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雑誌目次

雑誌文献

病院42巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

特集 老人保健法と病院医療の展開

老人保健法の問題点と老人医療—地域診療所の立場から

著者: 大林輝明

ページ範囲:P.575 - P.578

老人保健法は悪法か?■
 様々な危惧と憶測と批判を浴びながら,昭和57年8月10日臨時国会を通過,昭和58年2月1日実施されるに至った老人保健法であるが,施行されるや否や新聞紙上には老人閉め出しの第一弾として,入院中の老人患者が強制的に退院させられるといった記事が掲載される始末である.退院を迫られるご当人もさることながら,老人患者の比率が設けられて大あわての病院も大変である.これらみな新法律の生み出した結果であることには違いない.そして,この法の発想の原点には医療費抑制という大目的が控えているのであるから,少なくとも,高福祉,低負担とつい先ほどまで叫ばれて来た時代はもう終わりを告げたと断言して良いだろう.低成長へ向けてのマイナスシーリングを旗印に掲げて進む政府の苦悩も理解はできるが,老後の幸福を大まじめに考え抜いた法であるかどうか,はなはだ疑問に満ちた内容であるのも事実である.
 どだい経費節減のために作られた制度にそう結構づくめの内容を望むのが無理な話で,せめて中に盛られた良い部分を,有効に活用させるための努力を皆で考えてゆかねばならぬと思う.本法は周知のごとく医療の部分と医療以外の保健事業に大別され,医療と保健の統合というお題目がキャッチフレーズとなっている.

老人保健法とこれからの老人医療—第一線病院の立場から

著者: 黒岩卓夫

ページ範囲:P.579 - P.582

 老人医療は今後どうなるのであろうか.
 本年2月から実施された「老人保健法」はその中で,どのような役割を果たすであろうか.

老人保健法と老人医療の将来像

著者: 桑名忠夫

ページ範囲:P.583 - P.585

 老人保健法が国会において可決成立したのは,1年3か月の審議期間を経てのことであった.そして,本年2月施行の日を迎えたのである.その間,信愛病院健康管理部は,月例公開講座において,9月,11月,そして今年1月の3回にわたり,"老人保健法の意味するもの"をテーマとして,"病院から地域へ,地域から病院へ"を取り上げてみた.そして同じころに,清瀬市,東久留米市の福祉講座,小平市の市民講座にて,法の解説とそれへの対応について講話を行った.いずれの講座においても,初めは関心度が低かったが,法の施行間近となり,質疑も活発となった.マスコミが,この法について,センセーショナルに取り上げてくれたおかげと考えている.
 かくして2月を迎え,医療サイドは言うに及ばず,社会的に大きな波紋を投げかけたことは,大方の認めるところである.厚生省は,この法案を,適切な医療,生活指導実現への配慮を重視した最も合理的なものと自画自賛していた.しかし一方では,老人と病院にとり苦難時代の幕開け,との評価もあった.特に4月の地方選挙に向けて,悪法撤回をスローガンとして,至る所で連日マイクを通して,繰り返し報ぜられた.しかし,それも選挙終了とともに鎮静化し,また医療サイドにも,それへの対応に落ち着きが見られるようになった.とにもかくにも,この法案が是か非かは,しばらくの時の流れを待たなくては,結論づけられぬことであろうと思っている現在である.

老人保健法の影響とその対応—内科単科の民間病院の場合

著者: 渡辺有造

ページ範囲:P.586 - P.587

老人保健法成立に至る社会の流れ■
 昭和48年のドルショック以来,2度の石油ショックを経て,高度成長を誇った日本経済もすっかり低成長状態に陥ってしまいました.その上,日本にも,先進国共通の人口老齢化が迫り,昭和48年から10年間のGNPの伸びが2倍なのに比べて,医療費は3.5倍,老人医療費は6.5倍に膨れ上がってきました.
 このため,医学の発達や医療人の努力によって,せっかくかち取られた平均寿命の延長も,頭打ちどころか短縮の傾向すら出てきました.経済成長が世界的に低下してきている現在,医療へ回される費用の伸びもあまり期待できません.それでもやはり,人々が生きて,健康な生活を望む限り,大多数の人々にある程度の医療サービスを与えなければなりません.

老人保健法の影響とその対応—開院以来12年の医療法人の場合

著者: 神山五郎

ページ範囲:P.588 - P.589

はじめに—そして結論■
 医療法人清恵会は13年前に発足した.その後急速に成長して,病床数1,200床,従業員1,300名,更に看護婦の養成及び放射線技師・理学療法士の教育も行うに至っている.
 本部及び清恵会病院・第一分院(腎センター)・第二分院(リハビリテーションセンター)は大阪府堺市に相互に隣接して存在し,近江温泉病院のみ滋賀県愛知郡に離れて3年ほど前に開院している.

老人保健法の影響とその対応—町立病院の場合

著者: 佐伯清美

ページ範囲:P.590 - P.591

老人保健法と病院医療■
 私の病院が属している全国国保医学会は「疾病の治療と予防の一体的運営」を基本理念とし,地域社会における保健体制の確立に寄与することを目的とし,住民主体の医療を推進してきた.
 今回施行された老人保健法の包括医療の趣旨は,我々国保医学会の目的とおおよそで一致しており,我々はこの法の成立施行を喜ぶ立場である.

老人保健法の影響とその対応—国立精神療養所の場合

著者: 室伏君士

ページ範囲:P.592 - P.594

老人保健法に対する所感■
 老人保健法の主意をどうとらえるかについては,その全般に対する個人的見解でなく,現に自分のある状況の立場から述べることにする.したがって,国立医療機関の,しかも入院治療を要する痴呆老人を扱っている一精神病院の管理者(精神科医)としてということになる.
 さて本年2月1日に施行された老人保健法は,特に数年来,隠然として社会問題化しつつあった老人医療問題が,一つの社会対策として打ち出された現れとしてとらえることもできる.従来の老人対策には二つの方向があり,その一つは比較的健康な老人に対する発想で,老人の生きがい,平和な老後,美しく老いるなど標語化されたものに見られるような,いわば福祉面からのもので,これは活発である.他の一つは病的なもの,すなわち寝たきり老人,恍惚の人,痴呆老人などと称せられる老人に対する処遇に関するもので,これは前者に比べて一般的には悲惨視されがちで,老人問題の際にはあまり前景化されずにあり,特に重症なものは医療にかかわってくる.老人保健法では,前者から健康づくりや予防というようなものが導き出され,後者と連動しているが,これはこれとして意義も深いが,現状では無理があり,困難・混乱を来している.

老人保健法の影響とその対応—厚生連病院の場合

著者: 高科成良

ページ範囲:P.595 - P.597

 近年,医学の進歩はめざましいものがあり,それに伴い我が国国民の健康状態も向上してきている反面,医療費の増加が国家的問題になってきている.我が国の医療保険制度の充実は世界に例を見ないものであり,それにより国民は十分な医療に恵まれてきている.しかし年々増加してゆく老人人口を考えるとき,医療制度そのものについて検討を加えなくてはいけない時期に来ていることは,自由世界の医療状況を見渡した場合,納得し得るものである.一昨年6月の医療費改訂以来,本年1月の薬価一部引下げに続き,本年2月より老人保健法が実施された.これら一連の医療行政のあり方に対し,種々の意見もあるようであるが,我が国でも当然来るべき医療の変革期が来たものとして老人保健法について考えてみたい.

老人保健法の影響とその対応—一赤十字病院への影響と老人患者の実態

著者: 斎藤達郎

ページ範囲:P.598 - P.601

老人保健法の影響と今後の課題■
 本年1月1日から薬価が4.9%引き下げられ,加えて2月1日から老人保健法が施行され老人特掲診療料が新設された.これにより行き過ぎのある老人専門病院の排除はともかくとしても,良心的な病院にとっても程度の差こそあれ大半がマイナスの影響を受けたことは否めない.これら収益性に対する直接的影響もさることながら,一部自己負担制度が老人患者の受診率にどのように影響したかに関し,老人患者の受診傾向を注目する必要がある.老人保健法施行直後の昭和58年2月の診療レセプトによる限りでは著しい変化が現れた.もちろんある時期を経過しての再調査を行う必要はあるので,軽々な結論めいたことは避けねばならないが,施行直後の一現象としてもこれを把握する必要はある.

老人保健法の影響とその対応—医療変革期における第一線病院の対応

著者: 茅野嗣雄

ページ範囲:P.602 - P.605

高齢化社会と医療費の増大■
 総理府統計局は,4月9日前回国勢調査後の人口変動を加味した57年10月1日現在の推計人口を発表した.それによると,人口は1億1,869万人で,65歳以上の老年人口が1,350万人となり総人口の9.6%を占め,厚生省人口問題研究所の予測を上回り高齢化が一段と早いピッチで進んでいる傾向を示した(4月10日付朝日新聞).この傾向は更に続き,昭和75年には15.6%と現在の西欧諸国に追いつき,昭和100年には21.3%となって世界でもトップレベルの高齢化社会になる.これは国民生活水準の向上によることも大きいが官民あげての保健医療供給体制の充実,国民皆保険への努力,更に医学医術の進歩がもたらした大きな成果であると言える.
 このような人口増加・高齢化社会の到来は,必然的に医療費の高騰を招き,昭和35年対国民所得比3.1%であったものが,昭和55年には6.2%,12兆円と倍増した.特に全人口中8.9%を占める65歳以上の一般診療費が全医療費の29.7%に達しており,入院点数は平均点数の2倍に上る結果が出ている.また国民1人当たりの医療費は10年間で4倍に伸び,55年度では10万2,500円となったが,これは対GNP比5.01%に当たり欧米の水準に達するのは時間の問題とみられている(米国6.8%1979年,英国4.4%1976年,仏7.3%1979年,カナダ5.2%1978年).

老人保健法への病院の対応

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.606 - P.609

 医療は国民の福祉を確保していく上で不可欠の存在である.医学医術及び薬学の進歩は健康水準を向上させ,医療機関の量的整備や医療費保障の充実は国民の受療機会を拡大した.医療の高度化と質の向上が望まれている一方,医療費の適正化が強調されている.確かに,医療費は増高した.昭和47年度に約3兆4千億円であった国民医療費は,10年後の今日,約4倍になったと推計されている.特に老人医療費は昭和48年度の7倍以上に増加した.この間,国民所得は約2.4倍伸びたに過ぎない.高齢化社会が確実に進行する現状にあって,国民所得の伸び以上に増大する国民医療費は財政的に大きな問題となっている.
 昭和57年8月10日に衆議院本会議において可決成立した老人保健法は,本格的な高齢化社会への対応の第一着手というべきものである.この法律は,予防から治療,機能訓練までの各種保健事業を総合的に行い,その費用を国民が公平に負担する目的で創設された,議論の的となった老人の診療報酬設定は,入院医療から地域や家庭における医療への転換を促進し,投薬などより日常生活についての指導を重視した医療を確立するとともに,老人病院における医療の適正化を意図した.

インタビュー

老人保健法のねらいと病院医療

著者: 谷修一 ,   一条勝夫

ページ範囲:P.569 - P.574

 一条 この2月に老人保健法が施行され,これに関連して老人の診療報酬点数が設定され実施されることになりました.一部負担ということだけならば,それほど問題ないと思ったわけですが,老人診療報酬点数ということで思いきった点数の「まるめ」が行われました.特に問題は老人病院という新しい構想が出てきたことでしょう.特例許可病院と特例許可外病院という二つの形ができ,一つ一つ病院が影響を受けるようになった.
 そういうことで,今,病院はいろいろな疑問や不安が出てきて,将来の方向や現実の対応に混乱があるようです.今日は,老人保健法そのものよりも,そこから展開される老人医療を中心に伺いたいと思います.

グラフ

ユニークな都市型リハビリ病院—医療法人大道会ボバース記念病院

ページ範囲:P.561 - P.566

 大阪城を西に仰ぐ市街地に,昨年6月開設された当病院は,中枢神経疾患による運動機能障害の早期治療法として注目を集めるボバース法を全面的に採り入れたリハビリ専門病院である.設立母体の大道病院(一般病院,250床)に隣接し,家庭・職場に近い都市型リハビリ病院の機能を活かして,患者の早期社会復帰を図るとともに,我が国におけるボバース法の教育・研究の中核を担い,名誉院長・名誉技術顧問である創始者ボバース夫妻をその名に冠している.
 対象患者は,脳性麻痺・脳血管障害等中枢神経障害の他に,人工置換手術を要する関節障害,本格的な治療施設に恵まれないてんかん患者などを主としている.

菊池会長から木下会長へバトンタッチ—全日本病院協会新役員

著者: 中村司

ページ範囲:P.568 - P.568

 全日病も今年4月17日代議員会において,会長初め多くの新役員が選出された.長年共に仕事をしてきた菊地真一郎氏が勇退されたことは誠に寂しいことではあるが,これも医療界の時の流れであり,やむを得ないことであろう.

資料

老人病院は全国で6.9%—厚生省「老人病院等調べ」

著者: 編集室

ページ範囲:P.605 - P.605

 老人保健法が本年2月から施行されたが,厚生省は,4月末現在の老人病院調査の結果を発表した(老人保健課調).これによると,特例許可老人病院は540(全病院数9,224病院の5.9%),特例許可外老人病院は95(1.0%)で両老人病院を併せると全病院数の6.9%となる.また,老人病院の取り扱いから除いた知事認定除外病院は211(2.3%)に達している.
 特例許可・特例許可外老人病院の開設者別の内訳は表のとおりである.

病院精神医療の展開 講演と討論

"良い精神病院"をめぐって・2

著者: 林宗義 ,   加藤正明 ,   松本胖 ,   式場聡 ,   目黒克己 ,   佐藤壹三 ,   吉松和哉 ,   鈴木淳 ,   井上晴雄 ,   菅又淳 ,   島田一男 ,   仙波恒雄 ,   浅井邦彦

ページ範囲:P.611 - P.616

(6月号より続く)
地域精神衛生の谷と山
 佐藤アメリカではケネディ大統領のころ,非常に光あふれる精神科の時代があったようですけれども,最近はその光が少しかげっていると感じるわけです.また,カナダでもかつては新しい時代が来るという印象がありました.しかし,その後の動きを見ますと,現在は精神科も谷間の時代に入っているのではないかという印象が非常に強いんです.その辺,世界的にどうでしょうか.
 林確かに,谷も山もあります.ケネディ大統領が法案を出したころ,全病床数の半分近くは精神科でした.それから全体の医療費が国民総所得の7%を超してしまったんです.この7%という数字は非常にマジカルで,イギリスも,ヨーロッパも,アメリカも7%までくると,医療費を削ろう,となる.そうすると,まず削られるのが精神科です.これが一つの大きな歴史的な事実で,我々はこれを見なければならない.

設備機器総点検

病理肉眼標本保存真空包装機

著者: 上野哲夫

ページ範囲:P.617 - P.617

 臨床検査の1部門である病理組織検査部門は人体材料の形態学的検査を担当している.したがって,多数の臓器組織を保管しているが,そのために要する膨大なスペースや,臓器固定液から発生する有害ガスは病理検査の大きな問題である.また,従来の保存法では整理,管理に多大の人手を要した.
 病理肉眼標本保存真空包装機を使用すれば,固定検索後の手術材料,解剖材料をフォルマリン耐性のビニール袋に入れて少量のフォルマリンを加えて真空包装することができる.これをプラスチック製の格納容器に収容し,重ねて保存すればスペースの節約になるばかりか,整理に極めて便利である.千葉県がんセンターでは10年来この方法で臓器組織材料を保存し,好評を得ている.

講座 「修正病院会計準則」について・4

一般原則について(つづき)

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.618 - P.619

3.資本取引と損益取引区分の原則
 「資本取引と損益取引を明瞭に区別し,特に資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない.」
 この原則を,通常,資本取引と損益取引区分の原則とか,剰余金区分の原則,資本と利益区分の原則などとよんでいる.

病院職員の基礎知識 診療科の知識

眼科

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.620 - P.620

近代眼科の歴史
 視覚,聴覚,触覚などの人間の感覚の中で,視覚の占めるウエイトが非常に高いことは言うまでもない.そしてこの視覚を守ることが眼科診療の目的である.
 かつて,視覚を失う失明原因はトラコーマなどの感染症や,ビタミンA欠乏などの栄養障害からの角膜軟化症などが大部分であったが,戦後しばらくの間に抗生物質の登場や国民衛生,栄養の向上によりこれらはすっかり姿を消してしまった.それらに代わる失明原因として,先天異常や,白内障,緑内障などの眼の成人病や,糖尿病,ベーチェット病などの全身病にかかわるものなどが主なものとなった.

医療制度の知識

我が国の医療保険制度における医療保険組織

著者: 藤崎清道 ,   北川定謙 ,   土居真 ,   矢野周作

ページ範囲:P.621 - P.621

 我が国の医療保険制度の長所の一つとして,保険証1枚でほとんど全ての医療機関に受診できることが挙げられます.本稿では医療機関や医師等が保険制度の内にどのような仕組みで組み込まれているかを述べてみます.

ケーススタディ・人の管理

借金を重ね,職場の秩序を乱した事務職員を退職させたが

ページ範囲:P.622 - P.623

〔事例〕
 彼は私の部下で,勤続5年の35歳男子の事務職員,独身です.職場の後輩あるいは学校時代の後輩を連れて酒を飲みにゆき,その費用を全部自分が負担して,優越感を味わうという性癖があり,当然給料では賄いきれないので,院内の同僚あるいは先輩,更に附近の商店主からも金を借り,その返済のためにまた他の同僚から借金を重ねるということで借金で首が回らなくなりました.しまいには後輩の女子職員から脅し半分で金を借りるようなこともやっていました.
 これを見かねた上司の私は,本人を呼んで,今後しばらく酒を慎む,他人から借金はしないという二つのことを誓約させ,私が保証人となって,病院の共済組織から,本人の退職金を担保に貸付金を借用させ,諸所方々から借りている借金をすべて返済させました.

事務長のページ・病院の運営管理

内部医療審査制と事務長の役割

著者: 花村哥吉

ページ範囲:P.624 - P.625

 当院では昭和50年以来「中央管理の推進」という業務改革の旗印を掲げ,全病院的視野から病院業務の見直しと改革を行ってきた.患者ニーズを模索し,経営効率を高め,高い質の医療を効果的に地域に提供するために調査研究,企画,教育,組織整備,業務運営を行ってきた.換言すれば産業界で言うTotal QualityControl (TQC)を行ってきた.
 中央管理推進の一環として設立された各種委員会の一つとして内部審査委員会を設置し,病院業務の内部牽制を行った.したがって与えられたテーマの医療審査体制より審査対象は広い.医療すなわち医師を中心とする診療行為及びそれと密接な行為の他に,生活業務,管理業務全般に及んでいるが,そのうち与えられた課題の部分を記述したいと思う.

統計のページ

病院経営収支と経営諸指標・2—主として「病院運営実態分析調査」(57年6月)の結果より

著者: 森福省一

ページ範囲:P.626 - P.627

病院の経営収支状況(承前)
3.56年〜57年の収支金額,科目・開設者別(6号より続く)
 全国自治体病院協議会の前述した調査(6号参照)の結果を科目別に示すと表5のとおりである.これによると,医業収益100対医業費用割合は,57年は前年より若干悪化していることが認められる.病院経営実態調査の結果は,前述のように,極端に悪化した56年6月を基準としているので好転したように見られるが,年度間の状況で見ると悪化していることが分かる.
 自治体病院の57年度の見込み調査では,給与量は人事院勧告凍結の影響を受けて,前年度に比べて5.7%の増加にとどまっている.この凍結がなければ,自治体病院の経営は一段と悪化していると思われる.その他,公的病院の医業収益100対医業費用割合は99.6から96.4へと,私的病院では99.7から98.0へと好転している.

定点観測

—秋田県・象潟町から—地域を理解するこころ

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.628 - P.629

全科の患者を診る診療所
 私の診療所は,山間農村部にあるがゆえ単科の標榜を掲げることはできず,全科を診ている.1か月に約2,000人の患者を診ると,いろいろな疾病に遭遇する.昨年1年間の疾病を分類してみると,表に示すように上気道感染,高血圧,胃腸炎の順で,15位までみても,呼吸器,循環器,胃腸などの内科や整形外科,皮膚科,眼科と多科にわたる.この他に小外科や耳鼻科疾患もよく見られるし,脳卒中やがんも少なくない.年間数例のものも入れると,正に全科の患者が訪れる.山間農村部に一軒しかない診療所では"私の専門外だから診られません"とむげに断るわけにもいかない.自分の力量外のものであっても,それなりの処置をしなければならないこともあるし,2次,3次病院へ紹介しなくてはならないものもある.私は内科しか診られませんからと,他のすべてを専門医に送っていたのでは,地域の診療所の役割は果たせない.
 それにしても,私の場合は医学部卒業後に多科の研修ができてよかった.インターン闘争の終局の昭和43年に大学を卒業した私たちの学年は,国家試験合格後3年間非入局を貫き,自らの力で研修病院を選び出し,5科以上の多科にわたって研修することができたのである.

税務QアンドA

医療法人社団の出資金の払戻し時価

著者: 森久雄

ページ範囲:P.632 - P.632

 問 当病院は医療法人の出資持ち分のある社団です.この度,出資者A氏より退社したいから出資金を返還して欲しいとの申し出がありました.
 定数規定は次のようになっています.

新 病院建築・67

部門別設計(2)—放射線部門について—浜松医大附属病院放射線部の設計と機能を中心に

著者: 金子昌生 ,   杉江義男

ページ範囲:P.633 - P.638

はじめに
 浜松医科大学は国立の新設医科大学として昭和49年6月に開学した.その附属病院の創設に当たって,600床の病院として2年間を設計と建築に費やし,内部設備を整え,昭和52年11月に開院した.病床の漸増方式と設備の充実は3年がかりで行われ,昭和54年度に名実ともに完成した.昭和55年3月に第1回卒業生を出し,本年は開学以来9年目,病院の開院以来まる5年以上を経過した.その間の医学の進歩はめざましいので,当初の病院の設計思想と,その後の発展にどのように対応してきたかをふり返り,現時点で反省してみるのも意義のあることと思われる.
 放射線部門は病院の基盤をなす中央部門の一つとして機能しなければならないところであり,放射線医学の発展は特に著しい.その上,設備にも多額の予算を要する部門である.筆者は,この放射線部門の設計に際し,開学以来,初代の病院長で恩師の高橋信次先生のご指導のもとに,その設計と開院以後の放射線部門の運営に責任者として関係してきた.放射線部門の設計内容を紹介するとともに,現在の機能と改善点を記してみたい.今後の放射線部門の設計の参考資料ともなれば幸いである.

追悼

我が国近代病院管理創始者の1人原素行先生逝く

著者: 吉田幸雄

ページ範囲:P.639 - P.639

 原素行先生は去る5月5日都立広尾病院で静かに逝かれた.行年90歳,大往生である.実に哀しいことである.原先生は,我が国の近代病院管理の創始者の一人であって,病院界において幾多の業績を挙げられたことは忘るることができない.ここに先生の御行跡をかえりみて,先生を偲びたい.
 先生は明治26年3月,秋田市において代々の医家に生まれる.大正6年12月,東京帝国大学医学部を卒業し,続いて薬理学教室及び入沢内科に学ぶ.その後,中国青島病院(元ドイツ国経営)にて内科部長として活躍する.帰国して,昭和6年東京市立大久保病院副院長となり,昭和10年市立城東病院長となる.終戦の昭和20年には,先生を有名ならしめた都立広尾病院長となる.

老人医療と福祉の課題 座談会

在宅ケアへの模索—病院本来の機能としての在宅ケアの復権

著者: 松下和子 ,   谷口政春 ,   斎藤光三 ,   佐藤智

ページ範囲:P.640 - P.647

病院として在宅ケアの考えをもつ堀川病院■
 佐藤 老人の在宅ケアへの模索ということで3人の先生方にお集りいただきましたが,まず松下先生日本で最初に在宅ケアを始められた聖路加病院では,在宅ケアへの関心はいかがですか.
 松下 公衆衛生看護部は病院の中で一つの臓器みたいに当たり前の存在になっていて取り立ててどうこうという意識はないように思います.佐藤先生や,堀川病院の先生方が非常に熱心でいらっしゃるのが,今はむしろ羨ましいと思うことがあります.終戦直後,橋本寛敏先生が医療社会事業部とか,公衆衛生看護部というのは目立たない臓器であっても人間の臓器の中のなくてはならない臓器で,それ一つないがため五体満足でない.あなたたちの存在はその臓器なのでとても大切なんだと励ましてくださいました.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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