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雑誌目次

雑誌文献

病院43巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

特集 医療ソーシャルワーカーの現在

医療ソーシャルワーカーの現在

著者: 奥川幸子

ページ範囲:P.844 - P.849

医療ソーシャルワーカーのしごと—その存在意義,役割と専門性
1.夢の中へby井上陽水—患者からのメッセージ
 今年の夏の終わり,私は1年前から週に1度の定期面接を続けてきた患者から,手紙ともつかぬ強烈なメッセージを受け取った.それは四つ折りにたたんだレポート用紙に,ほんの2年あまり前までは利き手ではなかった左手で,たどたどしい筆跡ながらもくっきりとしたブルーと赤のボールペンで書かれてあった.その患者は,この春20歳(はたち)の誕生日を迎えたばかりだった.
 ブルーで書かれた文は,ひと昔前に流行(はや)った井上陽水の詩(うた).その下にある赤のボールペンで記された文字は,彼の心の叫び.すべての夢を断ち切られ,絶望の淵に立った彼の悲痛な想いが,私の胸に深く突き刺さった.

病院の運営管理面からみた医療ソーシャルワーカー

著者: 武内昶篤

ページ範囲:P.850 - P.853

 MSWすなわち医療ソーシャルワークほど,その必要性が説かれながら定着が遅れている職種も珍しい.
 その理由としていくつかのことが考えられる.第一は「ソーシャルワーク」または「医療ソーシャルワーク」の定義が必ずしも明確とは言えないことにある.したがって,その業務領域があいまいとなる.結果として,何をする,何ができるのか,その専門性は何なのかが客観的に分かりにくい.第二に,医療の中心的役割,すなわち疾病の予防・治療の側面において医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)が関与したか否かによる効果の違いが明確にはつかみにくい.第三に,医療の現場は,多少の様変わりはしているものの,病人を人間として,社会的存在として全人的にアプローチする,いわゆる患者中心の医療展開がいまだしの感がある….医師・患者関係ひとつをみても「診る側(強者)」と「診てもらう側(弱者)」から抜け出ているとは言えない.第四に,医療制度なり医療費の仕組みが,診療技術すなわち医師の行為または医師の指示に基づく行為を中心に構成され評価されていること.結果的に「医療ソーシャルワーク」の病院経済への直接的寄与が極めて乏しいこと.

医療ソーシャルワークの可能性

著者: 鷹野和美

ページ範囲:P.854 - P.857

 人間が単に生物学的存在ではなく,心理,社会的存在である以上医療の場でその肉体と精神・生活環境とを分けて考えることは妥当ではない.医学が病巣のみに目を向けその技術・研究が高度化,細分化すればするほど多くの場合,診断・治療は表面的なものに過ぎず,医師は治癒した患者の再入院また不必要でしかも頻回な外来通院などに悩まされる結果となる.治療の効果を高めるためには,治療を妨げる社会的・経済的・心理的側面に対して考慮することが必要であるが,現在の医学は人間全体を診る学としては狭過ぎるため,他に専門の学と技術を必要とする.そうした必要から医療の中にソーシャルワークが導入されたのである.社会の複雑化・多様化・また他国に類を見ない急激な老齢人口の増加などに伴い,我が国の病院医療も新たな対応を迫られている.そうした活動に伴いどのような医療ソーシャルワークが可能なのか,当院の新しい活動を通じ論じてみたい.

地域医療と医療ソーシャルワーカーの機能・役割

著者: 角谷増喜

ページ範囲:P.858 - P.859

 地域医療活動は,住民の生活と健康を守るコミュニティ・ケアの一環である.その内容には疾病の治療と予防,生活障害に対するリハビリテーションが不可欠であろう.
 ところで当院(堀川病院)で行っている地域医療活動は,2本の軸によって成立している.縦軸は,病院・診療所で行われる施設医療と,地域の隅々に入りこんでいる往診・訪問看護体制であり,それによって可能になった在宅療養生活である.横軸は,地域住民組織の健康会活動である.健康会は約4,000人の会員を擁し,会員と家族に対する保健予防活動,ボランティア活動,患者会組織が主な活動である.西陣織という地場産業に働く職人を中心とした組織だけに,結束は固く,病院との連携も強固である.もともと戦後の混乱期に地域に蔓延する結核や伝染病に倒れる住民が,自らを守るために病院づくりを開始したのが今の活動の起点である.これまでの活動は,対応の遅い行政機関を一歩リードする形で進められ,必要なものは何もかも自分たちで作り出そうとする活発さを持つ反面,活動の成果は同地域内にある他の諸機関が利用しにくいややクローズな面もあった.

対談

医療ソーシャルワーカーの現在と展望

著者: 大谷藤郎 ,   小松智世美

ページ範囲:P.860 - P.865

 小松 私は太田綜合病院に勤め今年で25年になりますが,他の病院で働いた経験がなく,井の中の蛙ですけれど,幸い私が勤めはじめたときに比べ病院が大きくなり,それにつれて私どもの仕事もだんだん定着してゆき,医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)も最初1人で始まったものが現在は7名になるなど,病院の充実がイコールケースワーカーの充実ということでやってきたことになります.そういう意味では,地域や病院の中でのMSWの位置は今更,動かないだろうと思います.
 しかし,目を全国の病院に向けた場合には,決して見通しが明るいとばかりも言えない状況があると思います.そういう中で,今こそMSWが病院の中で何をしなければならないのか,あるいはMSWを採用した病院は何をしようとしていたのか,ということをもう一度きちんと整理しなければならないと思います.更に今,MSWがいない病院はご自分の病院のこれからを考えたときに,ぜひMSWの存在や機能,役割について検討し必要性を認識していただけたらありがたいと思います.

グラフ

サナトリウムから,結核を含めた呼吸器,消化器疾患の専門病院へ—結核研究所附属病院

ページ範囲:P.829 - P.834

 「結核患者を最後の一人まで面倒みるのが結核予防会の病院としての使命であり,そのためには古いサナトリウム形式の療養所を転換して,結核以外の患者にもハイレベルの医療を提供し,どんな合併症をもった結核患者にも対応できる病院,しかも厳しい医療経済の中でも生き残れる病院にしなければならない」と結核予防会結核研究所附属病院の木野院長は意欲を燃やしている.
 結核は医療の進歩と国の対策の徹底で年々減少を続けており,死亡率は戦前最盛期の50分の1に,患者数もこの20年ほどの間に100万人から20万人と5分の1に減ってきている.この減り方があまりにも目覚ましいので,一般の人々,特に医師までが結核に対する関心を失いつつあるのは問題で,最近でも毎年新しく発病する結核患者は全国で6万人を超え,1年間に5,000人以上の人がこの病気で命を落としているのが実情である.さらに高齢層に結核多発年齢が移ってきているが,これは,BCG接種の普及した若年層からの発病は大幅に減ったが,BCGの恩恵を受けられないまま結核に感染してしまった現在ほぼ50歳以上の年齢層からの発病率はあまり下がらず,その結果相対的に結核は高齢層に偏在してきたという.患者が高齢化すれば合併症が増えるのは当然で,60歳以上の結核患者の半数以上が何らかの非結核性疾患を合併しており,その内容も多種多様である.

集検事業に取り組んで15年 癌研究会附属病院検診センター所長 渕上在彌氏

著者: 本田利男

ページ範囲:P.836 - P.836

 渕上先生,保健文化賞受賞おめでとう.先生のように目立たない,地味な医療活動をしている方には誠にふさわしい賞だと思う.やはり見ているところでは,よく見ているものだと痛感した.
 渕上先生と私とのおつき合いは,胃集検学会を通じてである.入会するや,学究的な先生は,学会誌への論文発表などで頭角を現わし,5年ごとに評議員,監事,理事を歴任し,現在は本学会の会計経理の重責を担当している.癌研附属病院検診センター所長になられても,旺盛な研究心は一向に衰えず,学会の間接撮影標準化委員会での活動は目覚ましく,昭和49年の間接6枚撮影方式,昨年の7枚法による標準撮影方式,そして精度管理の指針の作成においても中心的存在であった.

対談

ニューメディアへのアプローチ

著者: 岡田行雄 ,   今井澄

ページ範囲:P.837 - P.843

 編集部ニューメディアは実体よりもことばが先行しているというのが現状ですが,近い将来,ニューメディアの波が医療にも押し寄せてくると思います.この波にもまれる前に,医療側としてもその対応と活用を検討しておくことが必要ではないでしょうか.
 本誌では,今月号から「講座」欄で,「ニューメディアと病院」のテーマで1年間にわたり岡田先生にご執筆いただきますが,今日はその総論的意味を含め,作る側と使う側という立場からそれぞれへの提言を出していただきたいと思います.

シリーズ・病院経営

病院における管理会計の導入

著者: 佐藤進

ページ範囲:P.866 - P.870

 制度としての原価計算は,総合原価計算と個別原価計算とに大別される.病院経営においても,原価計算の必要性は痛感されている.しかし,医療行為に原価計算制度を導入する場合の障害は,医療においては,同一医療行為を反復継続的に行い得ないことである.したがって,総合原価計算の厳密な適用は困難である.医療行為の個別性,多様性より見れば,個別原価計算が適当である.
 しかし,患者一人一人について,個別に原価計算を行うことは,件数が多く,その要する費用などを考えるならば,これもまた実施困難である.従来,医療の場で行われている,いわゆる原価計算は財務会計と有機的に結合した制度としての原価計算ではなく,単に,ある期間を限っての原価調査に過ぎず,財務会計の結果とは別個のものである.

ニュース

「24回農村医学夏季大学講座」

ページ範囲:P.870 - P.870

 長野県厚生連など長野県の農協関係7団体主催の「24回農村医学夏季大学講座」が,7月26〜28日の3日間,長野県臼田町の佐久総合病院内の農村保健教育ホールで開催された.本講座は農村医療.保健活動に携わる全国の実践者が集まり,現場で直面している現実的テーマを取り上げ,ディスカッションの中から知識の交流を図ることをねらいとして毎年1回開催されてきている.
 本年は「地域づくりと健康管理」をメインテーマに,講演や現場で活動している保健婦らの事例報告などがもたれ,第3日のパネル「どうしたら地域の人々の健康への関心を高められるか」では,地域住民の健康意識を高め行動化させるかに関して討議された.

民間病院を見る,聞く,語る・22

メイヨーの医療体系にキャンベルの人間関係を—兵庫県・信原病院

著者: 信原克哉 ,   編集室

ページ範囲:P.871 - P.876

 新幹線相生駅から車で5分,兵庫県東部の竜野という小さな町に,肩では第一人者と言われる信原克哉氏がおられると聞き,病院を訪ねてみた.田園の緑に囲まれた病院であったが,内部はこれが地方の小病院かと疑うほどの設備,情報処理用機器,研究室,図書室,講堂等々.また中国,東南アジアからの研修生も引き受けている.病床数71,診療科は整形外科,理学診療科,外来一日平均患者数120,常勤医6(内麻酔科1).

厚生省から'84

健康増進センターの機能

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.877 - P.877

沿革
 昭和39年の東京オリンピックのころを契機に国民の間に積極的な健康意識が高まり,同年12月,「国民の健康・体力増強対策について」の基本方針が閣議決定され,各種の国策運動が展開されることとなった.
 厚生省では健康増進の具体策として,昭和42年より各地で「栄養と健康展」を開催したり,保健所において保健栄養学級を開設するなどして国民の健康意識を啓発する一方,昭和46年には専門家からなる「健康の指標策定委員会」を組織し,新たな施策の検討を行った.この委員会の研究報告に基づき,地域における健康増進対策の拠点として健康増進モデルセンターの構想が打ち出され,昭和48年には宮崎県と兵庫県加西市の2か所にセンターが誕生した.

講座 ニューメディアと病院・1

情報システムとニューメディア

著者: 岡田行雄

ページ範囲:P.878 - P.879

乗り遅れたくないニューメディア
 "ニューメディア"の出現により世の中はがらりと変わる,これに乗り遅れないようにと最近マスコミやメーカあるいは識者の大大的取り上げようである.事実,流通業界や金融業界等では既にそういった動きもある.しかし革命的な何かが一挙に出てきて,世の中の仕組みが一気に変わるほどのものでもなさそうだが,何か変化しつつあるのも確かである.
 ニューメディアといわれるLAN,VAN,CATV,INS,CAPTAIN,VRS,パッケージメディア等々,一体何のことやらさっぱり見当もつかない.マスコミの取り上げ方はデジタルだの光通信だの技術面をクローズアップしすぎるので殊更難しくなる.

解説 米国JCAHの病院認定マニュアルについて・4

病院組織(1)—理事会と管理部門

著者: 大道久 ,   三宅史郎

ページ範囲:P.880 - P.881

 今回から,全部で24区分された病院認定マニュアルの具体的な標準:Standardsの紹介に入ることとする.既に触れたように,原典の標準区分はアルファベット順に配列されているが,理解を容易にするため,病院組織や病院全般にわたる共通的事項についての標準をまず取り上げ,続いて各部門の具体的標準を紹介する.毎回,関連のある分野の標準を適宜組み合わせて記載して行くこととし,前後に筆者の注釈またはコメントを付け加える.見出しに英文原名を添えてある項が各標準の表題である.個別の標準は原則としてすべて紹介するが,原意を損わない範囲で簡略化して訳出する.

病院職員の基礎知識 院内各部門の知識

施設・設備部門

著者: 辺見九十九

ページ範囲:P.882 - P.882

当院の施設・設備部門の歴史
 年史によると病院は明治44年明治天皇が「慈善事業」と称し民間の手に委ねられ,恩賜財団済生会と称し,各都道府県に創設された.以後大正12年に関東大震災で焼失し,更に昭和20年には大空襲で建物3分の2が焼失したため木造の病棟や外来がバラバラに建てられ,設備も建物同様,電気は電気,ボイラーはボイラー,営繕は営繕というようにまとまりがなく,お互いに非協力的であった.が,昭和45年6月大々的に増改築され,古い2〜3階の建物が地下1階〜地上9階となり,全館空調設備の導入に伴い,設備機能も大型化・高度化され,患者及び職員の環境が改善され,医療設備の確立と併せてようやく近代的な病院として整備されたのである.それに伴い,施設・設備部門も電気・ボイラー・営繕などがまとまり,事務の一部門として,独立したのであった.

病院運営マニュアルの知識

物品の請求と修理

著者: 緒方廣市 ,   畑尾正彦 ,   日下隼人 ,   増子ひさ江

ページ範囲:P.883 - P.883

 給食材料を除いた医療用物品の中で,滅菌器材及びディスポーザブル製品は,手術センターに隣接した滅菌材料室にて,処理もしくは保管され,それ以外の医療消耗品は地階中央倉庫(調度課),また医療機器類は主として滅菌材料室隣りの中央機械管理室に保管されている.
 従来外来用器材類の滅菌については,大半が各科外来にある小型煮沸消毒器で処理されていた.この方法は搬送の手間もなく,また毎日同じところで処理されるので回転がスムーズで数量もそれほど必要とせず,それなりのメリットはあった.しかし蒸気は建物を早く傷めたり空調効率を下げる要因であること,また危険も無視できず,新病院では,滅菌材料室にて,一括処理されることになった.

ケーススタディ・人の管理

医員への採用を断ったところ,開き直った研修医

ページ範囲:P.884 - P.885

〔事例〕
 私は研究指定の総合病院の人事課長である.私の病院では従来より研修医の採用を通して,医員の補充を行っていた.つまり研修医を採用し,研修修了後本人が希望すれば自動的に医員として採用していたのである.
 ところが昨今の医療費抑制といった,厳しい社会環境に対処すべく,今年度は減量経営を目指して,採用は極力抑制するように,すなわち研修医から医員への採用も,努めて抑えるよう院長からの指示があった.

統計のページ

病院の経営分析・6—「病院経営実態調査」(全国公私病院連盟・日本病院会,昭和58年6月)より

著者: 森福省一

ページ範囲:P.886 - P.887

患者1人1日当たり診療収入
2)1人1日当たり診療収入階級別病院分布(この項前号よりつづく)
 外科入院患者における平均金額も高額であり,金額階級の間隔が20,000円未満と以上では異なっていることに留意されたい.表15では,20,000〜24,999円の病院が25.7%に及び,25,000〜29,999円が18.9%を占めている.
 外来患者では3,000円台の15.0%,これに次いで4,000円台の12.5%,2.000円台の12.0%などが多い.

定点観測

—高知県・西土佐村から—なぜ上郷を去ったか

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.888 - P.889

 私事で恐縮であるが,この7月末で,13年余にわたって勤めた由利組合総合病院上郷診療所(象潟町有)を辞し,高知県西土佐村の村立診療所に転任した.ここに転任へのいきさつや心の動きを赤裸々に述べることは,私のぐちや自己弁護になる面もあろうが,農村や過疎地の医療問題を考えるひとつの問題提起にもなろうと思い,あえて文章化させてもらった.
 上郷地区は,長年にわたり地域住民と医療関係者,農協などが一体となって行ってきた保健活動によって,住民の健康への関心は高まり,予防医学活動などの健康づくり運動は住民自身の力で維持し,より発展させ得るところまできたと思う.健康づくりは,充実した人生を過ごすための大切な条件のひとつで,終着駅はなく,人間が生きている限り永遠の努力を要求されるものである.

ひとこと

"ものは相談"

著者: 清水正章

ページ範囲:P.890 - P.890

(一)
 「ものは相談だが」と切り出される相談は,大抵簡単に乗れない相談である場合が多い.だがその内容の難易は別として,考えてみれば,私たちは毎日相談の中に明け暮れしているようなものではなかろうか.
 そこで念のため,このほど改訂新版の広辞苑を開いてみると,相談の意味が大まかに二つに分けてあり,その一つは「互いに意見を出して話し合うこと」とあり,これは対等の立場での話し合いに感じられる.今一つは「他人に意見を求めること」とあるから,ある程度,知恵の貸し借りのニュアンスが感じられ,対等でない場合も含むように理解される.続いて「相談役」という項があって,「会社で重大な事項または紛議などに,適当な助言,調停などする役であるが,法定機関ではない」とある.私だけがそう思うのかもしれないが,あの松下グループ傘下にある多数の会社の重役陣に,必ずその名をみる松下幸之助氏のための解説のようにまで感じるのは思い過ごしというものだろうか.

時評

経済低成長時代の新高額医療機器の命運

著者: 熊谷義也

ページ範囲:P.892 - P.892

 医療経済は低成長時代に入って次第に健保の締めつけなどが強まって来ているが,医療費の増加傾向は決して抑えられまいと思う.それは医療費急増の主たる理由が,医療費のむだ使いによるものではなく,医学の進歩により人が死ににくくなり,高齢者が増える,医療費が増える,という図式だからである.
 さて,これは82年8月6日号の『朝日ジャーナル』のコラムに筆者が書いたテーマだが,解答の出ない永遠のテーマのように思うので,もう一度取り上げてみたい.

新 病院建築・82

市立釧路総合病院の設計

著者: 榎本繁

ページ範囲:P.893 - P.899

経緯
 市立釧路総合病院では数度にわたる増築によって動線上混乱が生じ効率が低下したため,同じ敷地内に建て替えを計画した.立地条件は極めて恵まれているものの敷地自体が狭く,複雑な手順・長期に亘る工事・工事中の騒音・ほこり・安全性などに問題があるとして,約1km東方の春採(はるとり)湖岸の鶴ヶ岱浄水場跡地に移転することとなった.
 設計事務所の選定は5設計事務所間の設計競技によって1980年初めに行なわれた.以後病院内に設けられた移転改築推進本部事務局による院内全般からの意見の取りまとめと調整を経て1980年末に基本設計,1981年9月に実施設計が完了した.工事監理は建築工事を釧路市(住宅建築部)が,電気・設備工事を釧路市と久米建築事務所が共同で行ない,着工後の変更,施工図チェックや色彩計画は釧路市が主体となって進められた.

病院と地域活動 座談会

病院の地域活動での医療ソーシャルワーカーの働き

著者: 川村佐和子 ,   斎田みづえ ,   田中幸吉 ,   宮下ひろみ ,   杉山孝博

ページ範囲:P.900 - P.907

 杉山 現在,医療は成人病と慢性疾患の治療に比重が移っています.これらの疾患の特徴は,一つは根治的治療法がないために長期問,それもしばしば一生続く病気が多いこと,二つ目は急性期や増悪期を除くと,治療は日常生活を営む家庭や社会で行われること,三つ目は医療よりも経済的・家庭的・社会的問題により深刻になるケースが多いこと,四番目が医師・看護婦中心の医療から保健婦・栄養士・医療ソーシャルワーカー,更には保健所や福祉事務所などと協力するチーム医療が不可欠なこと,また老齢人口の増加に伴う患者の増加などが挙げられると思います.
 このような状況のもとで,最近は,慢性疾患を対象とした在宅医療や訪問看護に積極的に取り組む医療機関が増えています.また,慢性疾患の医療を効果的に行うには,経済的,社会的問題へのアプローチは必須ですし,この問題に最もかかわる医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)への期待は,高まっていくと思います.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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