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雑誌目次

雑誌文献

病院38巻10号

1979年10月発行

雑誌目次

特集 チェーンホスピタルとは

米国のマルチホスピタルシステムの現状と問題点

著者: 紀伊國献三

ページ範囲:P.824 - P.828

Multihospital Systemの現状
 最近,我が国でもいくつかの病院を総合的に運営するチェーンの進出がマスコミの話題となり,その源流がアメリカにあるということで関心が高い.このアメリカの病院チェーンの現状について検討を加えてみよう.病院チェーンというのは俗称であり,一般的な用語としてはMultihospital Systemが使われている.MultihospitalSystemの定義については必ずしも厳密ではないが,複数の病院のシステム的運営による病院機能の実施とまず考えてみよう.それには後に述べる様々な形態があるからである.1979年のModern Health Careの調査によればアメリカでは現在87のMultihospital Systemがあると報告されている.この調査がどの程度の包括性を持つか定かではないが,この調査からアメリカのMulti—hospital Systemの現状をみてみよう.

チェーン化のメリット・デメリット

著者: 安永貞雄

ページ範囲:P.829 - P.831

 昭和53年7月医療法人徳洲会が,年中無休,24時間オープンをスローガンにマスコミに登場して以来1か年が経過した.この期間に医療界に投じた一石は,みるみるうちに拡がりをみせ,地域の医師会や住民まで巻込んで一大反響を呼び,テレビで20数回,月刊・週刊紙を合わせて50数回取上げられ,単行本も10指に余りあるものが既に発売されている.私もこの世界30数年になるが,一つの病院でその病院組織について,これほど大きな反響を経験したことがない.
 徳洲会がこれほどまでに騒がれるのは,医療過疎地域に病院開設とか,我が国の医療制度改革の変容とか,理由はいろいろあるだろう.しかしなんといっても,年中無休24時間診療宣言であろう.現在救急医療機関は全国約5,000近くあるが,このうち約3,000が私的医療機関で占められている.この3,000の私的医療機関は,医師や看護婦の不足と,救急医療の不採算性により,救急指定返上というところも出ているのが現状である.一方住民は,急患発生時における十分なる医療供給体制を望んでいるわけであるから徳洲会のスローガンに共鳴するのである.もう一つは徳洲会の進出に対する阻止行動のやり方が住民の反発を買ったことである.最近の例では茅が崎の件があったが,これなどはマスコミが大きく取上げて,その一部始終が詳細に報道されているのでご承知のことであろう.

焦点 対談

チェーンホスピタルと経済学

著者: 伊東光晴 ,   石原信吾

ページ範囲:P.817 - P.823

 徳洲会病院の進出を契機にチェーン形式の経営形態をもつ病院がにわかに注目を集めている.経済学の立場から,一般商品を扱うチェーンストアについてお話しいただくとともに,病院関係者とは違った目でこのチェーン病院の本質を分析・検討していただいた.

チェーンホスピタルと今後の医療—ビジネスとしての医療を考える

組織の大型化・経営のチェーン化は時代の必然

著者: 林周二

ページ範囲:P.832 - P.833

 結論からまず言ってしまえば,組織の大型化,経営のチェーン化・連鎖化は,これからの時代の第3次産業における必然的な共通傾向であって,これを阻止することや,これに背を向けることはできないであろう,ということである.なお,ここに第3次産業とは,狭義の意味でのものを指すだけでなく,宗教や教育,医療などに関わる組織を広義に含む.すなわちスーパーマーケット・タイプの小売店舗や,郊外レストランをはじめ,ホテル,スポーツ施設,娯楽施設,レンタカーなどに至るまで,最近の連鎖経営体は我が国で非常な勢いで伸びている.また銀行,保険,トラック事業,放送,広告などの企業や私学経営,新興宗教団体などでも,チェーン化組織づくりの範囲は拡大をみせている.
 病院とか,人間ドックとか,健康産業とか,薬局薬店とかの経営だけが,このような傾向から無縁であることは,不可能であると考えなければならない.問題はただ,どのようにチェーン化を図るかである.とにかくこれまでの我が国で,そういったチェーン型の病院経営,医療施設経営が現われなかったほうが不思議である.

進行する病院間のスクラップ・アンド・ビルド

著者: 川上武

ページ範囲:P.833 - P.834

 徳洲会病院の登場がここに来て急にクローズアップされ,この動きをめぐって二つの問題点がはっきりしてきた.第一はチェーンホスピタルの問題であり,第二は,徳洲会病院が今になって,社会問題となり,マスコミ・テレビの話題となってきた時期的背景についてである.
 80年代を前にして,徳洲会病院が"医療革命"の旗手として,一般市民はもちろんマスコミ・テレビに拍手をもって迎えられ,厚生省,武見日医会長,多くの無床診療所の医者も賛成の姿勢をとっている.反対しているのは,極言すれば関係地元の医師会,中小(私的)病院の経営者がただったといってもよいであろう.それも,武見日医会長が徳洲会是認の姿勢をはっきりさせてしまった以上,従来の政治行動の枠内にとどまる限り,"螳螂の斧"に終わらざるを得ないであろう.

病院の共同利用と業務分担

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.834 - P.834

 米国の病院では10年くらい前からshared service(共同利用)という考え方が急速に広がって来た.シカゴにChicago Hospital Councilというのがある.役所くさい名前であるが,実は純然たる民間協同組合である.この組合には150の病院が加入して共同運営している.医用機材,X線フィルム,医薬品から給食材料や事務用品に至るまで400種類の物品を共同購入して12%のコストダウンを達成したという.20の病院が2つの洗濯工場を使って経費の節減を図っている.またコンピュータを共同利用して病棟管理,料金計算から在庫管理,給料計算などを行っている.
 上記のような大規模の組織が全米に数十数えられているが,小規模の共同事業は無数といってよいだろう.1971年にノース・ウェスタン大学が行った調査では,全米5,727の地域病院にアンケート調査表を送り,82.5%の回答が得られたが,その結果共同事業をやっている病院は3,147(66.6%)であったという.一病院平均6.2項目であったが,最も多い項目は共同購入事業であり,血液銀行やコバルト60,腎透析の共同利用や救急医療のラジオネットワークや心電図の遠隔解析などもある.

チェーン化をいかに地域医療システムに結びつけるか

著者: 西三郎

ページ範囲:P.835 - P.835

 徳洲会の進出,アメリカのチェーンホスピタルの発展は,現在の医療経営の状態からみて,出るべくして出たものといえよう.まず,将来の医療のあり方からみて,その可能性と限界について考察を加えよう.
 我が国の医療は,包括医療,地域医療,更にプライマリ・ケアと次々と新しい概念を提唱しながら,その実態の多くは旧態依然たる診療を続けている地区が少なからずみられている.しかし,将来においては,プライマリ・ケアを中心とした地域医療システムが確立されるものと考える,なお,プライマリ・ケアとは人により概念が異なるが,ここでいう概念の具体的実践例の一つとして,日野市難病ケアが挙げられるものとする.地域とは,地域内の住民意志決定機構を有するものを限定し,それを欠くものは,単なる区画として区別する.医療とは,広義の医師法第一条にいう公衆衛生として理解する.システムとは,施設または機能間の連携に当たって,具体的制度(必ずしも法制度でなくても良いものとする)を有するとする.このような将来の状況においては,各機能のうち,実践において研究性をより必要とする分野は,個別性が高く,標準化は困難である.また地域ごとの実践における仕様が異なる機能はその標準化が困難である.このような標準化が困難である機能を除き,比較的安定(時間の問題ではあるが)した機能について,その標準仕様を定め得るものといえる.

望まれる慎重な取扱い

著者: 木下二亮

ページ範囲:P.836 - P.837

経済と医療
 今日世界各国の保健医療に関する行為に対しての費用は巨大産業のそれと優に匹敵する財貨の流通がみられ,その意味からも経済学の関心を呼んでいる.アメリカにおいては医療費の流れは明らかに経済原則に従うとして競争市場にみられる需要—供給の原則に従った費用と資源配分の調整が発達しそれが病院経営会社の発達にまでいたったものである.これに対し英国ではむしろ公共経済学的な展開が進められ医療国営に発展したが,アメリカにおいても最近公共財的扱いが強調され始めている.1975年10月世界医師会総会を機として日医武見会長により医療に対する経済理論の展開が生命の尊厳や医学技術の進歩・絶対性を離れて行われてきたという反省に立って,医学及びその社会的適用としての医療を基盤として新しい経済学理論の展開すなわちメデコエコノッミクスが提唱された.その後技術と人間関係を前提とし人民の福祉向上のための資源開発を有効に機能させるための新しい経済理論の研究が進められてきているのである.このような情勢の中で経済的効率性の追究が優先し市場システムを通じて達成される医療の普及が追求された結果であるアメリカ式チェーン病院の将来については問題があるといわねばならない.

チェーン化は我が国の風土になじまない

著者: 岡田玲一郎

ページ範囲:P.837 - P.838

「チェーン化の理解」
 病院のチェーン化を考えるとき,チェーン化への理解が根本的に必要になろう.経営書等をみるまでもなく,チェーン化にはひとつの基本がある.それは,本部と末端チェーン店(ここでは病院)ともに,そこにメリットがなければ--それは,ほとんど経済的な--存立もしなければ,存続もし得ないものである.このことが,病院のチェーン化にとって重要な意味を持っている.

近代的産業の一つに位置づけられつつある病院

著者: 福岡生穂

ページ範囲:P.838 - P.839

 我が国の医療体制は,世界的に見ても極めて優れたものであるといえる.すなわち,医学医術の進歩向上と,医療保険制度の充実等により,国民は本来的に,高度な医療サービスを公平かつ安心して受けることが可能である.しかしながら現実の姿は,いわゆる"医療のひずみ"が随所に露見し,大きな社会問題となっている,国民医療費の急膨脹もその一つであり,高度成長期はともかく,低成長経済下にあってもなお年率2ケタの増加傾向が続いている.このまま推移すると,医療費が我が国経済にとってますます大きな負担となることは,各方面からも繰り返し指摘されてきたが,どうも有効な解決手段は見当たらないようだ.このような状況のもとで何よりも望まれることは,実行可能な具体的提案であり,その一つとして,余り従来議論されていなかった病院のチェーン展開があるのではなかろうか.
 アメリカでは,1960年代の後半に株式会社組織の病院経営会社が出現し,病院のチェーン展開を行い,今日では全米病院の10%のシェアを確保し,なお急成長している.そのうちの一つ,ホスピタル・コーポレーション・オブ・アメリカは,1968年に設立されたが,1970年に外食産業界で全米第2位のケンタッキーフライドチキンの元会長マッセイが社長に就任し,得意のチェーンオペレーションシステムを活用して,今では最大手のチェーンホスピタルになっている.

グラフ

地域予防衛生活動に邁進して20年—佐久市立国保浅間総合病院

ページ範囲:P.809 - P.814

 浅間・荒船等の麗峰奇山を臨み,名川千曲川の両岸に展けた佐久平は,標高700m,"暮れ行けば浅間も見えず,歌哀し佐久の草笛"と藤村にも詠われた有情の高原である.その中心佐久市は面積193km2,人口約6万,その60パーセントが農業に従事する文字通りの田園都市である.しかし,この牧歌的舞台に演じられた佐久市立国保浅間総合病院の医療活動は,市・住民と一体になった極めて人間的なドラマである.その数々の業績は,昭和51年,第28回保健文化賞受賞というかたちでも高く評価されている.

産業医学に根ざした病院作り大同病院名誉院長 皿井進氏

著者: 森泰樹

ページ範囲:P.816 - P.816

 工場で働く人々の健康を管理するには,ただ単に羅列的に各科を並べただけの総合病院ではその役を果たすことはできない.大同病院が確たる産業医学的な基盤に立った病院であればこそ,全職員の限りない信頼を得,また地域医療の尖兵となり得たのであると思われる.事業は人なりと言う.こんな意味で大同は誠に良き人に恵まれたものである.
 先生は昭和6年に名大を出られ,勝沼内科で十分な臨床的な訓練を経られてから日本レーヨンの工場に出られた.ここで「二硫化炭素中毒の臨床」なる論文で学位を得られた.これが終生先生を産業医学の鬼となさしめたきっかけである.

特別寄稿 地域医療

地域医療と自治体

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.840 - P.845

 住民の健康を確保し,必要な医療サービスを確保するために,自治体はその役割をどう果たしたらよいか.国際的な動向をもみながら,地域住民のための真の地域医療の確立に向けて,自治体の役割を探る.

医療評価

病院の医療評価資料の調査(3)—医療職員数について

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.846 - P.850

 今までに私は,主題の事柄について二つの報告(一.病院の医療評価資料の調査,本誌36巻12号,二.同題(2)パラメディカル部門について.本誌38巻4号)を書いた.
 第2報を書いて,第1報に「メディカル部門について」という副題をつけるべきであったことに気がついた.今回の報告は第3報である.第4報に病院内各種会議及び委員会についての調査報告をまとめ,それで一連の報告を終わりたいと思う.

海外の医療

アフガニスタンの医療

著者: 古知新

ページ範囲:P.853 - P.856

アフガニスタンの概観
 中近東の東端に位置し,日本の約1.7倍の国土を有するアフガニスタンは,国の真ん中を東西にヒンドウクシュ山脈が走り,その北面は西トルキスタン平原でソ連邦に接し,その南面は大部分が砂漠地帯でイラン及びパキスタンに接する,典型的な中央アジアの乾燥高原地帯にある.歴史的には「文明の十字路」として有名な地域で,パシュトゥン族,タジーク族(以上はアーリア系と推測されている),ハザラ族,ウズベック族(以上はモンゴル系と推測されている)などからなる多民族国家を形成している.総人口は約1,700万人,その内都市人口及び遊牧民がそれぞれ約10パーセントを占めると推測されている.産業としては,農業(小麦,米,果実及び綿花など),牧畜業(羊が中心)及びカーペット産業などの手工業のほかには,未だ見るべきものはほとんどなく,国民一人当たり所得は約100米ドル(1977年国連推計値)に過ぎない.宗教は,一部のヒンドゥー教徒を除き,イスラム教でスンニー派が多数を占め,ハザラ族を中心とするシーア派は少数派である.
 南進するロシアと,インドを中心に植民地経営を行って来たイギリスの間の緩衝地帯として,前世紀にはイギリスの保護国となったが,今世紀の初頭にイギリスから完全に独立しアフガニスタン王国となった.

ホスピタル・トピックス

—家庭用電気製品のおもしろい応用例—細菌検査室における電子レンジ

著者: 水野映二 ,   森伴雄

ページ範囲:P.856 - P.856

 培地は細菌検査に欠くことのできないもので,使用目的により,増菌培地,分離培地,確認培地などがある.これらの培地は一般に検査材料別,菌種別にいくつか組み合わせて目的とする原因菌の分離,同定検査,薬剤感受性検査に用いる.
 現在,ほとんどの培地は乾燥粉末として市販されており,平板培地をつくる際はこれを精製水に溶解して滅菌後,滅菌シャーレに注いで固める.また試験管につくる培地(確認培地など)は一度加温溶解して試験管に必要量を分注後に滅菌する.いずれの場合も加温溶解が必要で,そのために電子レンジを用いると便利である.

設備機器総点検

オイルウオーマー

著者: 鈴木啓二

ページ範囲:P.857 - P.857

 当院では適温給食の設備(オイルウオーマー)を開発し好成績をあげているので紹介する.
 この「オイルウオーマー」は従来の湯煎式のものに,最近開発されたダフニーサーミックオイル(熱媒体油)を使って,最高温度300℃まで熱媒体油を加熱し,その熱を利用して料理を保温するもので,熱効率もよく他の保温機器に比較して燃料費も経済的である.

統計のページ 病院の原価管理・8

放射線部門の原価計算

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.858 - P.859

 採算性放射線部門の採算性は調査期間中の数次にわたる点数改定および稼働率の向上により年次を追うに従い好転しつつある.放射線総合の48年では収益対比で22.8%の欠損額であったが,50年ではそれが48.5%と大幅に増え,52年調査時になってようやく26.3%の黒字収支に転じている.これを損益分岐点でみたものが図46である.
 各調査月の損益分岐点収益は48年では4,950千円,50年7,845千円となり,それぞれの収益不足額は1,937千円(不足率25.8%),4,155千円(不足率53%)にも達していた.

講座 入門・ME機器の正しい使い方・2

きれいな心電図をとるには

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.860 - P.861

きれいな心電図とは
 心電計や心電図モニタは,大ていの病院で使われており,ME機器の代表選手である.それだけに,測定上のトラブルや機器故障に悩まされた経験をお持ちの方が多いと思う.
 ここで言う"きれい"という意味は,"本来の心電図波形がゆがんでいないこと"である."ゆがみ(または,ひずみ)"には,大きく分けて2種類ある.1つは,心電図以外の波形が心電図に重なって現れてくるもので,一般に雑音(ノイズ)と呼ばれているものである.もう1つは,心電計や心電図モニタの特性が劣化したり,調整が不十分なために,本来の波形を忠実に記録できないもので,少し難しい言葉で,特性歪(ひずみ)と呼ばれている.ここでは,これらの原因とその対策について解説する.

現場訪問

国立王子病院栄養班 安西志保子さんに聞く

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.862 - P.863

 本誌こちらの病院にはベテランの栄養士さんがおられると聞いて,うかがいました.病院栄養士になられて何年になりますか.
 安西国立東京第二病院でインターンをやったのが昭和33年ですから,もう20年以上になりますね.

実務のポイント 会計・経理

私的病院の税対策(その2)—病院に何が適用できるか

著者: 佐藤武雄

ページ範囲:P.864 - P.865

病院において適用できるもの
 ①貸倒引当金(徴収不能引当金),②賞与引当金,③退職給与引当金,④価格変動準備金,⑤債権償却特別勘定.
 これらの引当金などについては,損金経理が条件となっているので注意したい.なお,損金経理とは次のような合計処理をして損益計算書に記載することを意味する.

薬剤

外来患者への服薬指導

著者: 神田真吾

ページ範囲:P.866 - P.867

 患者に対して,服薬の指導・教育を行うのはclinical pharmacyの重要な役割のひとつであり,基本的なものである.
 近代医療を推進する新しい病院づくりの中で,薬剤師の職能を十分に発揮できるのはclinical pharmacyである.その基本は,医薬品がどのようなものであるかを患者に指導・教育し,どう与薬するかであろう.最近では,医療機器が急速に進歩し,検査や診断での使用が多くなっているが,最終的には,どの患者も薬剤を使用する場合が多い.このことからも,薬剤の重要性は減じていないと言えよう.

給食

栄養指導のあり方と方法について

著者: 中村丁次

ページ範囲:P.868 - P.869

栄養指導とは
 私たちの食生活は,母乳という単一食品から始まり,自然的かつ社会文化的な諸々の条件に影響を受けながら,次第にその幅を拡大し,ある時は逆に縮小し,またある時は大きく左右に揺れながら営まれ,生命活動の基盤を成している.ところが,食生活のこのような拡大,縮小,あるいは揺れがある幅(所要量はこの幅を数量化したひとつの目安である)を越えて歪みが生じ,ある時間を経過し,生体の恒常性を越えた時に栄養性疾患が発症することが考えられる.上限を越えれば,肥満,糖尿病,動脈硬化,肝臓病,高血圧などのいわゆる慢性疾患の一誘因になり,下限を越えれば栄養失調になる.
 栄養指導とは,このような食生活の幅と左右への揺れが適正になるべき新たな食生活への変容を起こすための教育的手段である.食生活を歪ませたベクトルは何かを探り,今度は適正にしうるベクトルを解明し,相手に教え,実践させ,そのことにより精神身体状態の改善を計ろうとするのである.

管理技法 病院実務管理ケース・スタディ・3

病院管理規程の制定

著者: 井上昌彦

ページ範囲:P.870 - P.871

 前回(6号)のケース・スタディのテーマは,病院管理組織図の制定であったが,今回は,管理規程の制定をテーマとした.本来から言えば,組織図は,管理規程の一部分を構成するものであって,順序から言えばこのケース・スタディは逆であったといえるのである.
 まず,規程とか,組織図は,なんのために必要なのかから考えてみよう.それは,仕事を最も効果的に進めるために絶対に必要なものなのである.それでは,"仕事"とはなんだろうか.仕事とは,人間にとってなんらかの価値のある"もの"(財貨),あるいは"サービス"(用役),を社会に作り出すことである.そして,仕事の管理とは,作り出される"もの"や"サービス"の質・量・価格の三者を,その三者の相関において,コントロールすることである.医療において,よく言われる言葉は,"よりよい医療を,より多くの人々に,より安く提供する"という言葉であるが,これは医療というサービスの提供の目標を,この三者の関連において示している言葉である.

新・病院建築・22

西郷病院の建築設計—市街地中規模民間病院の機能を追求

著者: 小林深智子

ページ範囲:P.873 - P.877

はじめに
 日本における病院の今後のあり方は,どうあるべきであろうか.国立と公立,そして私立,診療所(クリニック)の関係をはじめ,立地条件,規模,質の問題に至るまで,こと"生命の尊厳さ"にかかわることだけに,大変むつかしい問題である.特に,大都市の重層化や都市のパターンを無視して,単に国立センターから地方への施設ハイラルキーをあたかも"図書館行政"のように造り上げたとしても,完全には解決しないのである.やはり病院というものは,一番基本に,医師,看護婦をはじめとする職員の使命観,誠実さ,情熱,技術の高さなどがあって,生まれ出て来るものである.しかし,だからといって,建築家の立場から病院建築というものに提案がないわけではない."人間が建築をつくる.--やがて建築が人間をつくる"ということわざのように,建築の質の持つ重要さについても強調したいのである.
 この病院が完成して患者たちが入院して来て,「この病院にいると病気がはやく治るような気がします.」と言っていると病院長からお聞きした時の喜びは,建築家にとって筆舌に尽くしがたいものであった.このような試みは,たとえ小さいものであっても,病院長,理事長,医師,看護婦,病院の各スタッフの理想と実行力と祈りがその基本にあってはじめて実現するものであるし,また私立であればこそ,全員が一丸となってやり遂げることができたのではないかと思う.

いま民間病院は

福利・厚生制度の実際

著者: 重井博 ,   河原浩三 ,   大司俊重郎

ページ範囲:P.878 - P.881

労使のニードで次々と策定された制度を振返る
 我が国での福利厚生は,元来は使用者が従業員に対して,家族主義的立場から恩恵的に行っていた制度で,特に零細・中小企業では近年までこうしたいわは封建的な殻から抜け切らない発想が続いたものである.民間の病院は更に2歩も3歩も遅れをとって来たことは否定できないが,ここ十数年来ようやく近代化の波に乗って次第に充実し,最近では賃金のカバー,職員の定着など労使にとって実利的な面が強調されて来たようである.しかし反面では職場でのよりよい人間関係と緊密なコミュニケーションのため,あるいは潤滑油として,更には心の豊かな人間味のある医療人を養成する制度としても再認識されるようになった.当院の開院以来の20年間を振り返ってみても,ご多聞にもれず試行錯誤を繰返し,ここ数年に至ってようやく以下のような制皮を確立することができたわけで,まだまだ先進の諸病院には及びもつかないが,あえて紹介してみる.
 ちなみに当院は昭和30年に岡山県倉敷市に診療所として発足し,昭和33年に医療法人の病院を創立.その後次第に発展して,現在280床,職員数280名の内科外科病院として地域医療の一端を担っている.

研究と報告【投稿】

嫌気性菌を考慮した病院内空中細菌叢の観察

著者: 中島敏子 ,   二宮照子 ,   伊津野保

ページ範囲:P.883 - P.885

 病院管理の面で院内感染が重視されるようになってきたが1,2,3,4),病院の持つ特殊条件を含めて,院内感染の実態を把握するには,関連する多くの研究成果に待たなければならない.また,一般感染症についても抗生物質の普及などによってその様相が以前とは大分変わってきた.すなわち,感染の起因菌についても従来のいわゆる病原菌から,日和見感染を起こすいわゆる平素無害菌(Opportunistic Pathogen)などの役割が重視されるようになり,今日では院内感染の主流はこれによるものと見られている5)
 人は誰でもここにいう平素無害菌の保菌者であり,またその菌は人体から常に周囲に飛散されているものと見なければならない.すなわち人のいる所必ずその環境は細菌的に汚染されているものである.感染症も内因性のものはさておき,外因性のものではその起因菌が空中由来のものであることもしばしばであろう.この点からして病院内の空中細菌叢については常に監視の必要があり,特に手術室や無菌治療室では無菌的最高の厳格さが要求され,ICU (集中強化治療室)や新産児室などもそれに次ぐ厳格な管理が要求されている.一方,院内感染の予防については病院をあげての対策が必要で,診療担当者,管理者を始めその他すべての病院関係者のそれに対する認識と努力にまつところが非常に大きい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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