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雑誌目次

雑誌文献

病院37巻6号

1978年06月発行

雑誌目次

特集 医療費改定の分析と批判

今回の改定の特徴と問題点

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.450 - P.454

 待望の医療費改定が,去る2月1日を期して実施された.前回の51年4月1日の改定以来,1年10か月ぶりである.
 厚生省の説明によると,今回の改定は次の3点を主眼として行われたという.

改定効果の実態—2.改定効果の格差—診療のタイプ別による

著者: 吉崎芳雄

ページ範囲:P.465 - P.468

 53年2月1日改定実施された診療報酬は厚生省当局の説明によると,前回の51年4月1日改定から約2年を経過したので,この間の国民経済力を勘案しつつ物価・人件費の変動に対応させるとともに,最近の医療技術の進歩に即応させる必要性から改定を行ったという.
 また,改定を行うにあたっては,医師の技術料を適正に評価すべきであるという従来からの基本方針に従い,医療の実態,技術および診療の難易度に対応した引上げを行うとともに,診療行為間あるいは診療科問のアンバランスの是正を図ったとしている.

医療費改定の意義と方向

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.469 - P.471

 昭和53年2月の医療費改定が今後の医療にどういう影響を及ぼすかについて書いてほしい,というのが編集部からの要望である.一種の予測が入るトピックである.また,割合多方面のことに及びかねないテーマである.限られたページ数なので,問題をしぼることにしたい.
 医療費は,医療行為にたいする支払いのことである.つまり,使われた費用なり労働力なりへの対価のことだが,究極的には,「必要で」「質の保証された」良い医療の普及や実現を日指すものである.単に金銭的支払額の多い少ない,という商行為や生産活動と違うものをもっている.

医療費改定の医療に及ぼす影響

著者: 西村周三

ページ範囲:P.472 - P.475

 51年4月以来,ほぼ2年ぶりに行われた本年2月の診療報酬改定は,不況下,低成長という経済情勢のもとで,医療施設平均では,9.6%の引き上げにとどまった.これに対する医療関係者の不満は多い.たとえば,今回の改定にあたって算定の根拠となった数値は,51年4月からの22か月を対象とするはずであるにもかかわらず,19か月でなされている.この点はおそらく医療関係者に納得のいかないものであろう.
 しかしながら,現在の経済情勢からみると,このような点もある程度やむをえないものであろう.なぜなら,日本経済は,オイル・ショック以来,戦後ではかつてない不況を経験しているからであり,しかも日本経済の転換期にあって,医療のあり方も再検討が迫られているからである.現時点における不況は,近い将来脱することが見込まれるにしても,今後の日本経済がかつてのような高度経済成長に戻ることは考えられない.経済のあらゆる分野で,これまでの経営のあり方の見直しが迫られており,病院や診療所の経営にとっても例外とはなりえない.

改定効果の実態 1.新旧料金による比較計算と批判

精神病院にもっと理解を—医療法人社団東京愛成会高月病院(病床数精神419床)

著者: 日野静夫

ページ範囲:P.455 - P.457

 当院は,医療法人立の精神病院(定床419床)である.昭和49年の2回にわたる医療費改定は当院にとって起死回生のものであった.物価や人件費の高騰は病院の運営にとって致命的である.病院の運営は,一般企業と違って固定的な経費の占める割合が高いので,生産を減少して企業防衛を図るということができない.だからといって現行制度の下では,自己の努力で収入の増加を図ることも不可能である.だから物価の高騰や,人件費の高騰に見合う医療費の改定が迅速に行われることが望ましいのである.

室料差額・付添看護改善には不十分—社会福祉法人信愛報恩会信愛病院(病床数一般260床)

著者: 長沢一男

ページ範囲:P.457 - P.459

 診療報酬は去る1月17口の中医協総会において平均9.6%アップが答申され,1年10か月ぶりにその改定が実現された.今回の診療報酬の引き上げ幅は,厚生省発表では,医科9.3%(病院10.2%,診療所8.3%),歯科診療所12.5%,調剤薬局1.6%となっている.
 診療報酬改定について,国民の経済力を勘案しつつ,物価・人件費の変動に対応させるとともに,医療技術の進歩に即応させる必要性があることを厚生省は説明し,医療の実態,技術および診療の難易度に対応した改定を行っている.

依然として厳しい一般中小私立病院—井上病院(東京・個人病院)(病床数一般54床)

著者: 田中凞

ページ範囲:P.460 - P.461

 今回改正の影響を,1)薬価改正の影響,2)2月分保険請求置き換え結果による分析,という二つの点から考えてみることにしたい.
 その前に,まず本院および周辺地域を簡単に紹介したい.

再び赤字に—適時適切な改定を—岩手県立中央病院(病床数一般477床,結核45床)

著者: 金子保彦

ページ範囲:P.461 - P.463

健全経営にはまだ先
 当院は,岩手県立病院28のうち,最も規模が大きく,成人病センターを付設する総合病院であり,病床数542床,職員数500名,うち医師は60名である.
 さて,医療費の改定が,ようやく2月1日から実施された.厚生省発表によれば,病院の改定率は,薬価基準の引下げ分をみて,平均10.2%といわれているが,前回,昭和51年4月の例(51年4月改定,厚生省発表,病院10%,当院7.5%)もあるので,前回の1週問の調査資料をもとに,新点数の置き換え作業を行った.

数字は魔物である—財団法人聖路加国際病院(病床数一般345床,結核23床)

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.463 - P.464

 次に示す新旧医療費の比校分析と批判は,聖路加病院の他にA病院(公的),B病院(公的),C病院(自治体)とで共同作業をしてまとめたものである.対象日数は作業の都合で8日間に限定した,短期間の試みで,100%の成果は求むべくもない点ご理解いただきたい.

資料

診療報酬点数分布にみる医療高度化の状況

ページ範囲:P.471 - P.471

グラフ

脚光浴びる救命救急センター—社会保険広島市民病院

ページ範囲:P.441 - P.446

 医療の原点といわれ,今日の焦眉の課題として総合的な対策が急がれる救急医療——中でもとりわけ社会問題視されている"たらい回し"防止策として厚生省は昭和51年度,三次救急を担う救命救急センターの増設を予算化した.そして,脳卒中・心筋梗塞・頭部外傷など救命に一刻を争う重篤患者を対象とすることから,同センターを,高度な専門的診療機能を有する500床以上の病院に付設することを打ち出した.社会保険広島市民病院は,51年度に第一陣として優先指定を受けた全国4病院のひとつで,52年7月1日にセンターを発足,その整然とした運営が全国の注目を集めている.

「ほづゝのあとに」を編集された看護指導者教育の第一人者日本赤十字社幹部看護婦研修所前教務部長 小林清子さん

著者: 寺島敏子

ページ範囲:P.448 - P.448

 信州の飯田高女を出て日赤を卒業したのが昭和9年,卒業後日赤本社の社会生で学び,その後日華事変から第二次世界大戦終末まで中国や病院船で傷病者の看護にあたられた.その頃の従軍看護婦の経験をまとめられたのが「ほづゝのあとに」(本誌494頁に書評掲載)である.読者の反響は,15-80歳まで年齢をこえたものであったときく.この貴重な体験記の中の脈々と心を打つものは何であろうか.戦争の残酷さをまざまざと見せつけられ,その中から生命の尊さを教えてくれている.
 戦後,先生は昭和23年より諏訪赤十字高等看護学院の教務主任を7年,続いて諏訪赤十字病院の看護部長を8年勤められた.当時の混乱した社会情勢の中で看護の路線を築かれた第一人者である.昭和38年から日本赤十字社幹部看護婦研修所の教務部長として基礎教育と臨床看護の実践を踏まえての指導者教育に徹し,全国にたくさんの卒業生を送り出している,先生はプロフェッショナルとしての厳しさと包容力の持主であり,将来を見とおしたダイナミックでそして緻密な構想力は,私の知る限りにおいて右に出る者がない.実践を踏まえての教育者として数少ない一人でもある.全国に散らばっている知人や教え子達が折に触れ先生のところに顔をみせている.そんな時の先生は気負いもてらいももたないで,どんな人をも受け入れて下さる大きな人である.それが先生の魅力である.

病院の窓

人口爆発と福祉爆発—人口の南北問題

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.449 - P.449

 ローマクラブが「成長の限界」を発表して人類の危機感をあおったのは1972年であった.その序論で当時の国連事務総長ウ・タント氏は次のように述べている.「国連加盟諸国が,古くからの係争をさし控え,軍拡競争の抑制,人間環境の改善,人口爆発の回避,および開発努力に必要な力の供与をめざして世界的な協力を開始するために残された年月は,おそらくあと10年しかない」と.そして今その10年の半分がすでにすぎ去ってしまったのである.その間に世界は,われわれはどう対処してきたのだろうか.
 人口爆発から見てみよう.1970年に世界の人口は36億に達しなお年率2.1%の率で増加しており,世紀末の2000年には63億に達すると予想されていた.人口爆発に対する制御としての家族計画の普及はアジア地域ではある程度の進展をみせているし,抵抗の強かったラテンアメリカ諸国でも漸く実行段階に入って来た.しかしアフリカ地域でははかばかしい成果はない.それでも最近の報告によると,1977年の世界全体の人口増加率は1.7%くらいにまで下り,2000年の人口も55-58億と下方修正の推計も出されている.その点,開発途上国の努力と先進国の協力がある程度の成果をあげていると見ることもできる.しかし食糧の不足と大都市周辺のスラム化で治安の悪化が見られ,世界の安全保障に対する脅威となる心配は解消されそうもない.

病院医療の動向

病院の外来診療の改革

著者: 中川米造

ページ範囲:P.476 - P.480

 わが国の病院の外来部門は病院医療の中で大きなウェイトを占め長い歴史を持っている.しかし,多くの病院では旧態然とした外来が存続し,日常の診療が行われている.では,外来部門の新しい動きがあるのだろうか.またその方向は……欧米の動向とともにわが国の今後を探る.

地方の病院から

過疎地病院の現況—愛知県厚生連足助病院

著者: 祖父江吉助

ページ範囲:P.481 - P.481

改築時に存廃をめぐって論議
 当院は愛知県の北東部,岐阜,長野両県に接する東加茂郡の中心足助町にあり,東加茂郡三町村唯一の病院で,病床数216床(うち結核24床,伝染病12床)を有し,内科,外科,整形外科,産婦人科を標榜し医師9名で診療している.
 足助町は西は自動車の街豊田市に接し,その中心へは車で30分で達する.また名古屋市中心部へは1時間少々で行ける位置であるが全町ほとんど山地で占められ,標高100—700mの間の谷や小盆地に小さな集落が散在している.人口11,732名,面積192km2,人口密度62人/km2の過疎の町で,昭和45年には東加茂郡三町村すべてに過疎法(年率2%以上の人口減に適用)が適用されている.

院内管理のレベル・アップ 人事・庶務 庶務部門の諸問題・7

保安・防災のあり方(1)

著者: 内藤均

ページ範囲:P.482 - P.483

はじめに
 病院の保安・防災は多方面にわたる.たとえば,汽缶,昇降機,電気関係など設備関係のもの,院内感染,放射性物質,エレクトロニクス機器の取り扱いなど医学的,およびそれに近接しているものもある.これらのことは,それぞれの専門的立場から論ぜられ,対策が立てられるべきであろう.ここでは一般的な防犯,防火,地震に対して,実務的な面から述べてみたいと思う.
 さて,保安・防災と一言で表現しているが,段階的に,予防,発生時の処置,事後処理すなわち届出,賠償責任の有無とその処理等に分けることができる.予防に関する日常業務を遂行するにあたって,常に第二,第三の段階を配慮しなければならない.

労務 労務管理の考え方・4

三等院長の経験—地方病院の労務管理(2)

著者: 籾井真美

ページ範囲:P.484 - P.485

病院自滅の危機
 いろんな収拾策もことごとく失敗に終り,院長自ら解決に乗り出すよう強く要請される結果となった.
 第2組合の結成をすすめる人もあったが,それでは本当の解決にはならないと考え,結局,県労政課の斡旋で自治労県本部委員長と3回にわたり会談し,「地域住民のいのちを守る」ためには,町は最大限の援助をし,医師も職員組合も協力して,乏しきは分かち合い,我慢するところは我慢しようではないかということで意見の一致をみて,委員長の英断により急速に解決することができた.

ものの管理 ものの管理の方法・3

注射剤の管理

著者: 小清水敏昌

ページ範囲:P.486 - P.487

 管理には,「もの」の管理とそれに付帯する「価値」の管理とがある.両者とも切り離して管理するわけにはゆかない.最近ではGMP,GSPなどいわゆる医薬品の品質管理上の強化から,とくに注意して購入,在庫,消費などの管理に努力しなければならない.薬物療法上どの薬剤が治療に必要かどうかは患者の動態によって左右されがちである.だからといって,必要以上にストックすることは管理上許されるわけではない,必要にして十分なる管理体制をとることがその終局の目的と思う.医療に用いられる種々の医薬品のうちで,とくに単価が高いものが多い注射剤の管理については,いろいろな方法が検討されている.当院でも最近,注射剤の新しい管理体制をしいて効果をあげている.まだまだ改良の余地はあるが,少しでも筆者らの経験が参考になれば幸いである.なお,当院の概要はベッド数1,174床,外来18,病棟数36か所(昭和52年4月現在)である.

薬剤 安全情報の院内伝達・2

大病院での院内伝達(2)

著者: 二宮英

ページ範囲:P.488 - P.489

情報の収集,整理そして評価
 医薬品情報活動の基礎となるものは,ドクメンテーション(documen-tation)である.必要としている人に情報を提供するために,収集,選択,分類,蓄積,検索という情報処理が行われる.この過程の中で大切なことは,必要度の高い情報は何か,いずれの情報の信頼性が高いかを専門知識をもって評価することである.
 情報源としての資料は一次資料(ある情報に関する最初の資料,医薬学論文,臨床雑誌,文献集,特許明細書など)と二次資料(新薬関係の成書,刊行物,抄録誌,索引誌,総説,パンフレットなど)に分けられる.さらに零次資料として基礎開発中の薬剤,治験薬,許可新薬で未開発のものなどについて新聞,雑誌あるいは口伝えで得るものがある.

手術 安全,確実な技術のために・4

滅菌技法と感染防止(1)

著者: 古橋正吉 ,   上田伊佐雄

ページ範囲:P.490 - P.491

はじめに
 医療材料の滅菌は,病院の規模,運営管理の面を考慮して次の運用方式をとるのが一般である.
1)中央材料滅菌部(室)2)手術部(室)専用の材料滅菌室私どもの病院ではこれまで1),2)を併用し,1)は病棟,外来,ICU等に滅菌器材を供給し,2)は手術部だけの専用で,滅菌室をはさんでリネン材料,縫製室および手術器械室がある.手術器械室の隣りには大型自動超音波洗浄装置を中心とした洗浄室がある.

最近の判例からみた医療事故第6回

インフルエンザ予防接種と担当医の過失

著者: 稲垣喬

ページ範囲:P.492 - P.493

判例
 乳幼児にインフルエンザの予防接種をするに際して,その年齢を誤認し,規定量を超えたワクチンを接種した医師の過失を認め,その医師に接種を委嘱した地方公共団体(市)に対し,右接種による麻痺の結果について賠償責任を肯定した事案である(東京地裁昭和52・1・31判決,判例タイムズ345号139頁).集団的になされる接種の結果について,個別的に責任が追及されたとみるべき事例であり,今後も,医師の動きとともに,論議を呼ぶものと思われる.

今月の本棚

—「アンリー・デュナン」教育研究所編—「ほづゝのあとに—殉職従軍赤十字看護婦追悼記」

著者: 天明佳臣

ページ範囲:P.494 - P.494

戦時救護の意義を考えさせる手記
戦時救護の手記
 『殉職赤十字看護婦追悼記・ほづつのあとに』は,昭和12年の「支那事変」(=日中戦争)から16年の「大東亜戦争」(=太平洋戦争)を経て20年の敗戦に至る間に,各地で戦時救護に挺身した日赤看護婦の方々の手記16編よる成る.
 召集令状を手にして,ある人は「来るべきものが来たという感動にむせび泣いた」という.ある人は「赤十字看護婦になった以上一度でよいから戦地勤務をしてみたいと念じていたものですから,かねての願望が達し得るのはこの時とばかり感激で一杯でした」と記している.おそらくほとんどの方が,同じような思いで,勇躍戦地へ出発していったのであろう.多くの庶民は"聖戦"と信じて何の疑いも持たなかったのだ.わたしはたしか昭和20年の春,陸軍幼年学校を受験したいと,両親の前に座った自分の姿を思い出した.

—鈴木 秀郎著—「薬の効き目と副作用」

著者: 大西昇

ページ範囲:P.495 - P.495

副作用の問題を中心に薬とはなにかを明解に論述
副作用情報の必要性
 薬の副作用による大きな社会問題の結果,副作用も情報システムの立場からかなり機能するようになってきた.しかし,薬の副作用を考える上で,まだ基本的な問題点が残されている.まず,副作用を研究するための動物実験の方法論が困難なため,副作用は人体に投与をはじめた時から,適格な収集と評価と伝達の作業を始あなければならない.この副作用情報システムの中でも,とくに重要なのが,発生する生データをいかに効率よく集め評価するかということで,この点,日本においては残念ながら非常に遅れている.
 副作用を見つけることの難しさは本書にも述べているが,たとえばコラルジルによる肝障害では,発売後1年半で副作用が発生したにもかかわらず,それが本剤によるものであることが発見されるまでに数年以上もかかっており,その大きな原因として,同じ患者を血液学会と肝臓学会で違う病気として取りあげ,互いに気が付かなかったからであるとしている.これと類似の例として,眼科医ではよく知られており能書にも記されていたクロロキンの網膜症も,内科・小児科医がその重大さを知るまでに時間的なずれがあったということであり,このような情報のもれと偏在を防ぐために,副作用モニタリングシステムが必要である.ことに欧米で成果をあげている集中モニタリングが有用であるとされている.

院外活動日誌

訪問リハビリ看護—スタートの日・そして今

著者: 米田睦男

ページ範囲:P.496 - P.496

 リハビリというと機能訓練室で指を動かしたり,歩行器を使っての訓練などを思い出すが,器械を使えるようになればいい方で,リハビリを受ければ何とか歩けそうな患者が寝たきりで地域に埋もれている.板橋区は訪問リハビリを開始した.

新病院建築・6

聖隷浜松病院のNICU—設計・設備の面を中心にして

著者: 柴田隆 ,   高橋知子 ,   山本敏博 ,   大塚暢 ,   小川次郎 ,   中山耕作

ページ範囲:P.497 - P.502

はじめに
 近年の胎児・新生児に関する生理・病態生理学は著明な進歩を見ている.加えて,医療技術・看護技術の向上,医療設備・医療機器の進歩,改善により,病的新生児,ことに低出生体重児の医療は大きく変貌した.と同時に,これらの重篤な新生児,中でも極小低出生体重児(生下時体重1,500g以下)の予後は,新生児期の死亡のみならず後障害発症の面からも飛躍的な改善をみていることは,欧米およびわが国の文献からも明らかにされている.欧米においては,ここ10年来,最新の進歩した新生児専用の各種の医療機器,十分にtrainingされた新生児専門の医師,看護婦,パラメディカルのスタッフを配した新生児集中強化治療施設(NICU)を中心として,ある一定の地域のすべての重症新生児・低出生体重児を,完備されたこのNICUで最善の治療を行うための輸送体制,情報センターのシステム,すなわち新生児医療のregionalizationが確立されて,多大の成果が挙げられている.
 ひるがえってわが国の現状をみると,厚生省心身障害研究報告書にみられるように,完備されたNICUは皆無にひとしく,わずかの施設において,そこに働く医療従事者の熱意と献身的な努力によって,重症新生児(含低出生体重児)に対する医療が支えられているにすぎない.

精神医療の模索・6 長期在院と社会復帰

長期在院の現実と民間病院の機能

著者: 竹村堅次

ページ範囲:P.503 - P.505

 今や精神病院在院者の長期化の傾向は決定的である.早期発見,入院防止,入院なら早期退院,在宅ケアという一連の新しい治療体系が明確化しつつある時に,なぜ長期在院者が漸増するのか.考えてみれば不思議なことである.表題に沿って長期在院患者のリハビリテーション(以下リハ)を考えるには,少しく歴史的観察が必要と思う.
 第二次世界大戦後,わが国の精神衛生対策がしばしの虚脱,混迷の時期を経て,ひとまず放置患者の収容に向かったのは周知の事実である.昭和27年全国の精神病床数26,890床,同32年66,365床(2倍半),それ以後も病床は増え続け,30年代はいわゆる精神病院ブームの時代を現出した.この時期は,長期在院者の問題はあまり目立たなかった.なぜならば,急速に増加した病床数のために,長期入院は増加した(とくに分裂病が増加した)にもかかわらず,その比率はそれほど上昇しなかったからである.

精神分裂病の慢性化の問題をめぐって

著者: 市橋秀夫

ページ範囲:P.506 - P.509

 長期在院患者は多くの精神病院で年々増え続け,常に現実的な問題として対応を迫られている.とくに歴史の古い病院ほどその対応に苦慮しており,昭和51年度の松沢病院の統計1)でも,在院患者の平均年齢が男子47歳,女子50歳であり,平均在院年数は男子13.9年,女子13.5年であり,まさしく老人病院の様相を呈している.在院患者のうち72%が精神分裂病(以下分裂病)であるため,長期在院化の現象の分析の対象を分裂病に焦点を合わせて論じてゆきたい.
 筆者が定床48名の一男子慢性開放病棟を3年間担当して,10年以上の長期在院患者だけで30名の患者が退院していったが,その時の退院患者の平均年齢は実に55歳であり,松沢病院での平均在院期間は25年であった.その病棟の位置づけは古い作業患者のたまり場というところであり,こうした慢性化した患者のケアや社会復帰活動を通じて得られた知見は,ささやかながら興味深い問題が提起されたように思われる.

研究と報告【投稿】

冷房の経済的運営(空調白書2)

著者: 泊正俊 ,   石川慶三 ,   間世田善郎 ,   森一郎

ページ範囲:P.511 - P.515

 大学病院は研究と教育と医療の場であるので,その環境を快適にすることは大切である.したがって夏期の冷房についても合理的にかつ経済的に実施することが望ましい.冷房を実施するにはまず大気の状況の変化を調べて,その状況に応じて冷房を実施しなければならない.また負荷の大きさによって,電動ターボ,吸収式,タービン式等,冷凍機運転の組合せも変えなければならない.そこで冷房による室内条件の基準と各棟各室ごとの冷房時間基準を合理化することによって,どのような経済的効果があるか検討してみた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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