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雑誌目次

雑誌文献

病院45巻1号

1986年01月発行

雑誌目次

特集 医療政策の変化と病院経営—'80年代前半の5年と今後の5年

医療政策の変遷と病院経営の変化

著者: 諸橋芳夫 ,   木下二亮 ,   石原信吾

ページ範囲:P.17 - P.26

今後を生き延びるために—ー淘汰と選択の時代を迎えて
 太平洋戦争により国土は荒廃し,戦後,医療機関,特に病院は廃墟と化したものが多かった.戦後の復興を目指した病院はマンパワーをはじめ,施設,機器,衛生材料,食料,燃料に至るまで,その整備確保に困難を極めた.
 ようやく昭和23年に医療法が制定され,昭和25年には医療機関整備中央審議会が発足した.同審議会は保健所管轄区域を基盤として,全国的な医療機関整備計画を明らかにした.その思想は,公的医療機関のみを対象にしたものであって,都道府県立中央病院を最高の基幹病院としており,2〜3区域単位に中規模の地方(総合)病院の設置,1区域単位には地区病院を設け,ピラミッド型の病院整備体系を目指したものである.また各病院の病床規模は,管轄する区域の人口割で決めている,などである.

病院機能別に見た医療費適正化政策の影響

著者: 川崎正輝 ,   高杉良吉 ,   谷尚 ,   土屋定敏 ,   粕川正夫 ,   石田貞治 ,   中佳一 ,   大塚宣夫 ,   柴田髙志 ,   倉持弘 ,   卜部圭司 ,   中村孝 ,   新光毅 ,   服部理男 ,   小林英治 ,   佐藤三四郎 ,   佐伯年郎

ページ範囲:P.27 - P.48

一般病院の自例
国立福山病院
(病床数410床常勤医36名)
 1980年代前半には医療政策上,多くの変化がみられました.老人保健法の制定,健康保険法の改正,数次にわたる診療報酬点数の改訂などがそれです.これらはいずれも医療費削減を目的としたもので,多くの医療機関がその影響を受け,大きな危機感を持っていることは否定できない事実でしょう.しかも,そこには病診間の格差という問題を生じ,更に事態を難しくしている点もしばしば指摘されているところです.昭和59年10月の健康保険法の改正の結果,病院への外来受療者が増加し,診療所への外来受療者は激減したため,診療所の打撃は大きいと言われています.つまり,病院志向の傾向が大きく出たと言われる理由です.

匿名座談会

医療政策の動向と今後の病院経営

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.49 - P.56

 1980年代前半は病院経営のうえで,まさに激動の時代であった.昭和56年度の診療報酬の改訂では,それまでの人件費・物価スライド方式に変わり,明確な医療費抑制政策が打ち出された.更には老人保健法の制定,健康保険法改正,自己負担制の導入と,医療政策そのものも大幅な変わり身を見せている.
 そこで今回は,医療経済や病院経営に関する少壮気鋭の研究者にお集まりいただき,今後の医療政策はいかなる視点・方向性のもとに立案・施行されていくのかを中心テーマとし,それに対する対応策はどう講じるべきか,更には病院経営のあり方はどう変化していくか,自由にご発言願った.

グラフ

患者中心の医療を模索・追求・実践する—松山赤十字病院

ページ範囲:P.9 - P.14

 "患者中心の医療",それは医療の実践理念である.今日では,すべての病院が等しく,その理念実現へ向けて様々な試みを行っていると言っても過言ではあるまい.
 松山赤十字病院は昭和47年4月,その理念実践の第一歩として「胃腸センター」を開設,患者数の多い疾患,患者ニードの高い医療項目を中心に,その後次々と種々の診療センターを新設していった.本号では診療センター方式の医療内容を中軸にして,当院における"患者中心"の医療の実態を紹介してみたい.

強靱な統率力と天賦の経営手腕長浜赤十字病院院長財津 晃氏

著者: 土屋定敏

ページ範囲:P.16 - P.16

 財津先生は台湾生まれで,台北高校(旧制)を経て京大医学部20年卒の俊秀である.学生時代より今日まで剣道に精進されていると承っているが,先生の言動や容貌に古武士的陰影があるのは,そのせいかと思っている.昭和41年,院長として長浜赤十字病院に職を奉じられてからのご活躍は,鬼神を泣かしめるものがあり,経営の危機に瀕していた同院を,日ならずして白亜高層,600床の湖東第一大病院に仕立て上げられた手腕は非凡であり,当時の強靱な統率力と天賦の経営手腕には,唯々驚嘆するのみである.
 昭和58年には院長業務の傍ら,1年間のロータリー地区ガバナーを立派に勤め上げられ,また日本病院会創設以来,,その代議員会々長として,医政面でのご活躍も刮目に値するものである.本年4月にけ藍綬褒章の栄に浴され,他面,温和な良き家庭人である先生は,将に,俗にいう男も惚れる好漢である.

新病院建築・97

中野胃腸病院の計画と設計

著者: 中野貞生 ,   西野範夫

ページ範囲:P.57 - P.62

病院の原点にかえって
 病院の移転新築に際して,私はまず病院というものの原点に立ち還ろうと考えた.Hospitalというのは語源的には「訪れる人々を手厚くもてなすところ」という意味である.中世において,ヨーロッパ各地に造られた修道院では,病める人に対して,真心をもって尽くすことが戒律とされ,修道僧に病人が出ると"Infir-maien"と呼ばれる特別な部屋に入れて手厚く看護されたと記録されている.
 その頃,イエスキリストの聖地をめざす巡礼がひきもきらず,修道院はその人たちの宿となった.この巡礼を"Hospes"(外来の客),その宿所を"Hospiz"といった.このHos-pesの中で病魔におそわれた人々を手厚く看護し,健康を回復させ,再び聖地へと送り出した.ちょうど同じ頃,フランク王国の首都リヨンに,教会の管理のもとに,"Hôtel-Dieu"(神の宿の意)が誕生した.宗教活動の一つとして始まったが,病人や貧民の世話をする特定の施設としてはフランス最古のものであり,これが現代の病院の原形であるといわれている.

定点観測

私の週間日誌

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.63 - P.63

10月14日(月)
 朝6時から胃ファイバースコープで18人に精密検査を行う.4月から4回目の精査だ.秋田に比べ要精密検査率が毎年約半分の8%前後である.この程度の率で早期がんが見つかるのかどうか少々不安.今日は胃潰瘍1人,胃ポリープが2人いた.
 外来は1時に終了.農繁期もそろそろ終わりか.患者が多く100人以上いただろうか.それにしてもまだまだ病気に対する無理解が目立つ.「血圧は下がれば薬をやめてもよい」と思っている患者が3人もいたし,糖尿病は「甘いものをひかえていればいい」と思っていた患者もいた.血圧教室や糖尿病学級を繰り返し行い,外来でもずいぶん個別指導をしてきたのに,まだまだこんな実態だ.

新しい医療と厚生行政

患者の受療行動について(前)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.64 - P.65

 日本の医療はこれからどうなってゆくのであろうか.これは私たちみんなの切実な問題であり,このほど成立した新しい医療法の理念にのっとって,すべての医療関係者は,21世紀に向けて安定した医療供給体制を築くことに真剣に取り組んでゆかなければならない.新医療法には,その基本概念のひとつとして「地域医療計画」が挙げられているが,それが机上の空論とならぬよう,医療需要と供給体制との間のダイナミズムを細かく分析することが必要となろう.果たして患者は医療計画が想定するような受療行動をとるものであろうか.また医療需要の質的量的な伸びに対処できる体制を整えるため,中間施設や家庭医に関する論議も盛んに行われているが,どういう条件の時に患者は中間施設や家庭医へ足を運ぶものであろうか.医療需要の大きな流れの中で,それらについて論じてみたい.

隠れた戦中医学史 ペニシリン秘話

ペニシリン黎明期

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.66 - P.68

 戦争が終わって40年経った今日でも"ペニシリンは戦後になってアメリカから輸入されたものだ"と思い込んでいる人が意外に多い.筆者の知り合いの東北大学医学部の基礎の教授だった方も全く知らなかったし,そのほか雑誌記者,銀行員,開業医,病院関係者など各方面の友人たちとの会話の中でも,戦中から日本がペニシリンを研究し,そして工場生産につないで成功したことや,国内で生産された日本製ペニシリンが昭和20年3月9日の東京大空襲,ついで同年8月の広島原爆投下に大切な救急薬品として使用され,大いにお役に立ったという事実を知っている人は少ない.

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機器短報

ページ範囲:P.68 - P.68

コンピュータ患者管理システム
 クラレ(電話06-348-2266)および内田洋行はコンピュータによる患者管理システム「K-PMS」を共同開発した.
 同システム「K-PMS (Kuraray-Patient Management System)」は手術室における患者の術中の生体情報のみならず,術前・術中・術後の投薬・処置情報をも含めた情報管理ができる.同システムの特徴は,①ME機器からの生体情報が時系列的にディスプレイ上に一括表示され,患者の状態を迅速に把握できる,②担当麻酔医が患者情報を一括集中監視できる,③術後に必要な麻酔記録や使用薬材・器材一覧表を即座にアウトプットできる,など.

事例から見た査定減防止対策

症状詳記に留意すべきであった入院事例

著者: 染谷光一 ,   中野隆男 ,   長嶋精吉

ページ範囲:P.69 - P.71

 度重なる診療報酬の改訂,また保険審査の強化などと相俟って,病院経営は厳寒期に突入している.そのため,各病院では諸経費の節減や請求もれ防止に様々な対策を講じている.そして,請求もれ防止対策の一環として,最近は査定減対策が脚光を浴びている.
 本コラムでは,事例を中心として,保険請求上の注意点,再請求する際のポイント等を解説する.

統計のページ

国民の医療要求(4)

著者: 日野秀逸

ページ範囲:P.72 - P.73

3.医療への不満(その2)
 国民の医療に対する不満の一つの焦点は医療費であろう.ストレートな表現をとる場合もあれば,屈折した形で表されるものもある.表14から表16は,筆者も参加して行った中野区の調査である.対象は老人保健法による医療および東京都医療助成の受給資格者で,基準看護ではない医療機関に入院して,付添看護料を支払った人である.付添看護料は全額保険と都の助成とによってまかなわれるが,その他の各種負担額を表しているのが表14である.現行の老人保健法では,健保本人以外の65歳以上の入院医療費は,入院から2か月間に限って1日300円のみを支払えばよいことになっている.しかし,実際には1か月に10万円以上負担している人が50%を越えている.また,20万円以上負担している人も26.6%にのぼっている.保険外負担は相当に大きい.
 この入院費用の負担者をみたのが表15である.本人の日常生活費でまかなうことができているのは11.6%だけで,あとは大なり小なり他の資金を流用していることがわかる.特に,家族の負担というケースが45.5%で最も多い.日本の医療保障制度は形の上では患者負担が少ないことになっているが,実際には日常生活費の範囲をはるかに越える支出が必要とされているのである.こうした事情のため,入院して困ったことのトップは「経済的負担が重かった」の53.6%であった.

時評

政府の審議会などの意義を問う

著者: 姉崎正平

ページ範囲:P.75 - P.75

 時評欄を本号より担当することになった.しかし,執筆時と掲載時が2か月ほどずれるので,最近のようにかなりめまぐるしく政府が医療政策を打ち出し,それに対してマスコミの報道や論評が多くなってくると,時評が時期遅れになったり,気が抜けてしまうのではないかと心配である.
 1980年代に入り,政府の医療費抑制策が相次いで打ち出された.周知のごとく,抑制策としては,診療報酬の引上げ規制,薬価の引下げ,一部負担の新規導入や引上げ,医療費審査の強化などであったが,それらに加え医療法改正,医学・歯学生定員削減,国立病院療養所の統廃合,中間施設制度導入など政府による医療提供制度の合理化や監視の強化がもくろまれている.これらは臨調行革路線の一環であることはいうまでもない.そして,最近,健康や医療に対する関心が広く喚起されたことの反映であり,同時にその関心を喚起している大衆向け保健雑誌,医療関係者向けの医療雑誌,新聞や雑誌での保健・医療記事の増加が目立つ.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

私的病院最初のホスピス医療に着手した東札幌病院

著者: 石谷邦彦 ,   紀伊國献三

ページ範囲:P.76 - P.82

 札幌市の中心地から東へ地下鉄で20分,閑静な新興住宅地の一角に,2年半ほど前,150床の病院がオープンした.開設者は大学の少壮気鋭の研究者3人である.彼らのメインの研究テーマは"がん"であった.
 周知のとおり"がん"は死因の首座を占めている.早期診断技術の進歩により,治癒率は上昇したとはいえ,未だ"不治"の観は否めない.彼らはそうした患者の"救済"に立ち上がった.それも,自分たちの学んだ最新の医学知識を楯に,"人間としての温かさ"を剣として…….

緊急レポート

病院部門別原価計算調査の結果概要—昭和59年10月

著者: 森福省一

ページ範囲:P.83 - P.86

調査の目的および実施要領
1.実施者
全国公私病院連盟および日本病院会

病院紹介

天使病院改築工事終了

ページ範囲:P.86 - P.86

 社会福祉法人聖母会の医療機関天使病院の改築工事が昨年秋終了,それにより小児科のNICU,整形外科等の病室の充実が図られた.
 天使病院は生命の尊重と地域に密着した医療の提供をモットーに,種々の医療活動を続けている.現在は癌末期患者や合併症を有する慢性疾患患者のターミナル・ケア,母子保健や周産期医療に力を注いでいる.

ニュースどう読むか

床ずれ防止は看護婦の義務?

著者:

ページ範囲:P.87 - P.87

 昨年10月,名古屋高等裁判所は,G市民病院に対して,脳卒中で倒れた患者が褥創で苦痛を与えられて死亡したのは,適切な看護が与えられずに褥創を防止しえなかったからだとの遺族の訴えに,慰謝料100万円を支払うことによる和解を勧告し,病院側はそれを受け入れたとの報道がなされた.
 昨年後半は北九州病院グループによる基準看護料の不正受給や,基準看護病院における附き添い問題が取り上げられ,病院における看護が大きく問いかけられた年であったが,この「床ずれ裁判」は,まことに難しい問題を含んだものである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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