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雑誌目次

雑誌文献

病院44巻11号

1985年11月発行

雑誌目次

特集 保険審査の問題点と対策

医療技術の進歩と保険審査

著者: 石原昭

ページ範囲:P.909 - P.911

医療技術の急速な進歩
 近年医療は急速な発展をみせていますが,これは周辺科学の著しい発達に負うところが大きいといえましょう.この30年間の医学の進歩は従来の数百年分にも相当するとはよくいわれることであります.この進歩は特に診断機器,治療機器,医用材料の進歩や医薬品の開発など,多方面の総合的な結果といえましょう.少し例をあげるとすれば,診断部門でいえば,診断の革命といわれるCTスキャンの出現や超音波診断,RI診断などの画像診断の領域,大型の自動分析装置,更に循環系,吸収系,代謝系などにおける連続モニター装置や自動解析装置の発達があります.30年前には心電図のブラウン管への表示などでさえ,大学病院といえども見られなかったものであります.また治療機器においては,人工呼吸器,麻酔器をはじめ,人工腎臓,人工ペースメーカー,自動縫合器なども一般的医療として欠くことのできないものになりました.医薬品の方ではあらゆる方面の薬剤が開発され,特に抗生剤,抗癌剤,血液製剤の開発に目覚ましいものがあります.医用材料においても同様であります.そしてこれらの進歩に支えられて,外科の方面では,従来よりの切除,摘出の外科手術に加えて,臓器,あるいは機能再建の外科が大きな地位を占めてきております.

保険審査上の問題点

著者: 吉田清彦

ページ範囲:P.912 - P.914

 医療制度は世界各国それぞれの国によって異なり,時代によっても異なっている.医師および医療機関への報酬の支払方式も,国により異なる.公共サービス方式あり,社合保険方式あり,私的医療保険を主体とする国あり,各国ともまちまちである.社会保険方式をとっている国々でも異なるのが現状である.国により政治経済も違い,人口構成が違い,国民気質をはじめ諸々のことが違うのだから当然のことと言えよう.
 我が国では昭和23年に社会保険診療報酬支払基金が設立されて以来,世界各国ではほとんど類をみない診療内容の審査が行われている.それも暦月ごとに診療した内容をB5版の用紙の上に取りまとめて記載した請求明細書を事後に審査する方法である.そこに数多くの問題が内包するのは蓋し当然とも言える.

病院内保険審査対策

著者: 牧安孝 ,   中野進 ,   阿部真一 ,   横田敬 ,   別府勇 ,   松本諄 ,   塚田要作 ,   古田浩二 ,   出村博

ページ範囲:P.915 - P.928

病院内保険審査対策
医療法人清翠会牧病院(80床)
審査対策を論ずる前に
 私たちが「審査」のことを論ずる時,「保険審査」というものは「保険医療」の内容について行われるものであるという,極めて基礎的なことを忘れてはならない.
 というのは,「医学」と「医療」は必ずしもイコールでなく,「医療」と「保険医療」との間にも一定の格差があることを認めねばならないのである.「医療」が限りなく「医学」に忠実であり,「医療」と「保険医療」のレベルが全く一致することは医療担当者の願いであり理想である.

匿名座談会

保険審査をめぐって

著者: ,   ,   ,  

ページ範囲:P.929 - P.940

 司会 最近相次ぐ医療費の抑制策が実施され,特に薬価基準が大幅に引き下げられ,5年間で45%下がったとか,老人保健法,退職者医療制度の創設により,保険財源の財政調整策が進められたり,あるいは健康保険法の改定による健保本人1割負担など,一部負担金の増大策が行われております.加えて今日の話題の審査支払いの強化も抑制策の一つの大きな柱になって,チェックシステムをがっちりやっていこうと,このように,病院を取り巻く経営環境が大変悪化しており,今後も続くであろうと見通されているわけです.
 公私病院連盟(約900余病院)の経営収支の実態調査のデータでは,医業収支の赤字が,58年度に2.5%,59年は1.1%です.要するに,それだけの数の病院の平均値で赤字率が1〜2%である.ということは,年々大幅に上がってきているといわれる審査の査定率が,最近,東京では0.8%が平均だといわれます.この査定率1〜0.8%の査定額は赤字額の大部分に相当すると考えると,それがもしゼロになれば赤字の大部分がなくなるんじゃないかという感じもないわけではない.そういった観点からも,今日のテーマは経営的にみても重要な意味合いがあるわけですので,ざっくばらんに本音で議論をしていただきたいと思います.

グラフ

光と風の中,リハビリテーションの理想を目指して—伊豆逓信病院

ページ範囲:P.901 - P.906

リハビリテーションの基幹病院として
 伊豆逓信病院は,北に富士,東に箱根の峰をのぞむ気候温暖の地,伊豆の北部,函南町にある.三島市の東南5km,新幹線を利用すれば東京から1時間半ほどの距離である.
 撮影日当日は,秋の長雨の合い間に訪れた青空に北富士を仰ぎ,晴れ渡った陽ざしが暑いくらいであった.137,000m2という広い敷地内を抜ける風が快く,まさに療養の地.

がん対策一筋に国立がんセンター病院長 市川 平三郎氏

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.908 - P.908

 今年も8月に名古屋市で7回目の東海北陸消化器撮影技術研究会が開催された.会場を埋めた600余名の会員は市川先生の特別講演に固唾をのんだ.先生は様々なエピソードを巧みに盛り込み,胃レントゲン撮影における二重造影法の重要性を1時間余に亘り熱心に説かれた.ソフトで滑らかな語り掛けは,絶叫型の演説では得られない親近感があり,だれもが知らぬ間に魅了され,没我の境地に引き込まれるが,話題のポイントはいつの間にか脳裏に深く焼き付けられていった.
 我が国を代表する国立がんセンターの病院長として,先生の優れた指導力と卓越した組織力は国の内外から高く評価されている.

定点観測 京都府弥栄町から

新しい時代の健康文化の創造と実践

著者: 藤村操

ページ範囲:P.941 - P.941

<新しい時代の到来>
 戦後40年.日本の政治,経済,文化が大きく変わったことだけは事実である.
 「10年ひと昔」といわれるが,私には昔日の感すら覚えない.時代の変遷のテンポが早く,流され,追われていたせいかも知れない.かれこれ10年ほど前であろうか,某県の副知事がヨーロッパの旅から帰国間もないある日,公式会議の席上,知事に代わって挨拶,「ヨーロッパにおいては,すでに週休2日制が定着しており,やがてわが国においても週休2日制,更に週休3日制に向け余暇利用を真剣に考えなければならないときが目前に迫っており,今後の行政課題は,観光開発に重点をおいた余暇利用の条件整備が急務である」と語ったことを覚えている.当時,我々は本気でこれを受けとめはしなかったが,今や何人もこれを否定することはできないと思う.ECとの貿易摩擦の裏には,日本企業の労働条件がヨーロッパ全体の労働条件の低下をきたし,ひいてはヨーロッパの生活文化の根幹をゆさぶる危惧があるためで,それゆえ,日本企業の労働条件の改善を迫っていることも当然といえよう.世界が近くなった感じがする昨今である.

講座 ニューメディアと病院・14

病院のシステム化と情報システム

著者: 岡田行雄

ページ範囲:P.942 - P.943

病院と情報システム
 「よい医療,よい経営」を目指して病院におけるシステム化が進められる.システム化とは,既に述べているごとく,単にコンピュータを導入することでなく,医療機関相互あるいは院内各部門が,よく連携し,共通の目的をいかに効率よく達成させるか,その仕組みを作ることをいうのである.この仕組みを情報の流れとして捉えたものが情報システムで,そのツールの一つとして各種のニューメディアがクローズアップされているわけである.したがって,ニューメディアは単独で機能する機器とは異質であることから,その活用,応用をみていく場合,もう一度基本に戻って,システム化の進め方について考える必要がある.
 システム化の出発点は問題の存在にある.問題をいかに明確に認識するかが重要であり,問題意識のないところ,問題を自分のこととして受け止めないところでは,システム化といっても形だけの実効の少ないものとなる.またシステムは自分自身あるいは関係する人々すなわち人が中心となって作り上げるもので,機器はあくまでもツールであり,問題に当事者がどのように対処するかがシステム化の基本である.

解説 米国JCAHの病院認定マニュアルについて・17

放射線・核医学部門(付:専門図書サービス)

著者: 大道久 ,   三宅史郎

ページ範囲:P.944 - P.945

放射線部門
 〔基本原則〕放射線サービスと放射線科学的対診は,医師団の指示のある時はいつでも容易に利用可能でなければならない.

新しい医療と厚生行政

21世紀の検査体制

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.946 - P.947

 医療の効率化の要請や国民の医療に対するニーズの多様化・高度化に対応していくためには,病院機能の外部委託を更に進めていくことが必要になろうと言われている.外部委託については本誌7月号(44巻7号)の特集でもあり,既にかなりの問題点の指摘がなされているが,今回は,特に将来の検査委託のあるべき姿について考えてみたい.ここで検査の問題を取り上げたのは,外部委託の進んでいる給食,施設管理,事務,検査等の各分野のうち,検査は医療内容に直接関係し,その外部委託は様々な問題点をはらんでいるからである.

ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点

基準看護を行っている病院での付き添い看護料の事後請求についてのトラブル

ページ範囲:P.948 - P.950

〔事例〕
 Tくん.5歳の保育園児.急性虫垂炎に腹膜炎を併発し,その手術のため1か月近く入院した際の付き添い看護料をめぐってのトラブルである.
 Tくんのご両親は共働きで,彼は一人息子.ご両親とも,仕事の大変忙しい方である.当院は許可病床190を有する私立の一般病院で,基準看護一類を行っている.Tくんの入院に当たっては,お母さんに病棟婦長から口頭で,小さい子供さんでもあるし,本来は付き添いは必要ないのですが,見守っていただくためにはお母さんに付き添っていただいたほうが安心でしょうからとお願いしたところ,1週間しか勤務先を休めないから,その後は家政婦さんを雇ってもらえないかというので,申し出通り斡旋した.

ニュース

第35回日本病院学会,伊勢市で開催/"人生80年時代の地域医療の展開"をテーマに—第25回全国国保地域医療学会

著者: 編集室

ページ範囲:P.951 - P.951

 第35回日本病院学会(会長遠山豪遠山病院院長)が去る9月19日から3日間,三重県・伊勢市観光文化会館を主会場に開催された.メインテーマは"医の原点に還って伊勢から病院に光を".
 まず開会式に続く特別講演は澤瀉久敬氏(大阪大学名誉教授)による「人間と医療」.澤瀉氏は,我が国で初めて阪大で「医学概論」の講座を開設した方として知られており,その考えは現在の医学医療の基本を流れている.澤瀉氏は始めに「心をもったところに人間性がある.病気と共に心をもった病人をみることが大切」と語り,その後「医療は患者,医師,看護人から成り立っている,そのような集団医療である」「"初めに病院あり"ではない.まず家庭があるのだから,在宅ケア・訪問看護がもっと進められていいのではないか」「医療の本質は治療と共に予防すること,更に健康を増進すること,言い換えれば人間をより優れた存在にすること.人間をより優れた存在にするとは,歴史と社会に使命をもつ人間がそれぞれの使命を全うするための手助けをすることだ」等と,本質を見すえた格調高い講演を行われた.

請求もれ防止対策

診療報酬算定もれ防止のための一考察

著者: 長嶋精吉

ページ範囲:P.952 - P.953

 私どもの病院は,筑波科学博に湧いた茨城県の南端,利根川流域の取手市・北相馬郡の医師会員の手で昭和57年7月に取手市に設立された完全開放型病院であり,外科医4名,内科医2名,非常勤医7名,病床数116床,職員数120名という地域医療・住民健診・救急医療の三テーマをモットーにした地方の住民密着型病院である.
 開放型病院の特色で,一般外来患者の来院率は低く,1日平均80名のうち,専門外来,依頼外来,予約外来の比重がすこぶる高く,一人の患者に十分時間をかけた高濃度な外来診療を実施している.また,入院患者の平均在院日数は14日弱と病床の活用率が高く,病床の割には高機能の診療を行っている病院といえるであろう.もう一言付け加えておくと,診療所の医師は患者を病院に送り込むだけでなく,入院中の診療に,常勤医と相談しながら直接タッチでき,退院後,再度自分の診療所で診療ができる.そのため,患者は一貫診療と専門診療を同時に受けることが可能になり,病院機能・医療資源が有効に活用されている.しかし,診療報酬に関して言えば高機能・効率化されているほど"算定もれ"も多いと言う.

統計のページ

国民の医療要求(2)

著者: 日野秀逸

ページ範囲:P.954 - P.955

2.生活上の悩みの原因
 健康が国民にとって幸福な生活を送るための必要条件であり,最も多くの人々にとって,現在,将来の生活における努力目標であることが明らかになった.そうであるだけに,健康が損なわれた場合には,生活を破壊したり,人々を不安にさせる主因の役割を果たすのである.
 表5は総理府(現在は総務庁)が毎年行っている『国民生活に関する世論調査』の1984年の数字である.「日常生活で悩みや不安を感じているかどうか」という問に対して,「悩みや不安を感じている」と答えた人が55.8%,「悩みや不安を感じていない」と答えた人が42.6%,「わからない」が1.6%であった(調査対象10,000人,有効回収数8,031人).「悩みや不安を感じている」者につきその内容を調べたのが表4である.

時評

アメリカに追随する日本

著者: 塙正男

ページ範囲:P.956 - P.956

 「経済白書」の第3部を読んだが何も目新しいことは書いていない.確かに,見田宗介の言うように(朝日新聞,9月26日夕刊),「長期経済問題を扱った第3章は年金と医療費補助を大幅に削減すべしというものである」,「まあそれだけである.行革路線を国民に納得させるためのもの」である.そこで,果たしてこれが行革だろうか,というギモンがわくのだ.
 行革路線をマクロに見ると,「電電公社」や「国鉄」は赤字をたれ流していたのであろうか.確かに電電公社にはさまざまな欠陥もあったと思うが,まあ役所としてはマトモなほうだったのではないか.次のやりだまは国鉄であった.国鉄の労働問題は確かにヒドイものであった.しかし,これは言ってみれば政治の問題であって,政府の行革路線をカツイデいる大企業が,戦後,国鉄にオンブして成長してきた過程を忘れているのはおかしいことだ.貨物運賃を抑えた圧力はどこからであったか,を思い出して欲しいというくらいのことを言ってもバチが当たるまい.

新病院建築・95

比内町立扇田病院の設計

著者: 岩堀幸司

ページ範囲:P.957 - P.962

築後2年を経過して
 この冬を迎えると比内町立扇田病院は新築移転後2年を経過することになる.竣工後2年目の検査のために久しぶりに訪れる機会があった.完成当時そのまま,あるいは使いこまれてそれ以上立派になっているのをみて感激した.
 現在のところ病床数150床に対して外来患者1日平均365人で,かなりの数にのぼっている.渡部事務長によると病床の稼働が今ひとつで,黒字経営とまでいかないが,ようやく見通しがついて来たというところだとのこと.需要の多いリハビリの充実をはじめ従前よりの若松吉治町長の福祉ゾーン構想を押し進めて,さらにこの病院に魅力を付加させようとの検討がなされている.

特別寄稿

国民医療費を見る眼—マクロとミクロをつなげるために

著者: 西村周三

ページ範囲:P.963 - P.967

 ここ数年,老人保健法の制定,健康保険法の改正があいついで,医療関係者の医療費問題に対する関心が大いに高まった.今後とも医療関係者は医療費に無関心ではいられないであろうが,マクロで見た国民医療費と,ミクロで見た個々の医療機関の経営との間にはどのような関係があるのだろうか.
 医療機関の経営は以前にも増して苦しくなっているのに,まだまだ医療費が抑制されるというのはどういうことなのだろうか,という疑問が少なからず医療関係者の間にある.民間企業の場合には,一企業の拡大がその企業の属する産業全体の拡大につながるということがよくあるのだが,公費や社会保険にその大部分の財源を負う病院や診療所の場合には,必ずしもそういったことが妥当しない.一部の病院や診療所の医業収益(診療収入)の拡大が,結局,国民医療費の上昇をもたらし,それが結局,医療費抑制策という壁にぶつかって,すべての医療機関にはね返ってくることもあるわけである.

病院運営の変化 ここ10年余病院はどう変わったか

病棟の建築的変遷

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.968 - P.971

 前に向かって進もうとする時,みずからの道を誤らないためには,常に来し方を顧み自分が今立っている地点を正しく認識しておく必要がある.そのような視座から,中間施設が熱心に議論されホスピスが話題に上ることの多い今日,わが国の病院において病棟がたどって来た道筋を整理しておくことにはそれなりの意味があるように思う.ただし,建築の場合,10年程度の期間では目につくほどの変化は期待できないから,射程を少々伸ばして戦後40年の移り変わりについて見ることにする.
 病棟に関しては,産科や小児の病棟から周産期病棟へと本質的な進展が見られ,精神科病棟でもノーマリゼーションといった考え方が生まれるなどいくつかの変化に気づくが,紙幅にも限りがあるから,ここでは考察の範囲を内科系・外科系の一般病棟だけにしぼりたい.

民間病院を見る,聞く,語る・28

求められて開設,今多くの人に支えられて—長野県・輝山会記念病院

著者: 土屋隆

ページ範囲:P.972 - P.978

 中央道で名古屋から2時間足らず,高速道路網の断正で,今や山間の小都市のイメージはほとんどない飯田市の人工透析専門病院「輝山会記念病院」は,昭和49年4月,山中のプレハブに透析機5台をおいた飯田クリニックとしてスタートした.52年現在地に移転新築.新病院は,4階部分がすべて宿泊施設,1病床当たり面積が180m2余というケタはずれの内部空間を実現して,注目を浴びた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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