icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院40巻4号

1981年04月発行

雑誌目次

グラフ

チームワークを根幹とする積極的治療—慶応義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター

ページ範囲:P.281 - P.286

 豊富な出湯と温暖な気候,山紫水明の景観に恵まれた伊豆半島は,首都圏に近く,我が国リハビリテーション(以下リハ)医療の拠点となっている.半島中央の修善寺から車で10余分の狩野川沿いに,昭和52年4月,日本損害保険協会の寄附によって設立した当センターは,積極的な治療活動を特徴とし,55年末までの入院患者は延1,474名にのぼる(平均在院日数94日,脳卒中は100.4日).
 対象はリハの,可能性がある患者であれば,疾患と年齢を問わない。疾患別では脳卒中等の内科系患者が45%,外傷や整形外科系が55%の比率である.入院経路は,約30%が慶大病院,30%が慶大関連病院,残りが他病院からの紹介患者で,県内の地域医療的なケースも20%近くある.

基礎研究から社会的実践への道 日本結核病院協会理事長 北錬平氏

著者: 下出久雄

ページ範囲:P.288 - P.288

 ある若い医師たちの勉強会で大きな風呂敷包みをさげてこられた北先生とお会いしたのはもう10年ちょっと前であった.先生は「私の若いころは晴嵐荘(茨城県)から剖検材料をリュックでかついで中野の岡治道先生のところまで教えを乞いに来たものだ.今はこうして教えるものが重い教材を運んでくる」といささか皮肉っぽく笑いながら話された.先生は非常に熱心に,懇切丁寧で実証的,論理的な講義をされた.
 先生のこの精神は先生の著書「結核症候学」,「肺結核の臨床病理」や昭和32年の結核病学会シンポジウム「結核症の発病について」での病理解剖学的研究報告にもよく現されていた.これらの研究は昭和13年からの国立療養所村松晴嵐荘時代と22年から33年までの結核予防会結核研究所時代の20年の長きに亙っている.東大昭和12年卒の先生の同期の方にはいわゆる「社会派」的な研究者が多かったようであるが,先生は学生時代から農村衛生調査のために朝鮮に出かけられたり,戦後は自宅に同好の士を集めて結核の社会医学的研究を行われたそうである.先生のこの考え方は結核が減少した今日でも一貫しており,その正しさは最近の米国の論文「化学療法の勝利と社会経済問題」によっても証明されている.

小特集 肝炎 その院内感染防止対策

肝炎ウイルスの研究と予防—現状と展望

著者: 西岡久壽彌

ページ範囲:P.289 - P.291

 肝炎ウイルスの本態を究明するのには,多くの難関がありましたが,この10年間の研究により,A型及びB型肝炎はほぼ究明することができました.我が国では,A型は次第に減りつつありますので,ここではB型肝炎(HB)ウイルスに関して,最近の研究成果と今後の予防についてお話しします.

院内感染防止対策のあり方

著者: 岡田清 ,   神山一郎

ページ範囲:P.292 - P.295

 肝炎ウイルスとしてはA型及びB型肝炎ウイルスが発見されているが,このうちA型肝炎は院内感染ではほとんど問題がない.これはA型肝炎の感染がその発症前に限られており,したがって肝炎症状を伴い医療施設を訪れるときにはすでに感染を起こさない状態になっているからである.A型あるいはB型肝炎以外に問題となる肝炎として非A・非B型肝炎がある.この肝炎もウイルスに起因するものであり,しかもその持続的保有者(キャリア)が存在することが知られている.したがって本稿で詳述するB型肝炎の場合と同様に,本症が医療施設内における肝炎として,将来問題となる可能性がある.しかしながら本症についてはまだ不明の部分が多く,本症と院内感染との関係を論ずる時期には至っていない.
 このようなわけで本稿ではもっぱらB型肝炎の院内感染予防について述べることとする.HBウイルスの院内感染予防については,多くの発表がみられるが,ここでは編集者の意向により,東京都B型肝炎対策専門委員会答申1)を中心として述べる.感染予防対策は画一的なものではなく,その施設の規模,人員,医療内容,設備,経済性などを考慮して検討し,それぞれ具体的に決めるべきものである.本稿が,このような具体的対策を検討,実施する上で参考になれば幸いである.

院内各部門の対策のポイント

内科系部門における予防対策

著者: 赤羽賢浩

ページ範囲:P.296 - P.298

 医療従事者の肝炎はまぎれもなく職業病の一種と考えられるが,数多くの犠牲を踏まえての肝炎(ウイルス)に関する研究の進歩によって,現在では肝炎ウイルス感染症のごく一般的な知識を有し,原則的な注意事項を守ってさえいれば,一部の不測の例を除いてその多くを防止できる時代になってきている.本稿では内科部門での肝炎ウイルス感染の防止対策について述べることになっているが,まず一般的な肝炎ウイルス感染症を概説した上でその注意点を述べてみたい.

手術部門における予防対策

著者: 小林寬伊

ページ範囲:P.298 - P.299

 B型肝炎(HB)は院内感染防止対策上重要な課題の一つであり,一時は,手術の際の輸血に伴う術後のHBや医療従事者のHB感染が高率にみられ,大きな問題となっていた.
 しかし,最近になって,検査技術の進歩と,医療従事者のHBに対する正しい認識とにより,その感染率も低下し,また,免疫学的予防法が確立される日も近い.

看護部門における予防対策

著者: 高原澄枝

ページ範囲:P.300 - P.302

 日本人には2〜3%のHBs抗原陽性者がいることが明らかにされている.ここではHBs抗原陽性者の対応に焦点をあてて述べるが,日夜不特定多数の患者を看護する者は,常に肝炎の臨床を理解することはもとより,有効な予防の手だてを実行する義務がある.HBウイルス感染事故のほとんどが医療従事者の手指を介して起こっているので,自らを防御しながら感染経路を断ち,患者指導により,より広く社会的にも予防の効果を得るように努めるべきである.看護婦は交代勤務により専門分野が変わることが多いが,感染予防の基本は同じであるから,各看護単位の特殊性をわきまえ,予防法を実行するべきである.

臨床検査部門における予防対策

著者: 藤沢武吉

ページ範囲:P.302 - P.303

 近年B型肝炎の発症例が増加し,それが悪化して肝硬変や肝がんなどで死亡する人が年々増加している.このことを重視して,厚生省や医療に従事する専門職種の団体などが中心になって予防対策が検討されてきたので,それをもとにして述べる。

ハウスキーピング部門における予防対策

著者: 酢屋ユリ子

ページ範囲:P.304 - P.305

 院内感染防止対策を考える場合,全病院的に,院内感染防止委員会などが設置され,ここで検討された管理基準に基づいてそれぞれの部門で具体的な対策を実施することが重要である.このことは,ハウスキーピング部門においても基本とすべきことである.
 肝炎,特にB型肝炎対策を検討する場合,廃棄あるいは再利用するものの消毒方法,消毒範囲,更には業務に従事する者の健康管理など,基本的指針に従った汚染物処理対策を考慮しなければならない.

歯科部門における予防対策

著者: 岩坪昤子

ページ範囲:P.305 - P.307

 京都第一赤十字病院における調査によれば,1972年より1979年の8年間に,入院加療した急性肝炎のうち,輸血,手術,飲酒,薬剤投与など,肝炎発症の誘因のあるものを除いた343例のうち,医療従事者は11%を占めている.また,医療従事者の肝炎でHBs抗原陽性率は67.6%であり,一般患者の31.7%に比して有意にB型肝炎が多いということである1)
 なかでも歯科医療従事者はHBウイルスの感染に絶えずさらされていると言えよう.すなわち,歯科医は長時間,患者の口の中に手指を入れて治療を行う.したがって,唾液との接触時間は極めて長く,そのうえ,歯科治療において,観血的処置は日常的である.つまり,抜歯,歯肉弁手術,切開,口腔内腫瘍の摘出,唾石摘出,骨折の処置などの外科的処置のみならず,歯髄切断,抜髄,歯髄息肉の切除などの処置時には,必ず出血を伴う.

中央材料部門における予防対策

著者: 宮田メリ子

ページ範囲:P.307 - P.308

 近年,各病院,施設において,基準や内規などが設定されるなど病院内における感染防止対策は,ますます重要視されてきた.その中でも,B型肝炎の感染防止については各施設でも真剣に取り組まれている.ここでは,中材に勤務する立場から,中材部門における感染防止対策を述べてみたい.

ケース・レポート コンピュータの導入と活用

東海大学病院におけるコンピュータ導入の現況

著者: 正津晃 ,   高橋隆

ページ範囲:P.309 - P.312

 従来,我が国の病院におけるコンピュータ利用は,医事課業務の自動化,省力化を目標にしたものが多かった.これは我が国に特有な診療報酬請求業務の複雑性を緩和しようとすることを主目的として生まれたものであり,その学問的意義はあまり大きいとは言えない.
 一方,大学病院には病歴に,中検に,病理に,膨大な医学情報が蓄積されている.これをコンピュータに登録し,利用してこそ,大学病院として意義のあるコンピェータ利用であり,医療情報システムであると我々は考えている.従来,これらのデータは患者名をもとに整理されているのみで,横の連絡は全くといってよいほどなかった.疾患別に,病理組織別に症例を集めようとすれば,多大の人力と時間を要した,症状別に症例を集めることなど,不可能に近かった.古い大学では例えば胃癌の症例を調べるにしても,自分の属する教室の症例はまとめられても,他の教室あるいは他科の症例は,調べようもないのが実状であろう.大学病院の持っている情報のごく一部しか利用できず,しかもそれをまとめるのに多大の手間ひまがかかるのである.

中規模病院におけるコンピュータ導入の経験

著者: 佐藤太一郎 ,   中江良之 ,   岩井俊二 ,   吉田力三 ,   小林正則 ,   石川好文 ,   杉浦伸治

ページ範囲:P.313 - P.316

 最近10年間,コンピュータは病院医事業務を先頭にして病院管理の面へ進出してきた1,2)が,その方式(EDPS)には差があり,それぞれに長所と短所がある3).大勢の赴くところとはいえ,病院へのコソピュータ導入にはそれぞれの施設の当事者の陰の努力4)があって始めてその成果が得られるもので,その成功か5)失敗か6)は当事者の努力もさることながら,トップの理解と全職員の協力の度合いによって決まるのではないかと思われる.コンピュータの導入に当たり,各施設における問題のとらえ方,トップの意向と現場での効用の判断,院内各部門の協力の取り方,そして導入の手順などについての具体的な記述は意外に少ない,我々は2年余にわたってコンピュータ導入にかかわってきたので,その足跡を振り返りご批判を仰ぎたい.

海外の医療

40人の見たUCLA Medical Center (6)—虎の門病院のUCLA見学プロジェクト

著者: 宇田川晴司 ,   若林みゑ子

ページ範囲:P.317 - P.320

UCLA見学
外科レジデント制度を中心に
 私は外科レジデントの代表としてUCLA付属病院見学に参加させていただいた.他の方々同様,私もその設備,病棟の体制等,多くの点に驚かされ,底を流れる徹底した合理性に強い感銘を受けた.
 ごく具体的な例のみを挙げると,例えば, ①病棟にはunit coordinator-clerkという職種系統がhead nurse-nurseという系統と独立して存在し,我我の感覚では看護婦や医者の仕事と考えられているものの多くを,確実に遂行している. ②病棟には,独立した記録室があり,そこには検査データ等をdisplayしてくれるコンピュータ端末もある. ③Telscribeという仕組みがあり,アナムネを電話に向かってしゃべると,次の日にはタイプになって上がってくる.チーフレジデントはいつも小型テープレコーダーを持ち歩き,これに吹込んだことも,タイプされて来る.自分で読み直し,サインすると,そのままドクターチャートの一部になる. ④Crush cart teamなるものが持回りで,救急室のレジデント,他のレジデント,ナース,吸入療法士,薬剤士,麻酔医で組まれており,院内救急の際呼び出され,受持ちに交代するまで救急処置に当たる.

--------------------

機器短報

ページ範囲:P.321 - P.321

医療用冷蔵ショーケース
 ダイキン工業(電話06-346-1201)は,長年の低温技術を生かし,病院・薬局などの医薬品専用冷蔵ショーケース「メディカルクーラー」を開発,発売した.本製品が一般の冷蔵庫と根本的に異なる点は,周囲の温度変化に左右されず,指示された温度を庫内全体にわたり均一に保つことができ,病院の集中治療室・ナースステーション・調剤室・手術室などで医薬品を安定した定温で保存すること.
 本製品の特徴は,①スリムタイプで床スペースを取らないので,狭い場所でも設置できる,②ブザー式のアラームシステム,③庫内温度は2〜10℃と医薬品の保存に適し,温度保持の精度も高いため変質によるトラブルを防ぐ,④移動に便利なキャスター付,⑤紫外線吸収,断熱ガラスの2重扉採用により紫外線をシャットアウトし,保冷効果が高められる,など.〈価格28万5千円,18万5千円の2種〉

講座 病院経営分析入門・1

病院経営分析の目的と方法

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.322 - P.323

 経営学の分野に,「経営分析論」という学問がある.20世紀のはじめ,アメリカの銀行で,企業に対し金融を行ううえで,企業の安全性とか信用の度合を測るための調査として発達した.貸付を行っても確実に償還できるか,また担保としてどのくらいの支払能力があるかなどが焦点であり,貸借対照表が主な分析対象であった.流動資産が流動負債の2倍以上でないといけないなどというのは,短期借入金の担保として流動資産の大きさを注視した例である.
 こうした分析は,企業の信用度をみるということで信用分析といわれ,銀行とか債権者が重んじたものであるが,その後になって,経営能率の測定評価ということで,内部管理の目的で行われるようになった.分析対象も貸借対照表だけでなく,損益計算書も含め,収益性とか回転率とか,経営活動の成果を動態としてとらえることが試みられた.数値を組合わせて,パーセントとか指数,関係比率といった比率を考え,時間的な動きとか,同種の他企業との比較を行い,また企業としてのぞましい状態を示す標準比率の研究などが行われた.そして,これは経営者や管理者だけでなく,株主をふくめて,企業に利害関係のある人々に対する指針として重視され,発展してきた.

医療の周辺 社会学(家族関係論)—老人と家族・6

過疎地の老人と家族

著者: 奥山正司

ページ範囲:P.324 - P.325

 ここでは,過疎地の老人と家族について,素描したい.
 一般に,農家と都市家族の老人を比較すれば,農家の老人は,都市家族の老人に対して,①家族との同居者が多いこと,②世帯の総収入がやや高いこと.③就業の日数もそれほど長くないこと,④家計責任者の割合も比較的少ないこと,⑤近所づきあいが強く,地域社会との交流が深いこと,などが挙げられ,農家の老人は,都市家族の老人より,伝統的なイエ意識に守られてはるかに恵まれていると考えられる.しかし,これは,あくまでも農家老人に対する全体的,平均的な見方であって,これをもう少し深く追求してみると,そこには極めて千差万別の老人像が浮かんでくる.その一例を示すために,これから紹介するのは,筆者が数か所の過疎地に実際に入り込んで何人かの老人に直接あたって聞き取った事例の中のひとつである.それをとおして,老人のイエからの引退過程と老人問題について若干触れてみたい.

病院職員のための医学知識

心臓病のリハビリテーション

著者: 道場信孝

ページ範囲:P.326 - P.327

 心臓病のリハとは何を目標に,いつ,だれを対象にどのように行われるものですか.
 目的:リハとは疾病から回復して発病以前の生活習慣に戻ることを指します.心臓病の場合には疾病が治癒する経過で速やかに体力を回復させ,そして退院後も体力の増進を図り,それを維持させることを目的として行われます.
 対象:心臓病の中でも最近,特に増している心筋梗塞がリハの主な対象となりますが,その他,手術後,特に冠状動脈の静脈移植術後にも積極的な運動療法が行われます.

病院管理の工夫

未収金の防止対策と回収策

著者: 石橋辰夫

ページ範囲:P.328 - P.329

保険証の確認
 未収金を防止する基本は,まず支払者を常に正確に把握していることである.そのためには正しい保険証を使用させることはもちろんであるが,更には外来患者は受付けで,入院患者はナースステーションで,それぞれ毎月1回必ず確認を励行させることである.

薬剤待ち時間を短縮させる工夫

著者: 桜井寛

ページ範囲:P.330 - P.331

 待ち時間を短縮させる方法としては次の二つが考えられる.
 ①処方せんの薬局受付けまでの所要時間の短縮 ②調剤時間の短縮

サイクルメニューを導入して

著者: 渡辺栄吉

ページ範囲:P.332 - P.333

 当院の給食は320床のうち60〜70%が治療食で占められており,その献立数は80種余りにものぼり,献立作成業務に極めて多くの時間を要していた.その上,医療の中における栄養部門のニードは多面的に拡大しており,これらのニードを最大限充足するためには,給食の対応の仕方と機能を整理する必要があった.

統計のページ

医療施設における訪問看護の実施状況

著者: 岩下清子

ページ範囲:P.334 - P.335

全国ホームケア研究会による調査の実施
 本会では,医療施設による訪問看護の実態を把握するため,第1次昭和54年10月,第2次55年3月の2回に分けて調査した.調査対象は,第1次が100床以上の一般病院(ただし厚生省,文部省立を除く),第2次が100床以下の全日本民主医療機関連合会加盟施設(ただし歯科診療所を除く)である.
 なお,以下に述べる訪問看護実施施設とは,調査者の側で何をもって「訪問看護」とみなすかを確定せず,被調査者が"訪問看護をしている"とみなしているものであることをお断りしたい.

新 病院建築・40

多翼型平面—ヨーク病院とスンズバル病院

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.337 - P.341

ノースウィック・パーク病院
 病院建築における"成長と変化"の問題をはじめて的確に指摘したのは英国の建築家ジョン=ウィークス氏である.彼は「無限定建築」と題する論文1)の中で,病院機能の急速な発展と変化に建築がもっと正面から対応すべきであることを説き,みずからの具体的な解答としてノースウィック・パーク病院(NorthwickPark Hospital)の計画を紹介した.竣工後まだ数年もたたない病院で早くも増改築の問題を考えなければならないといった経験を何度か繰り返しながら,事の本質を掘り下げて考えてみることをしていなかった筆者にとって,ウィークス氏の"growthand change"についての指摘は正に頂門の一針であった.
 この病院は約800床のベッドをもつ教育病院で,研究所を併設している.特徴は,病院を構成する各部門をそれぞれ独立の棟とし,それら相互を渡り廊下で結ぶ形をとっていることである.各棟の端部は,平面的にも構造的にも増築可能なようにしてあるから,どの部門も必要に応じ他に影響を及ぼすことなく増築できるというわけである.翼端の扱いに関するこの手法を彼はオープン・エンドと名付けているが,この呼び方はやがて我が国でも広く使われるようになった.

病院精神医療の展開

入院患者の生活とそのあり方

著者: 金子嗣郎

ページ範囲:P.342 - P.344

 「精神病院で一番困ることは,入院して居る人から見れば,何も仕事のないことである.仕事さえあれば,一日を暮らすには,何んら退屈も感ぜぬのであるが,仕事なしに一日を暮らすことは,随分苦しいことである.そこで,ひとりで何か仕事をする,逃走の仕度をするとか,喧嘩をはじめるとか,大声を出すとか,つまり病院の中では,その取締りに困ってしまうことになる.
 また,何もせずに日を暮らして居れば,一日二日と経ち,百日二百日となれば,それに慣れて,全く室内に蹲っているようになる.従って,病院の中では蹲っている人と,騒いでいる人と何処を見ても,不秩序,乱脈な状態となってしまうのである.これを室外につれ出して,散歩させようとすれば,何処まで逃げ出してしまうか解らないから,結局病棟の中に入れ放しということになる.こんな状態を精神病院だと思っている人が幾らもある.これは精神病院を誤解していることであり,又,精神病院自身がその患者の取扱いを間違えているといわなければならぬ.」

リハビリテーション・その現状

リハビリテーション部門の運営費と採算性—東京厚生年金病院リハビリテーション室

著者: 石川道雄 ,   小野守一

ページ範囲:P.345 - P.349

 近年,治療医学,公衆衛生の進歩により,我が国の人口構成は高齢化し障害者の増加が見られ,障害も重度化,重複化してきている.このためリハビリテーションに対する社会的要望は強く,リハビリテーション専門病院・施設は着実に増加し,10年,20年前とはまさに隔世の感がある.しかし地域的に適正な配置がなされているとは言えず,これら専門病院は温泉地など地方にある場合が多く,都市部の一般病院でのリハビリテーションは立ち遅れている.東京都で身体障害者運動療法,身体障害者作業療法の承認施設は,昭和51年末で一般病院671のうちそれぞれ8.6%,2.7%に過ぎない.この都市部でのリハビリテーションの普及の遅れの原因は種々考えられるが,まず社会保険診療報酬体系の中でのリハビリテーション医療の不採算性があると考えられる.しかし,これについての詳細な発表は少ない.総合病院の中でリハビリテーション部門の原価を正しく計算することははなはだ困難であるが,今回,当院で昭和55年5月期の病棟部門を除くリハビリテーション部門のみの原価計算を行った.これをもとに都市部総合病院におけるリハビリテーション部門の採算性について検討したい.

民間病院の経営と管理

中小病院の医師の待遇と給与

著者: 加藤賢二

ページ範囲:P.350 - P.353

 給与は労働条件に伴って決定されるものである.民間中小病院は病院の規模,診療のレベル等によって労働条件もまちまちであるため,医師の給与も千差万別であると思われ,発表例も極めて少ない.当社団においても,25年の歴史の間に,規模,労働条件の変遷に応じて,試行錯誤を重ね,現行方式に至っているので,労働条件も併記して,医師給与の考え方,支給方法等について経過と現状をご紹介し,読者諸賢のご批判を仰ぎたいと思う.
 当社団の経営する総合高津中央病院は昭和31年に14床の外科医院として発足し,建物の改築拡張と診療科目の増加を重ねて今日に至り,現在,15診療科,300床をもつ特定医療法人の総合病院である.医師は常勤11名,準常勤16名,非常勤37名で,外来は1日平均約1,000名あり,救急病院としての実績も20年に及んでいる.

海外見聞記

中国の医学教育,研究,医療の現状—北京市中心の医療視察・1

著者: 安達勇 ,   佐分利輝彦 ,   本間三郎

ページ範囲:P.354 - P.358

 1978年に日中平和友好条約が締結されてから,両国の交流は年ごとに盛んになってきた.しかし,中国の医学教育,研究,医療の実態については,断片的にジャーナリズムを通して,針麻酔,はだしの医者など報道されてきたが,全体の実態についてはまだ知られていない部分が多い.また,新中国は1949年に建国され,30年とまだ若い国で,中ソ紛争,文化大革命と激しい変動期を経て,現在やっと工業技術を中心とした近代化路線を目指して,すさまじい勢いで変貌しようとしている.したがって,医学研究,医療技術面においても同様に,動揺期から整調期に入り,互いの技術交流はますます盛んになるであろう.
 このたび,私たち一行は日中友好病院建設の下準備として,中国の医学教育,医療を視察する機会を与えられ,昨年3月北京を訪れ,北京市の重点医学校である北京医学院,北京中医学院,また病院として,中国医学科学院直属の各専門施設,すなわち,がん専門病院である日壇医院,心血管研究所の阜外医院,臨床医学研究所の首都医院,中医の薬物研究所とを見学してきた.医学教育,医療行政については衛生部の人たち,また医学校,研究所,病院では各施設の責任者から聞いた内容で,かなり正確なものを入手することができた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?