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雑誌目次

雑誌文献

病院38巻6号

1979年06月発行

雑誌目次

グラフ

英国の病院建築

ページ範囲:P.453 - P.458

 イギリスをはじめヨーロッパの各国では,19世紀まで,医療や看護を受けるところはもっぱら家庭であり,病院は主として家庭での医療が受けられない人々を収容するための施設であった.それらの建物も,僧院や刑務所・兵舎などを転用したものが多かった.
 第二次大戦直後,国営医療制度が成立したとき,国に移管された2,688にのぼる医療施設のうち約半数は,前世紀またはそれ以前に建設されたものであった.その後30年を経て,かなりの数の病院が新築されたが,現在でもまだ約3分の1は19世紀に建てられた古い建物にやや手を加えた程度のものである.

結核患者の心の灯となってきた国立療養所東京病院院長 島村喜久治氏

著者: 石原啓男

ページ範囲:P.460 - P.460

 昭和12年4月,氏は東京大学医学部を卒業し,直ちに東京府立清瀬病院に就職された.当時の肺結核はその治療も医療行政も誠に貧弱なものであり,若き氏はこの問題に情熱を燃やし取り組んで来られた.結核研究に打ち込む一方,結核患者の悩み苦しみに対して親身となって当たり,絶えず励まして来られた.NHKの療養相談や療養雑誌での氏の啓蒙記事がいかに多くの結核患者の心の灯となっていたことか.若くして国立療養所清瀬病院の院長職につかれ,敗戦直後の困難な時期の療養所管理に心労を重ねられたことは,氏の白髪と当時の名著書"院長日記"でその一端を知ることができる.
 昭和37年1月,国立東京療養所と合併し国立療養所東京病院となってからは,副院長として,砂原院長の補佐役を努めて来られたが,昭和53年12月二代目東京病院院長に就任された.昭和54年4月には第541回日本結核病学会の会長の大役を受け持たれている.

焦点 対談

これからの老人医療(下)

著者: 藤田拓男 ,   奈倉道隆

ページ範囲:P.461 - P.464

 「老人が病院を占拠する」とセンセーショナルに語られる昨今だが,高齢化社会の進展とともに老人患者はますます増加するであろう.前号では,老年の特性を生かした医学・医療について話合っていただいたが,本号では施設の問題を展開する.

企画1 一般診療科と精神科の協力

旭中央病院の経験から—病院管理者の立場より

著者: 諸橋芳夫

ページ範囲:P.465 - P.467

 私どもの旭中央病院は昭和28年,診療4科,病床数113で発足したが,昭和40年精神神経科140床を併設した時には,診療11科,総病床482床(精神29%)となり,その後も拡大して現在18科,670床(うち精神210床,31%)となっている.併設13年の経過と体験の上に,与えられたテーマについて以下に述べたい.
 なお,併設の動機は第1に,人間には肉体と精神の両方の病気があり,昔から健全なる精神は健全なる肉体に宿る.またその逆も言われている.したがって総合病院に精神科を併設して真の意味の総合病院を築きあげたかったこと,第2に地域周辺の精神医療状況を見聞し当時の筆者なりに疑問を感じていたこと,第3に近くの銚子市立病院が精神科を併設し(昭和31年),期待どおりの成果を見せたことに励まされ,第4にそれまで診療科を増設してきて,一つでも増えることが,いかに病院の機能を幅広く,かつ厚くするか,体験的にも自信を持っていたことを付け加える.

国立国府台病院の経験から—病院管理者の立場より

著者: 大島英義

ページ範囲:P.468 - P.469

 このようなテーマが取上げられること自体,多くの総合病院で一般各科と精神科の協力が必ずしもうまく行っていない場合があることを示すのであろうか.総合病院の各科は,大小の差こそあれ,それぞれ専門分野を持つ診療科であると同時に,各科が相互に協力してゆくのは当然であるのに,特に精神科のみを取上げて,一般各科との協力を考えることにまず問題があるといえよう.

大阪警察病院の経験から—病院管理者の立場より

著者: 小山英次 ,   工藤義雄

ページ範囲:P.470 - P.472

 近代医学の進歩により,臨床各分野において,細分,専門化が急速に進みつつある.しかし,個々の治療者が持ち得る能力にはおのずと限界があり,したがって高度の医療技術を駆使するためには,医師,看護婦,パラメディカルスタッフなどすべての医療関係者の協力によるチーム診療が必要であることは,今更申すまでもないことである.
 そして,現代の総合病院における精神科医療も,このチーム診療の一環として取り上げ検討すべきものと考える.

高知赤十字病院の経験から—病院管理者の立場より

著者: 長崎彬

ページ範囲:P.473 - P.474

 現在のように"多忙"が仕事面でも生活面でも人々を追いかけ,更に情報過多が煩雑さに輪をかけ,世相がめまぐるしく変化する現代に"不安"と"苛立ち"がないと言えばうそになる.
 病院はその不安と焦燥の渦中にあり,それに嫌々でも立ち向かわざるを得ない状態であろう.

人工透析センターと精神科

著者: 加藤英夫

ページ範囲:P.475 - P.479

人工透析療法について
 人工透析療法には腹膜灌流法と血液透析法があり,急性腎不全に認あられる一時的な腎機能低下を代償する急性透析と,腎機能廃絶のため永久的に継続する長期慢性透析療法とがある.
 前者においては疾患の経過が可逆性で,一時的であるため,患者の精神医学的問題に悩まされることは少ない.後者では腎移植でも成功しない限り永続せねばならず,透析の全経過の中で種々の精神医学的問題に迫られることが多い.

ニュース

来場者のべ約8万人の盛況—'79国際モダンホスピタルショウ開催/いまねたきり老人をめぐって—東京看護学セミナー・シンポジウム

ページ範囲:P.472 - P.472

 日本病院会および日本経営協会主催の「'79国際モダンホスピタルショウ」が,去る5月10日〜13日の4日間,東京・晴海の東京国際見本市会場で開催された.
 今回は「のびゆく医療住みよい社会—福祉との調和—」をテーマに,展示実面積約22,000m2に102社が参加,出品点数は5,000点に及ぶ各種機器の展示実演および付帯事業が行われ,来場者は4日間でのべ8万人という盛況であった.

読者の声

小病院,第一線診療所の予防医学に対する取組みにおけるモデルの提唱/本来の「健康づくりと医療」の奉仕—本誌4月号を読んで

著者: 西沢芳男

ページ範囲:P.478 - P.479

 現代医学のめざす一つの大きな目標は予防医学の確立とその推進であろう.予防医学には,第一次予防(発生の予防)と第二次予防(進展の予防)の2つの立場が存在する.第一次予防に関しては種種の社会的問題も介在し,その推進には困難が多いが,一方,第二次予防に関しては,日常地域と密接な関係にある第一線の地域医療者にとっては容易に行い得ることであり,この第二次予防活動を通じて,第一次予防活動への発展も望まれる.
 しかしながら,我が国の現状においては,第一線の地域医療者にとって容易に行い得るはずの第二次予防においても十分な体制が敷かれているとはいいがたい.

精神医療の模索・18

総合病院精神科における身体合併症診療

著者: 折橋洋一郎 ,   石田元男 ,   冨永一

ページ範囲:P.480 - P.483

 精神科診療そのものは,単科の精神病院とあまり変わらないけれども,総合病院の精神科では,より受診しやすい地域医療の窓口となるほかに,総合病院診療チームの一員として,他科の外来や病棟で合併精神疾患を診療し,一方精神科外来と病棟で身体合併症を他科と協力して診療するいわゆるコンサルテーションワークを行っている.
 これについてはすでに国立東京第一病院(現国立病院医療センター)精神科での他科から診療を依頼された外来症例の調査1)や,国立病院精神科共同研究班による精神疾患者の身体合併症診療に関する研究3)がある.

企画2 病院と緑化

治療環境としての病院緑化

著者: 左奈田幸夫

ページ範囲:P.484 - P.486

緒言
 気候は,正常人の心身にさえ異常を起こし,バイオリズムを狂わせ,大事故を起こすことも知られている.また,がん,精神病,喘息の心臓発作など,多くの疾患と相関関係がある.国際生物気象学会(1972年)ワルシャワ医大研究医師グループは,716人の動脈硬化,同高血圧,心筋症,神経症などについて気象条件と比較している.
 特異な反応は,暑い夏期には,気圧低下時に心臓病患者を入院させておくと発作を和げる.それは,気温の上昇と大気圧の低下が,心筋のカリウム量を減少させる,そのメカニズムは生殖腺とステロイドホルモン産生にありという.気象上の変化が,心筋や冠動脈の病変に及び,死につながるからである.

治療園としての病院造園

著者: 藤井常男

ページ範囲:P.487 - P.491

 病院環境としての緑地空間の造園は,単に修景的,慰楽的な効用のみならず,近時,災害時における防災や避難緑地としての重要な役割をもつことが認識され,また,患者の生活の場としての病棟環境のあり方,そして更に治療園(医療用庭園)としての役割も考えられるようになってきた.

緑化計画の進め方と予算

著者: 荒木菊次

ページ範囲:P.492 - P.495

 日本の病院緑化については,上原敬二博士が大正13年10月著述された『造園学汎論』の中で,"療養造園"として日本で始めて取り上げられ,「病院」「療養院」「サナトリア」の3節にわたり,治療園としての設計上の問題点を力説されておられる.降って1959年,日本病院協会の理事会において,病院の緑化運動が議題となり,翌1960年3月号の本誌に,当時病院管理研修所主事であられた吉田幸雄先生が,「病院緑化運動について」という題のもとに,緑化の重要性をしばしば述べられ,これを実践するように全国に呼びかけられた.
 その後20年余を経た今日,一部関係者のたゆまぬ運動の展開努力があったとはいえ,その結果は牛歩の感を深くする.ではなぜ病院の緑化は病院経営者,管理者には魅力がないのか.かつて藤井常男氏(日本病院緑化研究会理事)は,緑化の整った病院には基準給食,寝具と同様に点数加算が認められたらどうかといわれたが,これも一つの方法かも知れない.医療金融公庫あたりから緑化経費が融資の対象ともなればまさに発展すること疑いなしといえる.

事例・私の病院ではこうしている—社会保険広島市民病院 徳島県立中央病院 国立療養所中部病院 川崎医科大学附属川崎病院 藤田病院 浅井病院 福間病院 三船病院 自治医科大学附属病院 北里大学附属病院 九州大学温泉治療学研究所

著者: 甲斐太郎 ,   後藤田淳美 ,   高橋龍之助 ,   仁科義幸 ,   藤田幸雄 ,   浅井利勇 ,   佐々木勇之進 ,   三船清子 ,   大木弘 ,   八木ユリ子 ,   中溝慶生 ,   矢永尚土

ページ範囲:P.496 - P.499

社会保険広島市民病院
 国際平和都市広島にふさわしい美しい病院づくりを目指して,緑化を始めてから27年たった.その間のたゆまぬ努力は,今ようやく報われだしたように思われる.
 当院では,病院の周囲は,トベラを中心とした生垣で囲み,それに接して多数の常緑樹を植え,散策のための舗装道路を除いて病院全域を緑化し,その間に,芝生,花壇,築山,亭,噴水池,プール,庭園灯等を配していうどりをそえている.またビルの谷間にあたる屋上には人工芝をはり,鉢植えの常緑樹を配置して景観をそえ,9階建新病棟屋上には本格的屋上庭園を作って,散策の場所をもたぬ患者さんの憩いの場所とした.

設備機器総点検

調剤用自動錠剤包装機

著者: 福田享示郎

ページ範囲:P.501 - P.501

 最近の煩雑化した調剤業務の合理化を図る手段として,特に錠剤の投薬業務を中心とした一包化投薬(一包化調剤)が関心を集めているが,これは看護部門の与薬業務の合理化にも通じ,労務の改善および軽減による医療の充実,ひいては患者へのサービス向上に寄与することである.この業務の目的にかなうものとして,コンピュータによる電子自動制御システムをもった錠剤自動包装機が最近実用化され好評を得ているようである.当院では,サンヨー自動錠剤包装機ATC−52ADの導入により一包化投薬に費やす日常業務の合理化にかなりの効果を上げており,本機の利用価値を見いだしている.

統計のページ

病院の原価管理—第6回 内科および耳鼻咽喉科外来の原価計算

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.502 - P.503

 採算性内科外来と耳鼻科外来の損益分岐点図は図33のとおりである.内科外来の収支は全期間を通してほぼトントンの状態を保ち,損益は+2%〜△5%の間で安定している.一方,耳鼻科外来の収支は,48年49.8%,50年51.9%と大幅な赤字であったが,52年には14.6%の黒字に転じている.これを患者1人1日当たり収益対原価で示したものが図34である.
 原価内科外来の患者1人1日当たり原価構成(図35)は3部門別では外来総合(4月号参照)に比べ,中央診療部門の利用状況が金額で1,200〜1,700円,構成比率では33〜40%(外来総合1,500〜2,500円,60%前後)と低く,直接部門が1,700〜2,300円,48〜54%(外来総合600〜1,200円,26〜30%)と高い.また,耳鼻科外来(図36)では中央診療部門の利用度が内科よりも更に低く,直接部門の占める割合は62〜70%と一段と高く,それぞれの診療科の特質を示している.3部門原価を費用項目別にまとめた内円を見ると,内科の材料費率が44〜50%と最も高く,耳鼻科では給与費が56〜60%と高い.

医療の周辺医療経済 医療経済—考え方の転換・6

医療評価の実際

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.504 - P.505

評価とは何か
 医療経済の分析がなされるためには,まず医療とか保健の効果がよく分析されていないといけない.効果分析や効率分析は,その評価のひとつの方法だが,評価そのものをしっかり把握しておく必要がある.
 まず,医療や保健における評価の概念であるが,一言でいえば,評価とは,目的の達成度の測定もしくは判断であり,それを定量的に行う場合,定性的に行う場合の両方があろう.つまり医療または保健サービス自体が,初めに達成するべく立てた目標の成功の度合を明らかにすることである.したがって,実際の医療の場では,研究という場での評価一例えば薬剤効果の評価一と違って,あくまで当初の事業そのもののプログラムの妥当性について下す判断となる.研究での評価は,新知見を得ると終わるものだが,事業についての評価は,次の新規もしくは継続事業のときの重要決定要因となる.あるいは,次の問題発見や目標設定につながるものである.すなわち,ここでいうプログラム評価は,図1のような保健計画化過程(healthplanning process)の一環を構成するものにほかならない.図1の1からIVまでがらせん状になり,より高次の計画化へ向かうもので,評価はその一段上の判断や代替案策定のための重要なプロセスだともいえる.

講座 入門・診療記録管理・6

入院診療記録管理の実際(続)

著者: 栗田静枝

ページ範囲:P.506 - P.507

XIII.集められた診療記録の整理,点検
 診療記録は,病棟で使用されている時点では,医師,看護婦が使いやすいようにとじてある.例えば,患者の日ごとの状態が詳しく書いてある経過記録などを最上部に置き,見やすくしてある.また,患者の疾病の種類,治療方法などがさまざまであるから,病棟ではとじ方が一定していないこともあるし,特殊の記録用紙を使っていれば,それぞれの記録はちがった順序でとじられていることもあろう.
 診療記録管理室では,収集後,診療記録委員会で定めた規定にしたがって,これらを一定の順序に並べかえ,破損した用紙の修理や,数多くの検査リポートなども日付順に整理し,はりちがいを訂正する.量的面(quantitative)の責任はすべて診療記録管理士が負っているので,整理,点検の作業は,十分に注意深く行わなければならない.

実務のポイント 放射線 診療放射線技師の役割・1

放射線科内におけるコミュニケーション

著者: 荻原淳

ページ範囲:P.508 - P.509

 放射線科の機能は病院の運営方針によって大幅に異なり,コミュニケーションの必要性も異なってくるので,ここでは私どもの病院のシステムにおいて生ずるコミュニケーションについて述べる.
 まず組織としては診療部門の中での中央化部門としての放射線部であり,放射線科医,技師,看護婦,事務員,補助員が配備されている他,一部に各科の医師が立入って診療に従事する.日常の診療のほとんどは各科からの依頼によるものである.この項では放射線科とは医療法上でいう診療科をさし,放射線部とは中央化した機能を持つ放射線診療組織を指すことにする.

管理技法 病院実務管理ケース・スタディ・2

病院管理組織図の制定

著者: 井上昌彦

ページ範囲:P.510 - P.513

 ある時,病院職員の幹部研修のため専門家の講師をお願いして,数日間の集合訓練を行った.その時,打合せに来られた講師の方の最初のご要望は,"病院の管理組織図と病院の運営方針を示す最高管理規程のようなものがあれば,それを見せてほしい"ということであった,この講師の方は,事業体の管理監督者に対する研修の指導者としては,我が国でも有数の方であって,ご自分としては,初めての経験である,病院の職員を対象とする訓練を進めるのに当たって,まず,病院なるものの基本的な概念を得ておきたい,と思われたからである.
 どこの会社であれ,工場であれ,事業体には,必ず,社内の業務の分担を定めた管理組織図,事業体の事業目的その他の基本的事項を定めた定款,そして,事業目的を達成するための具体的な業務の進め方について,勤務者全員に対して最高幹部が指示する経営方針,この,少なくとも3種類の事業運営の基本となる規程は,必ず文書によって全勤務員に示されて,勤務者はそれを熟知し,それに従って事業活動が行われているのである.したがって,これらの規程を見れば,その事業体及び勤務者の進もうとする方向が一目瞭然としている.病院職員の研修を依頼された外部からの講師としては,これらの資料によって,病院を承知した上で,指導を行わなければ,指導の内容が,病院の現実と遊離したピンボケ教育になってしまう.そうならないための講師の要望であったのである.

現場訪問

医療法人財団河北総合病院放射線科技術科長—天海太郎氏に聞く

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.514 - P.515

 一先生は院内のいろんな機械器具をご自分で改良されたり考案したりすると伺って,お邪魔したのですが,河北病院に来られたのはいつですか.
 天海昭和27年,蔦の病院として有名な頃です.

今月の本棚

—オッレ・ハンソン 著 柳沢 由美子・ビヤネール多美子 訳—「スモン・スキャンダル—世界を蝕む製薬会社」

著者: 日比逸郎

ページ範囲:P.516 - P.516

薬剤監視への新しい問題提起
"産業システム"との孤独な戦い
 スモンという薬害のことは,日本の国民はだれもが知っている.すでにその元凶であるキノホルムを代表とするオキシキノリン製剤は,日本では発売禁止になっているし,1971年5月以来の各地のいわゆるスモン裁判によって,スモン薬害のすべてが明るみにだされている.それなのに日本以外の国では,この恐ろしい事件は一部の識者を除いてほとんど知られていないし,元凶のオキシキノリンは現在もなおチバガイギー社などによって大量に製造され,世界各地で売りまくられているのである.日本では当局の集計でも約1万,実際にはその数倍の患者が確認され,その3〜6%が死亡しているというのに,日本以外の国では何百万の人々がこの薬を40年間も使い続けていて,スモン類似の患者発生は40〜60例,死亡例は1例の報告もないというのが,情報化地球時代といわれるこの時代における医学情報の現状なのである.
 スエーデンの小児神経疾患の専門医である著者のオッレ・ハンソンはオキシキノリン製造の元凶たるチバガイギー社と,それを取巻く"産業システムに乗った医者たちの集団"を相手にしたドンキホーテ的な孤独な戦いを展開した人である.

新・病院建築・18 対談

英国における病棟設計の変遷

著者: 伊藤誠 ,   長澤泰

ページ範囲:P.517 - P.524

 伊藤イギリスの病院建築が着実な積み重ねを続けてきていることは既に広く知られていますが,きょうはそのうち特に病棟の設計に問題をしぼってお話をうかがいたいと思います.長澤さんは,イギリスでみっちり病院建築の勉強をされてきたわけですが,まずはじめに自己紹介をかねて,イギリスのどこでどういう勉強をされてこられたか,ざっと話してください.
 長澤私は1977年8月から1年4か月にわたり,北ロンドン工科大学の医療施設研究部に籍をおいて,病院を中心に,医療施設の研究をしてきました.長いと思っていましたらあっという間で,その最後の頃,伊藤先生がこられた機会にいくつかの病院を見ることができたわけで,大変うれしく思っています.

海外の医療・5

ハンガリーの医療—その訪問記

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.525 - P.530

 農業国で人口一千万,一院制で,社会主義労働者党が政権をとっている,ヨーロッパで唯一のアジア系民族の国であるハンガリーを,私は昨年5月に訪問しました.医療制度の調査を目的に,三週間の旅をしました.学ぶべきものは多々ありましたが,その主なことについて,できるだけ具体的に,かつ日本との比較をまじえながら述べてみます.この国は小国ですが,現在経済成長率4%を目指して,国民の健康管理を大切にしながら動いている国です.

いま民間病院は

パート医師に関するアンケート調査

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.531 - P.534

 病院管理者にとって最も重要な課題が勤務医の確保であるが,また,最も頭の痛い問題がパート医の扱い方である.
 病院勤務医の不足は今にはじまったことではない.それは戦後の医師養成計画の失敗に起因している.戦時中の大量養成と軍医の大量復員がもたらした医師過剰という一時的現象に惑わされて,終戦後は医大の減少など,入学定員を大幅に減らし,そのまま20年近くも放置してきたというところにある.国民皆保険がもたらした医療需要の増加は,医療施設を大幅に増やしたから,医師とのアンバランスは,年々はげしくなってきた.

ほんねたてまえ

「出せる」ところから「出させる」

著者: T.S

ページ範囲:P.535 - P.535

 医事紛争は年々増加し,そのうえ患者側の勝訴率も上昇してきた結果,医師の診療意欲を著しく低下させてきた.このことから医師は当然の医療行為にもひかえ目となり,ひいては患者にとっても目にみえない不利をもたらしている.
 医療は本来,請負契約や雇用契約のように結果を予測して契約できるものではなく,患者は医師を信頼し,その善意にまかせるところの準委任契約とされてきた.元来身体は分解できないので,外からの限られた情報しか得られず,また患者の病状は個性的な経過を示すので,病気の本態はまことに低い確率でこれを推測しているに過ぎない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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