icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院37巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

特集 病院の汚染防止

ものの移動と病院の汚染防止

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.362 - P.364

 近代医療の発達とともに,院内感染の問題がクローズアップされて多くの事柄について論ぜられている.しかし,この中で,かつて伝染病,感染症といわれていた疾病とは異なり,弱毒菌,または常在菌によって引き起される,いわゆる日和見感染が主客をなしていることに気がつく.したがって,図1に示すように病院内における伝播の形式はかつての伝染病と同じであるが,感染源を明確にすることが,非常に困難で,健康人の鼻腔内ブドウ球菌や,わずかの緑膿菌が重大な結果を招くことがしばしばである.
 一方病院の組織は専門分化し,設備的には中央化し,最も合理的な運用がなされるようになってきている.しかし,これらは,個々の目的,立場から解決されたもので,必ずしも汚染防止の点から採用の可否を論じることはなかったのではないだろうか.

水汚染の管理

著者: 芦山辰朗

ページ範囲:P.365 - P.369

 カドミウムや有機,無機の水銀など重金属による慢性中毒が大きな社会問題になりはじめた頃,病院ではそれまで常用されていた水銀製剤,とくに消毒薬としての昇汞が問題になった.昇汞,塩化第2水銀は洗面器1杯で約3gの無機水銀を含んでいるから毎日その何10倍かの量を連日廃棄していたことになるからである.さっそく水銀製剤の消毒薬は用いられなくなったが,このように日常きわめて安易に在来の方法を踏襲していることが必ずしも安全確実でないことが理解される.
 病院は医療法上,清潔を保持し,保安上の安全を義務づけられているが,かなり概念的で最近の「建築基準法」や「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」等ほど実際的,具体的でない面が多い.水汚染の管理についても,「水道法」,「下水道法」,「水質汚濁防止法」等があって必要な最低の基準は明示されているが,具体的実際的な対策を確立し実現することはなかなか困難である.

空気汚染の管理

著者: 望月正雄

ページ範囲:P.370 - P.375

 病院には病原菌に対する抵抗力の弱い患者が多数収容されているため,一般の建物における空気清浄度,あるいは温湿度条件の維持のみを考えただけでは不十分であって,病院内の空気の流れ,用途に応じた温湿度条件の設定,逆流防止,高清浄度を要する室の清浄度の維持,RIなどによる空気汚染の防止など幅の広い対策が要求される.
 図1は相対湿度と細菌の生き残る割合との関係を示したものであって,相対湿度が50%の時に浮遊細菌は約10分後に死滅するが,相対湿度20%,あるいは80%の時には浮遊後120分経過しても,その大部分が生存している.したがって病院においては,一般の建物より相対湿度のコントロールが重要であることがわかる.

特殊施設の汚染防止

手術室

著者: 三浦哲夫

ページ範囲:P.376 - P.378

 病原性微生物のいない,または非常に少ない手術室で外科手術を行うことは,われわれ外科医の夢であり,そのためにわれわれの先人が,苦労を重ねて努力をしてきたのである.Pasteur, L.(1861)は,発酵,化膿と微生物との関係を実験的に証明し,Lister, J.(1865)は制腐法を確立して近代外科学の基礎を作り,その後Schimmel—busch,C.(1885),Fürbringer, P.(1887)など,数多くの先人が滅菌,消毒の研究で,努力を払って今日に到っている.またFlemming, A.(1928)のペニシリン発見以来,多数にわたる抗生物質の開発の歴史があるが,依然として数パーセントの手術後感染率をみている現況である.
 このことは病院環境が他の一般環境と著しく違う点,すなわち感染に対する抵抗力の弱いものが多いこと,各種抗生物質に高度多剤耐性の細菌のいること,医療従事者に保菌者のパーセンテイジが高いことなどから,その問題をさらに複雑にしている.

ICU

著者: 石田康子 ,   斎藤友子

ページ範囲:P.378 - P.380

 ICU入室患者は,抵抗力の弱い上に炎症をひき起しやすい状態にある.一般に感染に弱い.挿管中や気管切開の症例が多い中に肺炎や重症心不全の患者が混在したり,ドレーンからの腸内容排液が行われたりしている.また緑膿菌,Au抗原(+)血清肝炎,ワッセルマン(+)などの菌保持者を収容せざるをえない.ICUを無菌にできる,できないは別として二次感染予防はもちろん混合感染は絶対避けなければならない.開放的なベッドの配列の中での感染防止対策は重要かつ難しい.

中央材料室

著者: 長谷川紀子

ページ範囲:P.380 - P.383

 中材は申すまでもなく,各診療部所で使用された物品を回収,洗浄滅菌して必要に応じて供給するところなので,中材内での汚染防止を徹底しないと院内感染を起す危険性は非常に大きくなる.院内感染防止を考える時大切なことは,微生物の増殖を阻止することであり,それには,感染源の対策,感染経路対策,感受性者対策が必要である.中材内において問題になると考えられる感染経路は,病原菌によって汚染されている物品,汚染リネン,空気汚染,水,昆虫,鼠などの小動物による汚染,職員の手指,職員自身,訪問者,物品納品者,汚物などである.
 当院は昭和50年2月に開院した病院で,設計の段階からある程度の汚染防止対策が考えられた.まず設計の段階で考えられた中材の構想を述べ,その後実際の汚染防止対策について触れたいと思う.

血管造影撮影室

著者: 町田喜久雄

ページ範囲:P.383 - P.384

 血管造影検査室の管理は,大きく分けて二つの面から考える必要がある.
 一つはほかのX線撮影室,核医学診療室などと同じように放射線被曝の管理であり,ほかの一つは,血管造影検査が観血的検査手技であることから,手術場と同じように,清潔で,無菌化の必要性がある点である.また用いられる検査器具についても,手術用器具と同様の配慮が必要である.

中央検査室

著者: 山田俊彦 ,   小酒井望

ページ範囲:P.384 - P.386

 中央検査室は,病院内すべての患者の診断,治療に必要な情報を送り出す部門であり,そのため診療各科より種々の検体(血液,尿,便,喀痰その他)が持ち込まれる.これらの検体には病原微生物が含まれる場合がまれでなく,したがって感染源となる可能性がある.また生理機能検査室では患者を直接検査の対象とするため感染の機会も多い.それだけに今までにも検査室職員の感染および職員による病原微生物の散布などの問題が起り,そして改善もされてきた.しかしながら全面的な汚染防止には到っていない.現在最も問題となっているのは,中央検査室職員の微生物による汚染であり,細菌およびウイルスとくにB型肝炎ウイルスによる感染である.これらは経皮的,経口的に感染し,検査に従事する全ての人々が危険にさらされているといっても過言でない.
 そこで汚染経路別にその実態と対策について述べる.

厨房

著者: 城井美子

ページ範囲:P.387 - P.390

 近年医学の進歩と共に病院給食の使命は,従来のただ食事を提供することから治療の一環として患者個々の至適栄養を考慮した食事の作成に変わってきた.その食事を作成する厨房内においては,調乳・離乳・腎移植後・ICUなどに対する感染防止を目的とする滅菌テクニックに準ずる厳密な衛生管理の必要な食事をはじめ,その他メニュー外の特殊オーダー(当院の場合は,全食数3,000食中87%に及ぶ)にいたるまで,衛生的かつ安全な食事として供することが要求される.とくに院内感染面においては,昭和48年5月から,当院院内感染予防委員会を発足させ感染症患者に関する取り扱い上のマニュアルを小冊子にまとめ,その中には食器に関することも含め,職員教育の具体的な訓練方針を示している.なお,その他,消毒液・給水湯,落下細菌など厨房における衛生上の諸問題もこの委員会で決定し実施している.本稿では,これらを含め厨房における衛生管理上実施している内容を具体的に述べる.実施要領は,大別して,身体の清潔,機器具施設の清掃・点検および食品の取扱いなど13の項目別に栄養科としてのマニュアルを作成し職員教育の教本としている.

小児病棟(未熟児新生児病室を含む)

著者: 石塚祐吾

ページ範囲:P.390 - P.392

 小児疾患の中において成人に比べて感染症が多いことは周知のとおりである.したがって小児病棟の管理運営に当って感染による汚染の防止は重要な項目の一つである.
 さて汚染防止の原則は,--かの「作らず.持たず.持ち込まず」という非核三原則に似て--感染症(伝染病)を,①院内で発生させないようにする.②もし発生したら速かに排除(隔離)する.③院外から持ち込まないようにする,ということができよう.

グラフ

最高水準の設備と体制を誇る—静岡県立こども病院

ページ範囲:P.353 - P.358

 昨年4月1日オープンした静岡県立こども病院は,1年経過した今日,当初の"病院"というものをほとんど知らない県職員と半数近くを占める新卒の看護婦の講習に明け暮れた苦労が実って,運営は軌道に乗り始めた.市郊外の丘陵地に立てられたレンガ色の建物がそれである.
 静岡県は,伸奈川,愛知両県に挾まれて,人口対医療機関数が少なく,医療機関整備が緊急の課題であった.昭和48年医科大学誘致に伴い,医療水準向上施策の一環として,隣接する既存の二養護学校に病院,肢体不自由児収容施設を含めて,小児の医療・保健の一大メッカを築き上げることが計画されたが,その後,この計画は石油ショックで縮小され,収容施設は見送りになるという経過を辿っている.当院は昭和40年日本初の国立小児病院が作られてから6つ目のこども専門病院であり,これまでの5病院を参考にし,さらに近代的高装備の病院としで整備されている.

全国国立病院長協議会の新旧会長国立相模原病院前院長 後藤敏夫氏から国立病院医療センター院長 小山善之氏へ

著者: 左奈田幸夫

ページ範囲:P.360 - P.360

 昭和53年4月1日をもって両氏の交替が3月の全国国立病院長協議会総会によって承認された.後藤氏は昭和47年前会長中田馨氏(前横須賀病院院長)より会長を引き受け満5年間勤められた.誠実で実行力に富み,人間関係のよいことは定評があり,幹事諸君や厚生省関係の方々とも協力して,国立療養所々長連盟その他の代表と一緒に国病を国民のためによくしようと,人事院や行政管理庁等から衆参両議員関係等へ要望書をもって毎年陳情して廻った.
 昭和49年頃から総定員法の削減問題が起きたが,長年にわたり定員不足に悩んでいた国病の定員をこれ以上削減されては,病院機能は潰滅的打撃を受けることを憂え,全職域代表からなる要望書をもって行政管理庁に陳情にゆき辛うじて医療職のみを削減対象から除外してもらうことに成功した.さらに毎年のように除外に成功すれば,次は増員の要望書をもってまた陳情に出かけたものである.医療当直手当は,5年前から要望していたが昭和53年度から独立科目として予算化に成功した.これと同時に管理職(医一)の当直手当支給も可能になったが,現在その増額について努力中である.

病院の窓

スペシャリスト

著者: 巷野悟郎

ページ範囲:P.361 - P.361

 医師は,卒後の研修によって,自分の希望する専門領域が決まり,病院へ勤務する医師も,開業する医師も,その専門領域を中心として,医療に携わるのが普通である.殊に病院という組織のなかでは,自分の専門科は,他科から明瞭に区分されているので,一層専門化されてくる.病院の規模によっては,必ずしもそのようなわけにはいかないこともあるが,開業医師に比べれば,ひとりひとりの医師の受け持つ範囲は,かなり限られているのが普通である.現在のような診療科の分け方が良いか悪いかは別として,長い歴史で分科してきた現在の診療体系のなかで,各医師は,その一部を担っているのである.
 さて,小児科を例にとれば,近頃ではその対象は出生前小児科学という生まれる前の胎児から,さらにさかのぼって,遺伝子の組合わせにまで及び,先は思春期年齢から,成人病との関係での小児医学というところにまで広がっている.したがって,小児科の分野で,たとえば心臓にかけて蘊奥を極めているのであれば,小児の心臓領域における専門医と呼ぶことはできるだろうが,いわゆる小児科専門医というのが存在するかどうかということである.それはあまりにも対象とする小児科の領域が広くなったからである.これは内科でも外科でも同様であり,いわゆるクライン・ファッハと呼ばれる皮膚科でも眼科でも同じであろう.しかも各科の研究領域はお互いに入り交っている現在,従来からの科単位での専門医の呼称が果たして適当かどうか疑問である.

地方の病院から

病院と農村検診センターの活動—新潟県・大和医療福祉センター

著者: 黒岩卓夫

ページ範囲:P.393 - P.393

カルテと外来予診室
 病院は86床の小病院であり,病院業務のみを取り上げると,他の多くの病院とそれほど変ったところはありません.したがって2,3の特徴にふれるにとどあます.地域に根ざした病院ということで,カルテの整理を町の世帯番号に準じてやっています.すなわちカルテ番号を部落番号,世帯番号,個人番号を連ねたものにしてあります.患者さんが診察券を持参しなくても「○○部落の○○」といえば,すぐカルテを出すことができますし,一世帯のカルテが一まとめにしてありますので,その家族全体の受療情況もすぐわかります.逆にカルテ番号をみればどこの人であるかもわかるわけです.
 外来に「予診室」が設けてあり,ナースが担当していますが,主として内科,外科の新患を対象にして予診を行っています.一般的な現病歴などに加えて,患者が医者にはいいにくいようなこと,たとえば現在,他の病院にかかっているかどうかといったことなどを聞き出し,医師のところへ回ってきます.同時に患者に病院の案内,適当な科へ回す指導などしていますが,将来診療科が増えると一層予診の重要性も増すものと思われます.

院内管理のレベル・アップ 医療社会事業(MSW) 病院におけるMSWの役割・3

医療ソーシャル・ワークの領域

著者: 丸毛静香

ページ範囲:P.394 - P.395

 近年,各所で病院における医療ソーシャルワーカー(以下MSWという)の必要人員についての考察が行われている.しかし,それを考えるには,タイム・スタディ等によるMSWの職務の実態をとらえ,さらに業務領域を設定し,両者からの具体的な考察を行うことが必要と思われる.
 ここではそのような考え方のなかでの,病院におけるMSWの業務領域について簡単に触れてみようと思う.

看護 看護部門のレベルアップのために・2

中央滅菌材料室を考える

著者: 京谷光子

ページ範囲:P.396 - P.397

はじめに
 病院における中央滅菌材料室(以下中材と略す)は,各診療部門に共通の仕事を中央化して無駄を省き,能率的に迅速に正確に,そして安全に良心的に信頼される滅菌,洗浄,品質管理を行い,診療看護に必要な器具器材を供給することを目的としており,病院機能の中枢として不可欠の存在になってきたことは周知の通りである.そして,患者の安全,治療の効果を考えるとき,中材から払い出される器具器材は必ずその安全性を問われ,滅菌ずみ器材に関しては必ず無菌性を保証されていなければならない.中材に与えられた責任は極めて大にして,中材の業務の運営が病院全体に及ぼす影響は少なからぬものがあると考える.
 医療技術の進歩に伴い,それぞれの医療の場で使用される器具器材も多様化し,中材の管理という面においても複雑化の一途をたどりつつあるが,供給する器材を使用部署まで運び患者の身体に触れるまでいかに安全無菌に保つかは,すべて中材の責務と考えるべきであろう.

手術 安全,確実な手術のために・3

手術室看護婦の教育とローテーション

著者: 上田禎子

ページ範囲:P.398 - P.399

 看護教育が新カリキュラムにころもがえされ,患者中心の看護を根底に教育が行われるようになり,手術室看護として独立していたものが成人看護外科の中に含まれることにより,学校によっては講義だけで実習を行わないところもみられる.このような現状の中で教育を受けた卒業生が,手術室に配属され,手術室看護婦として業務を遂行していくうえには十分な教育プログラムが計画,実施される必要がある.
 当看護専門学校の例を見ても,2年次の後半に1週間の手術室実習が組まれている.つまり実習の初期段階に手術室実習を終了する学生がいる.卒後配属されても手術室実習の印象がずい分と薄れているのも無理のないことである.従来,手術室勤務を希望するものが減少していたのは,教育内容が患者中心の看護に徹底し,ベッドサイドの看護が看護であると学生自身,考えていたからである.

滅菌・消毒 感染管理の理論と実際・2

病院の特殊性と感染予防(2)

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.400 - P.401

病院設備との関係(続)
1)空調
 病院における空調は,冷暖房と湿度だけでなく,空気の清浄化をも含めて考え設計されている.建物内に送られる空気が全新鮮空気で行われ,一度使用したものはすべて排気されることが好ましいが,経済的理由もあって,多くのところでは,再使用(リターンを取るといっている)し,手術室,ICU,未熟児室などのように,清潔度の高いところや,中検,厨房のように,ガスや臭を出すところのみリターンを取らないようにしている.もちろん,この再使用の場合,必要なフィルタによって,塵埃や細菌を除去している.
 機械係では,一定の基準で,このフィルタの交換を行っているが,手術室,ICU,未熟児室など清潔区域の交換作業は,機械係の一方的スケジュールで行うべきでなく,看護など関係部所と十分打合せた後交換作業を行うことが大切である.手術室では,交換後少なくとも12時間以上使用しない時間をえらび,その後空調区域の消毒を行ってから使用する(消毒法は後述).

施設 施設部門の管理・10

搬送設備の導入について—どの部分にどの機械を選ぶか

著者: 辻野純徳

ページ範囲:P.402 - P.403

 物品搬送設備は,コンピュータやバイオクリーン設備と共に病院近代化の三種の神器とされ,その導入が盛んである.一方,期待通りでない搬送設備の効用に,疑問と不信を唱える人も少なくない.とくに,この設備で何名かの省力化が可能との売込みは信ずれば失望に終わるといっても過言であるまい.しかしなお,搬送設備の魅力は断ち難く,医療サービスの質の向上,力仕事からの解放,緊急時の搬送などでの働きに期待が寄せられている.
 鳴物入りで導入された搬送設備も,その能力をフルに発揮している例はきわめて稀で,看護業務の分析を裏づけに導入された一基のダムウェータと気送管で看護婦が病棟を離れる時間をほとんどなくした小倉記念病院から,EDPS (Electronic Data Processing System)を推し進めながら,一方では高価な搬送設備を腐らしている例まである.

最近の判例からみた医療事故・5

美容目的のための侵襲と医師の説明義務

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.404 - P.405

判例
 医師が患者に対して医的侵襲を加える場合には,患者の自己決定権を尊重し,その目的,危険度等について十分説明しその承諾を得るようにすべきであるとするのが,近時の医療実務の趨勢でもありこの要請は医療から遠い侵襲の場合にとくに大きいというべきであろう.本件は美容目的のため右眼眥の腫瘤を摘出するに際し,球結膜への侵襲について医師間での伝達確認がなく,患者に対し十分な説明をしないで手術を実施したことで,医師らの過失が肯定された事例である(京都地裁昭51・10・1判決.判例タイムズ348号250頁).診療の適否そのものとは別な分野で,義務違背の成立が認められた場合として注目される.

今月の本棚

—読売新聞社会部 編—「どうする日本の医療」

著者: 二木立

ページ範囲:P.406 - P.406

医療制度の矛盾を足でまとめる
 最近の医療費の上昇はとどまるところを知らない.石油ショック後の日本経済の深刻な不況—低成長の中でも,国民医療費は毎年20%の上昇を示し,77年には8兆円を超えたという.しかし,それにもかかわらず医療の中身は一向に改善されず,逆に薬害,差額ベッド,看護婦不足等歪みは,複合化,構造化している.

院外活動日誌

在宅障害児と父親

著者: 伊藤利之

ページ範囲:P.408 - P.408

○月○日
 今日は,ジストロフィー症児の地域訓練会に参加してきた.患児は10人ほどであったが,今回は比較的年齢が高く,四肢の関節拘縮や筋力低下が著明な子が多かった.このくらいの年齢(15-17歳)になると,もう母親の言うことなど聞かないので,訓練や日常生活動作を指導する場合,本人にも十分納得してもらわなければならない.しかし,痛くて辛い訓練は,頭でいくら理解したとしても,簡単に実行できるものではない.われわれでさえ,毎日欠かさずトレーニングをすることがいかに困難なことか,誰もが知っていよう.ましてや,自分で自分の身体を思うように動かすことのできない障害児は,いくら納得したからといっても困難な条件が多く,長続きはしないものである.
 このような場合,父親が積極的に協力してくれるか否かは大変重要で,これまでの経験では,父親が積極的な家庭の障害児は,ジストロフィーに限らず訓練をきちんと行っているケースが多い.また,生活にも幅があり,行動範囲も広いようである.

新病院建築・5

飯田クリニックの設計

著者: 沢柳伸

ページ範囲:P.409 - P.413

はじめに
 この病院は人工透析を主とする腎臓病の専門病院である.この種の病院としてはその規模と施設内容において充実進歩していること,しかも信州の飯田市郊外という大都市からは遠く隔った地方に誕生したということと併せ注目されている.
 新病院の企画は以前から進められていたが,オイルショックによる経済変動で一時変更延期され,その後,現在地の近くに暫定的に開院したが,急速な患者数の増加に伴い今回の新築に至った.

中グラフ

新築なった千葉大学医学部附属病院

ページ範囲:P.414 - P.416

 千葉大学医学部附属病院(佐藤博院長)では,さる3月1日より新病院での診療を開始した.
 昭和12年竣工の旧病院は,当時,全科を一屋に集めて東洋一と称えられたが,田の字型・中廊下式で周囲の空地も少なく,急速な医学・医療技術の進歩発展に対応するには増改築では限界があることから,文部省・大学関係者の検討のすえ新病院建築が決断された.48年着工,社会・経済情勢の厳しい制約の中で,このほど5年ぶりに完成をみた.

民間病院の新しい試み インタビュー

素朴な心と合理精神で新しい病院づくり—大阪府・岸和田徳洲会病院

著者: 一条勝夫 ,   徳田虎雄 ,   山本智英

ページ範囲:P.417 - P.422

 岸和田徳洲会病院は,徳田虎雄理事長,山本智英院長の下,昨年5月380床の総合病院としてオープンした.現在職員数163,医師10名で24時間診療を行っている.
 医療法人徳洲会は,この岸和田徳洲会病院以外に徳田,野崎の2病院を持ち,さらに八尾市,沖縄県に病院を計画中という.合理的な運営で患者の立場に立った医療を民間病院が行おうとしている.

精神医療の模索・5

デイ・ケアについて—経験的・主観的に

著者: 岡上和雄

ページ範囲:P.423 - P.427

 最近は,肢体不自由児や精神薄弱児の通園施設がつくられ,就学前にそこに通う幼児も増えた.学齢期になれば普通学校のほかに養護学校もつくられ,卒業後のための通所授産施設もできはじめている.また,各地に老人福祉施設が建てられ,そこで日中を過ごすお年寄りも増えてきた.これらは,訓練,保育,教育,授産,レクリエイションと,内容に違いはあれ,「通い」という点では共通している.精神科デイ・ケアも,形の上では,これらと同じように,日に数時間の共同活動を含んだ「通い」に過ぎない.だとすれば,それは模索でも何でもなくて,当り前のことではないか,とみられるかもしれない.
 しかし,事実は,そう簡単ではなく,多くの国々で,そこにたどりつくまでに,数10年,100年,あるいはそれ以上の歳月を必要とした.その歴史的ないきさつ,技術的な背景,設備,人員などについては,既刊のもの2,3,4)にゆずり,ここでは,経験的,そして,たぶん,きわめて主観的な立場で,私にとっての思案の節目とでもいったものを取り出してみたいと思う.制度的,歴史的,さらに環境的にかなり独自なものをつくり出しているわが国の医療事情のもとでは,デイ・ケアの位置づけもよその国と違うものがある,と感じられるからというのがひとつの理由で,ほかは,もっぱら,力不足・知識不足によるのだが--.

研究と報告【投稿】

医療過誤による使用者責任における問題点

著者: 高橋正春

ページ範囲:P.428 - P.429

被用者の医療過誤による使用者の責任
 被用者(使用人)が,その業務の執行上,第三者に加えた損害については,使用者(使用主)がその賠償の責任を負うことになっている.たとえば株式会社はその社員の業務上の過失についてはその賠償責任が生ずる註1
(註1)民法第715条或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニツキ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス(以下略)

レポート【投稿】

関西医科大学附属男山病院開院に思うこと

著者: 名越あつ子

ページ範囲:P.430 - P.431

 関西医科大学附属男山病院は,昭和50年10月11日,京都府綴喜郡八幡町にオープンの運びとなった.しかし,オープンに際してあまりにも多くの問題を抱え過ぎたのではなかったか.ではそれらについて,総婦長として感じたことを私なりにふれてみよう.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?