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病院職員のための医学知識
最近の輸入伝染病
著者: 大友弘士1
所属機関: 1岐阜大学医学部寄生虫学
ページ範囲:P.242 - P.243
文献購入ページに移動過去幾多の惨禍を記録している我が国の伝染病も逐次制圧され,今日では赤痢,腸チフス,発疹チフスなどの常在的流行病も昔日の猛威は影をひそめ,同時に伝染病という言葉のもつ重苦しいニュアンスも次第に遠退きつつあると言えましょう.
その反面,東南アジア,オセアニア,アフリカ,中南米などの農業を基盤とする開発途上国を含む熱帯地域では,依然として各種感染症の猖獗が,毎年犠性者の直接死因となり,現地住民の生活に脅威を与え,ひいては,その地域の開発と近代化を阻害し,それらの関連において後進性を余儀なくされている実状も無視し得ません.またこれら地域との人的物的資源の交流は増大し,しかも最近の国際交通機関の高速化,大型化に伴い,種々の感染症の病毒が我が国に搬入される危険性は増大しつつあります.このような経路によって国外から搬入される伝染病を輸入伝染病と呼んでいますが,この中にはかつて我が国にみられなかった疾患もあれば,また我が国では絶滅し,あるいは著しく減少している疾患もあり,その態様は種々です.しかし,重要なことは我が国に存在しない疾患,あるいは現在は流行が終熄している疾患等については,宿主の免疫抵抗性は著しく減弱し,防禦能は皆無に等しいと考えられるため,いったん輸入伝染病の侵入を見,その病毒に曝露されれば国内に不測の事態を招く危険があることです.
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