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雑誌目次

雑誌文献

病院43巻8号

1984年08月発行

雑誌目次

特集 老人病院の実情と課題

老人病院の位置づけと求められる機能

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.660 - P.663

老人病院の規定
 一般に老人病院とは,老人が多く入院している病院と理解されている.しかし「老人病院」という名称は,老人保健法の成立以前には法令上どこにも存在しなかった.成立後の法令通知では「主として老人のみを入院させている病院」という表現が用いられた.
 法規上の「老人病院」とは,医療法上の医師,看護婦等の配置基準が緩和される特例を病棟単位で受けた特例許可病院と,この特例を受けていない70歳以上老人の収容率が60%以上のうち基準看護承認病院,結核,精神,伝染病院,及び特例の事由のあると知事が認めた病院を除いたものである.

老人病院の問題点—老人病院福祉連絡会5年の歩みを中心に

著者: 中山いづみ

ページ範囲:P.664 - P.668

老人病院福祉連絡会の発足
 総人口の中に占める65歳以上の人口の割合が7%を超えて,日本が老年国の仲間入りをしたのは昭和45年である.それ以降,「高齢化社会の到来」に関する記事がマスコミに登場し,老人の医療と福祉の問題が,にわかにクローズアップされてきた.老人医療費の無料化の影響もあって,各医療機関では,昭和50年ごろから老人患者の増加が目立ち始め,病院待合室の「サロン化」現象も指摘されるようになった.老人患者を数多く抱えている病院のMSWは,老人の医療と福祉の両面から生ずる諸々の問題に対して,個々の力では対処しきれない限界を感じ,病院間の横のつながりの必要性を痛感していた.そして相互に連絡を取り,協力しながら,老人の抱えている問題を福祉的視点から解決することによって,老人のためのよりよい老人専門病院として充実していくことが望まれた.そこで昭和54年4月,思いを同じくする数名のMSWが発起人となって,連絡会をもつことを呼びかけ,それに応えて18の病院が参加した.これが,「老人病院福祉連絡会」発足の経緯である.現在会員病院数74,会員病院所在地は東京都を中心にほぼ関東全域にまたがっている.

老人診療報酬と老人病院

著者: 谷修一

ページ範囲:P.678 - P.680

 老人保健法が58年2月に施行されて,既に1年半が経過しようとしている.この間,老人に対する医療の確保,40歳以上の者を対象にした医療以外の保健事業(いわゆるヘルス事業)の実施,保険者からの拠出金の徴収などを含め老人保健制度はおおむね順調に運営されてきていると思われる.ここでは,老人保健法の施行に合わせて発足した老人病院制度について,その背景にある老人の医療と診療報酬も含めてその考え方を述べてみたい.

ケースレポート 当院の活動と運営管理の実際

老人保健法以後の苦闘と今後の展開—霞ケ関中央病院

著者: 斎藤正男

ページ範囲:P.669 - P.672

老人医療専門病院として
 昭和47年11月「老人にも明日がある」を事業理念に据えて,県内最初の老人医療専門病院として開設.現在120床,常勤職員90名,非常勤職員20名,基準看護,寝具,給食サービス実施.病床利用率は,年間を通して100%に近く,内科的治療とリハビリテーションを併行し,治療病院としての機能の充実に力を注いでいる.対象患者の80%は脳卒中後遣症で,平均在院日数は逐年延びており,本年3月末現在調べでは168日.平均年齢は,75.4歳である.
 次に,7年前に,当院が推進母体になって,同じ市内に,特別養護老人ホーム「真寿園」定員88名を建設し,地域サービスとして在宅老人機能回復訓練事業,在宅老人短期保護事業,生きがい対策事業としての工房真寿窯の併設,デイサービスセンター事業の4つを実施し,当院は協力病院としての役割を果たしている.

理想の老人病院を目指して—天本病院

著者: 天本宏

ページ範囲:P.672 - P.675

 今や老人問題は社会各領域の関心を集めるに至った.殊に老年医学のなかにあって,老年期精神疾患の対策は急務とされている.このような現状にあって,老年精神疾患の疫学的研究は,対策上の基礎資料として欠くことのできないものであった.
 筆者らは,昭和48年,東京都民生局の協力を受けて,在宅老人についての生活及び健康の調査を施行し,実態を把握することができた.すなわち,東京都内に在住する65歳以上の老人5,000名を対象として精神科医及び心理技術士による個別訪問面接による精神医学的疫学調査を行って,次の結果を得た.

開設5年の試行錯誤を振り返って—大生病院

著者: 寶積克彦 ,   猪股智成

ページ範囲:P.676 - P.677

 現在,老人病院に対する一般的考えには,一般病院における慢性疾患患者の転院先あるいは福祉行政の遅れの肩代わりとしての施設と誤解されている面が多分に感じられる.しかし現場の私たちは,老人病院とは老人の肉体的,精神的,社会的特性を踏まえながら,老人の健康的生活を守るために,医療サイドからのアプローチを行う施設であり,決して病院とホームの中間施設ではなく,老人の療養に適した「専門病院」であると考える.そこで,本稿では当院の実情を紹介し,また老人病院を運営する立場から,老人保健法施行後の医療環境の中で感じているいくつかの矛盾に触れてみたい.

グラフ

難しい規約より"ヨオッ"と言える人間関係を—昨年オープン病棟を併設した多治見市民病院

ページ範囲:P.645 - P.650

 名古屋から中央本線で約30分,庄内川(土岐川)に面する陶器の町の多治見市民病院は,昨年10月,地域の開業医師に病院のベッドを開放する,いわゆる開放型(オープン)病棟併設に踏み切り,新しい対応を摸索する全国の病院の関心を集めている.当院のオープン化は,44年にオープン病棟を開設した市立小樽病院に次いで,公的病院としては我が国で2番目.そこで,オープン化の一環として市医師会と合同の勉強会が催されるという日,当院を訪ねた.
 最近,周辺人口が急増している多治見市には3次医療を担う県立病院と2次医療を担当する市民病院という二つの公的総合病院があるが,その中で市民病院は重装備の県立病院に比べ,機動力に富んだ小回りのきく病院を目指してきた.市民病院の発足は昭和22年,その後増床を重ねて現在250床.診療科は内科,外科,整形外科,産婦人科,小児科,眼科,耳鼻咽喉科,口腔外科,放射線科,理学診療科の10科.外来1日平均患者数550.

深い専門性と豊かな人間性 国立岡山病院院長 山内逸郎氏

著者: 小川次郎

ページ範囲:P.652 - P.652

 山内先生のあの微笑んだ顔付きは生れつきの小児科というのがぴったり."未熟児の山内","母乳栄養の山内",更に国際的には,"新生児黄疸の経皮測定器の創始者としての山内""経皮酸素分圧モニタリングの臨床的応用の開拓者としての山内"などなどその名声は高い.今日では,未熟児新生児のnon-invasive ca-reの提唱者であるとともに,早くから胎児学に注目し,胎児,新生児の感覚の発達を新しい角度から追求し,ユニークな胎児,新生児の人間像を紹介した人でもある.
 山内先生は,粋純の岡山人で,昭和22年岡山医大を卒業,27年国立岡山病院の小児科に勤務されて以来32年間,未熟児,新生児の医療の開拓を中心として大いに貢献され,49年病院内に小児医療センターを設立,同所長として活躍,次いで57年同病院院長となり今日に至っている.この間昭和30年から2年間好んでニューヨーク大学生理学教室に留学された.世界の新生児学者に先んじて経皮酸素分圧モニターの臨床的応用を開発されたルーツはこの時にあったようである.ここ10年は欧米の学者との交流が激しく,外国旅行も年5〜6回以上に及び,殊に近年は外国からの招聘講演のための出張が多いと聞いている.

シリーズ・対話

宗教・演劇・医療—儀式性

著者: 上杉清文 ,   塙正男

ページ範囲:P.653 - P.659

■現代葬式考
 塙 私はあまり信仰心はないんですけれど,この年齢になると,結構いろいろとお葬式に出る機会が多いんです.そこで,会派や宗派もいろいろあるけれど,最近,お葬式がかなりいい加減になってきているのではないか,ということを感じます.どうなんでしょう,そういう風潮はないですか.
 上杉 あの……,ジャズピアニストの山下洋輔さんが,セレモニーとしてみた場合,葬式はライブである,と言っているんです.自分がやっていることによって,お客さんの前でこの世のものではないような世界を垣間見せることができれば,演奏はうまくいったということだ,と言うわけです.

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機器短報

ページ範囲:P.668 - P.668

めがね形骨導補聴器
 松下通信工業(電話045-531-1231)はイヤホンが不要でめがね感覚の気軽さで使用できるめがね形骨導補聴器"新イヤグラス"「WH−8060」を発売した.骨導補聴器は,音の信号をバイブレータにより機械振動にかえ,この振動を耳の後の骨を介して直接内耳に伝えて聞けるのが特色.本器は小型・軽量化,パワーアップされ中度難聴者にまで適用できる.〈価格は13万円〉

海外の医療

病院にとってのDRG—米国の医療現場を視察して

著者: 岡田玲一郎

ページ範囲:P.681 - P.683

 ご承知のように,昨年10月1日から米国ではDRG(Diagnostic-related treatment Groups診断名別支払方式)が法律として施行された.昨年6月の渡米時点で,ぼんやりとその実態が見えていたので,その後の経過が非常に気になることだった.米国の何人かの友人と手紙のやりとりがあったが,施行以後もDRGについては必ずしもクリアーでなかった.更に,雑誌等で伝えられる情報もなんとなくはっきりしないものを感じていた.去る6月中旬,渡米の機会を得たのでモヤモヤしたDRGについてクリアーにしたいと願って私費を投じて訪米した.14人のグループであったが,グループ・メンバーもDRGについて関心の強い方ばかりで,その関心から発した質問でDRGについては,ほとんどクリアーになるとともに,非常に大きな問題であることを実感した.
 そこには様々な問題があるが,本誌の性格上,我が国の病院にとってDRGとは何なのか,その影響はどうなのか,将来はどうなっていくのか等,「病院にとって」を中心にして報告しながら,問題点について私見を述べてみたい.なお,社会的な問題については,補足的に若干のレポートを付け加えたいと思っている.

厚生省から'84

臨床研修病院指定基準の変更

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.685 - P.685

 「医師は,免許を受けた後も,2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとする.」という規定(医師法第16条の2)に基づいて,卒直後2年間の「臨床研修」が行われている.厚生大臣が臨床研修の場として相応しい病院を指定する際の基準がこの度変更されたので,臨床研修を取り巻く状況の変化に触れながら変更の趣旨及び概要を述べてみたい.

講座 「修正病院会計準則」について・17

貸借対照表原則(つづき)—有形固定資産の評価

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.686 - P.687

有形固定資産の取得原価
 準則は,有形固定資産の評価について,次のように示している.
「有形固定資産については,その取得原価から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする.有形固定資産の取得原価には原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含める.」(第20章(四))

解説 米国JCAHの病院認定マニュアルについて・2

認定マニュアルの構成と標準の性格

著者: 大道久 ,   三宅史郎

ページ範囲:P.688 - P.689

病院認定マニュアルの構成
 具体的な認定マニュアルの内容に入る前に,その全体的な構成と,このマニュアルを解釈運用するに当たっての基本的な前提条件や,一般的な留意事項について触れておく.
 JCAHの病院認定マニュアルは,基本的には,病院の在り方を規定する様々なStandards—標準から成り立っている.前回述べたように,歴史的には1918年の米国外科学会のわずか1頁の5項目の標準が出発点であったわけである.

病院職員の基礎知識 院内各部門の知識

医療相談室業務

著者: 足利量子

ページ範囲:P.690 - P.690

 おそらく多くの病院に,医療相談室という名称で呼ばれている部門があります.そこはケースワーカー(正式には,医療ソーシャルワーカー)が業務を行っているところです.医療相談室(以下相談室)の病院での位置付けあるいは所属は様々ですが,大別すると,独立部門,診療部門,事務部門の三つに分けられます.

病院運営マニュアルの知識

外来運営のポイント

著者: 緒方廣市 ,   畑尾正彦 ,   日下隼人 ,   増子ひさ江

ページ範囲:P.691 - P.691

総合案内
 外来入口から入って正面に位置するところに総合案内がある."ふれあい広場"に面し患者の流れの中で目立ちやすく,また立ち寄りやすい場所と言える.看護婦1名(開設以来外来婦長が担当している)と医事課職員1名が勤務時間内に限り常時駐在し業務に当たっている.午前中の診察受付時間内においては,カウンターを利用して設けられている診察申込書記入場所となっている関係で,患者が受診科の判断に迷っている時,的確に受診すべき診療科を判定したり,診察申込書の記入方法等の応対が主となる.また午前も後半に入ると,患者の流れが逆になり,検査,X線,薬局等の場所の案内が多くなる.病院建築計画時に,案内は掲示案内にのみ頼るのではなく,職員が積極的に言葉と態度で案内しようと,意識的に掲示案内を少なくした故かもしれないが,改めて掲示案内には限界があることを知らされた.その意味でも総合案内は当初の計画どおりの機能を果たしていると言えなくもない.
 また重要な業務の一つとして,時間内における情報センターとしての役割がある.消防庁救急本部からの電話による患者搬送についての照会に対する対応,救急車の来院が決まると,当該科の医師(各診療科では当日の救急担当医が決まっている),病棟,入退院受付等への迅速な連絡が必要とされる.そのため当日の救急担当医,医師の出勤状況,空床等の情報が正確に把握されていなければならない.

ケーススタディ・人の管理

看護婦と対立する放射線技師

ページ範囲:P.692 - P.693

〔事例〕
 放射線技師のAは決められた仕事は落ち度なく処理できるが,働くことに意欲的ではなく,できるだけ楽をして一日を終えようという態度がみられ,勤務時間内でも仕事のない時は部屋の片隅で雑誌や競馬新聞を読んで時間を費やしている.患者が撮影できる状態になるまで腰をあげようとはせず,漫画に目を通していることもある.患者が指示通りに動かないと,患者の前で「準備が悪い」等々円滑に撮影ができない苦情を並べ立てたりして,A自身の感情を直接患者に向けることが多い.
 このような不愉快な場面に居合わせた看護婦とAとの間で時折批判的やりとりがなされるが,大抵の場合感情的なけんかになってしまう.Aとのトラブルを嫌って看護婦も次第にAに注意をしなくなってきているし,Aの態度も変化をしていない.Aの同僚にも注意をしてほしいと呼びかけるが,「業務に支障があるわけではないし,Aの性格だから仕方がない」という考えが強く注意をしたがらない.Aの上司は「問題が起これば手を打つ」という姿勢であり,現状に対して積極的な対処はなされていない.

統計ページ

病院の経営分析・4—「病院経営実態調査」(全国公私病院連盟・日本病院会,昭和58年6月)より

著者: 森福省一

ページ範囲:P.694 - P.695

医師1人1日当たり患者数
(この項前号よりつづく)
 一般的に,医師1人1日当たり患者数が過度に少なくなると,病院経営は逼迫する.また,過度に多くなると「何時間待って3分間診療」という非難を受けるようになる.この判断基準は別に論ぜられるべきこととして,現実に,取扱い患者数別の病院分布はどのようになっているかを見ると表13のとおりである.
 内科入院患者の平均は表12に示すように14.0人であり,10〜14人の病院が最も多く25.8%を占めており,次いで15〜19人の22.8%,5〜9人の14.9%,20〜24人の12.6%などが多い.

定点観測

—長崎から—最近思うこと

著者: 岩崎栄

ページ範囲:P.696 - P.697

「医療大国」日本
 今や国会は健康保険法改正案をめぐっての審議が焦点となっているかに見える.しかし,実質審議は全くなく(いずれの問題のときもそうであるようだが),国民の眼には水面下ないしは首脳人の間でのジャブが応酬されているようにしか見えない.元来,国会の論議などというものは,そのようなものかもしれない.先日,来崎された羽田日本医師会長のうら話し的発言を聞いてもそうであるが,案外,国会議員の先生方は,これだけ問題になっている改正案なのに,健康保険法の成り立ちや今回の改正のポイント,どうして日本医師会が反対しているのか,その理論的根拠はどこにあるのかなどについては,あまりご理解にはなっていないような感触を受けた.
 国民の関心もそのような程度であるのかと危ぶまれるが,しかし,連日のテレビや新聞で報道されることからは,危機迫る感がないでもない.今にも日本の医療が崩壊するのではないかとか,将来の国民の健康が守れないようになるのではとの心配である.

インタビュー

「痴呆」専門病院を開院した きのこエスポアール病院 佐々木健院長

著者: 本誌編集室 ,   佐々木健

ページ範囲:P.698 - P.698

 本年4月,痴呆老人を専門とする「きのこエスポアール病院」が岡山県の笠岡市に開院された.山陽本線笠岡駅から北へ約5kmの小高い山の上にある.
 佐々木 1980年に,ここから約4kmほど山に入った木之子(きのこ)町に,医師1人,看護婦1人で,住居兼用の診療所を開きました.ここは無医地区でしたから,内科から小児科,もちろん精神科の患者さんまで診てきました.

時評

健保制度改正案騒ぎに思う

著者: 熊谷義也

ページ範囲:P.700 - P.700

 最近,新聞のトップ記事に医療問題が登場するようになった.健康保険制度改訂に関する政府自民党対野党対三師会のやりとり,取り引きで,記事を読んでも,何がどうなるかがさっぱり分からない.自民党は,健保自己負担を1割として,次いで2割,3割と増やしていき国民健康保険も含めて同じようにしてしまおうという考えですかナ.

新 病院建築・80

房総のS病院の設計

著者: 池原義郎

ページ範囲:P.701 - P.707

はじめに
 この私立の病院は,朝市と漁港で知られる外房の町に建てられた.町は港に接する魚市場から,丘陵にはさまれた大地の襞のような谷間に展開している.水辺に水平にのびた市場から続く家並は低く大地と平行している.近年2,3の高層ホテルやリゾートマンションも建ちはじめ,少しずつ街のスカイラインを変えつつあるが,街中を歩くとき,町の小さな隅々に漁師たちの生活の香りが肌につたわってくる.この病院は町の中に永く生き続け,成長を続けて,この町の市街地および郡部を含めた地域医療の拠点の役割を果たしている.
 すでに,鉄筋コンクリート造3階建の病棟,薬局,リハビリテーションを含む中央施設を中枢として,10病棟に及ぶ建築群によって全体が構成されていたが,今回,木造の病棟群の老朽化に伴い,それらを整理して高層の病棟に集約することが私たちに依頼された.

病院精神医療の展開

老人精神障害者の入院医療—その現状と問題点

著者: 竹中星郎

ページ範囲:P.708 - P.712

 精神病院の老人病棟や老人病院の精神科病棟は大半が痴呆患者で占められている.その上に多くの入院待機が控えている.高齢化社会と言われるようになって久しいが,中でも痴呆老人の著しい増加は医療のわくを越えて緊急の社会的問題となっている.在宅の痴呆老人の家族が介護に疲れ果てる現象の一方で,核家族化は老人だけの世帯の増大を生んでいる.
 このような背景は老年精神障害の入院の要因に極めてよく反映されている.それらのほとんどは,①異常行動や夜間せん妄,あるいは身体病を併発のための治療を必要とする急性群,②失禁,緋徊,寝たきりなどの介護を必要とする群,の二つに尽きる.前者は治療を目的としており,後者は介護している家族の状況や意向による面が大きい.脳出血のために一般病院に入院して,治療の目的を果たしても痴呆や介護を必要とする機能障害が残ると,家庭へ退院できずに老人病院や精神病院に転送される.これらは医療よりも福祉的問題である.

シリーズ・病院経営

病院経営戦略論序説—2.経営理念と戦略の要素及びマネジメント・コントロール

著者: 田中滋

ページ範囲:P.713 - P.716

■経営理念の例
 前回(4号)報告後,「経営理念とそれを受けた戦略決定のための心構え」について,非常に優れた例を入手したので,まずそれを紹介したい.アメリカ合衆国に本拠を置く,ある国際的なヘルスケア関連企業の事例である.製品やサービスのみならず,業績も従業員の扱いも卓越した企業と言ってよい.もちろん,病院事業との間に多少の差は存在する,しかし「経営の本質」レベルまで抽象化して考えれば,共通の概念規定から組み立てられたステートメントとして,尊重すべき内容を持つ(注1).
 同社の経営理念を下に示す1).ここで注目すべきは重視の順序の明示である.「顧客—従事者—コミュニティ—出資者」という序列自体は,組織によって異なっても問題はない.むしろ,正に理念が違えば序列が入れ換わって当然と言えよう.大切な点は,平板な並列的提示を採らず,積極的に価値観の表出を実行している,という組織の自信にある.

中小規模病院の運営

民間病院の「オープン化」—小都市における一つのひな型

著者: 竹内實 ,   木村穆 ,   鈴木英軍

ページ範囲:P.717 - P.720

 従来の医療の在り方が近来大きく変わろうとしている.これまでの医療は多くの有床・無床診療所と,公的病院,私的病院の三つの機能により支えられてきたと言える.しかも,つい最近までは医療供給不足の状態で膨張を続けてきた.徐々に量的には,ほぼ充足する時代を迎え,更に地域によっては既に過飽和にすらなっているときに,医師会病院で代表される開放型病院の登場を見たのである.
 確かに一面で医師会病院は理想に近い医療体制と言えなくはない.しかし,既に十分な病床を持つ地域での新設病院が引き起こすかもしれないトラブルを考えるとき,民間病院のオープン化が次善の策として脚光を浴びる可能性は高い.

民間病院を見る,聞く,語る・20

充実したリハビリ機能を核に老人の総合療養施設を目指す—兵庫県・医療法人甲風会有馬温泉病院

著者: 小林八郎 ,   冨田重良 ,   一条勝夫

ページ範囲:P.722 - P.727

 京阪神の高級保養地有馬温泉て,温泉を利用したリハビリに取り組む有馬温泉病院は病床数280.現在病床とほほ同数の待機患者がいるという.編集室か当院を訪ねた日はあいにくの雨だったが,晴天には緑の木立の中に鳥のさえずりを聞く素晴しい環境,PT11,OT4という恵まれたリハビリスタッフ,そして病院らしくない自由に療養を楽しむという雰囲気が人気の秘密かもしれない.病院創設者である理事長と赴任早々の院長コンビで,高齢者に厳しいこれからの医療環境をどう乗り切るか,注目される.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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