icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院44巻3号

1985年03月発行

雑誌目次

特集 効率化のための診療プログラムの総合管理

病院における診療の効率化

著者: 浅井一太郎

ページ範囲:P.193 - P.196

病院医療の特性
 病院診療は以前には医師と看護婦と薬剤師がいれば出来たのであるが,最近では科学技術の急速な進歩のために日常の診療に応用される医療を取り巻く種々の技術的な業務が格段に高度なものになるとともに多様になり,また医師に与えられる各種の情報も極めて豊富になって来ているので,それに伴って医療内容が複雑かつ精密になって来ている.したがって近代病院で病院医療にふさわしい医療を展開するためにはこれらの高度になった技術や豊富になった情報を日常の診療業務において遺憾なく駆使することが必要になって来たわけである.
 そのために現在の病院診療はもはや医師だけでは到底十分なものを期待することができない状態になっている.そこで病院ではこれらの高度な技術を専門的に応用して医師を援助する職種が多数出現した.例えば,放射線技師,臨床検査師,ポンプ技師,心理療法士,理学療法士,作業療法士,言語治療士,呼吸療法士,栄養士,などを挙げることができるが,年と共になお種々の新しい専門職種が出来てくる傾向が強い.

高知医科大学附属病院の診療プログラム管理—コンピュータシステムを利用して

著者: 山本皓二 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.197 - P.199

 今回の特集は診療の効率化をテーマとしている.そして筆者に与えられたテーマも診療計画ならびに病院運営の効率化を目指し開発されてきた高知医科大学のコンピュータシステムを概説することである.ところで,診療の効率は,患者を中心とした診療行程を通じて肉体的あるいは精神的な「病気」の状態からいかに早くかついかに経済的に患者を立ち直らせるかということで評価されるのが順当であろう.この場合,診療効率を左右する最大の要因は患者自身ならびに病院で働く医師,看護婦,技師といった医療従事者にある.
 検査部,放射線部,手術部といった中央診療部門があたかも各診療科専属の組織であるかのように運用され,さらにそこで働く医療従事者と各科の医師・看護婦とが一体となって1人の患者の診療に携わることが,診療の効率化を図る最も大きな要素である.

国立循環器病センターの診療活動

著者: 尾前照雄 ,   児玉順三

ページ範囲:P.200 - P.202

 国立循環器病センターは循環器病の専門的診療,研究を行うための施設として昭和52年8月診療を開始した.診療単位は,内科,外科,小児科,婦人科というような従来の診療形態をベースにはしているが,心臓・血管,脳血管,腎・高血圧,代謝,周産期医療などに区分され専門病院としての性格を明確に打ち出している.そのほか,CCU, ICU, SCU, NCUといった集中的治療システムが大きな役割を果たしていることが特徴と言えるだろう.
 開設以来,既に7年以上を経過し,病院は今やフル回転の時期に入っているということができる.外来,入院の取り扱い,診療の実態と今日までの実績,循環器病センターの運営と役割について紹介する.

単科病院の診療プログラムの総合管理

著者: 伊藤國彦 ,   村山三郎

ページ範囲:P.203 - P.210

甲状腺疾患専門病院の診療プログラム
 伊藤病院は甲状腺疾患を専門とする病床数83床,常勤従業員数105名の小病院である.初代院長の伊藤尹が病院を開設して48年になるが私が院長に就任したのは25年前である.この間戦災,疎開,移転,建築,増築等病院の流れにも迂余曲折があったが,ほぼ20年前から対象疾患を甲状腺疾患のみに限定した専門病院の形態が出来上がってきた.一つには医学の進歩により甲状腺疾患の医療にも新しい知見が導入され,甲状腺の臨床も精密化されたため,次第に専門性の色彩が濃くなってきたというのが実状である.同じような甲状腺疾患専門の私立病院としては別府市の野口病院と神戸市の隈病院がある.隈病院と伊藤病院は野口病院にその源がある.三病院は多少の規模の相違があるが,診療上の管理体系は極めて酷似している.甲状腺疾患のみの臨床を展開しているうちに,必然的に形成されてきた体系と言ってもよさそうである.
 以下現在伊藤病院における日常の診療体系を具体的に述べることにする.

外来予約管理と診療プログラムの総合管理

著者: 斎藤誠 ,   左奈田幸夫

ページ範囲:P.211 - P.215

虎の門病院における外来予約システム
外来診療における予約システムの目的
 虎の門病院の予約システムは,過去三つの段階を経て,今日に至っている.
 第1の段階は,手作業でノートに予約をとった数年の時代,第2は昭和50年1月からのミニコンと3台のディスプレイ端末により,初めてコンピュータで予約システムを運用した時代,そして最後は,昭和55年から今日に至るホストコンピュータに直結した端末により,総合的な外来系システムの一サブシステムとして,各科外来の受付から,オーダー登録と同時に予約をとるようになった時代である.この間,予約システムの中味はいろいろ変わって来たけれども,外来診療における予約システムの目的は,ほとんど変わっていないようにも見受けられる.今改めて,その目的を確認すると,次のようなものが挙げられるであろう.

選抜医学検査のプログラム作成と実施

著者: 原田稔

ページ範囲:P.216 - P.218

 この度,ある機関よりできるだけ短期間に,40名前後の人たちについて医学検査をしてくれないかという依頼が当大学病院に寄せられた.保健科で長年にわたって人間ドックを行っており,その経験を生かして今回の医学検査は保健科の科長が実施責任者となり,プログラムの作成,検査の実施,医学検査結果の評価まですべてをするようにと病院長より依頼されたのが約2か月前ごろであった.

他業種にみる業務工程の総合管理

著者: 大庭祺一郎 ,   斉藤誠吉

ページ範囲:P.219 - P.222

ホテル客室管理の実際
ホテルとホスピタルのベッド管理
 昨年夏,家内が足首を骨折して横浜のある総合病院に約3か月間入院する破目となった.この間,私もしばしば病院に通ったが,ホテルと病院には共通の分野があり,職業柄客室管理の面からいくつかの関心事があった.その一つは,家内が入院中,急に肩がこり,頭痛を覚えるようになった.原因をさぐるとベッド(マットレス)の背から腰にかけて落ち込みがひどく,背骨が曲ったまま長時間耐えていたことにあった.
 考えてみるとホテルのベッドは1日平均7〜8時間の使用だが,病院では寝たきり24時間使用で,ホテル以上にへたりもひどく,ベッド管理も重要となるわけである.ホテルのベッドは常に最良の状態で安眠できるよう,ハウスキーパーにより管理されている.また,ベッドは客室のポイントであるだけに購入時も試作実験を重ね,ボトムとマットレスの仕様を決めて特注している.ベッドの生命は何と言ってもコアスプリングの材質とそれを受けるパームの仕様にある.日本の鉄鋼メーカーの鋼硬線も国際水準を凌ぎ,立派なコアが製造され,マットレスの品質は著しく向上している.そして,ベッドのバネも世界的に堅め傾向となり,幅も1メートル幅から1メートル20幅と時代と共に豪華になってきている.

グラフ

20年目を迎え,研究センターも開設した—国立小児病院

ページ範囲:P.185 - P.190

 国立小児病院が診療を開始したのは,昭和40年のことで,ちょうど母子保健法が制定・施行された年に当たる.この年の乳幼児死亡率は18.5であったのが,10年後の50年には10.0となり,その翌年には,鹿児島で五つ子が誕生して日本中をわかせ,未熟児救命学の進歩を一般に印象づけた.この20年間,小児医学は着実に進歩をとげ,各地の小児医療施設設置に際しては,常にそこから出発する先例として,国立小児病院が中心的役割を担ってきたといえよう.

「一期一会」「一座建立」をモットーに活躍する若き院長公立湖北総合病院院長 馬場 道夫氏

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.192 - P.192

 琵琶湖の最北部,賤ケ岳・余呉湖,十一面観音・奥びわ湖など景勝旧跡の多い滋賀県伊香郡4町の組合立病院として,公立湖北総合病院がある.大正4年7月,益世済民の主旨により郡民各位の寄附を基に設立されたのが前身の伊香病院である.以来70年間,紆余曲折はあったが,滋賀県北部の医療の一端を担ってきた.その間昭和47年4月より6か月間医師総引揚げにより病院が閉鎖されるという最悪の事態があった.その後滋賀県及び地元の要請により,第10代の院長として着任したのが馬場道夫博士である.着任後,国・県・地元4町をはじめ関係各位の指導と援助もあり,地域の要望に応えるべく着々と病院の整備と拡張を行い医療レベルの向上に努め,早くから,僻地診療・訪問指導・健康教育などを行い,住民に密着した地域の包括医療を実践してきた.その後医療需要も増大し,昭和58年3月現在地に新築移転し,公立湖北総合病院と改称,現在に至っている.
 馬場院長は茶道の極意である「一座建立」こそ地域医療のモットーであると言う.すなわち地域医療はそれに従事する人と患者のみでなく,地域全体の協調と連帯により成り立つものであり,医療に携わるものには「一期一会」の精神,心構えが必要であると主張する.医療を取り巻く環境はますます厳しい現況であるが,彼の地域医療にかける情熱と強力なリーダーシップにより,更に充実した地域包括医療が行われることを期待してやまない.

シリーズ病院経営

洛和会総合医療の道・その実践

著者: 矢野一郎

ページ範囲:P.224 - P.228

 昭和57年秋,父であり,前理事長であった故矢野宏の三周忌の記念と考え,生前の前理事長の人生観,考え方,理念を「矢野宏・洛和会の道」という本にまとめた.その本を執筆していて,前理事長の病院経営への取り組み,考え方が私のそれとよく似ていることに驚愕した.
 以後,私が理事長職を継ぎ,医療経営の方針を自分自身で考えねばならなくなったとき,新しいこと,不慣れなことを考えるよりも,前理事長の医療と経営に対する取り組みを研究し,決断の必要なとき,前理事長が考えたであろうことを踏襲することが最もよい策だと考え,実行した.前理事長の急逝で私が事業を引き継ぎ,どんな経営方針が示されるのかと多少とも不安の念にかられていた役職員も,前理事長の路線を継承していく方針が出たことで,一応の安堵感があったものである.というのも,理事長職を若冠31歳で引き継ぎ,2病院1医院,総ベッド数500床,職員480名を監督・指導していく立場に急遽立ったのであるから,当然至極なことだったのであろう.

定点観測 千葉県松戸市から

公立病院から民間病院へ

著者: 角田孝穂

ページ範囲:P.229 - P.229

 医師になって20数年になるが,最初の20年間の都内の公立病院と,その後5年余の新設民間病院での勤務医の雑感を記してみたい.
 卒業して最初の10年は公立病院でチフス,赤痢,脳炎,髄膜炎などの感染症を主とした診療とウイルス血清反応などの研究の二本立てで過ごした.診療のほうは対象が法定伝染病による隔離患者のため保険による診療でなく,治療上で保険の制約を受けず,純学問的に診療も勉強もでき,いま振り返ってみると医師として基礎固めのできた貴重な10年であったと思う.

講座 ニューメディアと病院・6

ニューメディアの実際(1)

著者: 岡田行雄

ページ範囲:P.230 - P.231

ニューメディアのいろいろ
 今回から,ニューメディアの具体的内容について説明する.
 最近は,デジタルを頭につけた商品がたくさん出回っている.利用者にとってはアナログかデジタルかの技術的内容より,どれだけ機能がよくなったか,使いやすくなったか,購入費・使用料が安くなったかがポイントである.

解説 米国JCAHの病院認定マニュアルについて・9

医療記録部門(2)

著者: 大道久 ,   三宅史郎

ページ範囲:P.232 - P.233

医療記録部門の職員と設備
 〔標準IV〕医療記録部門には,適切にして十分な人員と設備が整えられなければならない.
 医療記録部門には,有資格の専門職員が,少なくとも非常勤の形で採用されるべきである.有資格者とは,米国医療記録協会(American Medi-cal Record Association)に登録された診療録管理官(Registered Me-dical Record Administrator)か,認定された診療録管理士(Ac-credited Medical Record Te-chnician)のことである.

新しい医療と厚生行政

医療の作り出す医療需要

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.234 - P.235

 医療技術の進歩は,単価の高い高度先進医療技術を生み出すことにより,一般には医療費増大の一因とされている.しかし,医療技術の進歩により,例えば従来は長期入院の必要だった疾病が簡単に完治するようになったとしたら,これは逆に医療費を減少させる効果を持つだろう.高度な医療技術の発達は,医療内容そのものを変える可能性を有しており,医療需要や医療費への影響も単純なものではないはずである.21世紀に向けて,医療技術の進歩が医療の需要にどのような影響を及ぼすか,特に減少する需要と増大する需要を対比させて分析しようというのが今回のテーマである.

ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点

痴呆状態にある孤老の金銭管理

ページ範囲:P.236 - P.237

〔事例〕
 元警察官のMさん(男性・77歳)は結婚歴がなく,借間での一人暮らしを長年してきていたが,近年になって,歩行障害・失禁を伴う痴呆状態が現れてきた.家主の嫁が,食事・洗濯等の介護をしてきたが,それも限界にきて,市役所の老人福祉課へ相談し,当院へ入院することになった.諸検査の結果では特に異常は認められないものの,頻尿・排尿困難・視力減退・両上下肢振戦・歩行障害等の症状があり,退院後の独居は無理と判断され,社会的条件での入院の必要が認められた.
 その後1か月ほどは,医療スタッフや同室の患者との摩擦も特にない状態が続いていたが,ある夜突然無断外出で病院の近くの交番に駆け込み,「皆が私の悪口を言う.預金通帳が盗まれた.私は殺される.」と訴え,病院には帰りたくないと保護を願い出るという事件が起きた.翌日,多少興奮がおさまったところでMSWが本人と面接したところ,借間に置いてきた預金通帳,印鑑,年金証書等が盗まれているのではないかという不安が最も強く,この事件の原因になっているように思われたので,早速MSWが付き添って部屋を見に行った.自分の目で室内をあらため安心した様子であった.「重要なものは病院に持って帰り,常時身につけておくように」と勧めたが拒否し,何度も施錠を確かめ帰院した.

請求もれ防止対策

コンピュータ導入による請求もれ防止の試み

著者: 染谷光一

ページ範囲:P.238 - P.239

 越谷市立病院は昭和51年1月開院,以来地域医療の躯幹病院として患者数も急激な増加を辿り,外来患者数1日当たり980名,入院患者数1日290名を数えるに至っている.
 しかし,病院運営ということに関しては,公立病院のほとんどが赤字であるといわれている現在,私どもの病院も例外ではない.更に昨年10月1日に施行された健康保険法の改正により,患者数の増加は望めない状況下となっており,非常に厳しい事態となっている.

統計のページ

アメリカの病院と医師についての基本統計(1)

著者: 二木立

ページ範囲:P.240 - P.241

 今後のわが国の医療を考えるうえで,わが国と同様に私的医療機関の役割が大きいアメリカ医療の動向・構造を知ることは有用である.
 しかし,厚生省統計がそれなりに整備している日本と違い,アメリカでは医療施設・医療従事者についての調査は各種専門(職)団体自身が行っており,そのためにアメリカの「厚生白書」に当たるHealth・Uni—ted States (U.S. Dept. of Health and Human Services)のみでは,それについての詳しい統計を得ることができない.

病院職員の基礎知識—病院運営マニュアル

物品搬送の清潔管理

著者: 畑尾正彦 ,   日下隼人 ,   増子ひさ江 ,   緒方廣市

ページ範囲:P.242 - P.242

 病院における微生物学的清潔度管理は,清潔維持管理,一般的管理,汚染制御管理の3段階にとらえることができる.そしてそれぞれが効果的に管理されるための区域分類や入退室手続きについては前号に紹介したが,院内で物品が移動する際の清潔管理も重要な問題である.

ホスピタル・フォーラム

医療法改正で意見書—四病院団体連絡協議会,他

ページ範囲:P.243 - P.243

 四病院団体連絡協議会(全日本病院協会,日本医療法人協会,日本精神病院協会,日本病院会)は「医療法の一部改正案に対する要望意見」をまとめ,1月29日,日本医師会に提出した.
 要望は①地域医療計画,②医療法人にかかる規定,③その他,の3項から成る.

時評

医療制度の改革VS.企業の医療参画

著者: 塙正男

ページ範囲:P.244 - P.244

 医療をめぐる制度の変革を迫る声が大きい.今,少しずつ始動してきている.これは医療関連の様々の分野に大きい影響を及ぼすだろう.こうした制度の変革には,若干の誤ちは許されると施行する者たちは考えているに違いない.何しろエライ人たちがやっていることだ.とにかくフツウの人は現場でのメイワクを減らして欲しいというのが願いだろう.
 そんなことを漠然と感じている今年の正月,1月6日の毎日新聞にWHOの統計年鑑が紹介されていた.加盟61か国の資料によると,日本は,1982年の人口10万人当たりのがん死亡が,先進国の中で一番少なく,更に心臓疾患や循環器系統の病気で死亡する割合も先進国中最も低かった.更には男性の平均寿命74.5歳は世界のトップだ.コリャ一体何だ!と思うのは筆者ばかりではなかろう.

新病院建築・87

大阪府赤十字血液センター—大阪府における血液事業の再編成

著者: 小栗英男

ページ範囲:P.245 - P.249

 大阪府赤十字血液センターは昭和31年に大阪府赤十字病院(天王寺区筆ヶ崎)内に大阪輸血研究所として発足し,昭和46年に森之宮の現在地に移転した.
 以来次第に拡大する業務(図1)に増築・改装を繰り返して対応してきた.しかし現施設は,①鉄骨造で老朽化が激しい,②取り扱い量の増大に対応できない,③検査の自動化に伴い検査機器の収容が困難となってきた,④採血のオープン化に対応をはかる,⑤薬事法の改正によるGMP基準に対応する等の理由により全面改築が行われた.

精神病院わが病院づくり

わが陽和病院づくり—古くて大きな病院の改革への道(2)

著者: 藤沢敏雄

ページ範囲:P.250 - P.253

新理事長の再建方針
 さて,1981年8月17日にS新理事長を迎えて,労働組合との初回団交がもたれた.感情的な問題を除けば,団交の主要なテーマは,これまで労働組合と法人が交わして来た労使協約を新経営陣が遵守するか否かということであった.法的に言えば医療法人一陽会をS氏が引き継いだわけであるから,勿論,従来の労使協約を一方的にどうする,こうするということにはならない.しかし,既に述べたような協議約款をはじめ,前の経営者が意図的にとさえ思えるほど妥協に妥協を重ねた労使協約や諸々の労働条件に関する問題があり,労働組合に無縁な病院経営をこれまで続けて来たS氏にしてみれば,経営権の侵害とさえ感じられたのであろうし,一方,労働組合の立場からすれば,前経営者であるT氏一族がだましうちのように事前の協議もせずに病院売却を決めたことに対して,もって行き場のない怒りと,自分たちの手で病院を再建して,自主管理的な病院運営にもっていきたいという幻想が,強力な新しい経営者の介入によって破られたという挫折感が加わって,S氏に対して必要以上に事をかまえるというところがあった.
 初回団交で,新理事長は従来の労使協約を遵守すると明言し,とりあえず労使は同じテーブルにつくことになったが,両者の歴史の違いから来るずれは埋らず,ぎくしゃくした関係が続くのである.この関係改善なしには,病院の安定した治療環境づくりは困難を極めるものだった.

病院運営の変化 ここ10年余病院はどう変わったか

薬剤部門の変化—自治体病院における薬剤管理を中心として

著者: 田知花康二

ページ範囲:P.254 - P.257

 1961年の国民皆保険の実施を契機にわが国の医療は社会福祉的思想の導入と共に大きな変容を遂げた.更に,国家経済の高度成長に支えられ,国民の健康意識の向上に伴う有病率の上昇と受療率の飛躍的な増大は医療機関の整備拡充を促した.一方30年代初期の新薬の続出は,その後の製薬企業の研究開発分野での競合,あるいは製剤技術の発達をもたらし(表現の当否は別として今日言われる"薬づけ"の萌芽であったのかもしれない)薬物療法はめざましい発展を遂げた.
 薬剤部門の業務もまたこれらの変動と密接な相関性があることはいうまでもない.増大する業務量の処理能力の強化と併せて労働集約的調剤行為から薬物療法の複雑化に伴う医薬品の有効性,安全性に関する多角的な専門知識の活用による知識集約型調剤へと質量両面にわたる変化はまさに隔世の感がある.

民間病院を見る,聞く,語く・25

病院の活性化は能力の適正評価と,喜んで働ける職場作りから—富山県・医療法人西能病院

著者: 西能正一郎 ,   編集室

ページ範囲:P.258 - P.264

 —どういう経緯で開業されたかというあたりから,お話しいただけますか.
 西能町の中の診療所をやっておりまして,そこが手狭になって,病院にしなければならないという時に,町の真ん中には当時の私の資力では,買えるような値段の地面がなかったんです.それで,神通川のこちら側,昔は村だった所に病院を建てたわけです.来てみますと,確かに交通面では不便な面がありますが,環境が閑静ですから,患者さんが落ち着いて入院しておられる,という利点はありました.

病院と地域活動

アンケート調査からみた地域保健活動の実態

著者: 長松宜哉 ,   前沢政次

ページ範囲:P.265 - P.267

 治療と予防の一体化ということが叫ばれて久しいが,果たしてどの程度の病院が予防保健活動を行っているであろうか.もし行われているとしたら,どのような活動を行っているのだろうか.そしてその問題点は…….これらの疑問を解決するために,アンケート調査を行い,そこから今後われわれの活動の糧を得ていこうと企てた.以下,調査内容,結果について述べ,今後の課題について触れてみたい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?