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雑誌目次

雑誌文献

病院43巻1号

1984年01月発行

雑誌目次

特集 「医療法改正」の焦点

地域医療計画実施の問題点

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.25 - P.29

 昨年3月,地域医療計画の策定と医療法人の指導監査の強化を骨子とする医療法改正案が国会に提出されたことにより,地域医療計画の問題はいよいよ実現化のスケジュールに乗ったものと見てよく,その実施を前提とする議論を広く行うべき時期が来たと言える.特に,この医療法の改正は,昭和23年に法が制定され,25年に医療法人制度を,また37年に公的病床規制をそれぞれ実施するための改正がなされて以来の大幅な改正で,しかもそれが我が国の医療制度の根幹にかかわるものである以上,これに対する議論は全国民的レベルで十分に尽くす必要があろう.中でも医療関係者がこの問題に全力を挙げて取り組むべきことは,直接の利害関係者としてだけでなく,この問題に関する知識を最も多く持つ者の義務としても当然である.
 いずれにしても,今回の医療法の改正にもしそれなりの必然性があるのであれば,その必然性については社会の共通の認識が得られなければならない.それがなければ,法案そのものについての十分な社会的合意も得られないであろう.同時にまた,法案の目指す内容そのものも,その必然性を十分満たすとともに,今後の我が国の医療制度を方向付ける上で最も適正な実質を備え,かつその実現可能性が十分保証されるものでなければならない.

行政の監督権と病院の自由・自律

著者: 大道学

ページ範囲:P.30 - P.33

 戦後,新憲法のもとに国家理念が大きく変化し国民の「健康で文化的な最低限の生活」(憲法第25条)の維持が国家,公共団体の行政の目標となるのに伴い,現代の行政内容は社会秩序の維持のみならず,国民の福祉,生存権(憲法第25条)のための広範多岐にわたる分野に拡大した.
 それは見方を変えれば,国民経済の生産,分配にわたって国(行政)の関与(介入)と調整が行われていることを意味し,同時に権力の介入領域拡大を必然的に伴うものと考える.医療分野とてその例外ではないい.とはいえ,昨今の医療行政の姿勢は,戦前戦中に見られた権力行政的性格が強く感じられてならない.

私的医療機関とその自主規制

著者: 木下二亮

ページ範囲:P.34 - P.37

 今般厚生省が「医療法改正」を議会に提案しているとりあえずのねらいとして二つの柱が言われている.その一つは地域医療計画であり,他の一つは医療法人の監督強化である.前者は医療の急速な進歩と高額化を踏まえた医療資源の効率的運用の必要性への対応策として,準備不足にもかかわらず提案せざるを得なくなったものである.後者は「富士見病院事件」を皮切りに国民の医療倫理に対する期待を裏切る事件を取り上げてのマスコミのキャンペーンに対する園田厚生大臣の「かっこうよさ」をねらった議会答弁の延長線上のものである.この提案に対して医師会も各病院団体も,医療法が陳腐化し,医療の進歩に対応できなくなってきている現状認識の上に立って,医療法の近代化抜本改正のきっかけをつかむという観点から,この提案を了承したのである.したがって,その提案に当たっては,自民党小沢委員会は日本医師会,日本歯科医師会,四病院団体連絡協議会の三者の代表を招き,その意見を聴くとともに,①医療供給体制の見直し,②医療従事者需給計画の見直し(医師数,看護婦数など),③一人法人問題,④医療法人における医業の継承を円滑にするための税制の改正,⑤医療法人設立認可に対する全国格差の解消,の五つを自民党の責任において修正案や付帯事項として盛り込むことを公約したのである.

「医療法改正」に思う

著者: 長浜二三則 ,   小川保一 ,   高宮澄男 ,   新貝修 ,   海塩毅一 ,   澤潤一

ページ範囲:P.38 - P.45

官民一体となった抜本改正を目指して
 医療の官僚支配は厚生省の長い間の懸案であり宿題であった.武見日医の25年間は日医と保険行政との,この件をめぐっての対立抗争の歴史であったとよく言われている.現象的には武見前会長の政治力と論理の前に,官僚が国営化路線を一歩も前進させられない事実となって現れていた.現在までの日本の医療は世界に冠たるものであることは,出生児死亡率が世界一低いこと,平均寿命が急速に伸びて世界で一,二位の長寿国であること,及び質の良い医療が極めて安価に提供され,医療が受けやすい等々枚挙にいとまがない.これらのことは自由開業医制をベースとした民間の活力に負うところが極めて大きいと言える.
 しかし急激な老齢化,医学の進歩は医療費の高騰を招き,破綻寸前の国家財政が背景となって,医療費削減は現下の急務となり,また医療法が施行された昭和23年当時の医療実態と,35年後の現在のそれとでは「天と地」ほどの大きな乖離となっていることからして,総論的には抜本改正しなければならない時期に来ていると考えている.

てい談

「医療法改正」をめぐって

著者: 大谷藤郎 ,   安井志郎 ,   姉崎正平

ページ範囲:P.17 - P.24

医療法制定から35年
 姉崎 今日は,医療法の「改正」及び現行の医療法の抱えるいくつかの問題点についてお話し合いいただきます.
 まず,話題の前提として,本誌で「医療法改正案」について取り上げるのは初めてですので,医療法の成立から今回の「改正案」が出されるまでを簡単に振り返ってみたいと思います.

インタビュー

医療保険の今後と医療のゆくえ

著者: 吉村仁 ,   小笠原道夫

ページ範囲:P.46 - P.51

「医」と「経済」は両輪
 小笠原 医療法の改定に関しては厚生省の医務局の管轄になるでしょうが,制度の改定は当然経済的影響ももたらすと思いますし,それも改定のねらいの一部であるように思われます.そこで,今回の改定によって保険及び医療がどういう影響を受けるのだろうか,あるいはそれをどう誘導していくのが厚生省の方針かということを中心にお伺いしたいと思います.
 まず,医療法の改定案にある程度そってお話しいただければありがたいと思います.

グラフ

満10年を迎えた健康管理活動—厚生連佐久総合病院・健康管理センター

ページ範囲:P.9 - P.14

 包括医療システムの確立は現代の医療の課題であり老人保健法の理念の一つでもあるが,予防活動を地域でいかに進めるかは大きな鍵であろう.八千穂村での活動に代表される佐久総合病院の健康管理活動は沢内村の医療とともにそのモデルと言われている.
 佐久総合病院若月俊一院長は病院医療を「5・3・2方式」(5を入院,3を外来,2を予防活動を含めた地域での健康管理活動)で進めるべきであると提唱し,1959年(昭和34年)から八千穂村に協力し八千穂村の全村健康管理活動を展開してきた.この活動は疾病の早期発見・早期治療のための健康診断と予防衛生知識の普及啓蒙のための健康教育を柱として進められてきた.この成果はよく知られているが,現在ではリハビリテーションの機能回復訓練も実施されており,八千穂村の活動はいっそう充実してきている.

新鮮な感性をもつ病院界のホープ 社会保険埼玉中央病院院長 伊賀六一氏

著者: 倉田正一

ページ範囲:P.16 - P.16

 本年10月,第21回日本社会保険医学会が埼玉県下の社会保険病院担当で始めて主宰され,伊賀院長は会長として立派にその責務を果たされた.
 院長に会った人は恐らく皆その新鮮さに驚嘆されたと思う.それはルックスにもよく現れている.まさに病院界のホープのお一人である.昭和23年に慶大医学部卒業後,呼吸循環器を専攻,内科学教室の大世帯の医局長として活躍され,昭和44年懇望されて助教授から現病院長として赴任された.

民間病院を見る,聞く,語る・16

親子三代,福島で築いた準公的病院—福島県・財団法人大原綜合病院

著者: 大原光雄 ,   本間義男 ,   一条勝夫

ページ範囲:P.52 - P.56

 野兎を媒介とする感染症であり,「大原病」とも言われる野兎病の,我が国唯一の診療・研究施設として知られる大原綜合病院は,明治25年の医院開業をその端緒とする.その後,同35年には病院化,地域の医療に挺身すると.同時に,野兎病研究に業績をあげ,戦後は,逸早く総合病院化,看護学校開設などを行い,現在,分院を含み643床の地域中核病院に発展した.
 しかし,輝かしい歴史を持つだけに,これからの医療費抑制時代に柔軟な対応ができるか,一抹の不安があるようだ.

講座 「修正病院会計準則」について・10

損益計算書科目の修正(つづき)

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.58 - P.59

診療材料費
 診療材料費は,旧準則では次のように規定されていた.
(ア)診療用材料として直接消費されるもの,たとえば,レントゲンフィルム,歯科用の材料,酸素,ギプス粉,包帯,ガーゼ,脱脂綿,縫合糸,氷などの費用

病院職員の基礎知識 院内各部門の知識

医局

著者: 今村栄一

ページ範囲:P.60 - P.60

 医局・薬局・郵便局・電話局そして春日の局(つぼね)というように,「局」というのは古めかしい感じがします.辞書には「仕切られた場所」などという意味もありますが,医局の解説には不十分のようです.郵便局や電話局はなじみがあるのに,一番近い病院の中の医局というのは正体がつかみにくいと言われているようです.
 医局を理解するには,「機能としての医局」と「場所としての医局」の二つの面からみる必要がありますし,また病院管理の流れに乗って医局にも変動が起こっていることを知らなければなりません.

防災の知識

防災マニュアル(1)—病院防災の次の課題

著者: 石山稔

ページ範囲:P.61 - P.61

 近年,病院の防災体制については,消防署の強力な指導により,スプリンクラー等の消防設備の設置が進められ,万全の体制をとっているかにみえる,また東京においては現在より更にきめ細かな防災体制を義務づけるSABCDの5段階評価による指導も始められようとしている.
 このように施設・設備面からはかなりの体制がとられている現在,我我防災担当者が今後取り組むべき課題は,通報・消火・避難誘導等についてマニュアルを作り,それに基づいて教育訓練を積み重ねることであろう.しかしこのことは,担当者としてはよく分かっていても,そう簡単にできることではない.まず第一になかなかそのマニュアルが作れないからである.

ケーススタディ・人の管理

前歴に問題のあるナースの採用をめぐって

ページ範囲:P.62 - P.63

〔事例〕
 ナースの採用をめぐっては,どの人事担当者にもいろいろな経験があるはずであるが,この私の体験は極めて唖然とした結果に,自分の面接に全く自信をなくしてしまった出来事である.
 面接を終わった看護婦A子への面接評価は極めて高く,明るくはきはきした若さに満ちた面接態度に,私も総婦長もAの判定を下し,特に気になる点は一つも見出せなかったのである.早速採用と同時にそのA子は試用期間の勤務を,外科病棟で過ごすことになった.病棟婦長の評価もよく,非常によく働く子を回していただいてありがとうと,お礼を言われた矢先のことである.

事務長のページ・病院の運営管理

事務長職十余年の経験から

著者: 長澤一男

ページ範囲:P.64 - P.65

 筆者は信愛病院に勤務して33年,事務長の仕事をするようになって十余年になる.ところが,経験だけは一人前だが,事務長として満足できる仕事がいまだにできず,日々の仕事に追い回されている.今日一日を,この一か月を,一年をどうやって切り抜けて行こうか,毎日毎日が厳しい戦いの連続なので,ゆっくり自分を見つめて考える時間が全くない,と言うのが実情である.おのずと,病院管理についても,静かに考えたり,勉強する時間は与えられず,ただ自己流でやってきたというのが本音である.

統計と資料

昭和57年医療施設調査・病院報告の概況(2)—(厚生省大臣官房統計情報部,昭和58年10月)

ページ範囲:P.66 - P.67

医療施設調査(つづき)
2.病床数
 全施設の病床数は168万8千床(前年164万8千床)で,前年に比べ4万床,2.4%増加している.病院の病床数は140万2千床(前年136万2千床)で,前年に比べ4万床,2.9%増加している.一般診療所の病床数は28万6千床(前年28万5千床)で,前年に比べ499床,0.2%増加している.歯科診療所の病床数は303床(前年306床)である.
 1)施設の種類別にみた病床数(表5)病床を種類別にみると,病院の病床数は140万2千床で病床総数の83.0%であり,そのうち一般病床は98万3千床(病院の病床数の70.1%)で,前年に比べ4万1千床,4.4%の増加であり,精神病床は32万床(同22.8%)で前年に比べ6千床,1.9%増加している.

定点観測

—秋田県・象潟町から—現代専門バカ考

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.68 - P.69

「人を診る」ということ
 私は当地に赴任前は,しばらくの間総合病院に勤務していた.その当時のことを思い起こしてみると,病院と診療所の患者の間に病気の軽重の違いはあるにしても,自らの医師としてのあり方が今とずいぶん異なるような気がする.それは単に患者の質的相違からくる医療の違いでもなく,年功による患者への接し方の違いでもなく,医師としてもっと基本的なことであることに私は気付いた.
 患者を病院の中で診ているときは,患者の生活がどうしても見えなかったのである.診療所は,患者の生活の真っただ中にあり,単なる生活のみならず,人間の生きざまも目のあたりに見ることができるのである.そのことは言い換えれば,前者は,病気を治すということが,器官や臓器相手の戦いであり,後者は丸ごと人間相手の戦いなのである.人間相手の戦いであるから,病院の医師よりも診療所の医師のほうがはるかに自然に,予防医学や健康増進医学にまで目が向きやすい.

ふおーらむ

医療保険の改革案についての私見

著者: 浅野誠一

ページ範囲:P.70 - P.71

 医療のあり方については,とかく問題が多いが,日本人の平均寿命が英米独仏を抜いて世界のトップクラスになったことには,種々の条件も関係していようが,我が国の健康保険が世界一安いと言われながら,国民に普及徹底して気安く受診できることも大きな役割をなしていると思う.
 その健保を今さら変えなければならないというのは,おかしいのであるが,医療費が巨大化して破綻の危機にあるというのは困ったことである.普通の企業なら商品や運賃の受益者負担を値上げしてバランスを取るが,保険料は直接の受益者負担でないところに問題がある.

新 病院建築・73

辰口芳珠記念病院の設計

著者: 坪井邦博

ページ範囲:P.73 - P.79

はじめに
 辰口芳珠記念病院は,北陸金沢市と小松市の中間に位置し,北に日本海と緑豊かな加賀平野を望み,南に霊峰白山を仰ぎ,手取川の清流に耳を傾ける眺望絶佳の丘陵地に立地した総合病院である.これは,小松市に過去20年間にわたって,「仲井外科病院」を中心に医療活動を行ってこられた仲井信雄理事長が,更に高度な地域医療活動を良い環境の中で,良いスタッフと高度な医療施設のもとで展開しようという構想のもとに新しく設立された医療法人・社団組織の病院である.

在宅ケアへの模索

北里大学病院の在宅ケアの現状と今後の方向

著者: 武和子

ページ範囲:P.80 - P.83

 昭和46年開院時,相模原地域における当院の医療として,入院患者の継続看護,外来患者に対する保健指導を行う構想のもとに,公衆衛生看護分野を担う保健婦が配置されたが,病院の組織の中で保健婦の役割は看護域のように明確には確立されていなかった.また患者の疾病構造は慢性疾患の増加傾向を示しているにもかかわらず,入院患者の在院日数は平均23〜25日と短い.ということは退院患者の中には問題を残したまま(疾病は改善しても生活自立ができない,あるいは病状固定)在宅療養を余儀なくされるケースも多いことを示している.一方外来通院中の患者の中にも通院ができず家族の代理受診であったり,または受診間隔が長くその間の在宅療養が良い状態で続けられないケースもあり,主治医もそのような患者の背景が把握できない等の理由から,病院の組織の中に在宅看護業務を行う職種の位置づけが必須と考えられた.そのため保健婦がこの役割を負うことになり,10年を経過した.今後人口の高齢化に伴い老人の慢性疾患患者が増加し,病院医療のあり方として在宅ケアの需要が高くなると思われる.現在行われている訪問看護の実際から今後に向けて期待したい事柄を述べてみたい.

中小規模病院の運営

医療法改定と地域医療計画

著者: 深瀬邦雄

ページ範囲:P.84 - P.87

■国民皆保険と日本の医療
 現在,日本は男女ともに世界の最長寿国となった.これは第二次大戦後日本の経済成長とともに食糧をはじめ生活環境が良くなったためもあるが,日本の医療の国民への健康改善に与えた影響も非常に大きい,また国民皆保険制度によって全国民が医療を受けやすくなったことも極めて重要な因子である.明治の初めから西欧より近代医学が急速に日本に取り入れられたが,日本は産業立国に追われ,医療にまで国家の経済を回す余裕がなく,民間の開業医及び私的病院が自由開業医制度のもとに自己資金により医療を作り上げてきたと言っても過言ではない.
 日本の医療制度の特色は開業医及び私的中小病院が多いことである.外国においては国または宗教団体が公立の大病院を作り,そこで契約に基づいた医師が働いているのが大部分である,日本では第二次世界大戦後陸海軍病院が国立病院に転用されたのが大きな変化で,その後公立病院が各地に作られ今日に至っている.開業医,私的中小病院と公立大病院という地域医療における重複的構造は「いつ,どこでも,だれでも」と言われる便利な,かつ患者が自由に選択できる独特のものを作り上げてきた.一方,日本経済は高度成長から低成長時代となっているのに対し,医療費は急激な上昇を続け昭和57年には約13兆円に増大した.

シリーズ・病院経営

病院経営の改善例(1)

著者: 石原信吾

ページ範囲:P.88 - P.91

 ここに選んだのは昭和55年に経営上の相談を受け,改善の著しかった病院である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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