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—川上 武・二木 立 編—「日本医療の経済学」
著者: 石塚正敏1 前田信雄1
所属機関: 1国立公衆衛生院衛生行政学部
ページ範囲:P.428 - P.428
文献購入ページに移動医療への経済学者のアプローチ
近年欧米先進諸国の医療問題に関する論文を見ると,エコノミストを始めとする社会科学者たちの医療の領域への進出は驚異的でさえある.欧米では医療費の高騰というものが医療問題のうちでも第一の関心事であり,また国家的な重大事でもあるからである.我が国においても医療保険の分野で,社会科学者の(狭い範囲での)参加があったが,産業界が医療市場に強い関心を示すことに比例して,エコノミストらも広くこの領域に目を向け始めてきた.しかし,彼らの医療問題へのアプローチは,欧米でのそれと比較すると正直言って,いまだしの感が強い.
なぜそうであるかの第一の理由としては,医療というものが極めて専門的かつ閉鎖的な分野であることがあげられる,特に,医師(医療技術者)の診断・処方といった技術面に関する分析を的確に行うことは,門外漢にとっては相当困難なことであるに違いない.だが,高額なコストを費やす検査の指示や投薬の処方を下すのは医師なのであり,一つ一つの症例については微々たる価格でも,国民総医療費に与える影響は無視できぬくらい大きなものになる.医療機器産業や薬品産業の分析を行う際にも,こういった医師の決定(裁量権)という影響力を無視するわけにはいくまい.
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