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雑誌目次

雑誌文献

病院37巻4号

1978年04月発行

雑誌目次

特集 放射線診療の管理運営

管理運営上の問題点

著者: 松浦啓一

ページ範囲:P.274 - P.275

 放射線診療のあり方,放射線科医の役割ということに関して述べられた真摯な論説は数多い.これらはほとんどは放射線科医によって書かれたものである.そしてそれを読むのも大部分が放射線科医である.論旨を理解してもらって,現実の医療の中に生かすべく推進してほしい他科の医師で,目を通してくれる人が果たしていく人いるであろうか.この意味からも,今回のように放射線科医以外の立場からも論じて下さることは大変有難いと思うものである.

放射線診療のシステム化—放射線科医の立場から

著者: 藤井正道

ページ範囲:P.276 - P.281

 われわれをとりまく近年の社会環境および医療環境から,医療組織の改善は必至である.特に放射線医療は,医療被曝の問題およびCT (computed tomography)の開発にみられるごとく,大型放射線機器の導入により,病院および地域におけるそのシステム化を迫られている.したがって,われわれ放射線科医は厳しい現実の中で,望ましい放射線診療システム確立へ向って,一歩一歩その改善への努力をしなければならない(図1).

放射線診療におけるマンパワー—放射線科医の立場から

著者: 町田喜久雄

ページ範囲:P.282 - P.284

 放射線診療が,近年著しく進歩してきたことは,広く認められつつあるところであろう.最近の技術革新をもっとも端的に受けつつある分野として,放射線診療は,ある意味では成長期,言い換えれば青年期にあるのではなかろうか.
 一口に放射線診療といっても,それは広範囲なものであり,X線診断,核医学診療,放射線治療,超音波,サーモグラフィーなどがある.

臨床各科との連携システム—臨床他科の立場から

著者: 阿部令彦

ページ範囲:P.285 - P.287

 放射線科以外の診療科の立場から,放射線診療の管理運営について,診断の問題を中心に私見を述べる.

放射線部の組織と機能—病院管理の立場から

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.288 - P.290

 近代病院における診療形態は,医師個人を中心にして展開されるものではなく,組織的医療,診療が行われることによって始めて今日の高度医療(重装備医療ともいえる)の実を得ることができるものである.
 わが国においては,各科に放射線の専門家がおり,診断と研究を中心にして活躍していた.放射線治療についても,各科で行われ,特に婦人科や皮膚科が主であった.

薬剤事故

薬剤過誤をめぐる諸問題とその防止対策

著者: 岩崎由雄

ページ範囲:P.291 - P.295

 医療過誤,診療過誤,薬剤過誤など古くて新しい問題がクローズアップされて来たが,いろいろな社会的背景がうかがえる.薬剤過誤をめぐる諸問題と過誤防止対策とについて考察する.防止対策については多くの意見,具体的方法があろうと思われるので,主として"法的問題"との関連と損害賠償について述べる.薬剤過誤は調剤過誤,診療過誤などと同様にいわゆる慣用語で法律的用語ではない.似たような用語に医療過誤がある.医療過誤に薬剤過誤を含むと広義に解釈してもよいであろう.しかしこれら一連の用語は法律用語では「過失」ということになる.ただここでは薬剤事故のうちで法的責任がかせられる薬剤事故を薬剤過誤として,調剤過誤を含めて述べる.

薬剤事故をめぐる最近の裁判例

著者: 松倉豊治

ページ範囲:P.296 - P.299

薬剤事故概観
1.統計的事項
 医療事故の中で薬剤に関係するものはかなり多いとみられるが,その実数は到底正確にはとらえがたい.最近,法医学領域の文部省科研費総合研究として行われた医療事故の実態調査の結果1)をみると,注射事故36.0%,常用量での薬物服用事故2.7%(これだけですでに40%を占めている),このほかに薬物の過誤使用が若干あり,麻酔事故が全体の40.7%(大半が麻酔剤によるショックまたは中毒と心不全に関するものという)を占めている.これらをも含めると,この調査資料の約80%という高率を薬剤事故が占めていることになる.もっとも本報告の資料はすべて司法解剖されたものであるので,その意味での事例集積があるものとみなければならない.
 一方,かつてなされた日本医師会法制委員会の調査2)では,1,640例の医療事故のうち注射によるもの546,麻酔事故48,投薬40で,計634例約38%である.また1962-74年度末までの大阪府医師会処理紛争例648例中に197例約30%の注射事故があり,これに麻酔剤に関するものを加えると,やはり約40%になる状態である.

グラフ

大学と提携する2つの医師会病院—大宮市医師会市民病院と板橋区医師会病院

ページ範囲:P.265 - P.270

 大宮市は人口33万,昭和60年までには50万に膨張すると目されている浦和市と並んで埼玉県随一の商業都市である.各診療科を備えた総合病院を目ざした医師会病院ができたのは昭和47年6月,すでに5年余を経ているが,全国に散らばる43の医師会立病院の中では,ごく新しい方に属する.大宮市が土地を提供し,医師会がこれを設立した.開院当初は,医師会員(現在233名)の主治医制によるオープン病院として発足したが,現在は残念ながら完全な形では実施されていない.日大医学部とタイアップし,内科4名,外科3名の常勤医と8名の非常勤医は主として日大板橋病院から派遣された医師で,その他に専門外来があり,いずれも週1回,日大・慈大・帝京大・癌研などから教授クラスの医師が出張している.この医師会病院には通常の形態の外来はないが,上述の専門外来のほか休日診療,救急診療,各種検診および人間ドッグなどを行っている.

卓抜な識見と努力で全社連の代表病院に育成社会保険栗林病院院長 近藤良一氏

著者: 千田通

ページ範囲:P.272 - P.272

 昭和15年岡山医科大学卒業,津田外科教室に入局,戦時中は海軍で活躍,軍医少佐まで累進された.
 終戦当時,高松市は戦災のため廃墟と化し医療機関皆無の状態の中で,香川県社会保険協会が栗林診療所を開設されたが,先生は乞われて同教室より外科医長として着任,昭和25年社会保険栗林病院に発展昇格すると同時に初代の院長となられた.当初70床の病院であったが,よい医師によるよい医療,よい看護婦によるやさしい親切な看護,笑顔の絶えぬ各職場,合理的な勤務体制等を目指し寝食を忘れて努力を傾倒し,今日では250床の総合病院として,全社連における代表的な病院に育て上げられた.病室は個室と2人室のみで構成せられ,附添看護なし,室料差額なしで見事な運営をされているが,先生の卓抜な識見と力量に負うものである.断乎として筋を通す厳しさと闘志を秘めておられるが,人に接する態度は誠に物静かで,術後の患者さん,定年職員,若い職員その他各方面への細かい配慮には温情あふれるものがある.昭和52年9月,四国ではじめての日本社会保険医学会(第15回)を学会長として主宰され,見事な成果をあげられたが,先生のお人柄がにじみ出た心に残る学会であった.

病院の窓

地域におけるがん診療

著者: 坪井栄孝

ページ範囲:P.273 - P.273

 日本のがん対策は胃がん子宮がんに関する限りほぼ完全に成功している.衆知のごとく胃がん子宮がんは近年急速に死亡数が減少している.その要因は,集団検診の普及による早期がん発見治療例の増加と,食生活をはじめとする生活環境の改善によるものであるが,この急速な死亡数の減少の基盤にはわが国に胃がん子宮がんの症例が多かったということと,それに伴って胃がん子宮がんに関心を持ち診断治療の両面にレベルの高い技術を習得した医師が全国に均等に分布していたため,診療の地域格差がなかったということも見逃すわけにはいかない.このことは今後の地域におけるがん診療を考える上で非常に重要なことである.
 現在のがん対策は大学,研究所および学会の研究成果を中心に計画され,その感覚のままで地域に導入されようとすることが多い.がんの基礎的研究や新しい技術,機器の開発は中央で行われるべきであろうが,早期がんの発見治療といったような実地臨床面の企画は地域の実状に即し,かつ地域の特色をいかした対策でなければ定着して存続することはできない.地域において企画され実行された実績が中央にもちよられ,全国的な視野で検討され,その情報が新しい技術や機器の開発を促す結果をもたらすといったような中央と地域との間にお互いにフィードバック機構が存在していなければならない.

ホスピタル・メモ 放射線機器

シンチグラム

著者: 木下文雄

ページ範囲:P.275 - P.275

 検査対象の組織または臓器に特異的に摂取されるか,または正常組織より腫瘍組織により多く摂取されるようなラジオアイソトープを,患者に静注などにより投与した後に,体内におけるアイソトープの分布を記録描画する装置をシンチグラム装置という.
 シンチグラム装置には,大別して検出器移動型と検出器固定型とがあり,前者の代表がシンチスキャナであり,後者の代表がシンチカメラである.

高エネルギー放射線発生装置

著者: 田崎瑛生 ,   大川智彦

ページ範囲:P.281 - P.281

 悪性腫瘍の治療には,局所治療として手術,放射線治療,全身的治療として薬物治療がある.ここで放射線治療の対象は,根治的照射はもちろん,術前,術後照射としての手術との併用や,手術不能患者に対して苦痛をできるだけ少なくするための姑息的照射まで広範囲に応用されている.
 現在,広く用いられている,高エネルギー発生装置としてはコバルト(60Co)照射装置,ベータトロン,リニアアクセレレータがある.

ラジオイムノアッセイ・トータルシステム

著者: 久田欣一 ,   分校久志

ページ範囲:P.287 - P.287

 種々の血中ホルモンや薬剤,特殊蛋白等の測定は現在その多くがラジオアイソトープを標識した標準物質を用いる抗原抗体反応の免疫学的方法,すなわちラジオイムノアッセイ(radio immuno assay, RIA,放射免疫測定法)によって行われるようになっている.RIAの原理は測定対象未知濃度物質とこれと同じ既知濃度アイソトープ標識物質を特異的に反応する抗体の一定量と反応させ,測定対象物質の多寡によって抗体と結合する標識物質の量が異なることを利用して未知濃度物質を定量するものである(図1).RIAは①抗原抗体反応を利用するため特異性が高く,②アイソトープの放射線(通常はγ線)を測定するだけでよいため複雑な操作を要せず,③検出感度が高く,④多数の検体の測定が容易であるなど微量物質を高精度に測定できる特徴がある.現在,本邦では40種余りのRIAが実用化されており,日常診療に不可欠な検査法となっいる.
 さて,前おきが長くなったが,以上の測定原理より,実際の測定にあたっては①血清や試薬の分注,②一定温度,一定時間の反応(インキュベーション),③抗原抗体結合物と未結合物の分離除去,④放射能測定と結果の算出の各段階が連続して行われる必要がある(図2).ラジオイムノアッセイ・トータルシステムはこれらの操作を自動的に行えるように規格化した一連の装置より成っている.

研究と報告【投稿】

暖房の経済的運営(空調白書1)

著者: 泊正俊 ,   石川慶三 ,   間世田善郎 ,   森一郎

ページ範囲:P.300 - P.304

 暖房の熱源である重油を大切に合理的に使用することは国家資源上も大学運営上も重要なことである.暖房を実施するにはまず大気の状況の変化を調べて,それに応じた室内基準を定めなければならない.当大学では設計上,室内基準を室温22℃,湿度50%としてあるが,各室ごとの暖房時間は別に定めなければならない.すなわち患者および飼育動物を重点に,各室ごとに最も合理的な時間を定めることが必要である.
 そこで暖房基準を合理化することによって,どのような利益があるかを検討してみた.

緊急措置入院に関する全国調査

著者: 雪竹朗

ページ範囲:P.339 - P.343

 東京都では51年11月1日より緊急措置入院制度(法29条の2)の実施面で大きい変化が起った.これまで夜間の緊急措置入院は,国公立病院(2施設)と民間指定病院(20施設)が曜日ごとに当番病院(複数)となって鑑定と収容を行っていたが,51年11月1日より,全夜間の緊急鑑定はすべて都立松沢病院構内に設置された精神衛生課世田谷分室で行われ,要入院者はまず松沢病院に収容され(一次収容),ついでその大半は移送可能となれば二次収容病院に移して治療を行う,というものである.
 このような緊急措置入院のあり方については実施前から多くの論議があり,実施中の現在なお問題を残し,今後は精神科救急医療体制の確立のなかで解決すべく模索中である.

ニュース

東京民医連第9回看護活動研究集会開かる

著者: 編集室

ページ範囲:P.304 - P.304

 東京民主医療機関連合会の第9回看護活動研究集会が,3月4日,5日の2日間,日本教育会館で,都下の民医連系の病院・診療所に働く保健婦・看護婦・看護学生など約120人が参加して開かれた.
 第1日目は,分科会形式で34題の研究発表が,外来看護・訪問看護・退院したがらない患者の看護,入院看護などのテーマ別に分かれて行われたが,事例を中心とした臨床的な報告が多く,第一線の診療所,病院,センターなどでそれぞれ地域の住民と密接に結びついてなされている多様な実践活動の現状と,その困難な条件下における苦労や意欲がうかがわれた.

地方の病院から

「地域包括医療」の砦に—新潟県・大和医療福祉センター

著者: 黒岩卓夫

ページ範囲:P.305 - P.305

 一見おおげさな名称をつけられているこの施設は,実際は三つの施設が合体した一施設に過ぎません.二つは大和町立の「大和病院」と「農村検診センター」三つめは1市2郡立の「特別養護老人ホーム・八色園」です.

院内管理のレベル・アップ 薬剤 安全情報の院内伝達・1

大病院での院内伝達(1)

著者: 二宮英

ページ範囲:P.306 - P.307

安全情報活動と薬剤師倫理
 医薬品の安全性とは,医薬品を使用する個々の患者にとっての安全性の確保であって,きわめて広範囲に多くのファクターを含むものである.一般に安全性には危険をはらむ度合が含まれている.すなわち危険の許容範囲を定めて安全性を確率的に定める手法が実際に行われている.安全とは,"安全の哲学"からは"危険はゼロ"ということである.しかしながら,医薬品は,生体に対して有効性を示しながらも常に危険を考えざるを得ないものである.
 医薬品という人間の生命に関連する物質の使用にあたって考えなくてはならないことは,生命の尊厳である.医学,薬学,その他の科学は発展したとはいいながら,人間の生命現象を究明し,創造することはできない.そこに生命に関する哲学が存在する."安全の哲学"の"あるべき世界"では"危険はゼロ"であるが,現実はほど遠いところにあるといえよう.哲学と科学の接点は生命科学などを通じてより深いところに求められることになろうが,医師,薬剤師,看護婦など直接医療に密着し,患者の生命をあずかり,生命に関連ある医薬品を取り扱う者は自らの職能を省みて,科学の至らない部分を多分にもつ医薬品と生体との関連をよくわきまえて,医療の倫理を根底に堅持して,真摯に医薬品を評価し,選定し,取り扱い,使用しなくてはならない.

廃棄物処理 病院廃棄物の問題点・1

廃棄物の種類

著者: 小田桐信子

ページ範囲:P.308 - P.309

 ごみ問題は.それが公害にまでつながる問題としてしばしばマスコミを賑わし,大きな社会問題になっている.経済の高度成長,科学の発展は私達の生活環境に急激な進歩,変化をもたらし,ごみも必然的に年々増大する傾向にある.病院においても例外でなく,さらに加えて医療の高度化,人手不足解消の手段および合理化等のためディスポの使用が普及すると共に,ごみの量が飛躍的に増えたばかりでなく,その種類もきわめて多種多様になった.病院(特に総合病院)のごみほど,種類,量が多く,複雑,不潔で危険なものはない.すなわち,病院という特殊な場所のごみであり,廃棄物であるので,その処理いかんによっては院内感染,公害の源にもなりかねないので,最近ではどの病院でもこのごみ処理問題を抱えて頭を悩ましている.その上病院には医療法上「汚物処理施設」が義務づけられており,さらに「廃棄物の処理および清掃に関する法律」により,病院のごみも事業系廃棄物として病院自らの責任により処理することが原則とされているので,今や廃棄物の問題は,病院の運営,管理上の重要な課題の一つとして,病院における衛生環境保全のため,また病院の機能性を維持,増進させるため,適切かつ合理的な処理方法の再検討と,問題解決を迫られているのである.

ものの管理 ものの管理の方法・2

X線フィルムの管理

著者: 藤井正道

ページ範囲:P.310 - P.311

 医療は患者のためのものであり,それに用いたメディカルレコード類(カルテ,X線フィルム,内視鏡フィルム,手術記録,病理標本等)は,必要に応じて随時活用されなければならない.すなわち,これらは医師の私有物や個々の病院の財産のみではなく,いわば社会的共有財産である.したがって,これらは一括してファイルされることが望ましく,X線フィルム単独でのファイルのみでは十分その目的を達しない.しかしそれをまとめてファイルすることは,規模の比較的小さい病院ではできても,規模が大きくなり診療科の数が多くなればなるほど,その保管は難しくなる.医療法施行規則第20条により,X線フィルムは2年間保存されなければならない.したがって,立派に保存してある機関は多いが,患者その他の必要に応じて活用される体制は必ずしも十分でない.X線フィルムの管理の問題は本誌でもたびたびとりあげられ,主として大学病院における問題点と理想像について述べられているが1-3),ファイルの仕方は,病院の規模とその診療対象により多少異なると思うので,今回はその対象を中小病院にしぼり,われわれの病院での経験をもとに以下具体的に述べたい.

労務 労務管理の考え方・3

三等院長の経験—地方病院の労務管理(1)

著者: 籾井真美

ページ範囲:P.312 - P.313

「運用之妙在一心」
 労務管理は病院管理の一部であって,病院管理の近代化なくしては,労務管理の近代化もありえない.「労務管理」は「人間管理」のように思えて,院長としては最もニガ手とする部門ではなかろうか.
 欧米では病院管理学を専門に学んだ事務系の人が院長であり,医師は診療部長として協力しているのに比べ,日本では病院管理の素人の医師が院長になり,しかも(公立の)地方病院では多くの場合,補佐をする事務長までが病院管理の素人で,その上短期間で交代するため,病院管理の専門家からみれば,誠にあぶなかしいありさまともいえよう.

手術 安全,有効な手術のために・2

特殊手術室とその管理

著者: 田中亮 ,   鈴木好信

ページ範囲:P.314 - P.315

はじめに
 大病院の近代的組織化は,臨床検査部,放射線部などと共に中央手術部の設置運営により,医療の合理化,機能化はより高度となってきた.中央手術部は従来考えられてきた手術室センター的構想より,さらに質的な改善がなされ,中央手術部に関する研究体系まで確立されつつある現況である.中央手術部は,標題に示す特殊手術室の設置とその管理は,手術の専門分化の上で必須であり,関係者の関心も大きいと考えられる.本稿では,病床1,000床,開院7年目,中央手術部総件数30,000例の経験から,当中央手術部の特殊手術室の問題点を取り上げ,管理的立場と,実務上の立場から,反省と将来展望などを述べてみたい.読者諸賢のご批判をいただければ幸いである.

最近の判例からみた医療事故・4

精神科病棟における入院患者の自殺と医師等の責任

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.316 - P.317

判例
 精神科の入院患者,とくに自殺の虞れのある患者に対しては一般の場合と異なり,病院側において広く自殺防止のための保護措置を講ずべきであるが,本件は,同患者が同病院皮膚科での治療を受け,病棟への帰路,看護士らの制止を振り切って窓から飛降り自殺した場合について,医師ひいては病院の責任を否定した事例である(福岡地裁昭51・11・25判決,判例時報859号84頁).限界的事例として参考になろう.

今月の本棚

—医療経済研究会 編—「日本医療の進路」

著者: 安冨徹

ページ範囲:P.318 - P.318

信頼関係という古いテーゼを再認識
ショッキングな記述に出会う
 まえがきにあるとおり,この研究会の第8回例会における報告・討論をもとにして各執筆者が書きおろした論文集である.第1章の「日本医療の危機と民主的打開の道」という総論的論説から始まって,国際的視野からわが国の医療を考え,住民との関連,各種医療団体の今後の行方,医学教育問題,医療産業の動向に及び,最後に各執筆者の座談会でしめくくっている.この種の論説は断片的には,新聞や病院管理学関係の雑誌などで拾い読みすることはあっても,相対して系統立った一冊の書物として読んだことのない筆者(臨床医)には,正直いってなかなかショッキングな部分が少なくなかった.たとえば,医療の荒廃という言葉一つをとってみても,ほんの少数の不心得ものが犯した脱税や差額徴収,あるいは医療過誤などを一部のマスコミがセンセーショナルにあげつらうための言葉に過ぎないと軽視していた.しかし,朝倉氏が第1章の中で,数字をあげ,保険制度のからくりをえぐり,わが国の医療の現状を分析してみせてくれると,安易に考えてはいられない恥部のようなものを,つきつけられた思いである.

—藤田 真一 著—「植物人間の記録」

著者: 稲田美和

ページ範囲:P.319 - P.319

科学的かつ人間的視点で現状を浮彫り
 脳神経外科病棟に勤務する医師,看護婦は多かれ少なかれ,植物状態に陥った患者に接し種々の問題に悩んでいるのが実情ではないかと思う.そして昨年,朝日新聞に連載された「植物人間の記録」が,少しでも植物状態患者や家族への援助対策の引き金になってほしい,という期待を抱いて読まれた方も少なくないと思う.この記事が書き改められ,同じ題で一冊の本として発行された.一年がかりで東北,九州などを訪ね,30-40人の植物状態患者およびその家族,医師その他の医療従事者と接しての報告と,それらを通して人間の新しい生と死の実態をとらえようとし,生命尊重の意味や安楽死問題が,科学的かつ人間的な視点で論じられている.

院外活動日誌

電熱器とホースとヒモと

著者: 伊藤利之

ページ範囲:P.320 - P.320

○月○日
 先日,ある福祉事務所のケース・ワーカーから,脊椎カリエスで寝たきりの生活をしている人だが,車椅子が欲しいと言っているので見てもらえないか,という依頼を受けた.病院から歩いて15分程度の場所でもあるし,何の抵抗もなく引き受けたのだが,数日後,訓練士と一緒にその家を訪問してびっくり仰天してしまった.
 大通りに面した木造平家の古い家,その一室で,患者さんは本と衣類の山に埋もれるような恰好で寝ていた.しかも,20年以上もの間ギプスベッドに仰臥したままで生活しているという.10年前に母親が亡くなってからは一人暮しで,同じ家に姉が住んでいるにもかかわらず,不動産の権利をめぐるもめ事があって以来,何の手助けも受けられないでいる.仕方なく,買物と便の排棄だけはヘルパーさんに依頼しているらしい.しかし,それ以外は,食事の支度から洗濯まで一人で行っているというのである.実際に自分の目で確かめなければ信じられる話ではない.身体を診察した私でさえ,起きて歩くことなんかできるわけがないと考えつつも(脊椎,股・膝関節の拘縮が著明で,長坐位をとることもできない),もしかしたら,夜中に起き出して歩いているのではないか,と疑いたくなったほどである.

新病院建築・4 静岡県立こども病院

静岡県立こども病院考

著者: 中村孝

ページ範囲:P.321 - P.323

 小児の医学を志すものにとって,小児病院は一つの夢である.小児に最も適した環境において,小児に関するすべての科の専門医たちが集まり,チームを作り,研究し,絶えず討論を行いながら治療をすすめてゆく.それが小児の医療の理想像であろう.
 欧米の小児病院の起源は古い.1802年パリで,1852年ロンドンで,1855年フィラデルフィアで,未だ小児科という分野がなく,小児科医もいない状態で小児病院がはじまっている.これは,こどもはこども部屋でという欧米の生活習慣からはじまっているのだろうが,病院の起源も行路病者を集めて看護を行った修道院からはじまっているので,欧米では病院は収容,看護が第一義であったのであろう.私が静岡県立こども病院の建設委員長をお引き受けしたとき,こども病院の中心を病棟部分におこうと考えたのは,こどもたちの生活があって,それに医療を加えるのが病院であると思ったからである.

静岡県立こども病院の設計—あたらしい病院の哲学

著者: 西野範夫

ページ範囲:P.323 - P.328

こども病院運営の基本構想
 静岡県ではこども病院運営の基本構想として,3本の柱を建てられた.その1は,この病院を一般の病院や診療所では診断や治療の困難な小児の疾患を対象とする高度の専門病院とすること,その2は,県内によく見られる小児ぜんそくや循環器の疾患などを中心とする総合的な小児医学の研究を行い,かつ,小児医療に従事する人々への教育研修の場とすること,その3は,小児の保健衛生に関する各種の資料を整備し,診療と研究に利用すること,さらに,衛生行政にも活用するための施設とすること,である.すなわち,このこども病院の目指すところは,平面的なものではなく,これらを柱とした立体的運営である.

民間病院の新しい試み

院内補習と看護婦の国内研修—原病院の教育・研修

著者: 川原啓美

ページ範囲:P.329 - P.331

はじめに
 当病院は,名古屋市の中心部よりやや東,商業地区と住宅地区の境に位し,近くに繁華街の今池を控えている.昭和27年,11床の医院,原外科として出発してから,もっぱら外科の単科病院であったが,診断治療の多様化,高齢患者の増加に伴う全身管理の問題などにより,3年前から内科・小児科を併設している.現在83床の小病院であるが,外科部門では一般胸腹部外科のほか,形成外科,泌尿器科,整形外科の分野でも積極的な治療を行っている.職員数は表1のごとく総計76名,内常勤63名であるが,後述するように働きつつ学ぶ職員が多く,未経験な若者を絶えず教育訓練しつつ歩んでいるのが現状である.これはある意味ではかなりのハンディであるが,また逆に病院全体の雰囲気が若く,新しいことに対する意欲が盛んであるという利点がある.私は,このような学生を多く抱えているのが現実である以上,それをよりよく生かし,病院のためにも,また彼らのためにもなるような積極的な方策を打ち出してゆけないものかと考え,次に述べるような研修・補習を実施し,ある程度の経験を得たので,ここに述べて皆様のご批判を得たいと思う.

精神医療の模索・5 精神衛生法の功罪

実践による改善が可能—功の面から

著者: 元吉功

ページ範囲:P.332 - P.335

 編集者から私への求めは,標題を主として功の面からまとめてみよ,とのことであるが,それは私がこの法律の成立や昭和40年の大幅改正に,多少関与してきたという理由からかもしれない.しかし今の時点では,罪をあげて批判することは易しく,効用を説くことは難しい.しかしどんな法律も,時代とともに古くなり時勢にそぐわなくなる.進歩の早い医療の分野では特にそうであって,健康保険法などその最たるものであろう.精神衛生法もその例外ではない.昭和51年6月,全国精神衛生センター長会議の席上で,当時の佐分利公衆衛生局長は,法改正を示唆したと伝えられている1).その要旨は,「精神衛生行政の基本となる精神衛生法について,①福祉政策がない,②社会復帰政策に欠けている,③措置入院や患者の行動制限など,社会通念に照らして問題がある,などを考えると,1-2年は乗り切れても,4-5年は乗り切れなくなることが予想される.」というものである.今ここで法改正の問題に触れる余裕はないが,法制定以来28年,40年の大幅改正後すでに13年,その間の社会的,経済的,政治的変動は極めて著しい.そこここにほころびのできたことは当然で,もはや法運用の工夫だけでは繕いきれない面の出てきていることもまた事実である.しかしこの間,この法律が行政や医療面に果たした役割も過少評価すべきではないと思う.

実践の積み重ねしかないか—罪の面から

著者: 西山詮

ページ範囲:P.336 - P.338

精神衛生法と行政
 精神衛生法(以下には精衛法と略記)には調和しがたい二面がある.一は人身の拘束に根拠を提供する法としての,いわば性悪説的な面であり,他は精神障害者に対する福祉と医療を促進する,いわば性善説的な面である.性悪なるものがあるのに,これがないかのごとくにみなして,精衛法をもっぱら福祉と医療の法律であると主張したり,性善なる面の促進が必要であるのに,これを等閑にふし,もっぱら保安的方向を強化するのは,いずれもはなはだしい失当である.
 主力は人身拘束法の面にあるにもかかわらず,これに対する配慮,つまり人権に対する配慮におそろしく欠けていること,福祉的,医療的側面がほとんど全く無視されていること,この二点が,そしてとりわけ前者がわが精衛法の主要かつ根本的な欠陥であろう.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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