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雑誌目次

雑誌文献

病院43巻6号

1984年06月発行

雑誌目次

特集 病院のソフト化

ソフト化社会と医療

著者: 藤野志朗

ページ範囲:P.480 - P.483

ソフト化とは何かなぜソフト化なのか
 筆者に与えられたテーマは,いわゆる「ソフト化」とは何かということを中心に,それと医療との関連を明らかにすることである,ここでは前者の問題すなわち「ソフト化」とはどのようなことを言うのか,を明らかにすることにウエイトがおかれる.
 そこで,まず「ソフト化」ということから考えてみよう.

病院のソフト化とは

著者: 西村周三

ページ範囲:P.484 - P.488

なぜソフト化か
 医療費の動向は,経済全体の動きに左右されざるを得ない.不況が長引けば,増税をしない限り,税収の伸びは鈍り,それが診療報酬にも跳ね返って,診療報酬の改定にも影響する.
 医療が人の命や福祉に深くかかわるものであるからこそ,医療費の伸びはこれまで経済成長率以上に伸び続け,病院全体は拡大の一途をたどってきた.医療関係者の給与の伸びも,平均的には,一般労働者の給与以上の伸びを続けてきた.

第一線病院のソフトウエアづくり

著者: 矢内伸夫

ページ範囲:P.489 - P.493

 激動の70年,不確実性の80年という言葉が流行してから早くも10年,残念ながらその予測は的中し,世界的構造不況の地震が医療経済ばかりか医療全般に向かって津波のように押し寄せている.苦あれば楽ありと,じっと耐えて光明の見いだせたのは過去のこと,じっとしている間にも医学は進歩し,患者をはじめ社会は価値観の多様化に向けどんどん変化していく.現代はあらゆる分野において,過去には想像できなかったほどの速いスピードと大きな規模で変化して行こうとしている.
 十数年前までは,建物・設備・医師看護婦確保などのハードウエアさえ充実すれば,患者のニードも画一化された中で満足し,ごく当たり前の運営管理さえ怠らなければ十分危機を避けることができた.けれども現代は,どうもそれだけでは解決できない事態を迎えつつあるようである.

病院のソフト化と「ニューメディア」の活用—集中から分散へ

著者: 開原成允

ページ範囲:P.494 - P.498

 これからここに書くことは,未来物語であると思う方もあるかもしれない.しかし,筆者の意図はそうではなく,発想を変えることによって,今の病院もまだ変化し得るということを示してみたかったのである.ここに描いた姿がすべて今すぐには実現しなくても,一部は今でも実行し得ると筆者は思っている.
 また,この小論はニューメディアの解説ではないこともあらかじめお断りしておく.ニューメディアの詳細についてはいくらでも,参考書があるし,また,この限られた紙幅では到底書ききれるものでもない.それに医療関係者にとって重要なのは,ニューメディアの技術の詳細ではなく,その,医療の中に持つ意義である.その意味では,医療関係者は基本的な事項を知っておくだけで十分と思う.

グラフ

地域の基幹病院として再出発—第3期工事を終えた兵庫県立柏原病院

ページ範囲:P.465 - P.470

 当院はすでに9年ほど前「柏原病院からのレポート」と題して,当時の副院長冨田重良氏(現在有馬温泉病院長)の手記を連載したことがある(vol 34, no 7,8,12)ので,ご記憶の方も多いだろう.
 兵庫県立柏原病院が足かけ8年に及ぶ第1期から第3期までの増改築工事を終え,この3月24日に竣工式を行った.そこで9年ぶりに当地を訪れてみた.

日本の循環器病学の発展を担う人 国立循環器病センター病院長 尾前照雄氏

著者: 田中健蔵

ページ範囲:P.472 - P.472

 海軍兵学校75期,九州大学医学部昭和25年卒,油の乗り切った院長である.
 昭和46年,勝木司馬之助名誉教授のあとを受け継いで,講師から九州大学教授に抜擢され,爾来,高血圧症,腎疾患及び福岡県久山町の疫学調査研究などを精力的に進めてきた.

シリーズ・医学教育を語る 対談

医師の卒前教育と第一線病院

著者: 細田瑳一 ,   池田貞雄

ページ範囲:P.473 - P.479

■なぜ医師の卒前教育を問題にするか
 池田 私どもが医学部の卒前教育の在り方に関心を持つようになった理由は,いずれ私どもは臨床の場を後輩に譲らなくてはいけないと思うからです.そういうときに自分たちの病院で若い医師を全部自前で育てることができれば理想的ですが,そういうことはなかなか難しいわけです.
 そうなると,第一線に出て,患者中心の医療を展開してきた私どもの行動と思想をどう次の世代に引き継いでいけば良いかということが,大きなテーマになってくるわけです.そうすると,自分の大学の後輩とか,他の大学の卒業生などとある期間チームワークを組まなくてはいけない.そのときに,全国的にある程度の質的レベルで,安心できる若い医師が育ってきているかというと,第一線を担う立場で見ると必ずしもそうではない.

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機器短報

ページ範囲:P.488 - P.488

階段昇降機
 中央エレベータ工業(電話03-833−0952)は従来から手掛けてきたエレベータなどの技術を生かした階段昇降機「ステップリフト」の新製品を発売した.
 機種は車いす専用,座いす型など10種あり,使用目的により選択できる.設置面積も従来のエレベータほど広く取らず,新旧の建物にも設置できる.<価格は85万円から450万円(工事費を含む)>

民間病院を見る,聞く,語る・19

老人ケアに結核療養所の経験を生かす—東京都・財団法人愛生会厚生荘病院

著者: 牛尾盛保 ,   吉岡和子 ,   青木信雄

ページ範囲:P.499 - P.504

 晴天には富士山を望み,また夜は多摩ニュータウンの夜景が美しいという当院は,昭和14年,現在のニュータウンがまだ多摩村という静かな農村であったころ,結核療養所排斥運動にも屈せず,設立された歴史を持つ.その後,戦後の結核患者の減少に伴い,32年一部を成人病棟に切り換え,引き続き結核病床を抱えながら老人病院に転換して今日に至っている.そのため結核療養所の生活部分を大切にし,静かに療養するという雰囲気を残している.他に特別養護老人ホーム,保育園を併設.基準看護1類.(右写真は牛尾院長)

厚生省から'84

今日の保健所

著者: 田中喜代史

ページ範囲:P.505 - P.505

保健所の現状
 昭和12年に保健所が正式に発足したが,その当時の保健所は結核,急性伝染病,母子衛生などを主とした相談指導とその予防対策の実施機関であった.戦後昭和22年に保健所法が全面改正されたことによって,従来警察が行ってきた衛生関係業務がすべて衛生行政に移されたことにより,健康相談,保健指導のほか,医事,薬事,食品衛生,環境衛生などに関する行政的機能をもった地域における衛生行政の第一線機関として機能することとなった.
 保健所の業務は以下のような事項について,指導及びこれに必要な事業を行うとされている.

講座 「修正病院会計準則」について・15

貸借対照表原則(つづき)

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.506 - P.507

資産の貸借対照表価額
 貸借対照表に記載する資産の価額を決定すること,すなわち資産の評価は,その期間の利益や損失の計算と密接な関連をもっている.
 たとえば,医薬品の期首たな卸高が100万円,期中購入高が2,000万円で,期末たな卸高が200万円とすれば,年間医薬品費は1,900万円と計算されるが,もし,期末たな卸高が300万円と評価されれば年間医薬品費は1,800万円となる.明らかに,利益は前者の場合が小さく,後者では大きく計算される.また,建物や器械・備品などについて減価償却費を過大に計算すれば資産の期末価額は小となり,逆に減価償却費を過小に見積れば期末資産価額は過大に評価されることになる.こうした例で明らかなように,期末の貸借対照表に記載される資産の価額が過小に評価されれば,利益も小さく表示され,逆に資産が過大に評価されれば,利益も過大に表示されることになる.資産の適正な評価は,経営成績や財政状態の適正な表示にとって基本的な要件である.

病院職員の基礎知識 院内各部門の知識

栄養部門

著者: 西村薫子

ページ範囲:P.508 - P.508

 今,日本は食糧が豊富で,いつでも,どこでも,好きな食べ物が自由に手に入る状況にあるために,かえって,「人が生きるための栄養の確保をどうするか」ということに興味や関心が薄いように思うのです.しかし,病気になって,自由に食べ物を選んだり,手に入れたりすることができない状態を想像してみてください.そこで,はじめて,次のことの重要性が浮きぼりにされることでしょう.「人が生活する場では,その人たちが生きる根源となる栄養の確保が重要課題」である.
 病院の設立に当たっては,規模の大小にかかわらず,入院患者のための治療食や職員のための快適な食事をどのような機構で提供するかを基本構想のなかに位置づけておくことが,近代医療の常識になっています.

防災の知識

防災マニュアル(6)—特別区域

著者: 石山稔

ページ範囲:P.509 - P.509

 ニューヨーク聖ルカ病院の防災マニュアルの紹介を通じて6回にわたり,病院防災について連載させていただいた.病院防災は一般に考えられている以上に重要なテーマであり,それは消防関係者及び防火担当者になってはじめて気のつくところである.ある意味で,病院は,防炎に関し「特別区域」なのであるが,その中でも,消防当局もよく理解をしていない集中治療室,乳幼児室,手術回復室は全く特殊な区域と言えよう.最後にそれらの区域における対策を,マニュアルから紹介したい.

ケーススタディ・人の管理

無責任な診療をする医師の処置を訴えたところ希望しない病棟に異動させられた看護婦

ページ範囲:P.510 - P.511

〔事例〕
 私の勤務していた病棟のA医師の治療方針や治療法には目に余るものがあり,どのように対応したらよいか一看護婦として悩んでいた.
 A医師は20数年の診療経験があり,当院(総合病院)に10年以上勤務している,ある専門科の医長である.A医師に対する病院内の評価は極めて芳しくなく,その科への患者の紹介を避けている様子からも医師集団の中でも信頼されていないことがうかがえる.しかし,病院としては当院の主流を占める医大の出身者でもあるA医師に対して何らの対策をとるでもなく,黙認している.

事務長のページ・病院の運営管理

病歴管理について思うこと

著者: 玉川雄司

ページ範囲:P.512 - P.513

 石油ショック以後,産業界では多くの構造不況業種が生まれ転換が始まっていたが,医療界はその直撃を受けずにきた.昭和56年6月の医療費改訂で戦後初めてのマイナス改訂となり,58年夏には大蔵省から「ソフトノミックス」への提案が出るなど,医療の分野にも新しい波への対応が迫られてきた.その中で,薬価差益問題は,厚生省,製薬側,医療側の間に解き難いからみがあり,「物」の多量消費型医療からの脱出については,技術評価や施設経費の問題などに対して診療報酬制度の面で対応しない限り,当面は多様な模索を続けることになるであろう.本稿ではこの難しい問題を避けて,あまり問題になることがない病歴管理の問題について述べたい.

統計のページ

病院の経営分析・2—「病院経営実態調査」(全国公私病院連盟・日本病院会,昭和58年6月)より

著者: 森福省一

ページ範囲:P.514 - P.515

職員数
1)100床当たり総職員数
 100床当たり総職員数を,開設者・年次別に見ると表5のとおりである.この職員数は非常勤者は常勤に換算したものである.すなわち,1週間の勤務時間が常勤者の半分の場合は,0.5人として計上してある.
 58年6月30日現在における全病院の100床当たり職員数は86.3人である.一般病院は89.7人,精神病院は49.9人,結核病院は42.7人となっている.

定点観測

—和歌山県・田辺市から—診療所で予防医学を推進

著者: 志賀清悟

ページ範囲:P.516 - P.516

 卒業して早くも6年間が経過した.月並みな言い方ではあるが,短くもあり長くも感じる6年間であった.当地和歌山県は無医地区が予想外に多い所である.地形的に山岳地帯が多いということが原因である一地図で見れば明らかなようにいわゆる「半島県」というハンディキャップは確かにあり,特に紀南地方は交通も不便で陸の孤島の性格を有する地域である。
 私はこの紀南地方に赴任してから4年になるが,研修は紀南綜合病院という,この地域の中心的病院で行っている.この病院は文字どおり紀南地方の地域医療をリードする中核病院ではあるが,院長を筆頭に地域医療に情熱のある医師が集まっているという意味で自治医大卒業生にとっては絶好の研修病院である.

—奈良県・十津川村から—へき地診療所活動を通じて

著者: 中村達

ページ範囲:P.517 - P.517

 医学部を卒業して3年の筆者が,紀伊半島の山間へき地である十津川村に赴任して2年たちました.この2年の間に微力ながら努力してきた中で感じたこと,山間へき地の診療所医師だからこそ見えてきた医療の矛盾が多々あります.
 「都会の病院で糖尿病と言われて食事療法を何カロリーでしなさいと栄養士に献立を教えられたが,家に帰ってみるとうまくできない.どうしたらよいか」と,72歳のおじいさんが相談に来たのは,雪の降る寒い日でした.よく話を聞いてみると,近くの開業医に受診したこともあり診察を受けるとすぐに薬を処方され気分が悪くなったこともあったということです.この老人は,老妻との二人暮らしで,十津川村の中でも不便な所に住んでおり,食物も随時には手に入れにくい状態なのだそうです.このケースはなんとか外来でコントロールをしていますが,医師の対応が教科書的過ぎて,非現実的であったことを思うと困惑させられるばかりでした.

新 病院建築・78

静岡県立総合病院の設計

著者: 塩田明弘

ページ範囲:P.521 - P.527

 静岡県では,県立4病院のうち,こども病院を除く3病院が老朽化し,手狭で,新しい医療事情に対応しきれなくなっていた.「県立3病院整備委員会」は,総合病院と精神病院の2本立てで整備すべきであり,総合病院は高度医療・特殊医療を分担する県内公的医療機関の中核として機能すべき旨を答申された.
 その結果,中央病院と富士見病院を統合して移転新築し,総合医療体制で成人病・結核診療・救急医療・へき地医療活動への応援・臨床研究活動・医療従事者の研修を果たす機能と施設を一新する計画が実現されたものである.

病院と地域活動 インタビュー

患者は治療の主人公—「教育医学」の実践

著者: 乾達

ページ範囲:P.528 - P.535

 乾達氏は静岡県清水市にある乾医院の2代目,大学を卒業後,病院勤務医を経験,昭和45年に診療所の跡を継いだ.父の蕃氏は現在も東洋医学を中心とした診療を行われている.数年前までは有床診療所であったが現在入院患者はいない.50年前に建てられた古びた建物を改造して使っている普通の開業医院と言っていいだろう.医師3名(父の蕃氏及び達氏ご夫妻),看護婦,事務員などスタッフが9名,1日100人程度の患者を診るのにはちょっと贅沢と言えようか.
 達氏は「患者自身が病気に対する主体性を確立するよう働きかける」という「教育医学」を提唱して,様々な実践を行っている.氏の「教育医学」について具体的にどのような診療が行われているのか清水市に乾氏を訪ねた.

病院精神医療の展開

地方における精神科救急の実態

著者: 稲垣卓 ,   井上雄一

ページ範囲:P.536 - P.538

 緊急に医療を求めて夜間・休日などに精神科を受診する患者には,興奮状態や自殺企図など対応の難しいものが多い.また即刻入院させなければならないものも少なくない.
 筆者らの勤務する2病院のうち,島根県立中央病院には救命救急センターがあり,そこに受診する患者のうち精神科医による診療が必要と考えられるものについては,精神科医を呼び出して診療に当たらせることになっている.一方,島根県立湖陵病院は単科精神病院であり,夜間・休日などの緊急受診に対しては当直している1名の精神科医が対応することになる.

シリーズ・病院経営 経営改善の事例 インタビュー

経営改善は医療技術の充実から—埼玉県・西大宮病院

著者: 大鐘稔彦 ,   石原信吾

ページ範囲:P.539 - P.543

 石原 今日は西大宮病院の病院経営についてお話をうかがいたいと思います.
 大鐘先生は京都大学の出身で,西大宮病院の院長ですが,いわゆるオーナー院長ではないわけですね.関東では京都大学出身の方は少ないと思いますが,まず,この病院をどうして引き受けることになったのかという経緯と信念についてお話し下さい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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