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雑誌目次

雑誌文献

病院38巻2号

1979年02月発行

雑誌目次

特集 病院運営の経験と分析

コンピュータ導入に当たっての試行錯誤—関東逓信病院の場合

著者: 福田昭

ページ範囲:P.115 - P.118

 西洋に,"最後の失敗は真の失敗である"という諺がある.これは最初の,あるいはいくつかの前段の失敗は恐れる必要はないということであろう.医療のEDPS化は,まさしくこの諺を身をもって体験させてくれる.もろもろの試行錯誤の繰返しの果てに,その真髄をつかみとることができるのが医療という怪物の実体であろう.
 当院では,昭和47年7月に,病院情報処理におけるトータルシステム化の開幕を告げた.更に,同年12月から翌1月にかけて,オンラインによる患者登録,料金計算システムを稼動した.その後,同年度末までに計8システムを運用開始している.そこに到達するまでの紆余曲折は,筆舌に尽し難いものがあったが,むしろ,サービスを開始した後の手直し,リファイン・メンテにこそ,複雑怪奇な医療の仕組みの本質が遺憾なく発揮されたと言えよう.

コンピュータ導入の失敗—東京都・中小病院の経験

著者: 望月和昭

ページ範囲:P.119 - P.122

 病医院にとって保険請求事務は毎月のことながら最も頭の痛い業務の一つである.そしてこれに携わるベテランの医療事務員の養成,確保及び各種統計資料の作製は中小病院にとっては殊に重大である.保険請求が終り,ほっとしたと思うと,またすぐに請求事務が始まるというような感覚の連続で,各種統計資料も余裕がないと作り難い.これら統計資料が正確で迅速かつ随時に見られるようでなければ,経営に不可欠の参考資料として役立てることはできない.この難問題を解決するために電算機を利用したいと思い,私どもはコンピュータに関する資料を集め,メーカーから話を聞き,あるいはビジネスショー等を見学したりしていたが,従来のコンピュータは高価で経費も高く高嶺の花であり,操作も多数の数字の桁の羅列によるインプットで極めて煩雑であり,とても馴染める代物でなく,10年来試行錯誤の繰返しであった.
 ところが昭和50年ころには経済性の点から考えても中小病院でもなんとか導入できるミニコンピュータが発達して来た.しかしこのころの各コンピュータメーカーや導入した病院は,それぞれ独自のシステム開発に大変な努力と苦労を要した.私どもの病院も遅れ馳せながらコンピュータ導入に追従した.因みに私どもの病院は入院約100床,外来患者450〜500/日,木曜日及び日曜日休診の診療5日制の病院である.

自動搬送設備導入の問題点

著者: 河口豊

ページ範囲:P.123 - P.126

 物品の自動搬送設備が本格的に病院に導入されてから約10年になる.エレベータ・ダムウェータは歴史が古く1920年代から導入されていたが,その後に単純な形式での気送管・ベルトコンベアの導入を除けば,搬送はもっぱら人手によってきた.しかし,慢性的な看護職員不足ともからみ,搬送業務からの看護職員の解放と病院の近代化の一環としての省力化という目的で自動搬送設備が導入された.今日では院内各部門間を結ぶ自動搬送設備は近代的病院の必須の条件のように言われているが現実は多くの問題を抱えている.そこで,ここ数年来,千葉大学建築学科で継続して行っている研究課題「病院内における人の動きと物の流れ」からいくつかの資料をもとに自動搬送設備利用の現況を報告して,今一度搬送の問題点を整理する機会を提供することができれば幸いである.

"いわゆる冷凍医療食"導入・中止を経験して

著者: 下条都

ページ範囲:P.127 - P.129

 各方面の知識人を結集して,病院給食の合理化,品質改善,病院間の格差是正を目的に出現した"いわゆる冷凍医療食"は,私たち病院栄養士にとって,当然,無関心ではいられないものである.その賛否両論の渦巻く中で,昭和53年2,月の健保点数改正に当たり,医療食加算と称して新しく保険診療に点数化されるに至った現在,病院経営に携わる立場から当然これに目を向けざるを得ない."いわゆる冷凍医療食"が,たとえ健保診療上の評価がなされるようになったとはいえ,これが果たして病人にとって適切な食物であるか否かを改めて考察する必要があろう,そこで昭和48年増築時に積極的にこれを導入したものの約6か月で中止せざるを得なかった私ども西陣病院での経過と,筆者の前任病院における導入経験を通して私見を述べ,皆さんの参考に供したいと思う.

救急分院運営の経験と分析

著者: 宇山理雄

ページ範囲:P.130 - P.133

 救急分院は昭和31年に発足したが,救急専門の病院として余りにも時代を先取りして開始したので,各方面から注目を浴びたものである.今回閉鎖して本院に合併し新しく救命救急センターとして再出発するに当たり過去の経験を振返って問題点を挙げ参考に供したい.なぜ分院を閉鎖したかの差迫った動機について次の点が挙げられる.
 ①建築物全体(特に配管系統)が老朽化して使用に耐えなくなった. ②救急疾病構造が時代とともに大幅に変化し,医療供給体制を変革する必要があった. ③経営の合理化を必要とした.
 救急分院閉鎖は残念な気はするが,私としては20年余の経験はむだではなく,地域医療に十分貢献できたと確信しており,救命救急センターへの発展の貴重な基礎となったものと考えている.

病院管理・経営の失敗—B病院の場合

著者: 細田健二

ページ範囲:P.134 - P.137

経営費増大にどう対処するか
 このほど,自治省から,昭和52年度の地方公営企業決算の概況がまとめられて発表された.このうち,公立病院の決算状況,をみると,全体として,約52%の病院が赤字(経常収支)である.
 現在の病院は,医学,薬学その他工学等の急速な進歩によって,医療機能は専門分化しながら大きく向上してきた.病院は組織医療であり,医療機能を高めるためには医療技術者の充足による人的整備と近代医療機械装置など物的装備が必要とされている.

新病院の一年

著者: 降矢震

ページ範囲:P.138 - P.141

 千葉大学の新病院が竣工したのは昭和52年末,53年1月14日に開院式,2月末に引越完了して,3月1日から診療を開始した.大震災の数倍の震度に耐えるといわれた重厚な建物とはいえ,40年の歳月を経て老朽化した暗い所からすべてが新しく明るい新病院に移った当初は,皆新入生徒のように希望と好奇心で病院をみていた,しばらくして慣れてくるとそれぞれの思うにまかせぬ点をあれこれともらすようになる.うまくゆかぬというのは本人の未熟のためなのではないだろうか.ある人たちには不備でも,ほかの人たちには都合がよいこともあるのである.そのような不平に共通して言えることはそれではどうしたらよいかという解答がないことである.更に困ったことには具合が悪いからといってやり直して比較することができないことが多い.わずか1年たらずで正しい評価をするには時期尚早なのである.
 考えてみれば多くの人の話からまとまった結論を引き出すことはかえって難しい.乏しいながら自分に直結したことを書くほかない.したがってこれは病院の多数意見ではなく,検査部長という狭い視野の私見に過ぎぬことをご了承いただきたい.

グラフ

医療,生活,成長の場として—国立療養所西多賀病院

ページ範囲:P.101 - P.106

 戦後30年間,主に結核,らいなど長期療養を必要とする疾患の治療に当たってきた国立療養所が,疾病構造の変化,特に結核の減少に伴い,様々な転換を迫られている.ここに紹介する国療西多賀病院は,30年代後半の結核患者の減少に対応し,逸早く昭和39年より進行性筋ジストロフィー症,同41年より.重症心身障害児(重心)病床を設け,小児慢性疾患専門病院に転換を遂げ,すでに十年余の歴史を持つ病院である.話は前後するが,現在の国療西多賀病院は、昭和36年,国立西多賀療養所と国立玉浦療養所の統合によって誕生した.統合以前,西多賀は肺結核.また玉浦は骨結核を主としていたため,整形外科医が多く,その骨疾患治療の経験を生かして小児慢性運動器疾患の道を選んできた.現在でも骨疾患専門病院として,整形外科手術件数は年間350にも及び,側彎症については全国でも数少ない施設の一つになっている.
 病床数は一般(小児科一含む)260,筋ジス160,重心80,結核40の計540床.筋ジス・重心病棟は新設当時小児を対象として受け入れたが,ほとんど退院者はなく,病院で成人を迎え,児童と成人の比率は2対1の構成となっている.

病院設備界の第一人者日本病院設備協会会長 井上宇市氏

著者: 望月正雄

ページ範囲:P.108 - P.108

 先生は昭和19年旧東京帝国大学工学部(現東大)船舶工学科を卒業.現在は早稲田大学理工学部教授,空気調和衛生工学会会長,病院設備協会会長などの要職におられ,建築設備のあらゆる分野で多忙な日々を過しておられる.我が国の建築設備,特に空気調和工学の分野における先生の業績は真に多大である.
 先生が病院設備に関係されたのは昭和26年以降,虎の門病院,その他の病院設備の設計施工に関係されたのが端緒であったと伺っている.その後病院設備に関する数数の研究,海外の病院設備の紹介などを通じて,我が国病院設備の向上,発展のためにご活躍になっておられる.

焦点 対談

疾病構造と医療の技術(下)—昨日から今日,今日から明日へ

著者: 砂原茂一 ,   川上武

ページ範囲:P.109 - P.114

 1月号では,戦後30年間の医療の変遷を,特に医学・医療が結核にどうかかわってきたかを軸に話題を展開し,そこから教訓や問題点を引出していただいた.今月号では,「今日から明日へ」と,これからの医療の方向をめぐって話合っていただく.

ニュース

「病院と技術集積」をテーマに—第6回日本医師会病院学会/設備技術と病院機能の接点を求めて—第7回日本病院設備学会

著者: 編集室

ページ範囲:P.114 - P.114

 第6回日本医師会病院学会が,去る1月27日(土),東京・経団連ホールで行われた.今回は「病院と技術集積」をメインテーマに,「院内における技術集積」と「地域医療と技術集積」の二題のシンポジウム,口演「ICUについて」と応募者全員からの演題発表が行われた.
 「院内における技術集積」は,まず,脳血管センターの立場から田原宏明氏(美原記念病院)が,「一貫性」と「一体性」を特徴とする美原記念病院における技術ユニットを人的技術,知的・倫理的・学術的技術開発,情報の技術の単位,機械資源,施設,衛生材料,医薬品・研究用特殊材料・薬剤,健康教室など9つに大きく分類,さらにこれらを細分化した28単位について実例を紹介し,経済的評価,未発達の分野,診療科目の標榜方法が真の診療機能を表現していないことなど5つの問題点を上げた.

ホスピタルメモ

螢光顕微鏡

著者: 吉野二男

ページ範囲:P.129 - P.129

 フックにより顕微鏡が発明されて以後,微生物の発見,細胞の発見とそれらの研究により生物学を主として多くの科学分野で著しい進歩が得られた.医学においても,病原菌の発見,顕微解剖学,顕微病理学の発達は人々に非常に多くの健康と福音を与えることとなった.
 一方,顕微鏡も進歩と改善を重ねて,かつてのフックの時代のものとは,機能においても,形でも,また使い易さから比べても全く比較にならない発展をなしとげてきて,更に,より小さいものを,よりはっきりと見ようとする努力が続けられている.

原著紹介

—Williams, Jr.,R.B.,Gentry, W.D.共編—Behavioral Approaches to Medical Treatment

著者: 榊田博

ページ範囲:P.141 - P.141

 本書の題名は直訳すれば「医療への行動学的試み」だが,「行動療法序説」と意訳したほうが,著述の内容に適切かと思う.行動療法という術語は,我々にもようやく馴染みになってきた.本書はこの領域に関する基礎的な知識を提供してくれる.医療の分野に行動科学的手法が導入された.本書は在来の治療手段に限定せず,精神・心理分析のもとに対応する新しい分野を紹介している.個体の行動を環境や生活態と結びつけて把握しようとしている.単に身体的な不和についてだけではない.あくまでも,個体の生活行動の状態にまで及んで具体的に指導する.これによって疾病の予防を図る.初期治療効果を挙げれば疾病の進展を防止できる.この新しい治療手段は,臨床医学の本来の姿を志向しているといえよう.
 本書は,1976年4月にデューク大学で催された生涯教育講座の教材を中心に編纂された.内容は16章に分けられ,17人で分担執筆している.不眠,頭痛その他慢性的な疼痛,不整脈,排尿障害,失禁など,薬物療法がおよびにくかった徴候や,神経性皮膚炎はじめ2〜3の神経性愁訴などへの対応について,新たな方向づけを試みた.喫煙や飲酒の問題,本態性高血圧,心筋梗塞,肥満などにも関連して,性格,生活様式,生活設計など仔細に,具体的な改善方法を提案している.喫煙,飲酒,過食などに対して,とかく禁止的指示だけにとどまっていた従来の医療の傾向を厳しく反省している.

海外の医療・2

プライマリヘルスケアの実践—パプア・ニューギニアの医療

著者: 石野誠

ページ範囲:P.142 - P.144

一般事情
 世界地図を広げて見れば,オーストラリア大陸と赤道の間に恐竜が横たわっているようにみえる島がある.この島がニューギニア島である.パプア・ニューギニアは,このニューギニア島の東半分と,ビスマルク諸島,ソロモン諸島の北端のブーゲンビル島などの島々からなる新興独立国である.マスメディアを通じて知るパプア・ニューギニアは,文明から取残された未開の地という印象を受けるかもしれないが,舗装された道を車を走らせながら美しい海岸線を眺めている限りでは,近代文明の影響を受けない未開の地のイメージを想像することは不可能に近い.
 この国には林業や漁業の分野に日本企業が進出しており,また街には日本製の自動車も数多く見受けられるなど,経済的な面で我が国との関係は次第に密接になりつつある.実際,鹿児島からこの国の首都であるポートモレスビーまで直行便があり,およそ6時間で飛べる近さにある.

設備機器総点検

自走式冷温蔵配膳車

著者: 木村弘文

ページ範囲:P.145 - P.145

配膳車の構造
 概要:本体はステンレス製鋼を使用し,ドアはステンレス鋼板で断熱材をはさみ,更に熱による変形を防止する構造になっている.ドア中央部のパッキンによって冷蔵セクションと温蔵セクションの熱伝導を防ぐ構造にしてあり,冷蔵セクションと温蔵セクションとの仕切りに特殊な耐熱樹脂を使用した仕切りパッキンによって庫内温度の漏れを防ぎ,冷蔵,温蔵各セクションにファンを取り付け,強制対流によって温度分布を均一にする構造になっている.
 冷却系統:冷却はクロスフィンクーラーを中央支持柱の後部に取り付け,クーラーはABS樹脂のカバーの中に内蔵し,冷気はカバー内で下から上へと流れ熱交換を行いつつ,ファンから冷気が吹き出す.

統計のページ

病院の原価管理第2回—各部門を総合的にみる(下)

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.146 - P.147

大病院における原価と収益
 図3は52年の原価計算に基づき,53年2月点数改定の影響率(本院の影響率は平均7.99%)を補正したもので,給与改定,物価上昇などの影響は除外した.原価が変動しないため損益分岐点は不動だが,利益は点数改定による増収分だけ増加し,43,413千円,12.7%の利益になることを示している.
 本院の場合,原価計算による収支は,前号に述べたように漸次好転しているが,53年2月の改定にもかかわらず依然として赤字収支を余儀なくされている病院も数多い.図4のB病院はその一例である.

医療の周辺医療経済 医療経済の目標と課題—考え方の転換・2

医療サービスの効果的提供

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.148 - P.149

効果とは何か
 医療サービスにおいて使う効果という概念は,一般に次のようなものだといってよいであろう.
 つまり,効果とは,所期の目的を達成するために,診断,予防,治療などの医療行為が果たした度合,である.ここでは,効果は,結果もしくは成果で測られることになる.この概念はもっぱら達成度あるいは達成量が問題であるので,そこには費用とか金銭的スケールは必ずしも登場しない,あるいは登場しなくてもよい.

講座 入門・診療記録管理・2

準備委員会の活動

著者: 栗田静枝

ページ範囲:P.150 - P.151

 (承前)前回,診療記録室開設に当たって5つの条件を列挙したが,その第5番目について触れたい.

実務のポイント 人事・庶務

患者の苦情処理の実際

著者: 内藤均

ページ範囲:P.152 - P.153

 患者の苦情や医事紛争を検討する場合には,法律的側面,管理的側面,職務行動的側面から論ずることができる.今回は,管理的側面,あるいは職務行動的側面から検討をすすめてみたい.
 さて,一口に患者の苦情といっても,その原因は多種多様である.職員の接遇によるもの,設備関係を原因とするもの,医療に関するものなどであり,あるいはこれらが複合するものもある.これらの苦情処理は,いずれも初期の段階に誠意をもって解決すれば,その大部分は大きな問題に発展しないが,初期の解決を誤ると,つまらないことでも紛争になったりすることがある.例えば医事裁判の原告側(患者側)勝訴率が39.9%--一般民事80%,交通事故90%,アメリカ(ハワイ,カリフォルニア,ニューヨーク)80%--(饗庭忠男:日本病院会主催,医事紛争セミナー講演,1978・1・24)ということは,初期の解決方法に問題がなかったのだろうかと考えさせられるものがある.いずれにせよ,患者の苦情と医事紛争とは紙一重の問題ではないだろうか.

外来管理

外来管理課の業務

著者: 南雲英俊

ページ範囲:P.154 - P.155

 病院での各科外来における事務的業務の担当は,看護部門で全面的に行っているところ,医事部門から数名派遣し,看護部門管理の下に行っているところなど,各病院によって様々である.
 私の勤務している病院では,一課を設け,事務部門所属の下に外来事務を受持つこととし,現在内科を行っており(患者数全体の4割弱),54年中に全科を予定している.

薬剤

注射器,注射針による異物汚染

著者: 堀岡正義 ,   青山敏信

ページ範囲:P.156 - P.157

 体内に直接注入する注射剤中に異物が含まれていることが指摘され,1966年FDA主催の"Safety of La-rge Volume Parenteral Solutions"のシンポジウム1)が開催されて以来,製薬メーカーは異物汚染を少なくする努力を行ってきた.
 しかし,異物を含まない品質の良い注射剤といえども,アンプル開封時に多数のガラス片が混入したり,注射筒,再生使用する注射針,dis-posable輸液セットなどにより,使用者段階において異物汚染が起こり,GMPの目的である品質の良い医薬品の提供という精神が,患者への恩恵とはなっていないと考えられる.

現場訪問

病院ハウスキーパーの一日—済生会中央病院中沢節子さんに聞く

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.158 - P.159

"ハウスなんとか課から電話ですよ"
 中沢さんは現在,済生会中央病院ハウスキーパー課の主任である.この病院に勤務を始めたのが昭和33年で,昨年ちょうど20年勤続の表彰を受けた.昭和45年この病院にハウスキーパー課ができる以前は,家庭の事情もあって残業のない用度課所属の売店に勤めていたが,ハウスキーパー課ができると同時に,当時の吉川課長の下で,はじめてハウスキーパーの業務に携わることになった.まだ当時はハウスキーパー課のある病院はほとんどなく,中沢さん自身どんなことをやる所かわからなかったし,他部門の人たちからもなかなかその存在を知ってもらえず,電話を入れても,"婦長さん,ハウスなんとか課から電話ですよ"という具合であった.
 中沢さんは現在千葉市から電車で通勤している.自宅から病院まで1時間半余りの通勤距離であるが,ラッシュ時を避けて8時15分ごろには病院に入る.

今月の本棚

—園田 恭一 著—「現代コミュニティ論(現代社会学叢書)」

著者: 高橋勇悦

ページ範囲:P.160 - P.160

コミュニティ論の貴重な文献
 「コミュニティ」の形成の問題が保健医療関係者に取上げられるようになってからすでに久しい.国民生活審議会の『コミュニティ』という報告書が出された昭和44年を起点に数えれば,もう10年近くになる.10年近くを経た今日,コミュニティの問題はいわば一つの画期を迎えたように思われる.本書はそういう時宜にかなったコミュニティ関係の貴重な一冊である.

新・病院建築・14

財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院—市街地病院の暗さを克服した光庭

著者: 渡部英彦

ページ範囲:P.161 - P.166

はじめに
 この病院は,世界の心臓外科の急速な進歩とともに,常にその最先端にあって歴史をリードして来られた,榊原仟博士の業績を記念し,同時に博士自ら,院長として,治療と手術,更に臨床研究に取組まれる目的で計用された,心臓血管系難病の専門病院である.
 母体となる「財団法人日本心臓血圧研究振興会」は,今から十数年前,やはり榊原博士の発案により,多くの医者・学者と,財界の協力援助により設立され,その附属研究所は,今日まで広く世界の医師・研究者に開放されて,数々の研究成果を生み続けている.この病院は,東京女子医大構内にある財団附属の研究部門と一対をなす施設でもある.

精神医療の模索・14 座談会

精神科医に求められるもの—その倫理性をめぐって(下)

著者: 長野敬 ,   高宮澄男 ,   吉松和哉 ,   仙波恒雄

ページ範囲:P.167 - P.172

医師の自律性と自己規制
 仙波疾病概念,特に分裂病にしても精神科医のコンセンサスを得ることは難しい状況ですが,精神科医の立場からそんなに全部クリアカットに一致できなくても,ある程度の倫理性とか患者の扱い方が決まりそうな気がするんです.それが,ある先生は非常に遺伝的な考えで,もう不治の病であるという考えに固執される人の管理する病院なり患者の処遇というのは,そうでない立場をとる所とは非常に違うんですね.
 吉松その点,現在の段階ではいろいろな立場があるのだということに対し,寛容であるということが臨床医としてのひとつの倫理じゃないかと思うのです.

いま民間病院は 座談会

民間病院の悩み(2)

著者: 大司俊重郎 ,   熊谷頼明 ,   三枝義雄 ,   依光一夫 ,   柏戸正英 ,   河野弘道 ,   鈴木憲輔 ,   一条勝夫 ,   小笠原道夫

ページ範囲:P.173 - P.177

 前回(第1号84〜87頁)は各病院の最も切実な問題点についてお話しいただいたが,今回は各病院に共通の悩みを取り上げた.民間中小病院の今後の生き方に対する関心には並々ならぬものがあった.

ほんねたてまえ

職員のための病院/「患者のために」とは

著者:

ページ範囲:P.178 - P.179

 どこの医大でも看護学校でも,入学試験の際には,「なぜ医師の道を選んだか」とか「なぜ看護婦になりたいのか」という作文なり口頭試問をやっているはずである.答は決まって「親戚○○の死(病気)をみて何とかできる人間になりたかったから」とか「病める人たちのために役立ちたいから」というきまり文句が返ってくる.受験勉強しかしていない少年少女にとって,ほかに答える知識がないためでもあろうか.受かりたいために心にもないウソをついているわけではなく,少なくも一部は本心であろう.
 医師,看護婦に限らず,医療に従事する職員はすべて,世の中のため,患者のために自分は献身していると思っているであろうし,真面目な専門職として,より良い高い知識と技術を身につけようと日夜努力しているわけである.「患者のために」は病院の中ではまさに錦の御旗である.「金がないから」「赤字だから」などといって彼等の要求を削ったり認めない経営者,管理者は,血の通わぬ非人間か,金に魂を売った悪魔のように罵倒される.

読者の声

不自由な方のための自助具展をひらいて

著者: 稲垣喜久子

ページ範囲:P.179 - P.179

 山峡の小さな温泉町にある,主にRA疾患を対象としている岡山大学の分院に勤務しています.70床,1看護単位,RA疾患約75%,一般内科,外科,血管外科,産婦人科と小規模ながらも,多種多様.ご多聞にもれず老人患者50%,非常時担送患者30%,ADL動作要介助者50%という数字で,身体の不自由な患者と,毎日を心忙しく過しています.太陽の恵み少ない山陰の山の中で,症状の目立った好転もなく,毎日毎日を,それでも,少しでもよくなりたいと,がんばっている患者さんたちを見ていると,私たちも,職業と家庭の両立は難しい等と嘆いて,マンネリズムに浸ってばかりはいられない,と昨年は少し頑張ってみました.
 名付けて「不自由な方々のための自助具展」.約半年間の準備期間を持ち,ようやく10月17日からの4日間,院内で開催しました.ゴルフの穴あきボールを使ったペンホルダー,コマ付バケツ,木製の蛇口まわし,入浴用タオル,マジックベスト,セパレーツ式和服,着やすい外出着等々,小物を入れると,展示品は,120点に及びました.日頃,私どもが勤務しながら思いついたこと,聞いたこと見たこと,逆に患者さんに教えていただいたことなどをまとめ,市販品を買って手を加えたり,あちこちから便利なものを借りて来たりしました.夜なべ仕事で縫ってくる人,旅行の汽車の中で,回し編みをしてショールを仕上げてくるグループ等々,人それぞれ,隠れた才能を持っているものです.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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