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雑誌目次

雑誌文献

病院44巻1号

1985年01月発行

雑誌目次

特集 国民医療費の再検討

国民医療費の推移と医療の将来

著者: 寺松尚

ページ範囲:P.17 - P.22

 健康保険法の改正案が国会を通過,成立してから早や3か月有余が過ぎようとしている.今や改正事項のほとんどが実施に移されている.
 病院関係者からの話を大ざっぱに要約すると,患者数は従来と変わりないが,健康保険本人の1日当たりの診療点数はやや減少気味であるとのことである.おおむね混乱なく実施に入っているように思う.

国民医療費配分と医業経営の方向

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.23 - P.27

 国民医療費の配分,つまり誰がどれだけ医療費を受け取ったかという分配の態様は,医療費の支払方式の結果にほかならない.
 資本主義経済では「自由放任」であることが「見えざる手」に導かれて,おのずから妥当な合理的な結着をみるものと,アダム・スミスが唱えてきた.売手も買手もそれぞれの経済的動機=自己の利益に基づいて行動することが,結局は社会全体の利益を増進させる結果となる.いらざる介入・干渉は,かえって合理的な結着を妨げるという考え方である.これは現在でも国際貿易の自由化の主張に生きていることである.

国民医療費のフローと産業連関分析

著者: 菊地隆俊

ページ範囲:P.28 - P.31

国民医療費のフロー分析
1.医療費のフロー
 現代の諸産業は,相互に取引き関係を結びながら生産活動を営み,複雑な相互依存の網の目を通してつながっている.医療サービス産業についてもその例外ではない.
 国民医療費は昭和59年度に15兆円の巨額にせまっているが,このカネはまず病院と診療所の売上げとして医療機関に流入する.医療機関が医療サービスを患者に提供するためには,いろいろ他産業の製品やサービスが必要である.患者に投与するための薬品,手術・検査に使用する医療機器,給食のための食料品等々…….以上は物的な製品であるが,この他にも一般の家庭と同じように,電気,ガス,水道,電話などのサービスを他産業から購入しなければ1日も医業経営を維持することはできない仕組みである.

診療報酬支払い制度の改革

著者: 吉田清彦

ページ範囲:P.32 - P.34

 医療費の増高は世界の傾向であり,その原因は医学医術の進歩,医薬品,医療機器の開発といった医療内容の向上と,社会環境の変化,人口の高齢化による慢性疾患の増加,国民の生活水準の向上,医療保険の普及などがあげられる.1970年代後半頃から欧米諸国では医療費抑制策が積極的にとられて来た.欧米諸国に比べれば医療費問題は良好な状況にある我が国でも1980年代になり,従来からの医療コストの抑圧に加えて種々の医療費抑制措置が強くとられ始め,昭和59年10月からは健保本人にも1割の自己負担が課せられたように,制度始まって以来の健康保険法大改正が実施されたわけである.
 医療費問題が論議されるとき,まず出て来るのが現物給付,出来高払い制度の罪悪説である.国民医療の諸悪の根源は診療報酬の支払い制度が現物給付,出来高払い制にあるとする意見が支払い側である保険者および行政の一部に強い.

国民医療費の動向と病院

著者: 財津晃 ,   余語弘 ,   岩渕国人 ,   有澤源蔵 ,   丹野三男

ページ範囲:P.35 - P.41

国民医療費の動向と病院
 健康保険法改正が実施された1984年10月1日以降の患者の動向は,短期間ではあるが,懸念していた患者減はなかった.思いがけなく負担金が多かったというトラブルもあまりなく,もしあっても説明により納得して貰っている.短絡を承知でいえば,一部で心配された現金の用意がないために受診できないという事態は幻であったようだ.世界1とも2ともいわれるGNPに支えられ,日本全国を覆うクルマ熱,海外旅行,外食産業等々が盛んなところからみても,厚生省がいっていた受益者負担の説明は当たっていたし,今後の短い期間を限っていえばこれが続くであろう.ここで病院としては入院個室料,人間ドッグなど,健康管理や患者サービスに連なる施策を拡充する必要がある.
 今日の国家財政と,これに完全に支配され,現況として抑圧されている医療費の関係ぐらい矛盾に満ちたものはない.

グラフ

地域に密着した手づくりの医療—諏訪中央病院

ページ範囲:P.9 - P.14

 諏訪中央病院は東京から約3時間,長野県茅野市にある.茅野市は人口約4万5千人,八ケ岳連峰や蓼科高原などの観光地の玄関口である.
 当院はちの町国保直営病院として,昭和25年に一般病床22床で発足.その後,33年に茅野市,諏訪市,原村の2市1村の一部事務組合立となり現在に至っている.現在,「①予防からリハビリまでの一貫した医療,②地域に密着した手づくりの医療,③救急医療,二次・三次医療を担う」のスローガンで「地域医療」に取り組んでいる.

和やか,スムーズな運営に導く日本大学医学部板橋病院院長 馬場一雄氏

著者: 山本亨

ページ範囲:P.16 - P.16

 馬場一雄先生は東京の中野に生まれ,学習院から東京大学医学部を昭和19年に卒業,昭和38年に東大助教授から日大の小児科教授になり,その後,日大看護学院長や,日大病院副院長を歴任されて,昭和53年から現在までの6年間,日大板橋病院の院長を務められている.そして私は副院長として約12年間,先生のおそばで働かせていただいている.
 このご経歴から分かるように,先生は良い意味でのスマートな都会人であり,センスは抜群に良い.看護婦のユニホームを決めたり,病院に飾る絵画などを選ぶ場合などには我々は先生のこの才能に頼っている、先生の頭脳は明敏で,かみそりのような鋭さをもって物事を奥底まで見抜かれるが,同時にある時には,太い樹の幹を倒す斧のような豪胆な思い切りの良さがある.この先生に率いられて,板橋病院はこの数年間,極めて和やかに,スムーズに運営されてきた.

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機器短報

ページ範囲:P.27 - P.27

試験機能付構内モデル
 千代田情報機器株式会社(電話03−264-6131)は試験機能の付いた多分岐用のローコスト構内モデル「LAN−22」の販売を開始した.
 このモデルは,パソコンやオフコンの急激な普及と企業内通信網LANの構築に対応させることを目的としたもの.

在宅ケアへの模索 対談

在宅ケアの現状と今後の展開

著者: 季羽倭文子 ,   小笠原道夫

ページ範囲:P.42 - P.48

 小笠原 日本でも,聖路加病院は大正14年の開始と言いますから,一部では在宅ケアを支持する訪問看護はかなり歴史が古いわけですが,この10年くらいですか,訪問看護の機運が盛り上がってきたので老人保健法でも取り上げられ,点数化されたということなのでしょう.ところが,見ているとその後一向に燃え上がってこない.もっと広がるのかと思ったら,そうでもないところがあるわけです.ですから,確かに世の中にはニードがあるけれども,まだ,それに乗ってこない要素もあるんじゃないかと思います.私たち医療の側から見てますと,ある条件の患者さんを在宅でケアすることは非常に医学的なメリットがあるので,なんとかして在宅ケアを広めていきたいと思いますが,いったいこれからどうしたらいいかということを,中心になって考えていらっしゃる季羽さんに伺いたいと思います.
 話の順序としまして,この夏アメリカの訪問看護を見ておいでになったとお聞きしていますし,あるいはイギリスは度々おいでになっておられますので,外国で訪問看護は一体どう行われているか,それが最近どう変わってきているかあたりからお願いします.

定点観測 高知県・西土佐村から

新しい健康づくり運動を目指して

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.49 - P.49

 北国・秋田の診療所から,南国・高知の診療所へ移って3か月,ところ変われば品変わる,というごとく,気候の違いばかりでなく,人間性,そして食生活などさまざまな違いを感じる.まず第一に暖かい.11月中旬になろうとしているのに,朝夕の肌寒さはあるものの日中はワイシャツで十分,半袖,半ズボンで通学している子もいる.その上,連日の青空,どこまでも澄んでいる秋空——.東北ではそろそろ北風が吹き,空がどんよりと曇り,チラリホラリと雪が舞い落ちる季節だというのに.
 気候に呼応してであろうか,村人たちは明るく話す.しかも,初対面でも以前から知りあっていたごとく親しそうに話しかけてくる.診察室でもそれは同じだ.

講座 ニューメディアと病院・4

医療情報システムの現状

著者: 岡田行雄

ページ範囲:P.50 - P.51

病院情報システム
概況
 病院の情報システムを構成している通信手段には,院内放送設備,電話,ポケットベル,テレックス,ファクシミリ,コンピュータ,データ通信設備あるいは多くのランプ表示,また心電図伝送装置等多くのものがあり,日常頻繁に使われている.しかし他の一般企業と比べてみると,通信手段の利用はかなり少なく,それだけ人の移動が多いとも言える.このことは通信の必要性もさることながら,医療のもつ特殊性から,人と人の対面のコミュニケーションと,手記による記録・保管が本質的に,また伝統的に重視されていることからくるものでもあろう.
 医療におけるコンピュータ利用は,昭和40年頃からまず病院内での利用について検討が始まり,40年代前半には先導的な大規模の数病院で当時の大型コンピュータの導入が図られている.40年代後半になると利用台数は急速に増え,49年には約600台,50年代に入ると更に利用が進み,54年には約4,500台,現在は全病院の約40%で10,000台以上(診療所も含む)のコンピュータが利用されている.

解説 米国JCAHの病院認定マニュアルについて・7

医療の質の確保と施設利用検討

著者: 大道久 ,   三宅史郎

ページ範囲:P.52 - P.53

 前項の医師団におけるいくつかの標準において繰り返し述べられていたように,医療の質の確保と,効率的なサービスの提供は,この認定マニュアルの根底に流れる思想であるといい得よう.両者は二律背反の要素を含んでおり,その均衡と調和が強く求められているといってよいであろう.
 医療の質の確保は,Quality Assur-anceという概念で述べられ,効率的側面はUtilization Reviewとして語られている.前者は,プロフェッション集団としての医師団による相互評価検討(Peer Review)によって保証され,後者は客観的な基準や指標の設定と,事後の評価組織による検討が主体となる.

新しい医療と厚生行政

21世紀の医療を目指して—連載に当たって

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.54 - P.54

 我が国の保健医療水準は,今や世界のトップグループにある.このような高い保健医療水準が達成された理由として,国民皆保険を達成した医療保険制度や国民生活水準の向上などと並び,医学の進歩や保健医療供給体制の充実が大きなウエイトを占めていることは見逃せない.
 現在,医療の供給は質量両面にわたってかなりの水準に達している一方で,医療資源の地域的遍在も指摘され,個別の需要についてのきめ細かな対応も求められてきている.

病院職員の基礎知識—病院運営マニュアル

すこやか相談

著者: 日下隼人 ,   畑尾正彦 ,   増子ひさ江 ,   緒方廣市

ページ範囲:P.55 - P.55

すこやか相談の考え方
 病院に働く人たちは医療というものをどうしても病院の中のことに限って考えてしまう傾向がある.マニュアルも,病院内の業務手順が円滑に進むための手引きと考えられがちである.そのため入院患者をどう扱うかという視点が優先していると思われるところが少なくない.しかし実際には,人は病院の中でだけ病むわけではないし,病むことと元気なこととの間にはっきりした線が引けるわけでもない.新しい病院が病気の人をその重症度に応じて病棟に預かるように計画した時,それは単に病院の中での病気の人の流れとして考えられたわけではない.マニュアルにおいても人をどう扱うかではなく,病む人をどうとらえるかということに力点が置かれている.
 「重症で高度の医療を集中的に行うことで救命し得る人に対しては集中医療センターのごとく人員・機器の整備されたところでの集中的医療を,中等症の人や末期の人に対しては一般病棟でその人の個性を重視し,その人の心の支えとなる医療を,そして軽症の人・在宅医療の望ましい人・健康と思われる人に対しては外来やすこやか相談による援助,更には家庭医との協力というような形でその人の生活を踏まえる中で癒える医療を目指している.

ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点

事務当直をいかにしたら良いか

ページ範囲:P.56 - P.57

〔事例〕
 当院は357床の総合病院です.地域救急医療の考えから救急指定病院となっており,現在は内科,外科系,産婦人科,小児科の当直体制をしき,一昨年から放射線科と中央検査科の当直も行っています.
 しかし事務当直はまだ実施しておらず,時間外,深夜等の事務取扱いは看護婦が行っています.
 4,5年前より,看護婦から事務も当直をしてほしいと強く要望されていますが,事務系の男性の数が少なかったのと,救急外来の数も少なかったので,そのまま現在に至っております.

請求もれ防止対策

診療報酬請求もれ対策のポイント(1)

著者: 別府勇

ページ範囲:P.58 - P.59

 請求もれ……この言葉は金科玉条のごとく,われわれ医事課職員にとっては常に念頭にあり,われわれの永遠の課題ともいえる.
 医療費の収入はとりもなおさず複雑な保険請求の過程を踏まなければ現金としての収入を得ることができない.それぞれの過程の内容は,逐次複雑化の傾向にある.すなわち,診療面の高度医療化に伴い複雑な器具,材料,薬品,器械・電子医用器具……などを駆使して,診療現場で診療が行われている.そして,これらの医療行為を入力(記載)することによって患者請求し,それがレセプトへと変換してゆく.そこでは,多種類の健康保険証や公費負担を使い分けてゆかねばならないのであって,これまた逐年複雑化の傾向にある.

統計ページ

病院の経営分析・9—「病院経営実態調査」(全国公私病院連盟・日本病院会,昭和58年6月)より

著者: 森福省一

ページ範囲:P.60 - P.61

部門別職員業務量
(この項前号よりつづく)
5)給食
 ①給食部門職員1人1日当たり給食数
 これの年次推移を病院の種類・一般病院の病床規模など別に見ると表25のとおりである.
 58年6月の総数における1人1日当たり給食は45食であり,前年と同様である.54年が47食であるのでやや減少している.この傾向を一般食と特別食に分けて見ると,特別食はやや増加し,一般が減少していることが認められる.

ホスピタル・フォーラム

診療報酬の適正化を要求—日本医師会,他

ページ範囲:P.62 - P.62

 日本医師会(羽田春兎会長)は,「診療報酬の合理化および適正化のために急ぐべき検討事項」(医科委員試案)の内容を12月6日の中央社会保険医療協議会(円城寺次郎会長)で説明した.その内容は次のとおり.
1.基本的考え方

ニュース

「これからの病院と人的資源」,「老人保健法と老人医療の将来」—第34回日本病院学会より.次回は伊勢市開催

著者: 編集室

ページ範囲:P.63 - P.63

 第34回日本病院学会が昨年11月8,9日の2日間,近藤慶二会長(高知県立病院長)のもと,「激動下における明日の病院」をメインテーマに高知市の高知県民文化センター及び県医師会館で開催された.三題のパネルディスカッションのうち「医療法改正と病院経営」「これからどうあるべきか日本の病院」については既にその要旨を紹介した(43巻12号,1020,1070頁)ので,ここでは特別講演「これからの病院と人的資源」,パネルディスカッション「老人保健法と老人医療の将来」を概述しよう.
 まず第一日目に行われた紀伊国献三氏(筑波大学教授)による特別講演「これからの病院と人的資源」は,医師需給についての中間報告の後だけに多くの関心を集めて行われた.以下要旨.

時評

研究者と現実解決能力と

著者: 塙正男

ページ範囲:P.64 - P.64

 田中角栄を一刺しした,その当のハチが,TVなどマスコミに登場,ついにはヌードまで開陳してくれたのは,さすがにオカシイと言うよりは興ざめであった.ところで,この10月になって,またまたハチが新聞の社会面をにぎわしてくれたが,今度はホンモノのハチであった.
 岐阜県ではスズメバチの群に襲われた高校生16人が病院に担ぎ込まれ,大分県では山林の下刈作業中の夫婦が死亡したのである.そのまた2日後に,群馬県の赤城山に遠足中の小学生35人がジバチ(クロスズメバチ)に刺されたというニュースがあった.こうしたハチの襲撃に対して,社会はどう反撃すればよいのだろうか,直ちにハチの絶滅作戦を開始すればよいのだろうか,あるいはこれは天災なのだろうか,等々,数々のギモンはあるが,とりあえず現場の医者は応急処置をせざるを得ない.ここでスズメバチの専門家(研究者)が登場,その生態についての最近の情報を知らせていた.「秋になると,彼らは天敵を恐れてコーフンしているから刺激するな」というのである.そして,最近ヘビなどの天敵が少ないので,スズメバチは市街地に進攻しているという.直ちに私はコレハホントーの専門家だなと確信した.実は,都内の拙宅にスズメバチが巣くっているのを発見していた.日夜,その下を通っていたのであるが,2mくらいの木の葉陰に隠されていた巣を2階の窓からグーゼンみつけたのだ.とにかく危険は身に迫っている.

新病院建築・85

健和会大手町病院の設計

著者: 甲斐達参

ページ範囲:P.65 - P.70

 北九州市における医療の状況は,必ずしも十分に市民のニーズを満足しているとは言えず,特に救急医療においては,公立,企業立の大病院と開業医との格差が大きく,地域医療全体が低い水準にとどまっているというのが実情であろう.こういった中で,健和会大手町病院は,365日・24時間体制の救急医療を主力とした本格的な開放型病院として計画された.
 健和会は,大手町病院の建設に至るまで,既に同じ北九州市内に370床規模の総合病院と3か所の診療所,1か所のリハビリ病院を持ち,救急医療に主力をおいた医療施設として,その実績を高く評価されてきた.また日本では未だその導入が困難であるといわれるオープンシステムに対しての実績も持ち,地域の開業医と密接な連携を保ちながら,患者の立場に立った地域医療のあり方を追究してきた.このたび,更に大きく地域医療に貢献すべく北九州市の都心部に進出,実質的中核医療センターを目指し,開院の運びとなったものである.この思想を内外に明確に宣言する意味を込めて,正面外壁にOpen hospitalの文字を掲げている.

精神病院わが病院づくり

わが陽和病院づくり—古くて大きな病院の改革への道(1)

著者: 藤沢敏雄

ページ範囲:P.71 - P.74

 古くて大きな精神病院を,新しい精神医療の流れに対応できる病院に改革するためには,新鮮な感覚をもった人々と,途方もないエネルギーが必要である.同時に,その作業が日本中のあちこちで行われないことには,日本の精神医療はどうにもならないところに来ているということも多くの人々の共通認識であろう.

病院運営の変化 ここ10年余病院はどう変わったか

医師の増加と病院運営—ここ10年余の実態と変化を公立病院にみる

著者: 米田啓二

ページ範囲:P.75 - P.78

医師不足による病院運営上の問題点
 全国自治体病院協議会では,去る昭和48年3月,深刻な医師不足の実態を調査し,医師不足による病院経営及び病院運営への影響について検討した.この調査の中で「医師不足により病院経営上及びその他病院運営上に影響をもたらしている主な事項」について記入があった139病院について,その回答要旨によりまとめ,回答の多かった事由ごとに列記すると表1のとおりである.
 すなわち,この調査の結果は,医師不足により診療時間短縮と診療内容の低下を来し,入院制限,手術制限,外来患者の待時間の延長等となって現れ,その結果,収入が減少する一方,高賃金によるパート医師採用,常勤医師給与単価の増高により,医業収益に占める給与費は増加し,経営を圧迫するという病院経営にとって大きな障害を与えていたことを示している.

病院と地域活動

診療と保健活動を柱とした病院づくりを目指して

著者: 伊藤新一郎 ,   森俊介 ,   伊藤瑞子

ページ範囲:P.79 - P.82

病院の背景と医療資源
 対馬は日本で3番目に大きい島で,面積709.8km2,南北82km,東西18kmの大きさを有し,上県郡の中心地,比田勝から,下県郡の中心地,厳原まで98km,車で2時間を要する.南北の長さは,長崎県本土の最も長い直線距離の2/3にも達し,時間的には長崎〜佐世保間に匹敵する.しかも6町,129部落に分散した集落の85%は,人口500人以下の部落であり,はとんどは剣しい山岳地形のため,主幹道路から,無数の支線に分かれた沿岸に存在している.島内唯一の公共交通であるバスは便数が少ないため,住民は島内医療機関への通院さえも自家用車を用いる以外に満足に行えない.更に最大の難点は九州本土から遠く離れていることである.すなわち,福岡市から147km,長崎空港から比田勝までの同心円上には薩摩半島が位置する(図1).この地理条件は古代より記録されており,『魏志倭人伝』には,「……所居絶島,方可四百余里,土地山険,多深林,道路如禽鹿径,有千余戸,無良田.……」とある.この悪条件は現在でも基本的には変化していない.
 島の人口は年々減少し,昭和59年4月現在48,683人である.人口構成をみると,65歳以上の占める割合は長崎県平均と全く同じ11.8%で,県内に数多く存在する人口1,000人以下の小離島にみられるような極端な老齢化(65歳以上人口は25%)は起こっていない.

シリーズ病院経営

転換期における民間病院経営—愛仁会の場合

著者: 下間幸雄

ページ範囲:P.83 - P.87

医療費抑制政策への対応は経営革新で
 戦後の日本の医療政策を率直に表現すれば「量的拡充政策」であったといえる.
 表1で見るように,昭和20年終戦直後の日本の病院数645病院,病院病床31,776床と荒廃の極に達していた.こうした壊滅的状態のなかから,国民医療費を守る供給態勢を復興するには,敗戦で疲弊した国家財政では如何ともしがたく,明治以来の伝統である開業医制度を中心とする「民間活用」を政策の根源に据えたことは,「政策貧困」,「安直」との誹りはあっても,やむを得ざることであった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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