ホーム「和風寮」が,寝たきり老人のための唯一の公的施設であったが,隣地に新しいナーシングホームを建設したのを機に,この両施設を一体的に運営することとし,名称を「板橋ナーシングホーム」と改め,事業を開始した.ナーシングホームは,外国の場合,アメリカやスウェーデンのように医療施設として位置づけられているところと,西ドイツやフランスのように福祉施設として位置づけられているところがある.
 板橋ナーシングホームは,老人福祉法にいうところの特別養護老人ホームで,福祉施設である.したがって,これを利用する老人に対し,日常生活の場として,それにふさわしい生活介護を行っていくことは当然であるが,さらに,利用老人の高齢化・病弱化に対応するため,医療看護機能の充実,心身機能の回復または維持のため,リハビリテーション機能の充実につとめることを運営方針としている.すなわち,福祉施設としての性格を基本としつつ,医療施設的運営を行っていくということである.

老人専門外来—京都桂病院の試み

著者: 並河正晃

ページ範囲:P.120 - P.122

老年型疾患構造と若年型疾患構造
 昨今は,いろいろな場で老人医療について討議されているが,その問題となる患者は,一体どのような状態なのであろうか.高齢の患者の一人一人の状態は,ある程度はその人の物理的年齢に比例するが,あまりにも個人差があり過ぎて,ある年齢以上の方々を,ひとまとめにして話をするには非常に無理がある.そこで,高齢の患者を診る場合,その人の疾患構造が老年型か,若年型かに分けて考えると便利であると思う.図1に示したように,各臓器が,ほぼ100%に働いている健康時の状態を正円で表わすと(図1,A),若年型疾患構造を有する患者(以下,若年型患者と略)は病院を訪れる動機となった一つの臓器の不全状態(疾患)がある以外,他の臓器に異常がない(図1,B).一方,老年型の疾患構造を有する患者(以下,老年型患者と略)では,病院を訪れる動機となった一つの臓器の不全状態に加えて,過去に罹患した疾患のためや,加齢に伴っての他の臓器の不全状態が共存し,その多くは積極的な治療が必要であったり,さらには病院を訪れる動機となったものより重症であることもある(図1,C).若年型患者での疾患は,多くが可逆的であるが,老年型患者では,多くが不可逆的であり慢性であるとされている.そして,それらの慢性不可逆性疾患によって,経済的,社会的な問題が生じ,さらに,それらが健康を害するという悪循環が始まっている.

老人退院指導の実際と問題点

著者: 高田玲子

ページ範囲:P.123 - P.125

 筆者の勤務する病院においても近年老人患者は増加しており,老人患者の退院をめぐり,相談室を活用する患者,家族が目立ってきている.主な相談内容は,
 ①家族が老人患者を積極的に家でケアーしていくにはどういう点に気をつけたらよいか,老人への接し方や具体的なケアーを知りたいので退院指導を受けたい.

寝たきり老人訪問看護の実際と問題点

著者: 島田妙子

ページ範囲:P.126 - P.128

 東京都東村山市が全国に先がけて「寝たきり老人訪問看護指導事業」を制度化したのは昭和46年12月であり,満6年を経過している.東村山市で実施される「寝たきり老人訪問看護指導事業」は当市の老人福祉対策の一環として,予算化し,家族の看護のもとに日常生活の介助を受けながら生活している老人の家庭をその程度に応じて看護婦が訪問して,看護の指導および必要な援助をすることであり,看護婦からの要請があった時には,医師,作業療法士,理学療法士等も訪問して必要な援助を行うことになっている.この事業の実施主体は東村山市であるが,この事業に直接たずさわっている看護婦または看護婦の要請で訪問する医師,作業療法士,理学療法士は,市とこの事業の委託契約をしている社会福祉法人白十字会東京白十字病院から派遣されている.
 加齢と共に起る身体的変化・老化現象と,それに加えて病的変化を持つ老人は,その境界の判断はつきがたく,臨床検査的には正常範囲でありながら,身体の自由がきかないために,医学的に治療が必要であるかに錯覚して入院させられたり,退院できない例は少なくない.積極的な医療の必要でない老人に病床が占有されながら,現在の保険医療制度のなかではどうすることもできない.また広く公衆衛生分野で退院後のあるいは入院の必要のない積極的な医療の必要のない老人に対しての日常生活の介護指導や実際的援助または健康管理ができるかというと,これも十分とは言えないように思われる.

老人の在宅ケアとホームヘルパーの活動

著者: 松田万知代

ページ範囲:P.129 - P.131

 老齢人口の急増と,核家族化の進行により,家族制度の崩壊とともに,家族の持っていた保護機能が失われ,近年の著しい産業経済主導の社会構造の矛盾と共に,老人問題は大きな社会問題となっている.それと共に,従来の生活保護制度の枠内で取扱われていた老人福祉対策は,昭和38年,老人福祉法制定と共に,貧困老人に限定されていた福祉の対象が,一般老人にまで拡がり,生活保護法で規定する最低生活の保障だけでなく,理念的には「健全で安らかな生活の保障が得られなければならない」とされ,「老人が日常生活に支障がある場合に,家事の援助およびその他必要な世話を行うことにより,その家庭の福祉の向上を図る」ことを目的に,家庭奉仕員制度が,老人福祉法第12条に規定され,在宅サービスのはしりとして,先駆的役割を期待される職種として脚光をあびるようになった.

グラフ

オープン病棟を併設—市立小樽病院

ページ範囲:P.97 - P.102

 「公立病院でのオープン病棟は難しいといわれましたが,今や小樽市医師会の医療活動の重要な一つとなっています」と野口暁小樽市医師会長は語ってくれた.実際,今回紹介する北海道小樽市の市立小樽病院(福田良平院長)のオープン病棟は,公立病院併設のオープン病棟として,全国で唯一のものであり,本院での運営が8年間経過したにもかかわらず,その後,他の病院で試みられていないことを考えると,極めてその運営が難しいと想像される.

診療記録管理のパイオニア聖路加国際病院診療記録管理室長 栗田 静枝さん

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.104 - P.104

 栗田静枝さんといえば,病院会の古い会員は誰でも「診療記録管理のパイオニアのあの方」ということを知っているほど,この方面では名が知られている女性プロフェッショナルである.Medical Record Administrator,または,Medical Record Librarianという新しい女性向きの専門職を,日本に実際的に導入した恩人である.
 静枝さんが,聖路加国際病院の前院長橋本寛敏先生の特別なご配慮で,カルフォルニア州バークレー市のHerrick Memorial Hospitalに診療記録管理の勉強に約2年間留学を斡旋されたのは,昭和28年のことであった.日本の病院医療の水準を世界的レベルに上げるに欠くことのできない病院活動の一部門としての診療記録の重要性を,戦後いち早く見抜かれた橋本先生の眼は鋭かった.それに答えて,静枝さんはスマートにアメリカの診療記録管理のシステムを日本に輸入し,これを日本中に拡げるために大役を果たされた.日本中の諸々の病院の診療記録管理士となっている方の多くが聖路加国際病院での実地研修を彼女の下で受けている.静枝さんは,第1回渡米10年後に再び,この方面のアメリカでの恩師であるトリファス女史の所で(スタンフォード大学病院) refresher courseを4か月受けられた.

病院の窓

不況下における病院経営

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.105 - P.105

 低成長経済下における不況は今後10年は続くと予想されている.一般産業界では大幅な操短を余儀なくされ,倒産が相次ぐ中で雇用問題が大きくクローズアップされ,まさに昭和初期の大恐慌以来の大型不況といわれている.
 病院は不況に強いといわれているが,今日のように重装備,近代化された病院体制下における本格的不況を迎えた経験はなく,いわば新しい体験ということができる.この模索の時代ともいうべき難しい時期に当り,今後,病院が進むべき道を決めることは至難なことと考える.一方,不況といえども医療の進歩を妨げることはできない.人口構成の高齢化と疾病構造の多様化は,より充実した医療の発展を求めることから,当然なことながらいろいろな形態の医療需要の増加が考えられる.病院はそれらへの対応として人的,物的,技術的な医療体制の整備を考えることになるが,長期間にわたると予想される不況の時代にあって大型投資の適否について懸念を持つのは私だけではないだろう.医療の世界では平常時においても設備整備に当っては,①将来の経営収支見込み,②借入金償還,金利負担能力の持続性,③患者需要の見通しという,設備投資の回収,吸収が可能かどうかの判断は難しいものである.今日のような不況時代にあっては,ことさら,投資の過剰化への恐れ,将来展望の不透明さに対する不安などのため基本方針の決定を躊躇することが多い.

ホスピタル・トピックス 地域医療

ホームケアの地域化

著者:

ページ範囲:P.114 - P.114

 人口の急速な老齢化,家庭,医療,社会環境の急激な変化に対応して,過去の受身の病院医療から脱却して積極的な地域への医療の展開を求める声は,ますます大きくなりつつある.これに対しての1つの試みが,ホームケアと呼ばれる家庭での医療の実施の試みである.ホームケアの基礎となる考え方は,医療は家庭で提供する,家庭で行われることがもっとも望ましいという考え方である.事実,現在の高度の医療を誇示する病院においても,大部分の患者はできるだけ早く入院生活を終え,家庭に帰ることを希望している.同時に医療関係者は現代の高度の発展した医療関係技術の効果的利用という観点から,適切な医療(Appropriate Care)の考え方を導入する必要がある.つまりホームケアは,包括医療体制の一環としてとらえられ,そのためには病院の果たす機能と関連をもつ有機的なシステムの一環としてとらえられるべきである.しかし,現実に提唱されている訪問看護と呼ばれるサービスは,一つの家族に対する包括的医療の提供という全体プログラムの中での位置づけが必ずしも明確でないものが多く,またその狙いは,包括医療の継続的提供よりは,より安価で,より適切なサービス提供ができないかということに止まっている.

器機

注射安全工学の展望

著者: 原素行

ページ範囲:P.136 - P.136

 日本薬局方が,アメリカ薬局方に次いで,注射液製造は再蒸溜によるべしと規定して以来,市販の輸液用注射液が姿を消した.
 1971年,はじあて製薬工業用の大型パイロジェンフリー・アクア製造機器が,フィンランドにおいて開発され,1977年,日本の某製薬会社の工場に導入された.同年7月上旬,その組立,据付およびこれらの工事後の機器の機能検査など,すべてを終えたという.

海外レポート

アメリカ病院給食見聞記

著者: 住垣聰子

ページ範囲:P.132 - P.136

 昨年の4月6日より10日間,日本病院会主催の北アメリカ病院給食視察団は,病院長,栄養士,調理師,食品コンサルタント,機械関係のエンジニアら多士済々の顔ぶれで,ミネアポリス,シカゴ,ボストン,フィラデルフィアを廻り,病院を6か所,ジョスリンクリニック,24時間営業のスーパーマーケット1か所,食肉加工会社1か所,冷凍フリーザーの会社,マイクロウェーブの会社,某洗剤メーカーの研究所を見学し,無事帰国した.ミネアポリスはまだ冬景色で,時にはみぞれも降るような気候であったが,ボストン,ワシントンは春の気候で,本場の花みずきを観賞することができた.
 まずミネアポリス到着後,ただちに車で24時間営業のスーパーマーケットByerly Foodsを見学する.

地方の病院から

広域病院とへき地中核病院—大分県・東国東広域国保総合病院

著者: 籾井真美

ページ範囲:P.137 - P.137

住民—医療関係者—行政
 厚生省は昭和50年より無医地区対策としてへき地中核病院構想を実施している.われわれの広域病院も初年度に指定を受け,国から6千万円,県から6千万円の計1億2千万円の補助を受け,16億円の新病院建設には大きな助けとなった.問題は少ない医局員で130回以上の無医地区巡回診療が行えるかどうかであったが,今まで10数年間町民の健康管理を続けていたのでその代りならと別に反対もなかった.
 若月佐久病院長は早くから5.3.2方式を提唱されているが(5は入院,3は外来,2は院外活動),予防活動や無医地区巡回診療などの地域とのコミュニケーションを考えない病院や医師は「地域医療」を口にする資格はないといえよう.

院内管理のレベル・アップ 診療 医療業務の標準化・7

医療評価

著者: 榊田博

ページ範囲:P.138 - P.139

1.医療評価の意義
 医療の質的向上を図るためには医療評価が実施されねばならない.医療の内容が目標に到達したか否かを評価することにより,医療の質を改善する新しい目標が与えられる.
 弓削1)は全国140の研修指定病院にアンケートを送って調査し,12の標準項目について平均数値を算出した.これをわが国での普遍妥当な資料に基づいた診療評価の設定への先駆とした.また,医療の内容を評価する資料によって,病院の医療を監査することを提唱した.永沢2)らも,病院における各専門職能実務を定め,それとの比較において医療の質を客観的に評価することは,患者のための医療の確立に寄与することを強調している.

病理 病院病理の課題・8

病理学検査と精度管理

著者: 並木恒夫

ページ範囲:P.140 - P.141

 どんな臨床検査でも,主治医が他の医師ないし技師に依頼して行われる場合,検査の精度について,保証がなければならない.これは病理学検査についてもあてはまる.ただ,病理組織検査の場合,精度に相当するものが,「正しい病理学的診断」ということになるが,これをどのようにして決定するかが問題となる.診断方法も,生化学や,形態を除く血液検査のように数字であらわされるものではなく,主観的かつ個人的色彩の強いパターン認識により,比較の困難な病名として表現されるうえ,診断用語の統一も十分ではないので,同一病変が異なった病名で呼ばれたり,逆に異なった病変が同じ病名で呼ばれる場合も少なくない.以上のような点から,他の臨床病理学の領域に広く行われている,品質管理的な方法による精度管理の手法は,病理学の領域には応用しがたく,事実CAP主催のQuality Evalua—tion Programからも病理は除外されている.それでは病理学検査の精度管理はどのようにすればよいか.以下にその考えかたを述べてみたい.

ものの管理 ものの管理の方法・1

物品管理に対するシステム的アプローチ

著者: 福井康裕

ページ範囲:P.142 - P.143

場当り的なやり方
 病院で使用されている消耗品(医薬品・医用材料・事務用品・食料品)ならびに再生品(医療器材・リネン)などの物品の管理について一つの提言をしたい,これらの物品は,一般企業の物品と異なり,・数千種にも及ぶ少量多品種である.・稀少の使用頻度であっても常備を要求されているものが多い.・信頼性・安全性・清潔性がとくに要求されている.などの特性を持つため,その管理が極めて困難であるといわれている.また,これら物品の購買費が,病院経営上において占める比率が人件費に次ぐ大きなものであることも周知の事実であり,今後もさらにその費用は増大していくものと予測されている.病院経営を改善するには,収益を増すか,支出を削減するかのどちらかであることはいうまでもない.病院の収益は,診療報酬制度によってその収入が抑えられており,患者中心の質の高い,良心的な医療を行えば行うほど病院経営の悪化に拍車をかけるという実に矛盾に満ちたものになっている.他方,病院の支出に関しては,その最も大きな比率を占める人件費の削減が望まれる.しかしながら,むしろ人手不足でその増大はあっても減少などとても期待できないのが現状である.
 この病院経営危機の中で,物品管理に何らかの対策を施すこと以外に,病院経営改善にとって残された道はないといっても過言ではあるまい.

手術 安全,有効な手術のために・1

手術室—その性能と経済性

著者: 三上晃

ページ範囲:P.144 - P.145

 上記のテーマで書くように病院管理研究所の石原信吾先生よりご命令を受けたが,正直なところ「医」について全く門外漢の一事務屋に過ぎない小生にとってはとまどいが先で何を書いてよいのか五里霧中の状態である.しかし,一事務屋であっても医療機関に従事している者として常に向上心と勉学を志せとの叱責と解釈し,全く「医」を外部からのぞく立場で思いつくまま書いてみる.

施設 施設部門の管理・8

床材の選び方とその管理

著者: 辺見九十九

ページ範囲:P.146 - P.147

 近代における病院の建物は中層化の傾向をたどり,一般ビル同様床,天井,壁などに化学材料を使用することが多い.なかでも人間にもっとも身近に感じられる「床」は,歩行感の良否,色彩,模様などの選び方が問題となる.ある病院関係者によると病院における床材の適応性については,患者に与える精神的な不安感の緩和と衛生環境の保持などが重要な要件であるという.すでに専門家により研究されていることではあるが,まだまだ,適材適所,すなわち適合性について問題があると思われるので,自己の体験を述べて見たい.

最近の判例からみた医療事故・2

カナマイシンの投与による難聴と医師の過失

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.148 - P.149

判例
 医師が糖尿病性腎盂腎炎の治療に際し,抗生物質として他にペニシリン等があるのにカナマイシンの投与を開始し,その副作用防止のための聴力検査ないし療法を実施しなかったため,患者が相当程度の難聴になった結果について医師に過失があるとし,県に損害賠償が認められた事例である(山口地裁昭51・8・9判決,判例タイムズ348号266—).抗生物質の投与における薬剤の選択とその継続における医師の注意義務について説示するものとして参考となろう.

今月の本棚

—高橋 政祺 編—「医療学入門」

著者: 大久保正一

ページ範囲:P.150 - P.150

わが国の医療学をコンパクトに集約
わが国個有の医療学を
 医療には自然科学と社会科学の両面があり,両者がともに充実しなければ完全なものにならない.
 自然科学の法則は場所と時をえらばず万国共通,万古不易のものであるから,カナダの大学でインシュリンが発見されれば日本の糖尿病患者もその恩恵をうけることができる.しかし社会科学の法則は場所と時をえらび,アメリカで発見されたとしても日本でそのままあてはまるものではない.むしろ適用はできない.医学を患者の福祉につなぐためには日本独特の医療学を樹立しなくてはならない.

—山元 昌之 著—「現代病院経営概説」

著者: 井上昌彦

ページ範囲:P.151 - P.151

病院の経営管理を簡潔に体系化
先駆者としての著者
 著者は,病院管理の大ベテランで,改あて紹介する必要のない方ではあるが,戦前にすでに病院管理の著書のある病院管理の先覚者であり,戦後のわが国の病院管理の黎明期より,現在の管理ブームといえる時代まで,一貫してその指導に当たられて,今日のわが国の病院管理を育てあげられた一人である.
 著者のもうひとつの特質は,数少ない医師でない病院管理学者であって,専門とされる会計学を基礎として,さらに得意の語学を駆使して研究を進めた近代の経営学の粋を,病院という環境に適応濾過させた形で病院管理に導入されて,借り物でない科学的基盤に立った病院管理・病院経営の技法の確立を意図していることである.

院外活動日誌

夜の電話

著者: 川村佐和子

ページ範囲:P.152 - P.152

11月3日(祝日)
 午後8時15分,夕食の片づけ中に電話が鳴った.「夕方から,熱は37℃台なのに,のどがゼロゼロいって苦しそうなの」Aさんの奥さんからだった.数日間の体温の変化,食事や意識などをたずねて,常時と差異のないことを確めたが,家庭医のB先生に相談することを勧めた.こんな夜遅く,先生をたずねていいかしらと奥さんはためらったが,深夜に戸を叩くことを考えれば今の方がよいと再度勧めた.1時間後に電話をする.「B先生に薬を頂いてのんで寝入りました」とのこと,ほっとする.Aさんは40歳,10年来神経難病で療養中だ.近頃は寝たきり,流動食,集尿器使用,全介助である.Aさんの援助をはじめて5年経過するうちに,奥さんは困難に当面するといつでも電話をかけてくるようになった.今回のように夫の身体異常に関する問題,奥さん自身の悩み,生活の困難,時には,「今日のお父さんは一日声が出なかったのよ,一日の家事がすんで坐ってみたら,このままお父さん駄目になってしまうのではないかと思い始めて,いても立ってもいられなくなって電話したのよ.本当にこのまま死んじゃうのなら,二人一緒に死にたい」と涙声になることもあった.
 夜電話をかけてくるのはAさんの妻だけではない.また私達も,昼間は勤めている家族に直接話しかけたいと思うと夜の電話連絡に頼ることになる.

新病院建築・2

病院各部の面積配分—その2.特殊専門病院

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.153 - P.157

はじめに
 前号に引続いて本稿では小児・老人・リハビリテーション・がんの専門病院と精神病院についての考察を行う.これらの病院は精神病院を除けば数もまだあまり多くなく,その建築形態について典型らしきものができているわけでもない.したがって,少数のいわば特殊例を分析することになるが,この種の専門病院もおいおい増えていくことであろうから,その計画に何がしかの手がかりを提供できればという趣旨でとりあげてみた.特に一般病院との違いが焦点である.
 最初に小児・老人をはじめとする特殊病院について述べ,後半で精神病院についての分析結果を述べる.

精神医療の模索・2 患者の人権

精神病患者ないしは患者とされる者の人権はいかに守られるべきか

著者: 寺嶋正吾

ページ範囲:P.158 - P.161

 精神科において精神障害者を入院させるにあたり最大の問題となるのはその人多数が他科における入院とは違って,自由意思に基づく入院ではない点である(元吉教授10)によると,ある調査で精神病院では自由入院はわずかに0.2%しかなかったという).憲法31条"何人も法律の定める手続によらなければその生命若しくは自由を奪われ,又はその他の刑罰を科せられない"の手前,精神病患者(厳密には「精神病患者とされる者(prospec-tive pt.)」)12)を入院させる(自由をせばめる)ためには法律の定める手続("due process")をふむことが必要なのである.そこに精神障害者とされる者の意思に反した強制入院に関する法律が不可欠なのである.
 どの国家においても,社会にとって「危険な者」に対しては警察権限("police power")によって対応し,社会を防衛しようとする.また,「自らを保護しえない者」に対しては国が代って「保護者としての国」の権限("parens patriae"power)をより所としてその者を保護する.このふたつの基本的考えが法律の形で実体化されている3,15)

医療事故の側面から

著者: 高田利広

ページ範囲:P.161 - P.164

医療の適法
 現行精神衛生法が精神障害者の治療と保護を目的としていることは当然であるが,社会防衛の保安面から強制病院収容を中心として構成されていることも事実である.そこで,対象患者としての精神病質者問題,入院収容上の措置入院,同意入院の問題,在院中の行動の制限,退院手続の問題といった患者の人権侵害が危惧され,事実一部において摘発されていることも否めない.
 元来,一般患者に対して身体に対する侵襲である医療が適法であるのは,医療が治療目的をもって行われること,患者について医学的適応性があること,患者について医学的正当性があることおよび患者の同意があることを要件とする.治療は患者の利益のために行われるのであって,患者の同意は絶対に必要な要件である.もっとも,意識不明の場合などでは推定的同意を擬制するのであるが,医療側に強制治療権があるわけではない.そのほか,例外的には公共の福祉・公序良俗の立場から,緊急避難行為,緊急事務管理としての治療が,患者の同意なくして行われるが,建前ではもちろんない.

図書紹介

—Paul Aurousseau著—「International Hospital Vade Mecum」(国際病院便覧)

著者: 姉崎正平

ページ範囲:P.164 - P.164

国際的に情報を収集
わが国の病院管理の自立へ
 第2次大戦後,わが国で病院を管理するということが意識的に行われるようになってかなりの年月が経った.病院管理に関する研修,研究,それらを行うための専門機関の設置,大学における病院管理学教室の開設,病院や病院管理に関する団体の結成,学会の開催などの実績が積み重ねられてきた.それらを反映して,病院管理関係の雑誌,単行本,シリーズ,全集などの出版も充実の一途をたどっている.本誌『病院』の歩みにおける充実の跡はその典型といえる.
 しかし,全般的にいって,わが国の病院(管理学)界は,とくに初期の頃,欧米,なかんずくアメリカをモデルとした考え方が支配的であった.その後も,病院管理関係者の欧米視察は年ごとに盛んになってきているが,同時に,わが国独自の病院管理の方向も打ち建てられてきた.そして,昨年の国際病院学会の東京開催は,わが国の病院(管理学)界が,欧米病院管理の吸収消化と日本的病院管理の確立の二本の足で,国際的に自立したことの総括であったといえよう.

民間病院の新しい試み 夜間診療

ナイター診療と銘うって

著者: 林博

ページ範囲:P.167 - P.168

 当院では夜間行われている診療を「ナイター診療」と呼んでいるが,これは恐らく当院が最初で唯一だと思う.野球でいう「ナイター」をそのまま借用したものである.一般的には,病院は午前・午後の一定時間で外来診療を打ち切るものと考えられ,救急病院が救急車を受け入れたり,救急外来で急患を扱うのは例外の措置と思われている.しかし高度成長時代の古きよき時代ならともかく最近の不況・低成長時代においては,仕事を持った患者が,診療を理由に,勤務時間内に病院を訪れることは難しくなってきている.診療所や小病院の多くが夜間に及んで診療を行っていることは,その必要性を示すものと言える.しかし病院という形態をとっていて,恒常的に夜間外来を行うには困難が多い.特に要員を確保することは難しい.しかしながら病院運営上の理由だけで,受診者が自分の時間になってから夜,受診したいという希望に目を閉じてよいものだろうか.病院と診療所との役割分担はあるにしても,病院としても外来診療が必要である以上,いくらかでも患者の希望に応えようと当院では昭和38年から「ナイター」診療を開始した.
 因みに,当院の規模を紹介すると,内科,外科,整形外科併設の入院約130床,外来1日約250名程度で,他に予防医学センターとして人間ドック,自動健診,集団検診に力を入れている.

開設以来一貫して継続

著者: 増子忠道

ページ範囲:P.168 - P.169

夜間診療の経過
 柳原病院は,東京・足立区の南の一角にあり,荒川と隅田川の蛇行して生じた三角州のような島に位置している.昔は東京三大貧民窟(山谷,南千住,北千住)といわれた典型的な貧しい下町であった.戦後,焼け出された人々や全国からの流れ者のような人々が集まって町を作った.当時は衛生状態もひどく,幾度も"赤痢"が大流行したという.現在は以前に比べ,多少は生活状況も向上したが,この地域の産業は金属・皮革などの極小零細企業で家内企業である.4帖半の部屋に2人で生活しながら近くの工場や地区の工場に通勤する労働者の街でもある.東京では次々に消えていって,今では貧しさの象徴として有名な"風呂屋の煙突"もここでは4軒もあり,繁盛している.老人だけの世帯も増え,淋しい老人が沈澱している.住民はアルコール中毒患者も多いが,概して働き者であり,長時間労働にも耐え,生活のためには一時間でも惜しい人たちである.
 昭和25年前後,生活環境の劣悪さと労働条件のひどさもあり,結核がこの地域を支配していた時代,住民が"貧乏人のためにも医療を!"と運動を起した.住民の熱情にほだされた病気勝ちの女医さんが決意して,中国解放軍帰りの看護婦数人と住民運動の先頭に立った人を事務長に,診療所が開設された.貧乏人相手の診療はいつも赤字であったが"住民のために"なることは何でもやった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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