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雑誌目次

雑誌文献

病院45巻3号

1986年03月発行

雑誌目次

特集 患者に選ばれる病院

外から見た病院の力—利用者に影響を与えるもの

著者: 行天良雄 ,   関田康慶

ページ範囲:P.193 - P.203

画一的な病院像を考え直す
昔,病気になると……今1億近い人は……
 昔,日本では,病気になると,「お医者さんにゆく」,「お医者さんに診てもらう」という言葉が普通に使われていた.病気で苦しんでいたり不安になった時,それを助けてくれるのは,お医者さんであった.
 しかし,昭和36年暮に普及し終わった"医療はすべて保険によって行う,またすべての国民は何らかの医療保険に加入しなければならない"という方向づけは,医療という事柄への見方,考え方を180度転換してしまった.そして,そもそも病気とは何だろうか,またどうして病気になるのだろう,だれが,またどこが悪かったので,自分は病気になったのだろうと,疾病観,ひいては人生観,そして死生観への根本的見直しを始めてしまった.

医療機関に利用者は何を求めているか

著者: 篠崎次男

ページ範囲:P.204 - P.208

患者の声を集める必要性
 医療をめぐる社会環境の激変の中で,地域社会や患者から「積極的に選択される医療機関」づくりは,きわめて大切な課題となっている.利用者の「要望」を無視した医療機関は成り立たなくなってきているということであろう.しかし,地域や患者の「要望」をどのようにとらえるかとなると,正直なところ全くの手さぐりの状況である.そこで重視されているのが「地域診断」といわれるものだろう.しかし,これとて直接的に「要望」を把握することは難しい.その地域の住民の年齢や世帯構成,交通などの地理的条件,同一診療圏内の他の医療機関の状況などから,どのような内容が求められているかを「予想」して,それに合わせた医療機関づくりをしていこうというものであろう.医療機関の性格上,スーパーの品ぞろえを検討するような,安直な方法での対応はできない.ましてやその地域で一定の歴史と実績をもつ医療機関にとって,地域の人口構成や都市計画などの変化に合わせて病院を作り変え,それに合わせていくことは非常に難しい.
 また一部で強調され実施に移されている「医療内容に特色ある医療機関づくり」も医師を中心とした"人"と地の利がかみ合わないとなかなかうまくいかない.

医療多様化の中で目指す医療サービスとは—特に医療評価を重点として

著者: 新垣浄治 ,   西本昭二 ,   角田昭夫 ,   庄司忠實

ページ範囲:P.209 - P.223

国内外の医師との交流による活性化でレベルアップ
 医療は一歩一歩前進しています.この10年間の医療技術の進歩はめまぐるしいものでしたが,ハイ・テクノロジーの時代になり,臓器移植も日常の診療に実践できるようになりつつあります.一方,それを支えるボランタリーとしての提供者の増加がなく,脳死の問題も未だコンセンサスが十分ではありません.人工透析患者が多いのに比べて腎移植例が少ないなど,折角の進歩も欧米に比しこれからという現状です.
 従来から日常普遍的に行われていた医療についても進歩が見られていますが,何故か日本では余り顧みられていませんでした.最近プライマリ・ケアとかいわれるようになって,初歩的な,基本的な,幅広い医療をマスターした上で専門に進む方向に,患者中心に医療が考えられつつあるのは喜ばしいことです.

グラフ

ネットワーク作りを終え内実を問う10年へ—新潟県・大和医療福祉センター

ページ範囲:P.185 - P.190

 佐久,沢内村,和良村などの地域医療の先駆者に続いて,昭和15年開設し地域包括医療の新しいモデルとして注目を浴びてきた大和医療福祉センター.このセンターも本年5月,開設10周年を迎える.当センターは既に紹介されているとおり,「脳卒中をなくそう」「自分達の健康は自分達の手で守ろう」を二大スローガンに,病院,農村検診センター,特養が一体となってスタートした.
 それは治療一辺倒の医療への批判を背景に,この体制が保健・医療・福祉が隔絶された従来の縦割り行政の欠点を補って,住民の真のニードに応える道であるとの考えからであった.10周年を機に,これまでのセンターの成果と現在の問題点を拾ってみた.

七光を脱皮して城を堅持する「八光会」

著者: 鈴木達雄

ページ範囲:P.192 - P.192

 八光会ができたのは昭和42年7月である.構成メンバーは8人で,岩井宏方君,伊藤國彦君,田谷実君,高野睦君,深瀬邦雄君,浜屋昌一君,それからかく申す鈴木達雄である.いずれも慶大医学部出身の私立病院の当時院長または副院長(親父さんが院長)である.何か目的を持った会にしようかということで初め多少議論もあったが,結局,特別な目的を持たないほうが長続きするであろうということになり,特に目標を定めず,時には時勢を論じあるいは講師をお招きして勉強したり,時には飲みかつ食らって遊んだりした.50回目とか100回目とかのきりのよい時は1〜2日かけて旅行をしたり,海外にまで足をのばすこともあった.
 会の発足に先立って,会の名前をつけようということになった.「では各自考えた名前を持ちよって投票で決めよう」ということになって,内々で会名を募集したのである.八光会というのは,実は筆者が提案した会名であったが,その意味は,たまたま会員の数が8名であり,大部分が親のあとを継ぐ二代目であったので,いつまでも親の光は七光(ななひかり)であるが自分たちの努力でせめて一つぐらいは光を添えようではないか,ということであった.この名前が他の皆さんのお気に召したらしく,すんなりと「八光会」ということになり,月の第2木曜日を例会日と定め,何があってもその日だけは皆で努めて集まるようにした.

シリーズ・病院経営

気負いなく,淡々と,医療本来の姿で経営改善へひた走る—新潟県厚生連糸魚川病院

著者: 粕川正夫 ,   南雲義朗 ,   明田川奈尾 ,   石原信吾

ページ範囲:P.224 - P.231

 日本列島を二分する大断層地帯,フォッサ・マグナ.糸魚川市はその北端に当たる.また同市は古来,"塩の路"の出口として栄えた町でもあった.新潟県厚生連糸魚川病院はその糸魚川市の国道8号線沿いに,日本海の荒波を背にして建っている.
 同病院は昭和10年,上越地方35万人の医療を担う目的で設立されたが,昔栄えた町も現代にあっては,新潟市から200km,富山市から80kmと離れているため陸の孤島の観を呈し,医師の確保も思うにまかせず,縮小化傾向を強めていった.

新しい医療と厚生行政

患者の受療行動について(下)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.232 - P.233

 前々回,前回において,顕在化した医療需要だけでも21世紀に向けて著しい増加を呈し,また,その医療需要に応ずるべく提供された医療によって更に新たな医療需要が喚起される可能性について言及した.今回は,「家庭医」や「中間施設」といった新たな医療の供給体制が整備されてゆくに当たっての患者の受療行動について述べてみたい.

隠れた戦中医学史 ペニシリン秘話

ペニシリン委員会議事録から

著者: 落合勝一郎

ページ範囲:P.234 - P.235

ペニシリン委員会の経過
 ペニシリン委員会議事録によると第6回ペニシリン委員会は昭和19年10月30日,いつもの陸軍軍医学校構内で開かれた.第1回委員会がこの年(昭和19年)の2月に開かれて以来6回目であった.その間,委員たちの熱烈な研究とその成果は異常とも思える速さで進捗した.
 当時を振り返って,稲垣氏は「19年の半ば頃,連合国軍のノルマンディ上陸作戦やサイパン失陥の頃から,もう誰も日本が勝つとは思えなくなっていました.その後もひっきりなしに負け戦さのニュースが続くのですが,その中でも委員たちの研究意欲は決して低下を見せませんでした.研究を発表する委員たちの熱意にあふれた声は,本当に私の胸に響きました.私は,ペニシリン研究に全力を注ぐ委員諸氏の姿は,この時代に対する最も鋭い批判ではないだろうか,などと思ったこともありました」と話している.

事例から見た査定減防止対策

血液型検査の場合,Rh式は因子名を明記

著者: 中野隆男 ,   染谷光一 ,   長嶋精吉

ページ範囲:P.236 - P.237

 入院時のスクリーニング検査である血液型,特にRhには(+)(−)のみならず,種々の因子がある.その点を知っていないと,意外な落とし穴が…….

統計のページ

国民の医療要求(6)

著者: 日野秀逸

ページ範囲:P.238 - P.239

4.自己受診抑制,自衛策(その2)
 さて,ここ15年間の個人生命保険における民間医療保険契約状況の推移を表26に提示した.医療保険は主に個人生命保険として契約されているが,その他,団体生命保険を含めた生保全体の1984年末の契約状況を表27に示す.
 表26から読みとれる点を列記しておくと,全体的に見て,民間医療保険の契約状況は急速な伸びを示している.総契約件数は入院保険だけでも9,442万件に達しているし,合計では1億7,405万件という膨大な数になっている.1974年を100として見た場合(この年に「疾病特約」が発売された),1983年になると災害入院が152,疾病入院が758,その他の条件付き入院が2,986,手術保障が1,038,障害保障が124となっている.

ニュースどう読むか

エイズ騒ぎに想う

著者:

ページ範囲:P.240 - P.240

 昨年の新聞に"日本にもエイズ"の報道があってから,題目だけを見ていると,数年のうちに,自分も家族もエイズにかかって不幸の道をたどるような気になってしまいます.
 原因不明,治療法なし,握手にも注意,これが週間誌になると,"隣人が1人,2人とエイズで消えてゆく"になり,また最近は,性と関連して,話題としては面白恐く,活字病的に表現されて来ています.

新病院建築・99

朝日大学村上記念病院

著者: 長澤泰

ページ範囲:P.241 - P.246

沿革
 本病院は昭和18年村上外科病院として創立され,この地域で外科の専門病院として親しまれ発展してきた.昭和48年,創立者の故村上治朗前院長が病院を現朝日大学の前身である岐阜歯科大学に寄贈し,岐阜歯科大学付属村上記念病院として,歯科学教育の一端を担うこととなった.これを契機に内科,消化器科を新設し,内科系と外科系との調和のとれた大学付属病院を目指して管理ならびに施設の充実を図って来たが,旧病院は建物の広さや設備面で限界に達したため,新病院の新築移転に踏み切った.

病院運営の変化 ここ10年余病院はどう変わったか

病院建築工事費の変化

著者: 大場則夫 ,   長谷川吉信

ページ範囲:P.247 - P.251

建設物価の推移
 過去15年ないし20年ぐらいの間に,病院建築は,その工事費の断面からみるとどのように変わってきたのであろうか.このことを考えるにまず手始めに,建築工事費は一般的にどのような足取りであったかを見てみるのが順序というものであろう.図1は昭和40年を基点とした標準建築費指数注1)の15年間にわたる変動を示したもので,併せて変動に関係ありと思われる外的な要因を示してある.
 この図から,まず第一に言えることは,建築費は時間の経過と共に上昇して来たということ.しかも時として,大きな経済の変動要因に伴って劇的に上昇したことがあることを示している.更に木造・RC (鉄筋コンクリート)造・S (鉄骨)造という構造種別の違いによって,その足取りには多少の違いがみられる.すなわち最も生産性が向上させ難いといわれる木造が最高で,工場生産品比率が高く,生産性の上昇が可能だったS (鉄骨)造が上り方が最も少なく,RC造はちょうどその中間ということも知られる.

海外医療事情

米国のPRO政策と病院の対応

著者: 大道学

ページ範囲:P.252 - P.257

 米国の公的医療保障制度であるメディケアの支払い償還を,従来の出来高払い方式(fee for service)から定額償還方式(Prospective Pay-ment System, PPS)へと変更する法案(TEFRA of 1982)がアメリカの議会を通過したのは1982年12月31日であった.その後,1983年10月1日よりメディケア認可病院に対してPPS方式によるメディケア支払い償還が実施されて以来,アメリカの医療機関はかつてなかったような変化に直面し,様々な対応を求められている.
 筆者は昨秋,渡米の機会を得,PPS実施後2年を経たアメリカの医療現場をつぶさに見聞してきた.この中で,特に注目したのは,医療費支払いや病院利用,サービスの程度などについて強力な監視や規制を行うPROs (Peer Review Organiza-tions)いわゆる同僚審査機構の動向であった.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

ホスピスの心と家庭医学の実践を試行する松山ベテル病院

著者: 森健一 ,   向井當子 ,   木村隆徳 ,   森秀人 ,   編集室

ページ範囲:P.258 - P.262

 医療法人ベテル病院は1983年に80床をもって開設された.社会福祉法人聖隷福祉事業団の有料老人ホーム「エデンの園」と姉妹関係にあり,業務提携をしているが,ホスピスの精神を生かすべく理念がうたわれている.また,副院長の木村隆徳氏は,アメリカのファミリー・フィジシャンの資格を持ち日本での家庭医学の確立を目指している.ホスピスの精神とファミリー・フィジシャンの技術が現実の医療の場でどう生かされているか…….
 松山市郊外のみかん畑に囲まれた病院を訪れた.

時評

進行する臨調行革路線

著者: 姉崎正平

ページ範囲:P.263 - P.263

 筆者が前回の本欄(本年1月号)で指摘したが,相変わらず厚生省の医療や福祉に関する施策が次々と出され,有力新聞をはじめとするマスコミで報道されている.これら諸施策の根底には臨調行革路線を基軸とする医療や福祉分野での国家支出抑制策が絡んでいる.
 医療分野では,最初,自己負担導入,薬価基準の引下げ,保険請求に対する監視の強化など直接的医療費抑制策であった.それが,やがて,昨年初めの社会保障制度審議会の建議,それを受けた厚生省の懇談会の中間報告を基礎にした「老人保健施設構想」,いわゆる「中間施設構想」,昨年末の臨時国会での「医療法改正」,そして今年初めに発表された「国立病院・療養所再編計画」などにより,医療費や福祉費の国家支出抑制の絡んだ医療供給制度の合理化が進められようとしている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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