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雑誌目次

雑誌文献

病院45巻12号

1986年12月発行

雑誌目次

特集 医療における民間活力の導入

医療の"民活"への挑戦

著者: 菊地隆俊

ページ範囲:P.996 - P.999

医療に求められるイノベーション
 医療にも"民活"という新しい波が寄せている.2,3年前には聞きなれなかった"民活"という言葉が時代のキーワードになっている.
 民間活力の略称である"民活"の本来の趣旨は,公共サービスの名のもとに肥大化し,介入の度合を強めている政府部門を縮減することである.このため医療の民活化が医療費適正化対策と結びつき,増大する医療費を抑制することに解されやすいが,本来の目的はそうではない.

医療における民活導入と医療経済への影響—医療供給面での可能性と限界

著者: 二木立

ページ範囲:P.1000 - P.1006

 近年,医療への民活導入論が盛んである.それは,医療保障面での民活(公的保険の給付率・範囲の引き下げと民間保険による代替)と医療供給面での民活とに大別される.筆者は前者には基本的に賛成できないが,後者についてはその可能性と限界を分析的に検討すべきだと考えている.
 民間医療機関が主体である日本の医療供給制度では,今後も「民間の創意工夫を生かした」効率化により,「医療の質を低下させない医療費節減」が求められている.筆者自身,長年,民間病院で「医療内容の向上と結合した経営近代化」に取り組んできた経験を持っている1)

医療における"民活"は役に立つか

著者: 中村仁一 ,   花村哥吉

ページ範囲:P.1007 - P.1012

民間医療保険の現状と今後の展開
 今回の民間医療保険の登場は,国の財政状態が厳しさを増し,一方で国民の医療や健康・福祉に対するニーズが高度化・多様化する中で,公的医療保険だけで国民すべてのニーズに対応するには限界があり,これを民間医療保険の活用により吸収していこうとの考えが背景にある.しかし,その保険内容は従来の特約の延長線上にあると考えてよく,特段目新しいものとは言えないが,民間医療保険を公的なものの補完と位置づけ,役割を明確にした点は意味がある.

福祉における"民活"は役に立つか

著者: 堀勝洋

ページ範囲:P.1013 - P.1016

福祉分野への民間企業の参入
 近年,福祉の分野へも民間企業の参入が相次いで見られるようになった.例えば,在宅ケアサービスの分野では,株式会社シックスオーシルバーシステムの水明会がある.この東京都杉並区に事務所を置く会社は,入会金(一般会員5万円,特別会員10万円)を支払えば,基本サービスとして看護婦等による訪問(一般会員1回5,000円)のほか,入浴サービス(一般会員1回12,000円),家事援助サービス,付添いサービスなどの個別サービスが有料で提供される.
 このほかにも,東京都新宿区に事務所を置く株式会社ヘルシーライフサービスは同じような在宅ケアサービスを行い,株式会社ハートウエイは地方勤務・海外勤務の家族に代わって有料で老親等の日常生活の援助を行うファミリー・エイド・サービスを行っている.また,フランスベッド販売株式会社のホスピル立川は,会費(契約保証金100万円,契約金5万円,法人会員は契約金及び年会費のみそれぞれ10万円)を支払えば,寝たきり老人の短期預り(4人室1日2万円,個室1日2万5,000円)を行っている.

民間医療保険と保険者の役割

著者: 民間医療保険研究会

ページ範囲:P.1017 - P.1019

 損害保険各社は本年4月から医療費用保険を発売した.この保険は入院時の治療費の自己負担部分や差額ベッド代,付添看護費用及び高度先進医療費用を支払うものである.保険料的には8月末で約21億円の規模になったと推計されている.発売以来まだ日も浅く論評できる時期ではないが,この保険の公的制度の補完的役割からすればこの程度の微速前進が望ましいと言えるかもしれない.
 さて,今後の民間医療保険の展開は,公的制度の行方と密接に関連するので,現状ではこうなると確信を持って言える段階ではない.ただわが国の医療がこれまで制度や技術から人材育成に至るまで欧米をお手本にしてきたように,民間医療保険においても,好むと好まざるとにかかわらず"民活"の先進地である欧米の民間医療保険のあり方を研究すべきであると思う.

米国の医療における民営化の動向

著者: 山本功

ページ範囲:P.1020 - P.1022

病院経営会社の台頭
 1950年代の終わりごろ,トーマス・フリスト・シニアというケンタッキー州ナッシュビルに住む医師は,同地の病院施設の貧しさを解消するために,自ら病院の建設を始めようとした.しかし,必要と思われる機器・設備が整った病院を建設するための資金が不足していた.そこで,彼と彼の協力者たちは,その病院を株式会社として,株式の発行により,資金調達を行ったのである.
 1965年に議会を通過したメディケア(老人医療保障)とメディケイド(貧困者医療保障)の二つの制度は,フリストらの病院経営会社の株式の魅力を高める結果となった.医療ニーズは常に安定的に存在するのに加えて,政府がその支払いを保証してくれることになったのである.68年に,フリストは,息子と元患者のジャック・マッセイ(ケンタッキー・フライド・チキンの創立者の一人)と共に,現在米国最大の病院経営会社となっているホスピタル・コーポレーション・オブ・アメリカ(HCA)を設立した.設立してからわずか6か月で11の病院を傘下に入れ,現在では400近い病院を経営している.

グラフ

治りたいというお年寄の希望に応えられる病院に—東京都多摩老人医療センター

ページ範囲:P.981 - P.986

 未だ武蔵野の面影を残す清瀬・東村山地区に,老人専門の都立病院がお目見えした.都老人医療センター(旧養育院附属病院)と同じ財務局管轄の多摩老人医療センターがそれである.都の東村山老人ホームの一画に建った当センターは,高度総合病院の少ない多摩地域のニーズに応えることを目的に建設された.そして,もう一つ敷地内の3ホーム入居者1110名の医療を確保する役割も担っている.高齢化時代にマッチした最先端の老人病院の誕生というだけでも話題性はあるのだが,行政改革の叫ばれる状況反映してい,公立病院としては珍しく大胆な委託の導入に踏み切り,病院給食の3課題とされる適時・適温・選択メニューを実現して注目されている.

日本医療法人協会会長に就任した新潟県・医療法人桑名病院 桑名 昭治院長

著者: 多根要之助

ページ範囲:P.988 - P.988

 日本医療法人協会の苦難の歴史35年は,医療法人の法制化が国会を通る前に,税制面の手続きを大蔵省に取り付けていなかったことに起因している.
 昭和39年,特定医療法人制度を法律化することに成功した故荘寛先生は当協会中興の祖と申すべきであろう.

今日の視点

—阿部正和東京慈恵会医科大学学長を囲んで—医師育成に果たす大学病院の役割と機能

著者: 阿部正和 ,   山根至二 ,   大菅俊明 ,   小笠原道夫

ページ範囲:P.989 - P.995

 科学万能の時代にあって,医療の世界でも単に医学・医術の修得のみならず,病気ではなく病人を,そして人間をみる医師の育成が叫ばれて久しい.そのために,卒前教育に関しては文部省の「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」が,卒後教育こついては厚生省「臨床研修部会」が中心になり,それに医学教育学会等も加わって"あるべき姿"を模索検討中である.また,生涯教育についても医師会が中心となってシステムを整備中である.
 そこで今回は,それらのプランにすべて関与しておられる阿部正和東京慈恵会医科大学学長をお迎えして,より良き医師育成に果たすべき大学病院の役割,また地域の病院等との関係についてお話しいただく.

ニュース

「病院機能の連携強化」を討議—第25回全国自治体病院学会 熊本市で開催

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 第25回全国自治体病院学会(学会長・廣田耕三熊本市立熊本市民病院長)が10月23,24日の両日,熊本市市民会館を主会場に開催された.今回は「病院機能の連携強化—足元を確かめ手を携えて理想へ進もう」をテーマに,病院内外の連携強化の方策を探る2題のシンポジウム「地域医療計画と病院間連携」,「健全経営と院内連携」がもたれたほか,特別講演,一般演題245題の発表が行われた.
 シンポジウム「地域医療計画と病院間連携」は廣田学会長が座長を務め「医療計画の最も重要なことは医療供給体制の再編成と医療資源の有効活用」であると述べ,各演者の発言に入った.まず,行政の立場から松村明仁厚生省指導課長および湯浅利夫自治省審議官が発言.松村氏は行政はこれまで,へき地,救急,母子保健,成人病など個別に体制づくりをしてきたが,医療機関の機能分担と適正配置,そのシステム化が叫ばれるように情勢を踏まえて地域医療計画が出されたことを解説,「計画作成での専門家の参加」を訴えた.湯浅氏は「病院間の機能連携が重要になる」と述べ,「地域医療計画にこれをどう吹き込むかが課題」などと指摘した.

連載 変化する病気のすがたを読む・4

病気のすがたの考え方

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.1023 - P.1027

1.原因と結果
 現象としての病気は早い話が結果である.当然のことながら,結果にはそれをもたらす原因があるはずである.というわけで,昔から臨床医学では病気の原因探しが重要な仕事とされてきた.病因論(etiology)ともいわれるこの研究領域は,古くは病理学の一手販売みたいなところがあり,現在でもその雰囲気は濃厚に残っている.逆の見方をすれば,病理学が基礎医学の一部門にされていること自体,習慣とはいえ不思議な話なのだ.もっともこれは,基礎医学とは一体何かという大問題を整理した上でなければ議論すべき話題ではない.
 さて,原因と結果の対応関係が割合に見やすい病気といえば,何といっても感染症の右に出るものはない.近代病因論が曲がりなりにも科学的な体裁を整えられたのは,取り扱う対象として感染症があり,研究手法として病原微生物学があったためである.脚気菌やインフルエンザ菌など,後から考えればばかばかしい早とちりも多かったものの,感染症の病因論はまずまずの成功を収めたといえるだろう.だが,問題はここから始まった.ほかの病気についても感染症と同じ発想で原因探しをやろうという風潮が半ば習慣になってしまったのである.さすがにどんな病気にも,それぞれ固有の病原微生物が存在するなどとは,今どき誰もいわないが,それに準ずる不逞の輩が病因として作用するから病気が起こる.

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機器短報

ページ範囲:P.1027 - P.1027

電解質分析装置
 アムコ(電話03-265-4261)はスイスAVL社開発の電解質分析装置「AVL−982」の発売を開始した.
本装置はイオン選択電極を用いて,人体の全血,血清,血漿,尿中のナトリウムイオン,カリウムイオンの濃度を測定する装置.①測定原理はイオン電極法を用い,サンプルの流れを目で確認でき,気泡などを簡単に発見できる.②血清分離や希釈操作が不要で緊急測定が可能.③0.900〜1.000までの係数を器械に入力し,その係数から結果を自動的に算出できるフレームコレクション機能.<価格は195万円>

「病院」 第45巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

新しい医療と厚生行政

コーヒーブレイク—座談会'86

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.1028 - P.1029

司会(編集部) 昨年と同様に厚生行政研究会のみなさんにお集まりいただきました.昨年のメンバーのうち,松田さんはご都合によりしばらくお休みです.代わって,今年は今田さんと国生さんに新メンバーとして加わってもらいました.昨年からのメンバーの中森さん,菊池さん,小泉さんとあわせて,本日は5人でお話しいただこうと思います.

ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点

高額療養費にかかわるトラブルの事例

ページ範囲:P.1030 - P.1031

事例
 私は地方の一般病院の医事課員である.最近,高額療養費にかかわる2,3のトラブルがあり,対応に苦慮したので,それらを記して大方のご教示を乞う次第である.

院内管理—最近の話題

騒音・悪臭対策

著者: 佐藤辰夫

ページ範囲:P.1032 - P.1033

 のびのびとした空間で,すがすがしい空気の中で,そして適度の静けさの中にある時,私たちのからだにおける生理的機能は十分に発揮され,健康な生活が営めるのである.

統計のページ

統計から見た医療(6)—患者調査の概況について

著者: 小松仁

ページ範囲:P.1034 - P.1036

 今回は昭和59年の「患者調査」より,受療状況について解説してゆきたい.

建築と設備 第8回

東京都医療技術短期大学

著者: 野口潔

ページ範囲:P.1037 - P.1042

 東京都医療技術短期大学は,マイタウン東京構想の「東京都長期計画」の一環として,医療基盤の充実を図るため,資質の高い保健医療技術者の養成及び,その教育に携わるものの養成と,医療技術者の研修の場とすることを目的として設置され,昭和61年4月に開校された.学科の構成は,看護学科,理学療法学科,作業療法学科,診療放射線学科の4学科からなり,3年制の新設の短期大学である.

座談会

離島・へき地の医療—対馬からの発言

著者: 嘉村末男 ,   大和田野勝徳 ,   伊藤新一郎 ,   青木道郎 ,   編集室

ページ範囲:P.1043 - P.1050

 「医師過剰時代」が語られ医科大学の定員削減もはじめられようとしている.しかし,離島やへき地をはじめ各地域での医師不足は一朝一夕で解決されそうにない.この医師不足はへき地・離島の医療が抱える大きな問題点の一つである.現実には人・物・金の不足と苦闘しつつへき地・離島医療が展開されている.地域特性を踏まえた医療を展開するために,どのような視点でどういう活動が期待されているか.また,へき地・離島の医療を考えることは医療資源が潤沢といわれる都市の医療のあり方を問うことにもなるのではないか.明日の医療を対馬から探る.

海外医療事情

米国の家庭医学卒後研修プログラムにおける外科

著者: 佐々木明

ページ範囲:P.1051 - P.1055

 近年プライマリ・ケアの必要が叫ばれ,厚生省も"家庭医"創設を目指して検討を進めている.著者は米国でのプライマリ・ケア研修の中で,ペンシルベニア大学を基点とし,ウィリアムズポート病院とウェストジャージー病院の2か所で米国家庭医学を勉強する機会を得た.米国の家庭医学は内科・小児科・産婦人科・外科・精神科・行動科学・社会科学を統合した幅広い,新しい概念の専門科である.では家庭医学の中で外科,特に一般外科についてはどのような研修を受け,また日常どのような診療をしているのか,日本の一般外科学を専攻してきた著者の立場でその特徴をとらえてみたい.日本で他の専門科との関係を明らかにしながら家庭医学を考えていくうえで参考となる点が多いと思われる.

お知らせ

昭和62年度看護研修研究センター研修生募集について/地域リハの寺子屋・老人の生活リハビリ講座第3期受講生募集について

ページ範囲:P.1055 - P.1055

 厚生省看護研修研究センターの昭和62年度研修生の募集についての内容は次のとおり.

精神病院わが病院づくり

開放システムこそが精神科医療の原点—岩倉病院の実践

著者: 卜部圭司

ページ範囲:P.1056 - P.1061

病院の概況
 岩倉病院は定床535床(内科合併症・アルコール症・老人精神病のベッドを含む)の精神科病院である.看護基準は本年5月から1類看護となった.常勤医は8名で,いずれも精神科医であり,他に内科・精神科の若干名の非常勤医がいる.ケースワーカーは6名である.他院に比しケースワーカーが多いのは,社会復帰活動の促進(退院援助・グループ活動の発展)を期待してのことである.CP・OTは現在のところ未採用である.
 病棟は6病棟であり,表1にその特色を示す.いずれも病棟主治医制をとり,看護課と共同して病棟運営に当たっている.

患者からみた病院

病院生活断章

著者: 芦田光世

ページ範囲:P.1062 - P.1062

 夏も盛りに入ろうとする7月半ば頃,急激な臍下の痛みに伴って多量のタール便を排出しました.十二指腸潰瘍の再々発だと自分で分かりました.娘に伴われK病院で診察を受け,即日入院することになりました.めまいでボーとしている状態でしたが,早速に点滴,輸血などをしていただき,極度の貧血も入院4か月後すっかり回復したのでしょう,腹痛もなく,めまい,立ちくらみもなく,しっかりとしてきました.
 『人生は,ひとりで歩く長い道』こんな言葉を想い浮かべながら,明るい部屋の白い天井を見上げながら,婦長さんはじめ,看護婦さん,補助看さん,同室の五人の患者さん方のお蔭さまと感謝しています.これまでの入院加療の経験は終戦後,昭和25年に遷延性心内膜炎で国立第一病院に約1年間入院して命拾いしたことです.それ以来,友人,知巳の見舞いに彼方,此方の病院に行ったことはありますが,自分で体験したことはなかったため,今度入院してみて,勝手が分からずいろいろな点で戸惑いました.

時評

「町医者」小論

著者: 小野重五郎

ページ範囲:P.1063 - P.1063

 「町医者で診てもらっていたんだけど,どうも不安なものだから,設備のあるところで診てもらおうと思って.」病院勤めをしていると外来患者にしばしば聞かされるせりふである.筆者は内心穏やかでない.開業医の家庭で育ったせいもあろうが,今,市中の小さな病院に勤めていても自分もまた町医者にほかならないと思うからである.いつの頃から「町医者」はこんなにネガティブな意味合いで使われる言葉になったのだろうか.
「私は町医者という言葉,好きなんだけれども,私の好みかな,高野長英というのは町医者精神にあふれていますよね.」(高橋磌一氏の発言.日本探訪16,「国学と洋学」,角川書店編)

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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